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三越劇場開場90周年を記念して「三越劇場のあゆみ〜90年そして未来へ〜」が、4月26日から5月2日まで開催されている。歌舞伎、演劇、落語、コンサートなど様々な演目の歴史を展示するイベントだ。その1つとして、六月花形新派公演『黒蜥蜴』に出演する喜多村緑郎と河合雪之丞のトークショーが行われた。

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原作の『黒蜥蜴』は1934年に月刊誌「日の出」に連載された江戸川乱歩の小説で、これまで三島由紀夫を含め多くの劇作家が挑んで来た。今作は、齋藤雅文によるオリジナルストーリーで、新派版『黒蜥蜴』。名探偵の明智小五郎(喜多村緑郎)と、この世の美しいものすべてを手に入れようとする女盗賊・黒蜥蜴(河合雪之丞)の物語。さらに、実力派の永島敏行、新派初参加となる劇団EXILEの秋山真太郎、今年、新派入団を果たした尾上松也の妹・春本由香の出演で、三越劇場開場90周年の歴史を刻むにふさわしい舞台が誕生する。

【あらすじ】
舞台は昭和初期。国宝級のダイヤ「クレオパトラの涙」を保有する宝石商岩瀬の娘早苗(春本由香)が誘拐された。「お嬢さんを私からお買い戻しになるお気持ちはありませんか。代金。『クレオパトラの涙』1個…」という置き手紙を残して。刑事の片桐(永島敏行)の目の前で堂々と誘拐を成功させたのは、社交界の花形で暗黒街を牛耳る女王の黒蜥蜴。彼女の目的は、世界中の美しいものを盗むこと。手下の雨宮潤一(秋山真太郎)と共に人を殺めることも厭わず、数多くの罪を犯していた。そんな黒蜥蜴の前に、名探偵の明智小五郎が立ちはだかる。その末に待っているものは…。

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【トークショー】
 
──三越劇場90周年に向けてのメッセージを。
喜多村 90年間残っている劇場は、日本では類を見ないと思います。90年という歴史の重みを感じますね。歌舞伎の第一線で活躍された、例えば亡くなった6代目の中村歌右衛門さんや、たくさんの名優が立った舞台に、こうして我々も立たせていただける嬉しさを噛み締めています。そこで僕の念願である『黒蜥蜴』を上演できるのは本当にありがたいことだと思っています。
河合 戦前・戦中・戦後を眺めてきた劇場で、我々が同じ舞台に立っていられるということの素晴らしさを実感しています。三越劇場でしか観られないお芝居を、制作・俳優を含めて作り続けて、これからの100年周年、200周年と歴史を築いていく努力をしたいですね。
──1923年の関東大震災の文化的な復興の意味合いで作られた劇場でもあります。こけら落としには初代の水谷八重子さんが、ファッションショーのモデルとして登場されました。お二人は、三越の商い初めの鏡開きでご登場されています。
喜多村 ここ2年間は、鏡開きをさせていただいていますので、よく来てるなという感覚になりますね。
河合 我々が三越劇場に出演するために楽屋入りする時は、この中央ホールを通らないんですよね。三越劇場の名物「天女(まごころ)像」は歴史も感じますし、拝見すると気持ちが引き締まりますね。鏡開きの時とイメージが違うので素敵な雰囲気になっていますね。
──「天女像」は木造で翡翠がちりばめられています。
喜多村 やっぱり翡翠だ。しゅん(雪之丞の愛称)ちゃんはガラス玉だって言い張ったんですよ(笑)。
河合 お客様には裏も回って見て堪能していただきたいですね。

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──お二人とも国立劇場の歌舞伎俳優養成場の同期ということで、仲が良いですね。
喜多村 プライベートはほぼ一緒ですね。昨日もうちの近所で、僕の妻と3人でご飯を食べるぐらい(笑)。
河合 美味しい焼き鳥屋さんがあるんです。
──どれくらいのおつきあいになるんですか。
喜多村 31年ぐらいですね。親兄弟よりも長く一緒にいます。僕の人生の中では一番長く一緒にいる人間です。
河合 お互い悪いところばかり気になりますけどね(笑)。言葉に出さなくてもわかるような間柄です。舞台上でも、こういう風に芝居をしたらこういうリアクションが返ってくるとわかるんですよ。打ち合わせをしなくても通じ合える。長く一緒にお芝居したり、プライベートでも一緒にいることの良さがあると思います。
喜多村 いい方に作用すればいいけど。たまにプライベートで喧嘩する時に限って夫婦役で出ないといけない(笑)。そういう時はきついですね。
河合 僕はそう思わないけど。めんどくさいなって思います。
喜多村 喧嘩なんてしょっちゅう。月に何回するんだろう。
河合 喧嘩しかしてない気がしますね(笑)。
喜多村 喧嘩するほど仲が良いというのはそういうことかな? しかも、どうして喧嘩したのか原因を忘れちゃうんです。
河合 些細なことで必ず喧嘩に発展する。
喜多村 100%なるね。こんな場所で、こんなこと自慢してどうする(笑)。
──仲が良い証拠ですね。
喜多村 不思議ですね。ありがたいと思うこともありますから。しょうがないよね。運命(さだめ)だね。
河合 運命って(笑)。
喜多村 15歳ぐらいから一緒にいるから運命ですよ。

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─初めて三越劇場に出演された時は。
河合 三越劇場に初めて出させていただいたのは、1997年の2月の自身の舞踊リサイタルですね。我々の一門は、個人的にリサイタルをすることもあるんですが、皆さん地元があるんです。例えば市川笑三郎さんだったら岐阜といった具合に。私は東京の人間なので、東京の劇場でやらないといけないですから、三越劇場で個人的なリサイタルをやらせていただいたんです。ご縁を感じますね。
喜多村 僕は、同じ国立劇場養成所出身という縁で市川笑也さんと一緒に、しゅんちゃんのそのリサイタルで後見をしたのが初めてです。素敵な小屋ですよね。うちの師匠(二代目猿翁)は、劇場の空間も、すべてがお客様を迎える場でなければならないとおっしゃってますが、歌舞伎座や演舞場、他の劇場も趣があるように、三越劇場は、ロココ調のモダンなイメージの日本を代表する劇場だと思います。
──座席数が514席です。お客様との距離が近いですね。
河合 客席数が500ぐらいの良さは、お客様と役者との距離感ですね。身の引き締まった思いで細かな演技もきちっとお客様に伝わるように演じるのは、すごく大事なことだと勉強させていただきました。演舞場に出させていただく時も、その気持ちを忘れないで、舞台に立つことを大切にしています。
──昨日のトークゲストに星由里子さんがいらっしゃいましたが、三越劇場ではあまりお化粧は濃くしないとおっしゃっていました。
喜多村 確かに三越の時は、化粧にすごく神経を使いますね。お客様との距離が近いぶん、普段も怠けているわけではないですが、神経を使いますね。お客様の息遣いまで聞こえてきますからね。
──喜多村さんは2016年から新派、雪之丞さんは今年から入団されました。
喜多村 2011年の1月公演の『日本橋』(三越劇場)で、初めて参加させてもらって、そこから新派に出させていただいているので、歌舞伎から新派に来たぞという気合いの込もった感覚はないです。皆様のおかげで、自然と歌舞伎から新派に移行させてもらいました。ただ、喜多村先生の名前を継がせてもらうと、今までとは違うものを背負った感覚があります。外から見ていた新派と、入ってからの新派と違う感覚を抱くようになりました。
河合 歌舞伎から女形をやらせていただいますが、新派に移籍させていただいてからも、女形を演じる上での意識は変化していないです。でも、歌舞伎は日本中で歌舞伎に対するイメージがあると思いますが、新派はなに?というところから、お考えになる方が大勢いらっしゃると思います。新派を歌舞伎と同じくらい皆さんに認識していただけるようにしたいですね。我々が踏み台となって、次世代の方がどこに行っても、新派の人たちだと言ってもらえるように、我々が努力していかないといけないという責任感は感じております。

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──『黒蜥蜴』の見どころを。
喜多村 明智小五郎をさせていただきます。子供の頃から、「少年探偵団」「怪人二十面相」を読んでいました。『黒蜥蜴』は歌舞伎に入ってから読んで、これは歌舞伎でやったら面白いなと考えたのが20年ぐらい前。それから数年経って、膝の怪我をして、歌舞伎の舞台に立てない時があって、自主公演で音楽とミックスさせた朗読劇をした時期がありました。そこでも、『黒蜥蜴』をやりたいなとは考えて、自分で脚本を書いたりしたんです。その時は森村誠一さんの時代小説をやらせていただいたんですが、今回ご縁があって、『黒蜥蜴』を上演できるとなった時に、僕の書いた脚本でやりたいなと思ったんですが、うちの座付きの齋藤雅文さんが、明治座で浅野ゆう子さんでおやりになった台本と僕の台本を照らし合わせると意外と共通点が多くて、今回は齋藤先生の本でやらせていただくことになりました。齋藤先生の脚本は三島先生と違って、原作に忠実ですし、原作に出てこないポイントとなる役もでてきます。エンターテインメントも追求して芸術性もプラスした、きっちりとしたお芝居になっています。東京のホテル、大阪の通天閣の場面などサスペンスの場面もありますし、さらにスピード性がミックスされています。もちろんじっくりお芝居をご覧になられてもいいですし、ビジュアルだけでも面白い場面がたくさんありますので、そこを見どころにしていただければいいかな。
河合 全部喋っちゃった!
喜多村 ごめんなさい(笑)。
河合 見どころ満載でございます。
喜多村 何が重要かといったら、しゅんちゃんの黒蜥蜴の美しさですから。それは我々にはどうすることもできないですから、しゅんちゃんがアピールしてください。
河合 頑張りたいと思います。この間も長時間かけて、打ち合わせをさせていただいて、衣装、カツラ、小道具も我々の意見をとり入れながら、楽しいお芝居を追求しています。歌舞伎も、新派も、ミュージカルを観たことない方々でも楽しんでいただけるように、作り上げたいですね。一度と言わずに二度三度と劇場に足を運んでくださればと思います。
喜多村 僕は1月から台本作り、大道具、照明、衣装、音楽の打ち合わせに参加させていただいて、もう終わったような感覚です(笑)。ただ、ゴールデンウィーク明けから全員揃っての稽古になります。これからが本当の勝負所です。
河合 ネタバラシはしたくないのに、バラシたいなと思うぐらい面白い。三越劇場でしか観られない、ここでしか上演できない『黒蜥蜴』です。


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【囲みインタビュー】
 
──イベントを終えられていかがでしょうか。
喜多村 「天女の像」の吹き抜けのところで、『黒蜥蜴』の宣伝をさせていただいたのは嬉しいことですね。
河合 みなさまに直接お目にかかってお話をさせていただいて、『黒蜥蜴』の魅力をお伝えできて楽しいですね。
喜多村 あと5時間ぐらいやりたいですね。
河合 そう(笑)。
喜多村 想いがいっぱい詰まっている公演なので、直にお客様にお話させていただけるのでありがたかったです。
──喜多村さんがおやりになりたかった演目だったのでしょうか。
喜多村 そうです。台本にした時に、新派にうってつけだという確信がありました。
──これまでの新派にはないような舞台ですね。
喜多村 はい。ただ、僕は子供の頃から「ルパン」が大好きで、無国籍的な要素が江戸川乱歩の『黒蜥蜴』にあるなと実感して、今回なんとかやらせてもらえないかとお願いして実現できました。
河合 でも、初演が先代の水谷八重子さんだもんね。
喜多村 そう。その時は三島先生の本です。
河合 ご縁だね。
──新派としては初めてなんですね。
喜多村 新派としては初めてです。齋藤先生の全くのオリジナルなので、新派のオリジナル作品になります。ただ、「これは新派だ。これは歌舞伎だ」ではなく、『黒蜥蜴』という舞台に、全員が出せるものを出し切ろうというコンセプトで作ります。蓋を開けて見て、どういうジャンルになるのかは、我々もわからない未知の領域に入っていく感覚になります。
河合 今までの枠にとらわれない作品で、逆にいうと枠にとらわれないお客様にも観ていただきたいですね。
──トークショーでは喧嘩のエピソードがありましたが今回もありそうですね。
喜多村 あるでしょうね(笑)。今回は明智と黒蜥蜴で、お互いずっと稽古場にいるので、一緒にいるほど喧嘩が起こりやすくなりますね。
河合 稽古が終わったら、なるべく一緒にご飯行かない方がいいね。
喜多村 そんなこと言わないで! ご飯食べながらの芝居の話をするのが楽しみで稽古してるんだから。嫌がられるんですけど(笑)。
河合 芝居がすごい好きなんですよ。だから嫌がられるパターンの人です(笑)。確かに大事だけど、私は純粋に食事を楽しみたいな。
喜多村 いや、しゅんちゃんと話をするのが楽しいんです。しゅんちゃんには正直な意見をぶつけられるので、食事会はやりますよ。それによって喧嘩が始まるリスクがあるんですけれど(笑)。
河合 まあね(笑)。
喜多村 ぶつかりあえば、より面白いものが生まれるという、2人の人生はずっとそうでしたから。
──若い座組みだと思いますが、どのように引っ張っていこうとお考えですか。
喜多村 永島(敏行)さんは、『狐狸狐狸ばなし』で、ご一緒させていただきましたので、知らない仲ではない。きちんとポイントを抑えてくださいますから安心しています。とにかく、主役の人間は若い人たちを引っ張るには、ああしろと命令するよりは、自分たちの背中を見せないといけないですね。
河合 秋山(真太郎)さんでも、(春本)由香ちゃんでも、若い方達は、こういった新しい芝居で、ご自身の魅力を存分に出してもらえれば絶対にいい作品になると思います。遠慮しないでやってほしいよね。
喜多村 そうだね。許容量よりも弾けて欲しいぐらいですね。役者は爆発する時が必要で、それが彼らにとって第一歩になると思います。しゅんちゃんも言っていましたけど、次の世代にバトンを渡す仕事もありますから。『黒蜥蜴』は劇団新派にとっても、我々にも、若い劇団員にとっても新しいスタートです。道具や照明、衣装、音楽、すべてのものに携わらせていただいて、ワクワクとドキドキが常にあります。

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──制作にも携わっていかがでしたか。
喜多村 楽しいですね。1月の『華岡青洲』の時も、しゅんちゃんに膝枕してもらうシーンがあるんです。ふと上を見上げると照明が吊ってあるバトンが見える。あそこには、この色の照明はどうだろうと考えているうちに、セリフを忘れてしまったという失敗も(笑)。袖で待って入る時も、この袖をどう有効活用しようと考えたり楽しいですね。
──雪之丞さんは、お名前に慣れましたか。
河合 春猿さんとか、しゅんちゃんと、いまだに言われるし、逆に河合さんと後ろから声をかけられても振り向けない自分がいます(笑)。テレビでも春猿さんと言っていただいてたんですが、この間、河合さんと苗字で紹介していただいた時は、嬉しかったですね。
喜多村 わかる! その嬉しさ。
河合 違和感がない。
喜多村 僕もやっと慣れましたね。
──最後に意気込みを。
喜多村 僕の中では数十年温めていた作品だったので、それができる喜びと、失敗できない緊張感が混ざり合っています。ただ、とてつもないものができる予感があるんです。新しいものができるときは賛否両論絶対あります。だから、それにめげずにどんどん新しいものを作っていきたいと思いますので、お芝居を観たことのない方、新派がお好きな方、歌舞伎のお好きな方、若い方、いろんな方に観ていただきたいですね。ビジュアル的にも、綺麗なしゅんちゃん、綺麗な女の子、かっこいい男性、渋い人など、素晴らしい絵をご覧になっていただける芝居になっています。日本の戦前の無国籍の絵巻物をみていただけると思います。ぜひいらしてください。
河合 みんなが楽しく思いっきりはっちゃけたら、お客さんにも喜んでもらえるので、今までに観たことのない何かをご覧になれると思いますので、大勢の方に観に来ていただいて、1つのテーマパークに数時間入り込んでしまったようなお芝居にしたいと思っております。


〈公演情報〉
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六月花形新派公演 
『黒蜥蜴』
原作◇江戸川乱歩  
脚色・演出◇齋藤雅文  
出演◇喜多村緑郎 河合雪之丞/秋山真太郎(劇団EXILE) 春本由香/永島敏行 他
●6/1〜24◎三越劇場
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹 0570-000-489、三越劇場 0120-03-9354



【取材・文・撮影/竹下力】




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