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KAAT神奈川芸術劇場で名作戯曲『春のめざめ』が、芸術監督白井晃の演出によって5月5日、開幕した。(23日まで、大スタジオにて。京都、北九州、兵庫公演あり)
 
この戯曲は、1891年にドイツの劇作家ヴェデキントによって書かれ、センセーショナルな内容から上演禁止の処分を受けた。2006年にブロードウエイでロックミュージカルとして上演され、第71回トニー賞8部門を受賞。日本では劇団四季が日本語版ミュージカル『春のめざめ』として上演して話題になった。今回はストレートプレイでの上演となる。
 
主人公の14歳のメルヒオールを演じるのは、若手俳優として映像で活躍中の志尊淳。メルヒオールの同級生でヒロインのヴェントラ役に、これが2度目の本格舞台となる大野いと。さらに、映像だけでなく舞台でも活躍の場を広げている栗原類が、オーディションで白井晃の目に留まり、メルヒオールの友人のモーリッツを演じる。
また、クラスメートや感化院の少年役として、小川ゲン、中別府葵、北浦愛らの若手俳優を起用。若者達を抑圧する大人たちに、あめくみちこ、那須佐代子、河内大和、大鷹明良といった話題の舞台に欠かせないベテランが顔を揃えている。
音楽は大人気バンドDragon Ashのボーカルも務める降谷建志。ヴェデキント作『ルル〜破滅の微笑み〜』(2005年)以来、再び白井晃とタッグを組む。
演出を手がける白井晃は、2016年の芸術監督就任以来、近現代戯曲を現代に蘇らせるシリーズに取り組んでいて、今回の『春のめざめ』が2017年度の第1弾となる。200席程の濃密な空間である大スタジオでの、新たな若い才能との出会いが期待されている。
 
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【あらすじ】
ドイツの中等教育機関(ギムナジウム)で学ぶ優等生のメルヒオール(志尊淳)、劣等生のモーリッツ(栗原類)、同級生のヴェントラ(大野いと)は、仲の良い友人だ。ある日の帰り道、メルヒオールはモーリッツに「子供の作り方」を図解で説明する。物語はそこから予期せぬ事態へと発展して行く。成績のさえなかったモーリッツは、学校での過度な競争にたえられず米国への出奔を企てたが果たせず、将来を悲観してピストル自殺をする。
一方、メルヒオールは半ば強姦のようにヴェントラと関係し、ヴェントラを妊娠させてしまう。メルヒオールはヴェントラに謝罪の手紙を書くが、それが親にバレて騒動となる。さらに、自殺したモーリッツの遺品からは「子供の作り方」のメモが見つかり、自殺の原因とされたメルヒオールは親に感化院に入れられてしまい…。

舞台はむき出しの灰色の地面、そして約2メートルの高さのアクリル板のような板が周りを囲んでいるとても狭い空間だ。まるで牢獄に見えるその奥には通路があり、役者が歩く仕掛けになっている。板はライトの加減によって鏡になって、役者や時には観客を写して思春期の複雑な内面を象徴、光源を変えて透明にすれば、こことあそこ、憧れと現実、内と外、生と死を隔てる境界線のように見える。さらに中二階のような場所に通路があり、そこは大人という、子供達にとって抑圧的な存在が、檻の中を見下す刑務官のように闊歩する装置になっている。また、4×4本、計16本の1メートルほどの蛍光灯が天井にぶら下がっており、どこか諦念を帯びた冷めた印象を与えたかと思えば、急に赤色に明滅して、14歳のほとばしる熱情を輝かせるかのようで、子供たちの内面の葛藤を表現する。
 
ほとんどの役者たちは常に狭い空間にいる。学校や家や感化院という大人の作った牢獄に閉じ込められた囚人だ。小道具はほとんどない。客席と近い距離に存在しているアクリル板の高い壁は、抑圧的で支配的であり、言いようのない圧迫感を観客に与える。
 
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若い役者たちは、14歳という思春期の子供たちが抱える苦悩、苛立ち、不安、焦りを透明な板に白いペンキのようなもので塗りつけ、ドラムのように激しく叩いては、内に抱える欲望や怒りを表現する。
主人公のメルヒオールを演じる志尊淳が適役だ。どこかペダンチックであり、性への関心を隠さないメルヒオール。そんな14歳の少年が感じる苛立ちを表情や仕草に託し、衒いなく役柄を生きている。
 
大野いとのヴェントラは、無垢そのもので佇まいから美しい。だが彼女は、次第に大人の社会にある欺瞞に気づくとともに、不満をあらわにしだす。そして、メルヒオールと関係を持ち妊娠してしまうのだが、まだ少女でしかない彼女が背負った苦悩を感性豊かに演じてみせる。
 
モーリッツの栗原類は、いじめられっ子気質の内面の弱さをセリフで繊細に表現。最後には自殺に至る彼の絶望を、その華奢な体躯と独自の動きで生々しく伝えてくれる。
 
そのほかの男優陣は、学校の生徒や感化院の少年を演じていて、思春期の彼らの、性に対する、あるいは欲望に対する貪欲さを感じさせる。女優陣は無垢な存在として、男性陣とのコントラストを際立たせ、それゆえに消費されてしまう性の悲しみを、ダンスや仕草で表現して見せる。
 
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大人の役を演じるベテラン勢は実力派役者ばかり。それぞれメルヒオール、ヴェントラ、モーリッツの両親を演じているが、時には学校の先生役やメンターとして存在することになる。
ヴェントラの母・ベルクマン夫人役のあめくみちこは、ヴェントラに対して常に優しい母親でいようとするのだが、彼女が妊娠していると知って、狂気に満ちた行動に出てしまう。そんな大人の罪深さをリアルに見せる。メルヒオールの母、ファニー・ガボール夫人は那須佐代子。常に高圧的で、自分が一番子供のことを理解していると思っている尊大な大人。ある意味ユーモラスでもある存在を余裕ある演技で見せてくれる。
メルヒオールの父ガボールの大鷹明良は、息子のことを考えてはいるのだが、一度も息子ときちんと向き合おうとせず世間体ばかりを気にしている。そんな独善的な人間を説得力ある芝居で演じる。河内大和は、モーリッツの父である医者の役とともに、子供達の内面を映す死神のような不気味な役柄も演じるなど、多彩に活躍する。

小道具はほとんどないこの舞台で、降谷建志の音楽が大きな役割を果たす。14歳の心に抱える激情を、ドラムのブレイクビーツのリズムを交えた激しいロックな曲で表現したかと思えば、時にはランダムに鳴らされるテクノのようなキックの音が心臓の音のようで、不安定な子供達のやり場のない心持ちが伝わってくる。ギターはほとんどの曲でリバーブがかかり、思春期に抱く他者に対する幻想的な憧れを繊細に伝える。また、シンセサイザーによるアンビエントな曲調も緊迫した劇の中で、救いになるような朗らかな表情を与えていた。
 
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演出の白井晃は、この作品で若手の瑞々しいエネルギーとベテラン俳優の成熟した演技を絡ませることで、強い磁場を密な空間の中で作り上げていた。空間に満ちた、怒り、喜び、不安、寂しさ、若さゆえにほとばしる感情を、照明や音楽とともにスピーディーに変化させ、今にも爆発しそうなエネルギーをそこに生み出すことで、観客を舞台に没入させる。
人は子供から大人へと成長する過程で不条理な世界と出会う。その煩悶や苦悩を乗り越えて新たな自己を発見できる大人になれるのか、それに打ち負けてしまうのか、そんな問いかけが聞こえてくるような舞台である。

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【囲みインタビュー】
 
『春のめざめ』の公開稽古前に、囲みインタビューが行われ、志尊淳、大野いと、栗原類、白井晃が登壇した。
──いよいよ初日ですが、意気込みを
志尊 1ヵ月半の稽古を重ねて来ましたが、初日という実感は幕が開くまでないんです。ただ、ゲネプロで、白井さんとみんなで作ってきたものを、最大限に発揮して、公演ではゲネプロの雰囲気を超えるような表現をできたらと思います。
大野 すごく緊張しているんですけど、たくさん稽古もしたし、自分なりにたくさん考えたので、ヴェントラをちゃんと生きられればいいなと思いますし、頑張りたいと思います。
栗原 不安がないといったら嘘になるんですけど、キャストスタッフみんなで、頑張ってこの舞台を一から作って来ました。最後は、今まで白井さんがおっしゃってきたことを、僕らが何を表現するべきなのかを自覚しながら、ゲネプロに挑みたいと思います。
白井 『春のめざめ』という作品は、若い俳優さんを中心に作っておりますが、なかなか難しくて厳しい表現を求められる作品だと思います。私は、ギムナジウムの校長先生のようにみんなを叱咤激励しながらここまでやってきました(笑)。きっと、初日に向かって、私の予想以上のジャンプをしてくれると期待しております。

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――今日までの出来は何%ぐらいでしょうか。
栗原 タブーなことを聞きましたね(笑)。僕らもドキドキするような質問です。
白井 (笑)。まだ、80点ぐらいだと思っています。ゲネプロで90点、初日で100点を出す予定ですよ。
――白井さんは大スタジオでの演出が初めてになります。
白井 そうですね。KAATの芸術監督を務めさせていただくようになってから、大スタジオでやるのは初めてですね。お客さんとも距離が近いので、どのような反応が起こるか楽しみにしています。
――舞台経験の少ない若い役者さんが多いですね。
白井 確かに、ベテランの皆さんから比べると少ないですが、ベテランでは出せないエネルギーがあると思います。技術ではなくて、彼らが頑張って一生懸命舞台と立ち向かおうとしている姿が、我々にとって新鮮だし、そこが見どころじゃないかな。私も若くなったつもりでみんなと一緒に稽古をしてきたので、その良さが出てくれると思っています。

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――志尊さんは初座長ですね。
志尊 そうですね。舞台自体が久しぶりなので、申し訳ないですが、座長という意識はあまりないです。ただ、いろんなことをいろいろな人から吸収できるように柔軟にやってきました。これから初日を迎えて、メルヒオールの抱えるエネルギーを存分に出して、千秋楽までには座長として、ちゃんとしたものができるように頑張って行きたいと思います。
――座長はみんなをご飯に連れて行くというイメージもありますね。
志尊 意図的ではないですが、誰ともご飯に行ってなくて、それよりもメルヒオールを考えることで頭がいっぱいです(笑)。これからみんなでご飯に行きたいと思っています。
――大野さんから見た座長はいかがですか。
大野 稽古に真剣に向き合っている様子を見ると、人一倍プレッシャーを感じているんだろうと思います。私は女の子たちといっぱいおしゃべりをするんですけど、志尊さんは頑張っているねとお話をしているので、座長が一番いろいろなものを抱えているのが伝わって来ます。
栗原 白井さんは、志尊さんだけではなく、みんなに厳しく細かい表現を求めていたので、僕ら全員にそれぞれ課題がありました。最初は白井さんが何を求めているのか、頭をかかえることも多かった。けれど、稽古場から、劇場に移動したことで、何を表現すればいいのか、どのタイミングで動いたり、喋るのかという感覚をつかめた気がします。僕も志尊さんの稽古をずっと見ていて、志尊さんが思うメルヒオールとは何か、白井さんが求めるメルヒオールとは何か、いつもディスカッションしてすり合わせをしていたので、人ごとではないですが、どんな幕が開けるのか楽しみですね。

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――稽古は苦痛でしたでしょうか?
栗原 それはないですね(笑)。
志尊 憤りや、社会に対して納得いかないことを、常に役とリンクさせながら向き合っていたので、経験不足ですけれど、稽古中は辛いから笑顔でやろうと簡単に考えるのではなくて、とにかく真剣に向き合っていくだけでした。
――『春のめざめ』ということですが、目覚めたものはありますか。
志尊 コンビニのおにぎりですね。稽古中、毎日同じことをやるので、唯一の楽しみが帰りの電車か、朝にコンビニでおにぎりを選ぶ時。それ以外はずっと稽古に集中していたので、食べ物にはまっていましたね。みんなコンビニで買って分け合っていましたね。
大野 チークをたくさんつけると可愛い感じになるのに目覚めました(笑)。ヴェントラのメイクはタレ眉で、チークをたくさんつけるようにとメイクさんに指導いただきました。チークをたくさんつけたら、メルヒオールのお母さん役の那須さんや、ヴェントラのお母さんのあめくさんが「いとちゃんすごく可愛いって」と言ってくださって、嬉しい(笑)。

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栗原 自慢ではないですが、意外とショートヘアが似合うんだな(笑)。30センチぐらい切りましたね。作品に入らないときは髪の毛は伸ばしっぱなしなんです。THE ALFEEの高見沢さんクラスまで伸ばしていたほどです(笑)。いただく役も基本的にロングヘアーが多かったんです。今回はボブっぽくて、稽古のオフショットやポスターを見たら、思った以上に反応が良かったので、『春のめざめ』のようないい作品に巡り会えるチャンスがあれば、またボブにしようかな。
白井 若いみんなと久しぶりに身体を動かしていると体の気分が活性化するということに目覚めました(笑)。
――最後に座長から挨拶を。
志尊 僕たちが演じる14歳の役柄は、みんなが通って来たことでもあります。今の自分たちにリンクする部分があれば、誰しもが持っているものがある作品だと思っています。この作品は観る方によって、捉え方が変わるので、いろいろなものを感じてもらえるような作品です。舞台版でもしっかり原作の意図を伝えて、各々の役どころを存分に発揮できたらなと思っているので、たくさんの方に観ていただきたいです。

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〈公演情報〉
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース 『春のめざめ』
作◇フランク・ヴェデキント
翻訳◇酒寄進一
構成・演出◇白井晃
音楽◇降谷建志
出演◇志尊淳 大野いと 栗原類
小川ゲン 中別府葵 北浦愛
あめくみちこ 河内大和 那須佐代子 大鷹明良 ほか
●神奈川公演5/5〜23◎KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
〈料金〉プレビュー公演[5/5・6]5,000円(全席指定・税込) / 本公演[5/7〜23]一般:6,500円 / U24チケット(24歳以下)3,250円 / 高校生以下割引(高校生以下)1,000円 / シルバー割引(満65歳以上)6,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉チケットかながわ 0570-015-415(10:00〜18:00)
●京都公演  5/27・28 ◎ロームシアター京都 サウスホール
〈お問い合わせ〉ロームシアター京都 075-771-6051
●北九州公演 6/4◎北九州芸術劇場 中劇場
〈お問い合わせ〉北九州芸術劇場 093-562-2655
●兵庫公演6/10・11◎兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
〈お問い合わせ〉芸術文化センターチケットオフィス 0798-68-0255 (10:00〜17:00/月曜休み ※祝日の場合翌日)
〈公式ホームページ〉https://www.harumeza.jp
 


【取材・文・撮影/竹下力】




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