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劇団アレン座(Allen suwaru)の旗揚げとなる公演『空行(そらいき)』が、5月18日に初日の幕を開けた。(29日まで東京・吉祥寺シアターにて)

はっぴぃはっぴぃどりーみんぐ〈はぴどり〉として活動してきた來河侑希、鈴木茉美が新たに結成した劇団で、骨太なストレートプレイで、今日の世界を視界に入れた社会派の舞台を、幻想的な美しさを織り込みながら、リアルな今日の問題として提出している。
 

キャストは若手俳優の藤田富、高宗歩未、永井理子や、実力派として知られる中西良太、近童弐吉、内田淳子、古屋隆太を客演に迎え、劇団員の來河侑希、栗田学武、普光院貴之が出演している。
作・演出は、『JYUKAI-DEN』『ホイッスル』などを手がけている鈴木茉美。 そして、舞台美術に、2013年度読売演劇大賞最優秀スタッフ賞受賞し、青年団、地点、サンプル、LUDENSなどで活躍する杉山至、照明に白井晃作品などを手がける齋藤茂雄といった凄腕スタッフが顔をならべている。


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【あらすじ】

その街は炭鉱だった。大きな何かと判別できない荘厳な塔のような機械がそびえ立つ古びた建物。石灰の匂いと白い埃、希望を求めて人々はほこりを巻きちらし炭鉱を探すために穴を掘り続けた。ある日、炭鉱と置屋のオーナーであるモトヤマが連れてきたのは、7歳の少女だった。「イチカです。何も知りません。色々教えてください」。少女は教えられた通りに言葉を発した。炭鉱夫たちは金を払い少女で自身を慰める。そして、少女はモトヤマの息子のヒロトと出会う。彼の読む物語を通して、イチカは世界を知って行く。彼女の持つ信念を通して、ヒロトは自分を知って行く。運命を受け入れる少女と、運命を壊したい少年の心は、どこに答えを見つけるのだろうか…。

 

杉山至の舞台装置が美しい。円形のサークルの床の真ん中に完成したパズルのピースのような切り込みの入ったスチール板がまっすぐ走り、それを囲むようにプラスチックのとても小さな白いパイプが、まるで海辺の砂のように広がっている。舞台奥には4つの移動するドア。戸板はスクリーンになっていて、印象的な言葉や、写真が映り、また影絵を作り出す仕掛けになっている。
舞台が始まる前は、中央には更紗のかかった塔がそびえ立っている。淡い緑色のような照明とSEの赤ん坊の笑い声がまじりあうと、異界に入り込んだような、どこか懐かしくて遠い場所に来たような感覚を覚える。そして暗転し、スポットライトとともに塔の下で寝そべっている2人の白い衣装を着た男女が浮かび上がる。それがヒロト(藤田富)とイチカ(高宗歩未)だ。

彼らが夢を見ているような会話をした後、更紗が落ちると、そびえ立つ鉄パイプで組み上げられた塔が屹立する。本棚のようになっている場所もあり、中央付近には窓がある。そこはとある街の炭鉱を無骨にイメージした場所でもあり、グロテスクな置屋も想像できる。また、7歳のヒロトとイチカのいたイノセントな場所も彷彿とさせる。答えはどこにもない。あるがままに感じることを許してくれるとても広々とした世界のように見える。
 

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そして物語が始まる。ヒロトは炭鉱主で置屋の胴元でもあるモトヤマ(中西良太)の息子。そこに母親に捨てられた7歳のイチカが置屋に連れてこられる。彼女は、炭鉱夫のヨシオカ(栗田学武)やマキノ(普光院貴之)など、男たちの欲望の対象として生きることになる。彼女の他にルリ(永井理子)もそうした存在だ。さらに、炭鉱夫を夫にしていたが、夫が亡くなり、置屋の主人になったミナコ(内田淳子)がいる。そこに様々な男たちがやってくる。炭鉱と癒着している政治家カトウ(近童弐吉)、カトウから金を巻き上げようとするフリージャーナリストのサメジマ(古屋隆太)、ハッピーマインドという慈善団体にいるタカギ(來河侑希)。彼らが織りなすストーリーは、ひたすら自己の欲望を満足させようとする男たちと、そのはけ口となって傷つく女性たちが絡み合いながら、グロテスクでありながら美しく静謐に進行していく。
 

ヒロトの藤田富は、イチカに影響を受けつつ自己を発見していくのだが、炭鉱夫の息子は炭鉱夫でしかないという負の現実に傷つき、やがて男としての欲望に染まっていく。無垢な少年が、次第に狂気を孕んでいく様を、悲しみを感じさせながら熱演していて、この作品の核となる存在を見事に果たしている。


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イチカの高宗歩未は、イノセントでありつつ、男の欲望の対象になることを厭わない。家族を救うためであり、その決意を感じさせる凛とした佇まいが美しい。イチカはヒロトによって色々な物語を知り、やがて「愛」という人間の本質を知り、そこから「すべてを赦す」というミューズのような役割を果たしていくのだが、その変化をセリフや表情で演じきってみせる。

ルリの永井理子は、イチカの友だちであり、男の欲望の対象であることに抵抗していく女性だ。そして闇雲に傷ついてしまうのだが、人間として戦いながらも負けてしまうという、この舞台での女性の「負の性」の部分をリアルに伝えてくる。

ミナコの内田淳子は、コメディエンヌ的存在で、女性であることをどこか諦めつつも、イチカやルリを癒していく。モトヤマとのやり取りで、金という即物的な、だからこそ、この作品に出てくる男たちの象徴のようなものを利用し、あわよくば寝首を搔こうとする姿など、根性と母としての強さを感じさせて頼もしい。


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 政治家カトウの近童弐吉は、金と女への欲望と、欺瞞と嘘をひたすら体現したような存在だ。ボランティア団体のハッピーマインドと手を組み、票を稼ごうと演説する姿は、現実の政治家たちのカリカチュアそのもので、今の日本の政治家を映し出してリアルに迫ってくる。 

フリージャーナリストの古屋隆太は、ただ外から見ているという周縁的な存在だ。どんな問題も決して踏み込むことはなく傍観者を決め込んでいる。舞台装置のサークルから踏み込まないでいる姿は、どんなに努力をしても良い結果が得られないという、諦めに似た閉塞感を抱える現代社会の病理のメタファーだ。彼はデジタルカメラを使って消費されていく女性を写すのだが、それは「男から見た女」という視線をそのまま表現する。


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ハッピーマインドの來河侑希は、妻も子供もいて文字通りハッピーな存在。慈善団体として置屋の状況が許せないのだが、その対立姿勢がひたすら暴力的で押し付けがましい。また彼は善人ぶって、やたらとニーチェを引用するのだが、ペダンチックで悪意でしかない善意を巧みに表現する。 

炭鉱夫の栗田学武や普光院貴之は、ひたすら男の欲望を加熱させていき、最後には暴発してしまう。その暴力的な様を、背筋が凍るほどスリリングな演技で見せてくれる。


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そして凄まじいばかりの演技力で存在したのは、置屋のモトヤマの中西良太だ。黒の中折れ帽子にストールを巻いてカッコいい佇まいだが、彼はすべてを金に換算することしかできない、即物的で欲望に身を委ねるストレートな存在だ。しかし、すべてを手に入れることができるはずなのに、妻、つまりヒロトの母親は、金も才能もない男と逃げていった。その寂しさを、よく通る声音と背中で語って見せる。ある意味では男のダンディズムで生きているのだが、だからこそ成長したヒロトとの出口の見えないやりとりは、男の親子にある独特なちぐはぐさを際立たせる。「すべての結論は運命的に決まっていて変えようがない」という諦念のようなものを纏うモトヤマはどこか虚しい。
 

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忘れてはならないのが、鈴木茉美の脚本と演出だ。ルリやイチカ、ヒロトは無垢な存在として白い衣装を身にまとい、欲望に生きる人々は普通の服というコントラストで、観客の感情移入しやすい空間をつくっている。さらに、ルリやイチカは、時折体の節々に紫や赤色のペインティングを施し、男の欲望に傷つく様を、あからさまではなく表現していて、彼女たちの悲しみのようなものが、まるで淡い色の花のようにそっと浮き上がる。

しかし、少女たちは一方的に虐げられているだけの存在ではない。男たちの差し出す金を破き捨てたり、それを折り紙さえ見立てて、笑い飛ばす。そんな生命力を感じさせる演出は、鈴木が女性であることと無縁ではない。

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象徴的なのは、塔に登ることができるのはルリとイチカだけであり、それ以外の役者は見上げるだけだ。特に男性陣はドアの開け閉めと出たり入ったりを繰り返す。その即物的な行為から救いとなる唯一の聖域が、塔なのだ。そこには誰も近づけない。また空を見渡せる窓はどこか開放的で安らぎがあり、そこに鈴木の慈しみや愛が表現されているのを感じる。だから観客は、ひたすら暴力的な男たちと、それを受け入れる女性という対立構造の中でも、神経をヒリヒリさせられるだけではなく、救いのようなものを感じて安心できるのではないだろうか。まるで海のさざ波を聞いているように、穏やかな気持ちさえ感じるのだ。

劇中に「愛は赦す」というニーチェの言葉が出てくる。それは、決して男だけが悪いわけではない、女性だけが正しいわけでもない、と宣言しているようであり、人間が生きることの業のようなものを浮かび上がらせる。この作品は、東南アジアのある国がモチーフになっているということだが、今現在も、世界を覆っている悲惨な現実は変わらず、その根源にある人間という存在の罪深さも変わらない。それでもあえて、「他者を愛することで他者を赦す」という、人間が辿り着くべき理想を観るものに訴えかけてくる。その誠実さに心を打たれるのだ。

 

〈公演情報〉
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劇団アレン座(Allen suwaru)第1回公演『空行』
脚本・演出◇鈴木茉美
出演◇藤田富 高宗歩未 中西良太 近童弐吉 内田淳子 古屋隆太 來河侑希  栗田学武 普光院貴之 ほか
●5/18〜29◎吉祥寺シアター
〈料金〉一般指定席5,500円 吉祥寺シアターシート(B席)4,500円 S席プレミアムシート7,000円(全席指定・税込) 
〈お問い合わせ〉0120-240-540(平日10:00〜18:00)
http://allen-co.com/soraiki/

 
 


【文/竹下力 写真提供/劇団アレン座(Allen suwaru)】




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