IMG_5371

喜多村緑郎と河合雪之丞の競演により、新たに新派版として誕生した舞台『黒蜥蜴』が、日本橋の三越劇場で開幕した(24日まで)。

名探偵明智小五郎と女盗賊黒蜥蜴の、華麗な対決と互いを好敵手とみなすが故の、複雑な心の交感を描いた江戸川乱歩の傑作小説『黒蜥蜴』。昭和初期のどこか妖しく耽美な世界観と、世界中に名探偵が活躍した時代の「探偵もの」ならではの醍醐味を併せ持つ作品として、今なお多くの人々から愛され続けている。これまでにも、舞台、映画、テレビドラマと、数多い上演・上映の歴史があり、美輪明宏がライフワークの1つとする三島由紀夫脚色版や、近年ではデビッド・ルヴォー演出によるバージョンが特に親しまれてきた。そんな作品に、今回、劇団新派が新たな脚本・演出による新派版『黒蜥蜴』で、新しい命を吹き込む舞台を創りあげている。

IMG_5301

【物語】
時は昭和初期。国宝級のダイヤ「クレオパトラの涙」を保有する宝石商岩瀬(田口守)は、心穏やかならぬ日々を過ごしていた。この世のすべての美しいものを所有したいと願う、稀代の女盗賊「黒蜥蜴」が、美しき1人娘早苗(春本由香)と「クレオパトラの涙」を狙っているというのだ。岩瀬は早苗の警護を、名探偵として誉高い明智小五郎(喜多村緑郎)に依頼する。
危機を逃れる為とは言え、高級ホテルに軟禁状態の早苗は、憂鬱を募らせていたが、そんな彼女の慰めは、社交界の花形である緑川夫人(河合雪之丞)の存在で、早苗から明智がホテルに来ていることを知らされた緑川夫人は、岩瀬の部屋を訪れ、名探偵である明智との出会いを喜びダンスに興じる。その一方で、こっそりと早苗を連れ出した緑川夫人は、素知らぬ顔で明智に互いに最も大切なものを賭けたポーカーを提案する。刺激的で挑戦的なゲームに乗った明智だったが、ついに賭けポーカーに敗れてしまう。そればかりか、警護していたはずの早苗がいない!
勝ち誇る緑川夫人。だがそんな彼女に明智は言い放つ。あなたこそが黒蜥蜴だと。
互いの知恵と、誇りを賭けた闘いは、黒蜥蜴の配下雨宮潤一(秋山真太郎)や、事件解決を目指す片桐刑事(永島敏行)をも巻き込み、騙し、騙される追跡劇を続けていく。そんな闘いの果てに明智小五郎と黒蜥蜴が見たものとは?

IMG_5182

舞台に接してまず感じるのは、新派によって新たに生まれたこの『黒蜥蜴』が、三越劇場という創立90年の歴史を持つ、古式ゆかしい伝統を感じさせる劇場全体を、そっくりそのまま作品の世界観としてある意味で利用し、ある意味で取り込んでいる見事さだ。
まず、近年の劇場内装では考えられない、三越劇場の装飾性豊かな壁や、扉をそっくりそのまま模した背景が舞台上にも飾られ、劇場全体を舞台世界の延長として感じることができる巧みな仕掛けが施されている。しかも、それら装置が、回り舞台の機構のない劇場で、人力で転換されることによって、舞台にスピード感を生んでいて、どこか金毘羅歌舞伎を思わせ、人の力、アナログの力を再認識させてくれる一助ともなった。
これは、如何にも江戸川乱歩の世界、作品の世界観に相応しい美学で、舞台横の扉から直接客席に出演者が出ることができる、三越劇場以外ではほぼお目にかかれない出入りを使った逃走劇や、客席の360度あらゆるところから登場する出演者たちの神出鬼没も面白い。この手腕は、劇場を知り尽くした脚色・演出の斎藤雅文の大きな功績と言えるだろう。

IMG_5201

しかも、作品の登場人物たちが繰り広げる殺陣や様式的な動き、また歌舞伎界から新派の世界に飛び込んだ喜多村緑郎と河合雪之丞コンビの特性を活かして、歌舞伎の所作までも取り入れて、トリッキーでアクロバティックで、かつ妖しいファンタジーに満ちた舞台には、娯楽性と耽美性を兼ね備えたロマンチシズムに溢れている。これは日本独自の美しさを表現し続けてきた新派の土台に、だからこそ花開いた目くるめく幻惑の世界で、まさにここにしかない江戸川乱歩、ここにしかない『黒蜥蜴』としての魅力に満ちている。
大正から昭和初期にかけての時代だからこそ生まれる独特の美を、ここまで表現できる劇団は今、そう多くない。その意味でも新派は、この挑戦で非常に大きな鉱脈を掘り当てた。この作品をきっかけに、古典はもちろん、明治時代にそもそも「旧派(歌舞伎)」に対する、文明開化の波と共に誕生した新しい演劇として台頭した「新派」の今後が、一層輝き始める予感を覚えた。

IMG_5441

その胎動を確かに感じさせたのが、明智小五郎の喜多村緑郎と、黒蜥蜴の河合雪之丞の存在であることは言うまでもない。喜多村の明智には、確かな様式美と端正な品位があって、この時代のインテリジェンスな男性特有の気障な仕草や立ち居振る舞いを、わざとらしさのかけらをも感じさせずに、スッキリと決めてくれる見事さがある。そのことが、ダンディを絵に描いたような「名探偵・明智小五郎」を十二分に具現化していて、当代の当たり役を引き当てた。現代の男優でこれだけのダンディズムを体現できる人材は数少なく、その意味でも貴重だ。

IMG_5333

対する黒蜥蜴の河合雪之丞も、女方が演じるならではの妖しさがこの役どころに打ってつけ。劇中、生い立ちや本名さえもが伏せられたままの「謎の女」である黒蜥蜴役には、こうしたこの世の者でない香りが実に似つかわしく、何よりもその美しさが役柄を支えている。喜多村との息もピッタリで、二人の丁々発止のやりとりと、息詰まる魂の交感が舞台を大いに盛り上げていて、最後の最後まで作品のカラーを貫いた様が光っている。二人が初めて取り組んだというタンゴを踊るシーンなど、みどころも多く、二人から目が離せない。

IMG_5647

物語の鍵ともなる令嬢早苗の春本由香は、劇団新派で活躍した故・春本泰男を祖父に、歌舞伎俳優の故・六世尾上松助を父に、人気若手歌舞伎俳優・尾上松也を兄に持つという、この世界のサラブレット。昨年9月に新派に入団以来、急速に成長している期待株らしく、劇中の時間を経るごとに、刻々と変化する早苗の境遇を、地に足のついた芝居でしっかりと表現している。もともとの個性にもクラシカルなものがあり、新派という水を得てますます大きく泳いでいってくれるだろう。期待したい。

IMG_5265

黒蜥蜴に人生の全てを捧げる雨宮潤一には、劇団EXILEの秋山真太郎が扮し、新派の世界に初参加の本人と役柄が上手くリンクしていて、これは配役の妙。硬質な美丈夫という持ち味も、ボクサーである役柄の背景によく合い、アクションシーンの鋭さと共に印象的な客演になった。

IMG_5416

そして、全体の語り部的役割も担う片桐刑事の永島敏行は、1人抜きんでた現実感があるのが、作品の求める存在としてぴたりと嵌まる。酸いも甘いも噛み分けた、いわゆる食えない男である片桐を、過度に笑いに走ることなくしたたかに表現したのはさすがベテランの味わい。作品の貴重なアクセントとなっている。

IMG_5256

他に、重要な役どころの伊藤みどり、田口守、児玉真二、小川絵莉、市村新吾などの確かな演技はもちろん、出演者すべてが転換やアクションなど、舞台全体を演じながら転がしていく様が素晴らしい。この作品が新派の新たなレパートリーとして、そしてこの三越劇場での定番公演となっていくことを期待したい、優れた舞台となっている。

IMG_5777

 【囲みインタビュー】

IMG_5103
春本由香、 河合雪之丞、喜多村緑郎、永島敏行、秋山真太郎
 
初日を控えた5月31日、通し舞台稽古を前に、喜多村緑郎、河合雪之丞、秋山真太郎、春本由香、永島敏行が囲み取材に応えて、公演への抱負を語った。

──初日を前にした、意気込みをお願い致します。
喜多村 明智小五郎役の喜多村緑郎でございます。このお芝居が決まってから、キャンペーンとか記者発表とか、たくさん色々していく中で「ご期待ください」という言葉をたくさん使ったんです。大体いつもの公演でも「ご期待ください」と申しますが、どこか心の中でその言葉に嘘はないか?と思ってしまったこともあるのですが、今回はもうそのまま言葉通り信じて頂いて結構でございます。大変面白いものになったと思っております。ちょっとハードル高くしちゃったかな?と(笑)思いますが、十分飛び越えられますので、是非劇場にいらっしゃって頂ければと思います。
河合 本当に大変です。役者もスタッフも含め、目の回るような大変な舞台でございますけれども、その分お客様に楽しんで頂けるという風に思っております。やはり我々出演者、スタッフが大変な思いをしている舞台というものは、それだけお客様に喜んで頂ける舞台が作り上げられているのだと思っておりますので、喜多村さんではございませんけれども、ご期待頂ければと思っております。

IMG_5670

春本 岩瀬早苗役をやらせて頂きます春本由香です。今回3度目の舞台になりまして、はじめてのことばかりで、色々と大変ですけれども、足を引っ張らずに頑張っていきたいと思いますので、どうぞ皆様劇場にお越しくださいませ。
秋山 雨宮潤一役をやらせて頂きます秋山真太郎です。新派初参加ということで、まさかこんなに体力を使うとは想像もしていなかったんですけれども、その分板の上で汗をかいているので、魅力的な舞台に仕上がっていると思います。あとは先輩方の教えを乞うて楽しく稽古で培ってきたものを、お客様に見て頂ければと思っております。
永島 銭形刑事役の…
喜多村 (笑)違う、違う。
永島 あ、違った?(笑)片桐刑事役の永島です。最近豊洲に最新の360度から見られる劇場が完成致しましたが、この三越劇場は90年以上の歴史があって、到底動かないのですが、逆にその三越劇場の90年の歴史がある劇場で、役者が360度から動き回って、お客様参加型の芝居に仕上がったのではないかなと思っております。絶叫マシンではありませんが(笑)、あっという間に終わる芝居になるのではないかな?と楽しみにしております。その分、老体に鞭打って(笑)、最後まで行けるかどうか、心配ですけれども、頑張りますのでよろしくお願いします。

IMG_5633

──今、雪之丞さんから「大変」という言葉が何度も聞かれましたが、皆さんお稽古場でご苦労された点は?
喜多村 もう数えきれないくらいです。初体験のこともありますし、歌舞伎時代にやっていたこともありますし、とにかく何でもありの世界なってしまいましたので、ずっと大変です。タンゴも踊りまして、それも初体験ですが、どこか日本舞踊にも通じるところがあるのを発見できたりとか、ちゃんこ鍋のようになんでも入っている舞台です。
河合 やっぱり新しいお芝居を作るということには大変な労力と体力がいるので、既存の作品をまた我々が勉強させて頂くのとは違った労力と体力がいりましたので、そういった意味での苦労はお稽古場からずっとありました。たぶん初日が開いてからも、千秋楽まであると思います。
春本 今までやってきた古典という作品とは違い、新たに作り上げていくものなので、どういう風に作り上げたらいいのかというところに苦労したのと、道具を使いながら動き回るのが…
喜多村 アクションあるものね。初アクション。
春本 はい、そこが大変でした。

IMG_5747

秋山
 僕も内容に触れてしまうので、ちょっと言えないのですが、初めて経験させて頂く所作がありましたので、そこが大変だったと言えば大変でした。そこは見て頂けたらおわかり頂けると思います。
永島 私もまさか歌舞伎のものを演じるとは思いませんでした。昭和初期の物語ですが、歌舞伎の所作が入ってくるとは思わなかったので(笑)、とてもそこが不安です。
喜多村 歌舞伎の所作+拳銃ですね、まぁ「だんまり」なんですけど。
永島 (秋山に)「だんまり」って言われてまずわからなかったもんな。
秋山 はい。
喜多村 ただ、ただ、だまっちゃうのかなと(笑)。でもそこは皆さんさすがで、とても初挑戦とは思えなくて素晴らしいです。歌舞伎俳優でも難しいものなので。是非観てください。

IMG_5580

──これまで演劇界でも広く親しまれてきた名作ですが、新派の皆さんで演じるならではの魅力や、見どころは?
喜多村 じっくり突っ込んで深くお芝居する場面もありますし、今までの新派の舞台にはない激しいアクションですとか、先ほども言った歌舞伎の所作とか、現代的なものと歌舞伎のちょっとした融合的なところなど、新派とは言わず、今までに見たことがない、でもクオリティの高い、ストーリー的にも深く感動できるものになったのではないかと思います。脚色・演出の斎藤雅文さんのおかげですね。道具然り、転換然り、登場人物のコスチューム然り、ビジュアル面でも楽しんで頂けると思います。おそらく賛否両論たくさんあると思いますし、「こんなの新派じゃない」というご意見なども出るだろうことは覚悟しているのですが、とにかく面白いものを作ろう!と言ってはじまったので、幅拾い年齢層の方々に観て頂きたいです。お子様でも楽しめますので。
──変装シーンもたくさんありますよね?
喜多村 多いです。僕は天知茂さんの明智小五郎のファンだったので、思いっきりイメージしてやっているのですが、変装シーンもケレン味もたっぷりです。その点もご期待頂ければ。
──黒蜥蜴役はいかがですか?
河合 もう大変で、私、大変しか言ってないね(笑)。もう怪我のないようにと願うばかりと言うくらい、走り回っていますので、あっちから出て、こっちから出てとやっておりまして、それは私に限らず皆さんそうなので、本当に永島さんがおっしやったように、どこから人が出てくるかわかりませんので、皆さんご注意ください(笑)。

IMG_5213
 
──女方さんの演じる黒蜥蜴の魅力はいかがですか?
永島 僕は刑事なんですけれども、下心はすごく持っている男なんです(笑)。職業柄それをなかなか出せないけれども、本当はものすごく憧れていて、1度は見たいと思っていて、それがすれ違い、すれ違いという中で会えないので、僕の中での妄想は(頭の上のまで手を広げて)こんなに大きくなっている刑事です。
秋山 僕は普段の舞台ではメイクをすることがほとんどなくて、メイクを見てもらっている時に雪之丞さんが楽屋に入ってこられて、女性が入ってきた!と思って、えっ誰!?と思ったら雪之丞さんで、最初全然気づかないくらいでびっくりしました。また板の上ではずっと愛し続ける役なので、是非そこも観て頂けると嬉しいです。
──では皆さんにメッセージを。
喜多村 三越劇場へ
全員 是非お越しください!

IMG_5604


〈公演情報〉 
170421_news_img_l
六月花形新派公演 
『黒蜥蜴』
原作◇江戸川乱歩  
脚色・演出◇齋藤雅文  
出演◇喜多村緑郎 河合雪之丞/秋山真太郎(劇団EXILE) 春本由香/永島敏行  他  
●6/1〜24◎三越劇場
〈料金〉9,000円(全席指定・税込) 
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹 0570-000-489、三越劇場:0120-03-9354



【取材・文・撮影/橘涼香】




えんぶショップ内30〜50%OFF! 




kick 

shop 

nikkan 

engeki