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時計も漢字も読めず、小学校2年生から4年生を支援学級で過ごした少年「かっちゃん」が、5年生で転校した学校で出会った森田先生から、勉強の楽しさを教えられ成長していく奇跡の物語『向日葵のかっちゃん』。小説家の西川司が自らの小学校時代を綴った自伝小説が、この夏、初めて舞台化される。

かっちゃんの人生を変えた熱血教師森田先生を演じるのは、『趣味の園芸』(NHK Eテレ)で園芸王子としても親しまれている三上真史、そして、この実際に起きた奇跡の物語の脚本・演出を手がけるのは、劇団「リリパットアーミーII」の座長を務めるわかぎゑふ。人が成長する可能性を信じたこの作品について、2人がその思いを語り合ってくれた。
 
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わかぎゑふ 三上真史

受け入れてくれる人が1人でもいれば人生は明るくなる

──まず原作を読んだ印象から教えてください。
三上 読ませて頂いてまず涙しました。作者の西川司さんの体験談、実話なので、教育、育てることって本当に大事なんだなと。かっちゃん自身には、それは転校したことから始まるのですが、出会いによって人の人生って変わるんだということを痛感しました。西川さんの講演会も聞かせて頂いたのですが「すべてを受け入れてくれる人が1人でもいれば、人生は明るくなっていく」とおっしゃっていて、本当にその通りだなと。そして、「わからないことは恥ずかしいことじゃない」という言葉が、非常にグッときました。僕もつい知ったかぶりをしてしまうところがあって、僕自身にも励みになりました。そして、大人が大人であることの重要性を感じています。子供にとって大人は模範でなければならないし、でも目線は子供と同じところにいるのが森田先生だなと思って、非常に勉強になっています。
わかぎ 私は何回泣いたかな…4箇所くらい、絶対泣くもんか!と思って読んでいたんだけど(笑)。
三上 泣けますよね。
わかぎ 舞台にすることを考えながら読んでいたので、ストレートには読んでいなかったと思うのですが、西川さんとは世代が一緒かなとなんとなく思っていたら、ドンピシャで1歳下で、でも大阪で育った私とは全く違う人生を歩いていらっしゃるんですけどね。ただ、私自身も従姉妹が障害者だったり、ほかにも色々なことがあって、意外と小さな棘が刺さっている人って見捨てられがちだなと思っていて。今、「発達障害」という言葉によって、「あ、そうだったんだ」という人が世の中にたくさん見えてきて、それまでは「物忘れが激しい」とか「あいつにものを頼んでもちっともやってくれない」とか「計算が弱い」とか言われて、見過ごされてきた。その1つ1つは小さな棘なんだけれど「小さい棘って痛いんだよね」ということを、しっかりと書いてあるので、改めて今、舞台化するのにとても良い本だなと思いました。パラリンピックをはじめ、障害をもっていることをちゃんと出していける世の中になってきていますが、逆に小さい障害をもった人たちが隠れてしまっている。でも小さい障害をもった人も辛い。そこを舞台化できることは良かったと思いました。
──そうした本から、何を一番大切に舞台化したいと?
わかぎ どんな舞台でも一番大切なのは人が描けているかだと思います。それはジャンルに関わらず、そこに肉体があって生きていることが伝わるかどうかなんですけれど、そういう意味で丁寧に作らないといけないし、特にこの作品は笑えるところをたくさん作らないと、西川さんの思いは伝わらないなと。ですからベースはコメディにしてあげないと、というのは私の中で読んでいて決めたことです。
三上 かっちゃん明るいですよね。
わかぎ 明るいし、可愛いよね。
三上 森田先生も本当に突き抜けていて。
わかぎ 実際の森田先生はこんなに二枚目じゃないけど(笑)。
三上 驚いたのは、僕のツイッターに森田先生のお孫さんがコメントしてくださったんです。
わかぎ えっ?ホントに?
三上 森田先生は自分のおじいちゃんです。本当に真っ直ぐな大好きなおじいちゃんです。舞台、絶対観に行きますって。
わかぎ それはスゴイね。
三上 鳥肌ものでした。

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人生変えるようなわかぎさんとの出会い

──その森田先生を演じられるにあたっては?
三上 僕も性質として熱いところがあって、「できないことはない」と思っていて、ちょっと森田先生と重なる部分があるので、そうした共通点を精査してやっていけたらなと思っています。実際の森田先生がどういう方だったのか、お話を伺いたいなとも思っていて。
わかぎ お孫さんにね。
三上 そうなんです。そこから突き詰めていきたいです。でも一方で、読んでいて思ったのは、森田先生も最後に「自分もこんな風にかっちゃんが変わるとは思わなかった」って正直に言うんですね。どうなるかわからないけれども、素直に純粋にできると信じて、周りになんと言われようと思ったことを貫いた、かっちゃんを信じた、というところがあるのかなと思いました。そこを僕も貫いていけたらなと。わかぎさんが脚本・演出してくださるのも嬉しいです。
わかぎ 一緒の仕事はすごく久しぶりで、9年前かな?
三上 はい。わかぎさんが脚本を書いてくださった舞台『夢のひと』です。僕にとっても人生変えるような出会いで、ちゃんとした舞台は初めてだったんです。
わかぎ 升毅さんとか渡辺いっけいさんとか出ていて、神田沙也加さんがまだ小さかったね。
三上 そうです。皆で北海道を回りました。
──その時の印象から、今の三上さんをご覧になっていかがですか?
わかぎ 私、NHKの『趣味の園芸』も観てたから。
三上 本当ですか?
わかぎ そう。「あ、三上だ!」って(笑)。でも覚えていてくれるとは思わなかったから、打ち合わせの時にも言わなかったんだけど。
三上 もちろん覚えてますよ!何をおっしゃるんですか!あんなにお世話になったんですから!
わかぎ いや、あの時は脚本だけで演出はしてなかったから。
三上 アドヴァイスを色々くださって。
わかぎ ちょっとだけ。いけないよね、演出家がちゃんといるのに(笑)。
三上 でも本当に助かりました!難しい役で全然わからなかったのが、的確なアドヴァイスで、そこから一気に変わって。
わかぎ すごくシリアスな役だったからね。
──そんな三上さんの魅力や、今回期待されているところは?
わかぎ こんなに真面目な子っているんだなというのが第一印象で、出ているテレビとか見て、そのまんま大人になったなと(笑)。だから森田先生が三上君って聞いた時、なんの問題もない、そのままいけると思いました。

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役者の肉体を使って、笑えて温かい物語に

──原作を読んで、印象的なシーンなど話していただければ。
三上 僕はキャッチボールのシーンが好きでした。
わかぎ 私は、「こんな先生いたらいいな」と思ったのが逆上がりを教えるシーン。
三上 あぁ、そこも泣きました。
わかぎ 私は運動は何でも出来たので、人に教えるのがすごく苦手だったんだけど、こうやって教えたら、逆上がりできない子ができるようになるんだ!なるほどなぁと。きっと子供は嬉しいだろうなと。
三上 こうやるんだよ!ではなくて、なぜそうなるのかというところを、ちゃんと言ってくださるんですよね。
わかぎ 舞台では残念ながらカットしたんですけど、とても印象的なシーンでした。あと、「身体で覚えろ」って、殴ろうとするシーンがあるでしょう? かっちゃんは反射的に防御しようとする。その防御の姿勢をとったかっちゃんに、「それが身体で覚えるということだよ」と。だから漢字を書いたり算数をしたりするのも「身体が覚えればいいんだよ」と。子供が納得するんですね。それもすごく印象的でした。あと小説の中では、先生と出会ってからは家族の描写が少なくなっていくんです。そのくらい先生にシンパシーを抱いて、人生の中心が家族ではなくて森田先生と学校の生活になっていく。でもそのままだとお母さんが出てこなくなって可哀想なので、「お母さんのお話をもう少し膨らませてもいいでしょうか?」と西川さんにお願いして、「どうぞ」と言って頂けたので、舞台ではちゃんと描いています。
三上 それは素晴らしいですね。

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わかぎ
 うちの従姉妹は5人兄弟で、それだけ多いと時期によって放っておかれる子供がいるんですね。かっちゃんもそうだったんだろうなと。お兄ちゃんがいて、まだ下の子供は小さくて、次男のかっちゃんが少々できなくても気にされない、そういう子供って昔はいたよなぁと。
三上 兄弟姉妹が多い時代ですからね。
わかぎ 森田先生自身とお母さんのシーンに、そういう台詞をちょっと入れてみたんです。
──家族の物語としても幅を広げて?
わかぎ そうですね。アメリカの小説に『Itと呼ばれた子』というのがあって、兄弟の中で、お母さんが1人の子だけを名前でなく、「It(それ)」と呼び出して、虐めていくんです。その少年が後年、そのことはどういうことだったのかを小説に書いて、アメリカでベストセラーになったのですが、その子も他に兄弟がいて、お母さんがその子だけできないから、なんとなく疎外していたら止まらなくなっていく。そういう歪みにいる子供っているよなというのがあったので、森田先生自身がそういう子供だったのではないか?と、これはあくまでも私の想像ですけれども、それを書き加えてみたんです。
──では、舞台ならではの場面があるのですね。
わかぎ そうですね。エッセンスは生かしつつ、作っています。あとはアンサンブルの人たちが本当に大変だよね(笑)。
三上 そうですね!
わかぎ 俳優が8人しかいなくて1人は子役で、三上君は森田先生1役ですが、あとの人たちは全員2役以上やります。最も大変なのは、PTAの会長と生徒を演じる高木稟さんで、同時に出ているシーンがあるという。
三上 同じシーンに? 
わかぎ 生徒でお腹が痛いことにして教室を出ていって、PTAの会長をやって、また生徒で帰ってきて、「お前いなかったじゃないかよ!」「シー!」みたいな(笑)。
三上 面白い!(笑)
わかぎ そういう役者の肉体を使って笑えるところは笑えて、でも物語としては温かくて感動できて、泣かせるものにできればと。博品館はコンパクトな劇場なので、それを生かしながら、遊びを狙って作りたいと思います。

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小さい棘が刺さっていない人なんていない

──三上さんから、わかぎさん作・演出の作品に出演することへの期待は?
三上 ついて行けば間違いないので、安心しています。そして、何よりも『向日葵のかっちゃん』という作品を舞台化されることが嬉しいし、その作品で、また出会えたことはありがたいです。舞台は生もので、その場でしか感じられないことがあって、この作品を小説で読んだ方も、舞台でしか観られないエピソードをわかぎさんが書き下ろしてくださっているので、楽しみに観て頂ければ。そして、もしかして切ない物語かな?と思われている方には、明るい物語なんだということを知って頂きたいです。たぶん誰でもが、自分のどこかに置き換えられる話だと思うから。
わかぎ 小さい棘が刺さってない人なんていないでしょう?
三上 いないですよね。
わかぎ でも「小さい棘って痛いんだよ」とちゃんと言いたいの。この「小さい棘」という表現はトルコに行った時に知ったんだけど、トルコの人は「心に刺さった小さい棘は早いうちに抜け」って言うんだって。心に小さい棘が刺さったままにしておくと、やがて心臓に達して死んでしまう。友達の小さな暴言とかが心に刺さったら、その時に「痛いじゃないか」と伝えて解決してしまわないといけないんだってトルコの人に教えてもらったの。
三上 すごい言葉ですね。
わかぎ 素晴らしいでしょう? とても印象的で、どこかでタイトルに使おうと心に留めているんだけど。
三上 まさにこの作品と同じですよね。
──では改めて、大切なメッセージのこもったこの作品への意気込みをお願いします。
三上 何事にも全力で教えて取り組む、森田先生の生き様そのままに、僕自身が舞台に取り組んで、少しでも観てくださっている方たちの、今、わかぎさんがおっしゃった「小さい棘」がなくなって、向日葵の花が咲いてくれるように、精一杯やらせて頂きます。
わかぎ 人生の中で見過ごされがちなわだかまりや、小さな棘について、役者の肉体を通して、楽しく観て頂いているうちに、心に種が植わっていて、後から花が咲いたらいいなと思っています。夏休みでもありますし、三上君を中心に素敵な仲間たちと、気がついたら良い話だった、というようなお芝居を創りますので、楽しみにしていてください。

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わかぎゑふ・三上真史
 
わかぎゑふ○大阪府出身。劇団「リリパットアーミーII」の座長。大阪弁の人情劇を上演するユニット「ラックシステム」を立ち上げるなど、小劇場から商業演劇まで活躍中。古典芸能の造詣も深く、歌舞伎『たのきゅう』、茂山狂言会『わちゃわちゃ』『近江のおかげ』などの作、演出を手掛けている。エッセイも多数。NHK語学番組『リトルチャロ』シリーズの原作者でもある。

みかみまさし○新潟県出身。06年『轟轟戦隊ボウケンジャー』の最上蒼太/ボウケンブルー役で話題を集める。映画『スウィングガールズ』などに出演。11年からNHK Eテレ『趣味の園芸』のメインナビケーターを務め、「園芸王子」として多くの支持を獲得し、16年からはtvk『猫のひたいほどワイド』で水曜MCを担当している。
  
〈公演情報〉
2017_08_23

『向日葵のかっちゃん』
原作◇西川司
脚本・演出◇わかぎゑふ
出演◇三上真史 星野真里  酒井敏也 西ノ園達大 高木稟 梅田悠 二瓶拓也 阿由葉朱凌/戸塚世那(かっちゃん Wキャスト)
●8/23〜27◎博品館劇場
〈料金〉6,800円(全席指定・税込)
前売り開始 :6月17日 午前10:00〜
〈お問い合わせ〉る・ひまわり 03-6277-6622(平日11時〜19時)
〈公演HP〉http://le-himawari.co.jp/releases/view/00681



【取材・文/橘涼香 撮影/山崎伸康】 






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