かつて地方都市の、不良のたまり場だった高校のラグビー部をまとめ上げ、全国大会の常連校に育てた伝説の監督がいた。地元の英雄だった彼が急逝して十数年後。
彼に興味を持った女性ドキュメンタリー映画作家が、彼の家族と周りの人びとを取材するうちに浮かび上がる真実とは…。

京都で1回きりのつもりで活動を始め、人間の愛らしさと醜さを表現したいと作品を発信し続けているB.LET’Sの滝本祥生が、実際にあった事件をモチーフに書き下ろし、伊勢市出身で、観客が”一筋の涙”をこぼすかどうかに重点を置きながら、血縁・家族関係を軸に描いてきたTOKYOハンバーグの大西弘記が演出を担当する注目作。

ドキュメンタリー作家を演じる永島広美(B.LET’S)と、彼女に取材され、知らなかった事実と向かい合うことになる伝説の監督の娘役を演じる永田涼香(TOKYOハンバーグ)。

この夏、この合同公演でしかできない作品を作ろうと格闘している4人に、本番直前の稽古場にて創作過程を聞いた。


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TOKYOハンバーグとB.LET’Sのメンバー

劇作と演出の挑戦

——今回の作品は実際にあった事件を基にされているそうですが、脚本の滝本さんと演出の大西さん、どちらが決められたのですか。
滝本 わたしですね。いくつか提示して、選んでもらいました。
大西 ぼくは実際にあった事件、それもちょっときつい事件だったので、最初は反対でした。何度も滝本さんが提示してくれた対案を「これは? これは?」と推したのですが、彼女は「でも、わたしはこれをやりたい」と。「じゃあ、お願いします」と決めたら、あとは自由に書いてもらいました。そしたら、こんなに複雑な本が上がってきて、かみ砕くのに時間がかかりましたね。
滝本 演出の大西さんに自由に書いていいと言われたので、自分が演出をするんだったら書けないようなことも書かせてもらえて、自分の劇作の幅が広がりました。普段、自分の劇団だと日常を描くことが多いので、日常とフィクションをうまく融合させるのが得意な大西さん、TOKYOハンバーグとの合同企画だからこそ、書けるものに挑戦できました。
——先日、最終稿を読ませていただきました。ドキュメンタリー映像作家の女性が軸となっているので、取材シーンや回想シーンなど、時間軸や場所の異動が多くて、演出を考えるのは大変そうな印象を受けました。
大西 今回、脚本が別ということで、最後の着地点がなかなか見えなかったので大変でした。創っては壊す、創っては壊すを何度も、こんなに繰り返した作品はこれまでなかったです。

信頼するが故の難役

——このお話の一つの軸となる、ドキュメンタリー映像作家を演じられる永島さんは、ここまでこの役と付き合ってきて、いかがですか?
大西 とは言っても、まだ台本が完成したばかりだから・・・。
滝本 実はラストシーンを書けたのが6月20日頃で。
永島 まだ分かんなさが・・・・・・。(取材時7月8日)永田さんが演じる、ドキュメンタリー映画の題材にしているラグビー部の監督の娘との距離感とか・・・・・・。すごく難しくて。
——永田さんはいかがですか?
永田 人っていろいろ抱えて生きているとは思うんですけど。今までの自分が持ってきたもの以上のものを抱えている役で。さらに、それを抱えたまま人と普通に接するっていうところの難しさを感じながら稽古してます。
——後半、家族の秘密を知る、大変な役だと思います。想像するのも難しいというか・・・。
永田 自分の役について、最初のうちは全然、見えてこなくて。徐々に演出がついて、まわりの人物が立って物語が進んで行くに従って、まわりの人を通して、見えてくるようになったかなとは思っています。
滝本 彼女は何度か一緒にやったことがあって。どんな役でもこちらの期待以上のものを提示してくれるんです。若い、今23才なんですけど、難しいことも自然と身体が対応しているんですね。難しい役であるほど、応えてくれる人なんじゃないかなと思っています。とても信頼しています。
——こうおっしゃっていますが、いかがですか?
永田 セリフも演出も本当に、すべてのことに対して「ありがとうございます!」って思うんです。それを自分が、「ごちそうさまです!」みたいな感じで返せたらいいなって。まだ全然至らないところばかりで、今は「悔しい!」っていう感じです。
——先ほどの発言にあった「回りが立ってきたら、自分が見えてきた」っておっしゃっていましたが、それが素敵だなと。自分の役が大変だったら、そのことばかり考えそうですが、回りが見えているというか、客観性を保っているのがお若いのにすごいなと。
永田 癖っていうか、わたしすごい中に入っちゃうというか、自分の役のことばっか考えちゃって。よくない癖だと思ってるんです。この癖をどうにかこう、毎回、毎公演、毎公演、ちょっとずつでも変えていかなきゃなって思っていて。今回の作品も自分の役のことをずっと考えてきて、もうちょっとわけ分かんなくなってきちゃったんで。じゃあもう、主人公の監督のことを考えたりとか、自分の身内、親しい関係の中から何かって、切り替えて、挑戦はしてるんです。
——これからまだまだ発見や変化がありそうで、楽しみですね。
永田 まだまだです。

愛のある作品を目指して

——どんな作品にしたいとお考えですか?
永島 愛のある作品にしたいです。今、全然、自分の中の愛がスカスカなので。愛のある作品に・・・。
——愛はどこから手に入れられそうですか?
永島 周りから。一緒にやってるみんなからです。自分じゃもう、何もつかめないんです・・・・・・。わたし、普段、人にあんまり愛情を持ってない気がするんです。自分のことは愛しいんですけど、回りの人のことを愛せない自覚があるんです。でもこの作品はそうじゃないから、自分から周りの人を愛せるようになりたいなとすごく思っています。
——役を演じる前に、まずは自分を変えるところから始まるのですね?
大西 たぶん、彼女は役を作っていく中で、難しい回路から入って行くんだと思うんです。だからアウトプットがすごく遅いんだけど、出てきた物、表現はスゴイ。彼女はいつも観ていたい役者さんですし、稽古の途中でも魅了される瞬間がバンバンあるので、これからですね。
——愛のある作品になりそうですね。楽しみにしたいと思います。

【プロフィール】
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大西弘記(後列左)
おおにしひろき○三重県出身。TOKYOハンバーグ主宰/劇作家/演出家/俳優。1999年に伊藤正次演劇研究所に入所し演劇を始める。2006年に自らの作品を上演するためTOKYOハンバーグを立ち上げ、以降すべてを脚本・演出担当する。

滝本祥生(後列右)
たきもとさちお○京都府出身。B.LET’S主宰/劇作家/演出家。近畿大学で演劇・芸能を専攻。京都の劇団「MONO」にスタッフとして参加し、退団後、創作戯曲の上演を目的に演劇ユニット「B.LET'S(ビーレッツ)」を結成。以降の全作品の作・演出を担当する。

永島広美(前列右から2人目)
ながしまひろみ○茨城県出身。2010年まで劇団ギルドに所属、多くの作品・劇場で主演を務める。2009年からB.LET'S公演に参加、2013年より正式に加入。NHK青春アドベンチャー等に出演、精力的に活動中。

永田涼香(前列右端)
ながたりょうか○大阪府出身。中学の演劇部、高校のサッカー部を経て、桐朋学園芸術短期大学に入学。卒業後、フリーで活動したのち、2016年TOKYOハンバーグ『愛、あるいは相、それは哀。』に出演。その後入団。

【公演情報】

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TOKYOハンバーグ×B.LET’S合同企画
『纏わるひとびと』
作◇滝本祥生 (B.LET’S) 
演出◇大西弘記 (TOKYOハンバーグ)
出演◇永田涼香・山本由奈(以上TOKYOハンバーグ) 永島広美・大田康太郎(以上B.LET’S) 甲津拓平(流山児★事務所) 白石花子(劇団民藝) 海老原恒和(officeshrimp) 真保栄千草(MAXSTAR) 平岡亮(オフィス斬) 岡田昌也 三村慎(アミュレート) 上田尋 宇鉄菊三(tsumazukinoishi)
7/12〜19◎新宿サンモールスタジオ

【取材・文・撮影】矢崎亜希子



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