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創立95周年を迎えたOSK日本歌劇団が、100年への道をつないで行くべき期待の若手メンバーを擁し、鬼才荻田浩一を作・演出に迎えて創り上げた新作、ソング・サイクルショータイム『HIDEAWAY』が、新たに開場した小劇場、神戸三宮シアターエートーで開幕した(17日まで)。

『HIDEAWAY』は、OSK日本歌劇団の精鋭メンバー8名が、客席数100という濃密な空間の小劇場シアターエートーで「閉ざされた空間」をテーマに繰り広げられるノンストップ90分のショー作品。新劇場のこけら落とし公演に相応しく、「隠れ家」を意味する『HIDEAWAY』というタイトルそのものが、このまさに都会の隠れ家のような雰囲気を持つ、劇場空間そのものに絶妙にマッチしていて、開幕前、客席に座った刹那から、まるで作品世界に入り込んだような気持ちにさせてくれる。

だが、そこは「荻田ワールド」と称される、幻惑的で摩訶不思議な世界観を操る、荻田浩一のこと。基本的には、壁に映し出される決して過剰ではなく、実に効果的でポイントを押さえた映像と、四つの四角い木箱を様々に組み合わせていくだけの転換の中で、実に多種多様な「閉ざされた空間」が、荻田作品特有の、1つ1つが単独の場面のようでいながら、前の場面から居残る人物、音楽などの力によって、絶妙に重なり合い、影響し合いながら、ショー形式を保って紡がれていく。

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特に、冒頭のホテルから駅へ、駅から列車へ、更に海の上の船へと流れていく転換があまりにも流麗で、場面が移りゆくことがまるで魔法のように感じられた。しかも、台詞と言える台詞は極めて少ないのに、各場面で歌われる歌詞の深さとドラマチックさが、ショーでありながら、オムニバスの芝居を観ているような錯覚を覚えるほど。これによって、描かれている場面、登場人物の置かれた立場と心情が的確に伝わってくるのは、驚くばかりだ。

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しかも例えば船の情景などは、心に重く残る悲劇性を宿しているが、一転してこの小劇場がいっぱいいっぱいに感じられるほどの躍動したダンスや、コミカルなシーンに爆笑もさせてもらえる。とにかく「閉ざされた空間」の解釈が多彩で「心が閉ざされている」ことも「思いに囚われている」ことも「強烈なナルシシズム」も、すべてが「閉ざされた空間」なのだな…という、荻田のイマジネーションが無限に広がるから、客席にいてただひたすらに発見の連続。特に「閉ざされた空間」と聞いて、おそらく誰もが一番に思い描くだろう「牢獄」の、あまりに意外な展開には、「やられた!」という思いに至らされたし、女優たちの「私が一番!」という強烈な自己顕示の張り合いは、抱腹絶倒。それがあるからこそ、これぞ荻田浩一!という終幕の2場面、「庭園の夫人と薔薇の精」、「画廊の紳士と踊る女」という幻惑と魔性の世界に帰結する、ショー全体のメリハリが見事だった。やはり荻田のショーは掛け値なしに、魅惑的で面白い。

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そんな作品の面白さを十二分に表現し、更に増幅させたのが、華月奏をはじめとした、OSK日本歌劇団選りすぐりの若手メンバーたちの充実だ。
今年栄えある創立95年を迎えたOSK日本歌劇団は、その記念となるレビュー公演『春のおどり』を、6月に松竹座で華々しく上演していて、(8月31日〜9月3日には『夏のおどり』として東京・新橋演舞場でも上演)、この『HIDEWAY』公演に出演するメンバーは、その記念公演への出演がスケジュール上叶わないことになる。創立からここまでの道のりが決して平坦とは言えなかったOSK日本歌劇団が、この節目の年を迎えるにあたってはらってきた、並大抵ではなかった努力と忍耐を思う時、やはり今この時、在籍している劇団員ならば、晴れやかな記念公演の舞台に立ちたいという思いは、おそらく誰もが持っていたに違いない。それでも尚、新しい劇場で、新しいショーを創ることを劇団から託され、選抜された8名が、どれほどOSK日本歌劇団の未来に必要な人材であるかを、その力量と輝かしい可能性を、彼女たちはこの舞台を通して見事に示してくれている。
 
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今回の初主演を任された華月奏は、まず定評ある豊かな歌唱力で魅了する。この人の歌声には、凜とした涼やかさと透明感があり、くっきりと明瞭な口跡で1つもくぐもることなく、歌詞を客席に届けてくれる力がある。言葉の選び方の多彩さと、深い意味合いで、詩人としても一流の魅力を持つ荻田の歌詞を、ストレスなく聞きとることができるのは、観客としても実に嬉しいことだし、ショー全体の質を高める効果ともなった。美しき二枚目に相応しい「船」や「画廊」の場面などでの影のある男役ぶりが魅力的なのはもちろんだが、一転して明るく弾けるダンスナンバーや「列車」のシーン、更にこれは是非観てのお楽しみという、「牢獄」や「楽屋」の意外性など、華月奏という男役が、これまで見せてきてくれていた美点の上に、新たな幾つもの顔が加わった堂々の主演ぶりだった。この公演で彼女が示したセンターに立てる力量と、同時に彼女が得たはずの多くのものが、OSK日本歌劇団の未来にとって貴重な財産となることだろう。この人の今後がより一層楽しみになった。

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そんな華月と、ほぼ対等に近いのでは?と思うほど、多くのソロナンバーと場面を得た翼和希は、やはり伸びやかな歌声が心地よい。華月よりは明るさと勢いが前に出る歌唱なのも良い対比になっていたし、今回何より驚いたのは、彼女の最大の魅力だった少年の輝きに似た溌剌さだけでなく、もう1つ骨太な男らしさが観て取れたことで、やはり多彩な場面を任されて、ハイスピードで成長した新たな翼和希を観ることができる。逸材なのはもちろんだが、更に今が伸び盛りでもあるのだろう。シャンソンの代表的な楽曲も堂々と力強く歌いきり、薔薇の精では、城月れいの夫人を相手に彼女をリードし、夢幻の世界へと誘う妖艶な役どころを、妖しく、美しいこの世ならぬ者として見事に演じていて舌を巻いた。今後どこまで伸びていってくれるか、末頼もしいホープである。

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その「庭園」では翼と「船」では華月と絡んで、全く色の異なる幻惑の世界の女性を演じ分けた城月れいは、自立した女役の存在が1つの大きなアピールポイントであるOSK日本歌劇団の中にあっても、更に大人の雰囲気を醸し出せる貴重な女役。特にこの人の個性には、どこか秘めた悲しみや、狂気を感じさせる片鱗があって、まさに独壇場と言えたこの2つの場面だけでなく、コケティッシュな意地の張り合い場面や、シャープなダンスの魅力も発揮。作品の多彩さを支えた貴重な存在となっていた。ソプラノの歌声も美しく、この人がヒロインを務める大人の恋愛模様の作品を是非観てみたいという夢が広がった。

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とにかく踊れる女役で、その踊りを観るだけでも入場料金の価値があると思わせてくれる麗羅リコも、今回はその踊りだけでなく、歌に芝居に大活躍。OSK日本歌劇団員全員にも当てはまることなのだが、やはり身体能力が高いということは、表現力が高いということでもあって、様々なシーンに対応して、自在に変化する麗羅の力量はたいしたもの。「画廊」のシーンでは、実際に映像としては表れない(この演出も実に秀逸)「絵画」が、この人の指の先に立ち現れるようで、華月とのやりとりにも大きな見応えがあった。この公演をきっかけに、更に多様な形での活躍が期待できそうだ。

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全員が場面を運び、ショーの流れをひとときも留めない演出の中にあっても、特に場面転換の肝を握る役割を多く担った栞さなは、様々に着こなした制服がどれもよく似合い、託された役目を十二分に果たしている。誠実さが前に出る持ち味も、全体の中で良い効果になっていた。白のワンピースでの登場や優雅なシャポー、また「庭園」のメイドなど、清心な若々しさが際立った穂香めぐみの愛らしさも、全体の良いアクセントで、それでいて城月、麗羅と対等に渡り合う場面も果敢にこなして、まだまだ多くの魅力を秘めているのではないか。男役として恵まれたプロポーションを持つ壱弥ゆうは、弾けるダンスのみならず、随所に豊かな芝居心を感じさせて目を引く。一方、雅晴日は、ワンフレーズのソロ歌唱で客席に大きく手を広げた瞬間の輝きが印象的だった。男役としての身のこなしがよりこなれてくれば、一気に加速がかかりそうだ。

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と、まとめてみると明白なように、8名の出演者全員に大きな働き場があり、新たな魅力の開花があり、更に豊かな伸びしろが感じられたのが嬉しい。人の出し入れをはじめとしたステージングにも、神がかり的な巧みさを持つ荻田演出のすべてを、客席の最後列からでも見渡せるシアターエートーは、小劇場空間の良さを如何なく発揮。17日の千秋楽までには更に多くの輝きが舞台にあふれるに違いない。是非この作品の東京での上演も期待したいし、OSK日本歌劇団と荻田浩一のタッグも、今後も継続して企画して欲しいという期待も高まった。何よりも、100周年に向けて歩み出したOSK日本歌劇団に、こんなにも頼もしい若手スターたちが揃っていることを、改めて再確認できたのを喜びたい舞台となっている。

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〈公演情報〉
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OSK日本歌劇団 神戸三宮シアター・エートー こけら落とし公演
『HIDEAWAY ハイダウェイ』
作・演出◇荻田浩一
出演◇華月奏、翼和希、城月れい、麗羅リコ、栞さな、穂香めぐみ、壱弥ゆう、雅晴日
●7/13〜17◎神戸三宮シアター・エートー
〈料金〉前売/SS席7,000円  S席6,000円  補助席5,000円 (当日/500円加算)
「U_25 S席」5,000円(25歳以下・要身分証明書) 
「はじめて割」1組2名・S席2名で6,000円(OSKを初めて観劇する方向けペアチケット・要氏名、連絡先登録)各回5組10名限定
「学割補助席」4,000円(要身分証明書) 
「学生3人割」1組3名・補助席3名で6,000円(土日限定・要身分証明書)各回2組6名限定
※「U_25 S席 」以下の企画券はOSK日本歌劇団電話受付のみの販売 
〈お問い合わせ〉OSK日本歌劇団 06-6251-3091(10時〜17時)





【取材・文/橘涼香 写真提供/OSK日本歌劇団】




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