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1996年の初演以来、世界中で愛され続けるミュージカル『RENT』が、2015年公演以来の、約2年ぶりに日比谷のシアタークリエで上演中だ(8月6日まで。のち、愛知県芸術劇場大ホール、大阪・森ノ宮ピロティホール、福岡市民会館でも上演)。

『RENT』はプッチーニのオペラ『ラ・ボエーム』をベースに、物語の舞台を20世紀末のニューヨーク、イーストヴィレッジに置き換え、当時の若者の世相に鋭く切り込み、貧困、エイズ、ドラッグ、同性愛といった問題と直面しながら尚、愛や友情を信じ輝き続けようとする登場人物たちの姿を描いたブロードウェイミュージカル。1996年、NYの小さな劇場で誕生したこの作品は、わずか2ヶ月後にブロードウェイに進出し、トニー賞4部門、ピューリッツァー賞、オービー賞など数々の受賞歴を誇り、12年4ヶ月のロングラン、世界15ヶ国での上演をはじめ、2006年には映画化もされ、新しいミュージカルの歴史を刻んできた。作品はプレビュー公演の前日に35歳の若さで急死した作者、ジョナサン・ラーソンの遺志を継ぎ、今尚、世界中で上演され、愛され続けている。シアタークリエでは2008年から4回の上演を重ね、今回が5回目の上演。主演のマーク役村井良大をはじめ、ロジャー役のWキャスト堂珍嘉邦、ユナクら、2015年バージョンから引き続いて出演する多くのメンバーに、新キャスト6名を加えた、2017年版の『RENT』ファミリーが一丸となり、更に進化した舞台を繰り広げている。

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【STORY】

20世紀末。NY、イーストヴィレッジ。映像作家のマーク(村井良大)は友人で元ロックバンドのボーカリスト・ロジャー(堂珍嘉邦、ユナク・Wキャスト)と古いロフトで暮らしている。彼らには夢はあるが、金はなく、滞納していた家賃(レント)がかさみ、クリスマスイヴにもかかわらず電気も暖房も止められてしまう。恋人をHIVで亡くして以来、引きこもりを続けているロジャー自身もHIVに感染しており、せめて死ぬ前に1曲後世に残る曲を書きたいともがいている。ある日彼は階下に住むSMクラブのダンサー、ミミ(青野紗穂、ジェニファー・Wキャスト)と出会うが、彼女もまたHIVポジティブだった。一方のマークはパフォーマンスアーティストのモーリーン(上木彩矢、紗羅マリー・Wキャスト)に振られたばかり。彼女の新しい恋人は女性弁護士のジョアンヌ(宮本美季)だ。彼らの仲間のコリンズ(光永泰一朗)は暴漢に襲われたところをストリートドラマーのエンジェル(平間壮一、丘山晴己Wキャスト)に助けられ、二人は惹かれあう。季節は巡り、彼らの関係も少しずつ変わってゆく。出会い、衝突、葛藤、別れ、そして二度目のクリスマスイヴが訪れた時…

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舞台に接して改めて感じるのは、誕生して20有余年を経て尚、この作品が全く色あせない魅力を持っていることだ。もちろん、この時間の中で、作中の登場人物たちが直面している、HIVやLGBTへの偏見といったものは、一歩一歩ではあれ、確実に社会の理解を得られる方向に進んでいて、むしろそこに時代の変化を感じられる喜びに近い感情が湧く面もある。この点だけを取れば、ひとつ前の時代の物語と感じても不思議ではない。だが、そうした変化の中でも、作品が輝きを失わないのは、夢を求める心と、何よりも愛を信じ、その尊さを訴えてくる『RENT』の根本的なテーマが、どんな時代にも深く人の心を打つからに他ならない。と言うのも実のところ、人間は生きていく上で、常に夢や愛だけを見つめてはいられない。この作品の中では、どちらかと言えば敵役に近い立ち位置で登場するベニー(NALAW)の存在は、日々俗世を生きる者にとっては、ある意味最も近いところにいる人物だし、才能を買われて「仕事」の為に本意ではない映像を撮ることに忸怩たる思いを抱くマークにどれほど共感したとしても、折角得た仕事を投げ捨てるマークの勇気に倣うことは極めて難しい。

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けれどもだからこそ、この作品に登場する若者たちが、悩み苦しみながら生き続け、夢を信じ、愛を求める姿が何者にも代えがたく煌めいて映り、終幕の「奇跡」に心奪われずにはいられない。毎日を生きることに必死で、つい忘れてしまい勝ちの、でも決して人としてなくしてはいけないものを『RENT』は思い出させてくれる。7月の声を聞き『RENT』が開幕した時、今年も半分が過ぎ去ってしまった、と一種呆然とていた思いを「525.600分=1年」の残り半分「262.800分」をちゃんと愛を信じて、自分の正直に真摯に生きなければとの想いに素直に変換してくれた『RENT』の力は計り知れない。「Seasons Of Love 」「 Rent」「 La Vie Boheme」をはじめとした名曲の数々が、怒涛のように届けてくれるパワーも圧倒的だ。

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特に、今回のシアタークリエでの2017年版『RENT』は、マーク役の村井良大をはじめ、多くの役柄が前回2015年版に引き続いて出演していて、上演の度に新たなキャストで演じられるケースがほとんどだった『RENT』の深い魅力にも気づかせてくれる貴重な機会になっている。
やはり、続投キャストたちがこの2年間で蓄えてきたものが、同じ『RENT』という作品に返ってきた時、確実な進化を遂げていることが手に取るように分かるのだ。その象徴とも言えるのが村井良大のマークで、彼自身が演じた2015年版を含めて、これほどマークがある意味の傍観者でも、狂言回しでもなく、作品の骨子を担う主人公としての熱量を持っていた『RENT』は、ちょっと記憶にない。

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主要な登場人物の中で唯一HIVポジティブでなく、常にカメラのレンズを通して他者と関わっているマークは、この群像劇の中では主人公でありながらむしろドラマが少ない。役者が表現をする創作の世界の中では負の要素を多く持っている、波乱万丈な人生をたどる登場人物の方が、よりドラマティックに訴えかけてきやすいのは言うまでもなく、そうした意味でマークはかなり難しい主人公だ。勢いドラマの中心となるのはロジャーとミミのカップルで、マークはストーリーテラーという感覚が生まれることも決して珍しくはない。
だが、2017年版の村井マークは、確実にそのマークの抱える困難を跳ね除け、舞台の中でロジャーやミミと同じように、夢に向かって生き、もがき苦しみ、己を信じて自身の道を切り開こうとする、熱量の高い、強い存在感を放つマークだった。これによって、作品全体の熱量も更に上がって感じられ、2015年版とも、これまでのどの上演とも違う『RENT』を体感できたことは、非常に貴重なものだった。

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同じことが、堂珍嘉邦、ユナク、ジェニファー、平間壮一、上木彩矢、宮本美季、等をはじめとした続投キャストにも言えて、歌手であるとか、ダンサーであるとか、役者である前に世に知らしめていた彼らの輝かしい出自を超えて、この作品の登場人物としての彼らの表現が、更に深く、濃く深まっていることが、群像劇の熱と質を高めた。そこに青野紗穂、光永泰一朗、丘山晴己、紗羅マリー、NALAWら新キャストたちの化学反応があり、2017年版『RENT』の、今ここにしかない、ここだけの輝きが迫力を持って迫ってくる。

おそらくキャストの組み合わせによって、舞台は更なる新しい顔を見せてくれていることだろうし、様々な役柄で登場する面々の個性も、歌唱も際立っていて、暑い夏を迎えた2017年に、決して見落とせない、更に何度でも観たくなる進化した『RENT』が生まれ出たことを喜びたい舞台となっている。

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〈公演情報〉
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ミュージカル『RENT』
脚本・作詞・音楽◇ジョナサン・ラーソン
演出◇マイケル・グライフ
日本版リステージ◇アンディ・セニョールJr.
出演◇村井良大、堂珍嘉邦、ユナク(超新星)、青野紗穂、ジェニファー、光永泰一朗、平間壮一、丘山晴己、上木彩矢、紗羅マリー、宮本美季、NALAW (CODE-V)、新井俊一、千葉直生、小林由佳、MARU、奈良木浚赫、岡本悠紀、長尾哲平(Swing)
●7/2〜8/6◎日比谷 シアタークリエ
〈料金〉S席11,500円、A席9,000、エンジェルシート(当日抽選席)5,000円
〈問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-32001-7777(9時半〜17時半)
●8/10 愛知芸術劇場大ホール
〈問い合わせ〉キョードー東海 052-972-7466
●8/17〜22◎大阪 森ノ宮ピロティホール
〈問い合わせ〉サンライズプロモーション大阪 0570-200-888
●8/26〜27 福岡市民会館
〈問い合わせ〉ピクニック 050-3539-8330




【取材・文・撮影/橘涼香】





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