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演出家、劇作家、俳優の後藤ひろひとが、東京では7年ぶりの新作『FILL-IN〜娘のバンドに親が出る〜』を、7月13日から紀伊國屋ホールにて上演中だ(23日まで)。
主演は吉本新喜劇のスーパー座長・内場勝則、さらに新喜劇といったら欠かせない怪優・池乃めだか、主人公の幸吉の亡くなった娘のバンドメンバーを、いま最もホットな女優・相楽樹、乃木坂46から演技派・松村沙友理、さらに舞台初挑戦となる千菅春香らフレッシュな若手とベテランの手練れがスクラムを組む。
7月13日、初日を前に、本公演の公開ゲネプロと囲み取材が行われた。
 
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【あらすじ】
孤独な男、真下幸吉(内場勝則)は「音楽に人生を賭けたい」と言い出した娘の花音を勘当した。それを理由に妻の文音(柿丸美智恵)から別居を言い渡された。ある日、幸吉は娘の事故死を知らされた。そこで幸吉は娘が一体どんな人生を送ったのかを知ろうと考えた。そんな彼が出会ったのは娘が所属していたガールズバンド「スキッドマークス」だった。リーダーでギターの葉月(相楽樹)、ベースのくりこ(松村沙友理)、キーボードのレイ(千菅春香)らはメジャーデビューを目前に解散を余儀なくされ路頭に迷っていた。その心の傷を金で癒やそうとした幸吉に葉月は激怒して言い放った。「本当に娘の事が知りたいならお前がかわりにドラムを叩け!」。かくして幸吉はドラムに挑むのだが…。
 
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モヒカンにちょび髭、へんてこりんな喪服姿の後藤ひろひとが唐突に舞台に現れ、ピンスポットにあたりながら「私が書いた7年ぶりの作品は…」といったようなことを語り始める。劇中劇のような趣もあるけれど、落語でいう「まくら」に近く、まずはお葬式のシーンから書き始めたこと、そこに登場する中年男性のことが語られ、物語の導入を丁寧に説明する。東京では7年ぶりというブランクを笑い飛ばしながら、紀伊國屋ホールという伝統的な場所で新作を上演できることを楽しんでいる様子に見える。

そこに、黒の腕章をつけてはいるものの薄茶色の背広という、葬式の場に似つかわしくない、今風の親父といった感じの真下幸吉(内場勝則)がIQOS(電子タバコ)を吸いながら登場する。続いて奥さんである文音(柿丸美智恵)がやってきて、亡くなったのが2人の娘で21歳の花音であること、娘の葬式なのに背広でやってくる仕事人間の幸吉に辟易して、文音が別居したことなどが見えてくる。つまり幸吉は家庭を省みなかった父親だったのだ。 
 
そこから再び、後藤が話を引き継ぎ、死んだ花音はバンドをやっていたこと、そして幸吉に勘当同然で放り出され、自分で生活費を稼ぐために幾つものバイトを掛け持ちして、その挙句、トラックで運送の仕事をしている間に事故を起こして死んでしまったことなどが語られる。
幸吉は、娘が死んだのに自分が泣けないことを文音に訥々と語りながら、自分の感情が空っぽではないかと思い始める。4年間会わずに離れていたせいだとか、いろいろな言い訳を考えるのだが、どれもしっくりこない。そこで後藤が案内役となって、娘の空白の4年間を辿ろうと促し、幸吉は自分の心の整理をつけるために娘の足跡を辿り始める。

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まずは、働いていたという山田鉄工所で花音の友達の葉月(相楽樹)と出会うのだが、葉月は花音の実情を知っているから、幸吉を邪険に扱い追い返してしまう。葉月は直情径行で、嫌いなことは嫌い、好きなものは好きという性格らしい。続いて辿り着くのが、くりこ(松村沙友理)がいるカラオケスナック「うたciao」。ローカルな出身のくりこは、ほんわかした性格だが責任感が強く、幸吉と文音に、とある音楽スタジオを教えてくれる。そこへの道中で、ある公園の主であるカラヤン(池乃めだか)に出会い、何故か1000円をたかられるくだりなど、ちょっと不条理劇の要素が突っ込まれていて、後藤作品らしい面白さがある。
 
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翌朝、幸吉が音楽スタジオに行くと、そこではレイ(千菅春香)がキーボードから、どこかオリエンタルなムードを醸し出している。レイは先端風の自由奔放な女の子だ。やがてギターの葉月とベースのくりこがやってきて顔を揃えたことで、3人は花音とガールズバンドを組んでいたことを、幸吉は理解する。そんな幸吉に、もう少しでプロの道にいけるところまで来ていたのにと葉月が詰め寄る。しかし、金で解決しようとする幸吉の態度に腹を立て、娘の代わりにドラムを叩いてみろと言い放つ。
 
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それを真に受けた幸吉は、元部下の薮内(汐崎アイル)がプロのミュージシャンになっていることを聞き、ドラムの指導を頼むのだが、薮内は音楽をやっているという理由だけで、幸吉に会社を辞めさせられていた。その結果、病弱な母を救えなかったと責める藪内に、花音の影を投影させ、幸吉は自分の非を認め始める。それを感じた薮内はドラムを教えることを決心、幸吉は仕事をそっちのけでドラムにのめり込むようになる。だが、スタジオに出向いてドラムの腕を披露しようとする幸吉に、葉月は「冗談」と冷たくあしらう。そんなとき、彼女たちのバンド「スキッドマークス」(タイヤの跡)が、スタジオの店長(後藤ひろひと)から「ビート・ファーム」という音楽コンテストに出てみないかと誘われる。だが出場するにはドラマーが必要なのだ……。

ストーリーはテンポよく軽快で、新喜劇にもフリ、オチ、というパターンがあるが、それを踏襲しているかのように、盛り上がりがあれば、ズッコケ、ずらし、間の外しと絶妙のリズムで進んでいく。おじさんにIQOSという今時の小道具もわかりやすいし、カラオケスナックや名詞1つ1つ(バンド名は花音の事故を想像させる)に伏線があり、コメディだからこそ大事な、緻密な計算の行き届いたストーリーとなっている。  

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幸吉・文音・葉月・くりこ・レイ・カラヤン・薮内以外の役者たちは、鉄工所の社長夫婦、幸吉の会社の同僚や社長、音楽コンテストに出演するミュージシャンなど何役も演じているのだが、とにかくキャラクターが濃く面白い。例えば、カツラをかぶった多田野曜平と菊池健一が結成した音楽デュオ「阪急オアシス」は、イギリスのオアシスという有名バンドをリスペクトしているのだが、どうみてもデビューできそうにもないダメさを漂わせつつ、多田野がアコースティックギターでいくつかのマイナーコードをいとも簡単に爪弾いたりするから侮れない。菊池もスナックのオーナー役など八面六臂の活躍ぶり。たくませいこは鉄工所の社長夫人役や音楽コンテストに出演する変わったパフォーマーなど、それぞれ芸達者で、見ていて楽しい。そんなちょっとおバカで、どうしようもない脇役たちが織りなすシーンは瞬間沸騰芸のような可笑しさで、それは、後藤のストーリーテラーとしての力があったうえでの面白さでもあるのだ。

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幸吉役の内場勝則は、場数が違う凄さがある。どこにでもいる「おっさん」で、どうしようもないぐらいに情けなく、堅物で、感情表現が下手な男だが、その、ある種の不器用さがダンディーにさえ見えてくる。なかでも池乃との掛け合いは、幾多の経験で培ってきたテンポと見事な間で笑いをさらう。

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カラヤンの池乃めだかは謎の人物で、幸吉とのアドリブ合戦が面白いのだが、どうやら元ドラマーと思しきリズム感も持っているなど、つかみどころのないキャラで観客を笑わせ続ける。
 
汐崎アイルの演じる薮内は、会社では常務という立場にいる幸吉のメンターを伝える存在だ。ぶっきらぼうでいて常にアドバイスを送り、まるで息子が父親を見るような眼差しで、幸吉の変化を見守る人情家だ。

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レイの千菅春香は、初舞台だと感じさせない舞台度胸で、ぶっ飛んだキャラクターをブレずに演じきっている。
松村沙友理は、はんなりとした雰囲気が可愛く、花音のお葬式に行く勇気がなかった自分を責めているくりこの、1本芯の通ったキャラクターをしっかり演じて印象を残す。
相楽樹の葉月は、花音を誰よりも気にかけていたのに、彼女を救うことができなかった罪悪感と孤独を常に抱えて苦しんでいて、だが一人では生きられないと悟る。困難を乗り越えて幸吉と和解するシーンは涙なしには見られない。
 
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文音の柿丸美智恵は、幸吉を側で支えながら、少しずつ娘のことを理解して行く夫の姿に喜ぶ妻の心を、誠実に、シリアスに演じていた。

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そしてこの公演の見どころと言えば、やはり生演奏のシーン。戸田恵子や八代亜紀にも楽曲を提供している話題のシンガー中村中の曲は、オーセンティックなロックンロール。感情の機微がはっきりしていて、今時のガールズバンドらしい、大人になることへの違和と受容を映し込んでいて、10代の決意表明を感じさせる曲になっている。

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そんな曲を演奏する役者たちが見事だ。相楽樹は初心者では最初に挫折するだろう難しいコードもさらりと弾いてのけ、低音のシャウトも日本の伝説のバンド「シーナ&ザ・ロケッツ」ばりに伸びやかだ。松村沙友理のベースの拍の取り方も曲のボトムを安定させているし、千菅春香はハモンド系のジャジーなオルガンをさらりとこなしている。
 
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何より、ドラムの内場が一番の初心者なのにバンドの誰よりもタフで、まさにバンドをやり始めたばかりの人間ならではのフレッシュさを醸し出す。バスドラ、タム、フロアタム、シンバル、ハイアットを順に叩いて行くルーティーンから、次第に自分でリズムをとってスピードを変えていく演奏へ成長する様は、古のロックンローラーそのもので、生演奏のドラムのバスドラの音が、紀伊國屋ホールに響き渡る感動に、思わず鳥肌が立った。

作・演出の後藤ひろひとは、網の目のように張り巡らせた伏線を次々に回収しながら、大円団へと連れて行ってくれる。演奏シーンの演出は非常にシンプルだが、だからこそ生演奏のダイナミズムが十分に伝わってくる。劇中で、後藤がカラヤンや薮内に託した「FILL IN」という言葉は、例えばドラムでは「オカズ」と呼ばれ、決まったパターンを演奏するだけでなく、合間合間に短い小節でインプロ(即興)を織りまぜるという意味だ。それは、主食さえあれば生きていけるという合理主義者だった幸吉、あるいは彼が生きてきたそういう社会に対してのアンチテーゼを表現している。
 
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現代の多くの「おっさん」世代、80年代の未曾有の好景気を味わいながら、その崩壊も見てきた人たち。また、金といった数値や記号でしか価値を判断できない世代。言ってみれば「消費」よりも「生産」に美徳を置く人たちに、娘を「消費」=「失う」ということの意味を突きつけ、失った人間らしい感情を取り戻させる。この舞台はいわば「おっさん」世代へ向けた応援歌かもしれない。いや、アンコールで出演者全員が楽器を持って歌った時の高揚感には、世代や立場を軽々と超える力があり、音楽というものが与えてくれる喜びを、改めて感じさせてくれる舞台だ。

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後藤ひろひと、池乃めだか、相楽樹、内場勝則、松村沙友理(乃木坂46)、千菅春香

【囲みインタビュー】

この『FILL-IN〜娘のバンドに親が出る〜』の公開ゲネプロの前に囲みインタビューが行われ、内場勝則、相楽樹、松村沙友理(乃木坂46)、千菅春香、池乃めだか、後藤ひろひとが登壇した。

後藤ひろひと(作・演出・出演)
まだ本番が始まらないのに、先週ぐらいから本番が終わったら寂しいねと半泣きになっています(笑)。みなさんの楽器の演奏は私が思っていたよりも点数が高くてびっくりしました。これからお客さんの前で演奏するとさらに想像もつかないところに行くと思いますね。録音してほしいぐらいです。早くお客さんに見せたい気持ちでいっぱいです。私は芸術家ではなくエンタテイナーなので、現代の人たちの心に通じるものを伝えたいと思っています。

池乃めだか(カラヤン役)
吉本新喜劇でやってない人と、一緒の空気を吸って、本番を迎えて、千秋楽を迎え、女の子は泣いて、男の子は涙を流しながら別れて、再会を約束して次に向かうことを、何回も迎えて来たので、もう少しで別れてしまうのが悲しいんや(笑)。正直、何を言うていいのか…逃げたいです。僕のシーンだけでも目つぶってくださいね。
 
相楽樹(葉月
バンドの練習も含めると2ヶ月ぐらい稽古をしてきたので、ようやく劇場に入ることができて感慨深いです。ギターは触ったことはありますが、弾き語りをしたことがないし、バンドで合わせることもやったことがないので一から練習して、歌とギターの二人の先生についていただいて、ボイトレもしました。舞台で演奏するのは初めてなので、いつもとは違う緊張感があるのでドキドキしています。ただ、お客さんが入ったら違う景色が広がる素敵な作品なので、早くみなさんに観ていただきたいな。後藤さんの稽古は楽しくて、みんなの名前が覚えられないときに、あだ名を呼びながらバレーボールをしました。とても楽しくて、みんなの性格が出てくるんです。

内場勝則(真下幸吉
ドラムスティックは触ったことがないし、楽器らしいものも触ったことがないので、演奏するだけで精一杯です。去年の11月ぐらいから触り出して、本格的に練習し始めたのは3月ぐらいから。週2日間は先生に教わり、2日間は自主トレをこなす。稽古は厳しいところもありましたが、みんなあだ名の呼びあいで仲良くなって、距離が近づいて、松村くんなんか、ようわからへんけど後ろからいきなり押されたり(笑)。飲みに行って、朝までいて楽しかったし、これから離れてどうなるんだろう? 忘れていた学生時代を思い出すような感じがします。そんな良いお芝居に出会えて、舞台に携わった全員が同じ方向を向いてくれたので、プロの集団たちがいいものを作ろうという気持ちを前面に押し出した、笑いと涙と感動をお届けしますので楽しみにしてください。

松村沙友理(乃木坂46/くりこ
内場さんがめだかさんのアドリブを返しているのが臨機応変でさすがだな。ベースは初挑戦でしたが、千菅さんと相楽さんはスタジオに入って2時間後には、1曲通してみようという段階だったんです。私はまだAメロも弾けない状態でしたが、バンドとしては、いい化学反応を感じました。この舞台は、いろんな芸事をされている方が集まった舞台だと思っているし、私たちも初挑戦がたくさん詰まった舞台なので、一緒に楽しめたらいいと思います。

千菅春香(レイ
私は初めての舞台で、舞台上で演奏するのも初めてでしたが、後藤さんをはじめ思い出したら思わず笑ってしまう楽しい稽古でした。人見知りの人が多くて、初めはかなり黙っていて、ご飯にも誘えない空気があったのが、昔のことのように思えるほどです。紀伊國屋ホールに入って、本当にすごい方々とご一緒させていただいているので、幕が上がったら、ますます大きなエネルギーを作り出せると思っています。本番では、もっともっと大きな楽しい気持ちに変えたらいいなと思っています。最高の時間になるような気がしているので、是非みなさん楽しみにしてください。

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〈公演情報〉
03 のコピー

『FILL-IN〜娘のバンドに親が出る〜』
作・演出◇後藤ひろひと
バンド楽曲提供◇中村中
音楽監督◇楠瀬拓哉
出演◇内場勝則 相楽樹 松村沙友理(乃木坂46) 千菅春香 汐崎アイル 柿丸美智恵 多田野曜平 菊池健一(ギンナナ) たくませいこ 後藤ひろひと 池乃めだか
●7/13〜23◎紀伊國屋ホール
〈料金〉7,800円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(平日10時〜18時)




【取材・文・撮影:竹下力】




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