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作・演出家の西田シャトナーのプロジェクト「SHATNER of WONDER」の第6弾『遠い夏のゴッホ』が、7月14日より天王洲銀河劇場にて上演中だ(23日まで。29日〜30日まで森ノ宮ピロティホール)。

今作は、2013年に西田シャトナーが書きおろした虫の世界を題材にとったファンタジックな傑作で、「演劇に再演は存在しない。すべては”上演の続き”だ」と考えるシャトナーの信念に基づき、ストーリーの骨格はそのままに、ほとんど新しい演出になって、より作品テーマに迫る舞台となっている。
 時間も3時間から2時間に凝縮、ミュージカルだった前回よりパワーマイム的な表現が強くなり、シンプルだが多様に変化する美術(たにがきいくこ)、季節と場所を美しく伝える照明(加藤学)、白とアースカラーをメインに作られた衣装(サイトウマサミ)など新スタッフが担当。キャストも、主人公ゴッホ役には、今もっとも期待される若手俳優のひとり安西慎太郎、ヒロインのベアトリーチェには、やはり注目の若手女優・山下聖菜を迎え、共演陣も幅広く舞台で活躍中の顔ぶればかりという豪華なメンバーによる上演になった。その初日前日に、公開ゲネプロと囲みインタビューが行われた。

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【あらすじ】
誰も知らない小さな森。土の中で暮らすユウダチゼミの幼虫ゴッホは、幸せの絶頂にいた。幼馴染のベアトリーチェと、1年後の夏には地上へ出てセミになり、本物の恋人同士になろうと約束したからだ。ところが、ゴッホは自分が生まれた年を勘違いしていることに気がついていなかった。来年ではなく、今年の夏、彼は地上に出て羽化しなければならないのだ。…絶望の中、ただひとり地上に出てセミになってしまうゴッホ。一度セミになってしまえば、彼がベアトリーチェに再会する方法は、来年の夏まで生き延びる以外にない。果たして彼は、冬を越えて、遠い夏にたどり着くことができるのか?

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セミとは、広辞苑にはこんなふうに書かれている。
「カメムシ目セミ科の昆虫の総称。頭部は低い三角形で、両側に丸い複眼があり、その間に三個の赤い単眼がある。触角は細く短い。腹面の長い吻で樹液を吸う。翅は膜質透明で、飛ぶ時には前後翅が鉤によって連なる。雄は腹面に発音器を持ち、鳴く。成虫は樹皮に産卵、孵化した幼虫は、地中に入って植物の根から養分を吸収し、数年かかって成虫になる」。
 
数年かかって成虫になったセミは、たった一夏のわずか数週間を生き、夏の終わりとともに死ぬ。字面で拾えばそれだけのセミの一生が、西田シャトナーの哲学的で宇宙規模の思考にかかると、生き物全体の「いのち」の意味を考える深い世界へと広がっていく。

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舞台の中央にハシゴが一つ。それに組み合わされるように何本かの棒が建てられ、いくつかの丸太のようなボックスが置かれ、回り舞台になっている。その自在な美術は、ある森の1本の大木になったり、地中のセミや蟻塚、あるいは蜘蛛の巣になったりする。舞台前面には赤いスポットライトがいくつかあり、中央の真っ赤なライトが明滅することで生命の躍動感と鼓動をダイレクトに伝えてくれる。想像力に満ちた西田作品に欠かせない美術や照明との力強いタッグで、人間の目には触れることがない密やかな森の生命の営みがリアルに伝わってくる。

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舞台は、18人による群唱から始まる。春夏秋冬、昼と夜、そんな自然界の流れを表現し、この宇宙の摂理を感じさせる壮大なオープニング。そして、羽化前の白い薄衣を着たユウダチゼミの幼虫、ゴッホ(安西慎太郎)とベアトリーチェ(山下聖菜)が登場、約束を交わす。来年、地上に出たら恋人になろうと。彼らは地上が楽園だと思い、羽化したあとの生に夢を抱く。彼らの周りにはそんな仲間たちがたくさんいる。今年、地上に出るスタスキー(宮下雄也)やアムンゼン(山本匠馬)、来年羽化するスチュアート(伊勢大貴)とともに彼らを見送るつもりのゴッホは、自分の体が羽化し始めていることに驚く。彼は自分の生まれた年を間違えていたのだ。離ればなれになるベアトリーチェへの伝言を、地中に棲む友達のカレハミミズのホセ(木ノ本嶺浩)に託して、ゴッホは夏の地上へと出ていく。

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これは愛の物語であり、ささやかでいて勇敢な小さな生物の闘争の記録でもある。この世界は生き物それぞれの捕食で成り立っていることで、様々な困難に立ち向かわなければならない。その中で、それぞれの生き物が生を貫徹しようとする。その生命の躍動をあますところなく感じることができる舞台だ。生命はなぜ生きて、なぜ死ぬのか。花が芽吹き、陽が昇り、雨が降り、雪が降り、月が照らすことにどんな意味があるのか、そんな問いかけを常に感じ、自分の胸にそっと手を当てて、心の奥底の自分の生命を新たに発見したような気持ちを抱かずにはいないだろう。

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安西慎太郎は、繊細でありながら力強いゴッホだ。羽化したての時は大人になりきれない、どこかイノセントな弱さを感じさせる。だが、次の年の夏まで生き抜くと決めた時から強さを獲得する。敵と戦い、困難を乗り越え、宇宙の摂理に反逆し、くじけそうになり、羽はもげ、ボロボロになりながらも生きようとする…。少年が大人になり、老年になっていく、その残酷な時の流れを、自然な変化の中で演じてみせる。何よりも、ベアトリーチェに恋い焦がれるゴッホの切ないまでの想いが、観るものの胸を打つ。

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山下聖菜のベアトリーチェは、ゴッホに命がけで愛されるに相応しい可憐さだ。セミの幼虫語を話すときの愛らしさ、蜜を夢中で飲み続けている無邪気さ。それでいて、離れていてもゴッホの愛を信じきる彼女の信念と純粋さが、表情や仕草に滲み出る。ほっそりした身体つきが幼虫のいたいけな感じと重なり、このファンタジックな物語のヒロインとしてみごとな存在感を見せる。

ゴッホとベアトリーチェの愛を繋ぐミミズのホセを演じるのは木ノ本嶺浩、細胞の記憶を次世代に受け継ぐというミミズの特性を持ち、いつ生まれていつ死ぬのかわからないことを気に病んだりしているのだが、ひょうひょうとした独特の存在感が面白い。
 
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ゴッホと同じセミの仲間で、幼馴染みのスチュアートは伊勢大貴。従兄弟のスタスキーを慕っていて、1年早く羽化してしまったゴッホを心配する優しいキャラだ。スタスキーの宮下雄也は、先輩格として仲間を牽引していくのだが、メスゼミから好意を受けられなかったり、ちょっとお調子者だったりと、明るい持ち味で笑いを誘う。アムンゼンは山本匠馬、ゴッホとともに羽化したのだが、アリたちとの戦闘で、胸をやられ鳴くことができない。鳴けないセミの不条理と、それでも生き続けることの大切さを伝える。

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セミたちを狙うクビカリアリの一族は、兵隊アリのバンクォー、働きアリのゼノン、女王アリのエレオノーラ女王が登場。バンクォーの小澤亮太は、兵隊アリなのになぜか働きアリと行動する変わり者だが、軍人らしい威厳を感じさせる。ゼノンの陳内将は、働きアリなのに働かずにいる哲学的なニート。彼の頭の中には常に問いだけが存在していて答えは見つからない。生とは?死とは?必死に問い続けるゼノンの透明な眼差しが印象的。
エレオノーラ女王は三上俊、巣穴を抜け出して外をほっつき歩くおてんばでチャーミングな女王を中性的な美しさで演じている。

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虫たちが集まる「ナツリンゴの酒場」には常連たちがいる。
アルミタテハチョウのヘンリーは丸目聖人、羽を擬態しているため、自分のアイデンティティを喪失するという、現代の若者にも通じるような悩みを表現する。プラチナカナブンのイワンは星元裕月、色の近いヘンリーと仲が良く、種族が違うことなど気にかけない屈託のなさが魅力だ。

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ツノカブトムシのアンドレイは土屋シオン、酒好きだが酔うと酒癖の悪い若者を個性的に演じている。ダンガンバチのジンパチは米原幸佑、何よりも仁義を重んじるのだが、性別は女性という特異なキャラをシャープに演じてみせる。

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シマシマグモのラングレンを演じるのは萩野崇、亡くなった妻が持っていた卵を大事に守り、孵化させようとする。酒場の近くに巣を貼り、くだをまきながらも、酒場の守り神にもなる姿がカッコいい。

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ゴイシクワガタのイルクーツクは兼崎健太郎、何年も冬ごもりできる伝説的存在でもあり、頼れる兄貴分。革ジャン姿がクールだ。

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サーベルカマキリのセルバンテスは平田裕一郎、攻撃的な性格だが、カマキリのオスはメスに食べられるという運命を知らない無邪気もある。成長速度が尋常ではなく、衣装の変化とともに内面の変化も演じてみせる。

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虫たちにとって大きな脅威となるイコクウロコトカゲのアオアシは永田彬、自分がどこからやってきたのか、なぜ食物を食べているのかもわからない、いわば自失に近い捕食者を幼児的に演じて、どこか現代の病巣さえ感じさせる怖さを醸しだす。

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森の主であるネムリガエルのブックハウスは石坂勇、森の長として、最大の捕食者として生きている。かつて二足歩行の種族に飼われ、森に捨てられたという過去を持つが、それさえもまるで神の啓示のように受け入れる、どこか運命論者的な達観した存在の大きさがある。
 
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出演者たちは基本的には決まった役所があるものの、西田シャトナーの演出手法であるスイッチプレイで、アリの群衆や、セミの幼虫たち、トカゲの大きさを集団で表現する。映像に頼らず肉体だけの表現で光り輝くのがシャトナーワールドなのだ。パワーマイムももちろんフルに駆使、セミたちが飛ぶシーンをウレタン素材のようなハシゴを使って表現すれば、胸のドラムを鳴らす様はチョッキで表現してみせる。回り舞台も役者たち自身で動かしながらシーンを変えて行き、息つく暇もない舞台を作り上げる。スピーディなセリフ回しの中で、ボケやツッコミなど遊びも炸裂させながら、イノセントであり獰猛であり、時に優しく儚い生命というものの本質をつまびらかにしていく。

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虫たちはどんな運命をも受け入れる。すべてが平等であることを知っているから。その宇宙の摂理、その揺るがなさ。それを知りつつ、約束と愛のために奇跡を起こそうとするゴッホの生への執着、あるいは、死への跳躍。そこにカタルシスを味わうとともに、生命というもののダイナミズムを感じさせてくれる淡い恋の物語さえ、巨大な世界の中では1つのサイクルでしかなく、そしてそれが「生命の宇宙」なのだと教えてくれる。壮大なロマンと深遠な哲学が詰まったシャトナーならではの感動的な世界がそこにある。
 
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【囲みインタビュー】
 
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公開ゲネプロの前に囲みインタビューがに行われ、西田シャトナー、安西慎太郎、山下聖菜、小澤亮太、木ノ本嶺浩、山本匠馬、陳内将、米原幸佑、平田裕一郎、兼崎健太郎、萩野崇、石坂勇が登壇した。

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西田シャトナー(作・演出)
お芝居を作るときに、自分の能力と想像を超えた作品に取り組むことができたら幸せだと思っています。昆虫は我々人間に比べると生まれた時から、大人になるまでにどんどん姿が変わっていきます。生き物を題材にした芝居を作っていけば、自分たちの人生も何が変化して行くのかについて楽しく深く考えることができるのではないか。変化していく中で、変わっていくことと変わらないことのコントラストを見せられたらと思ったんです。嬉しいことに、稽古を重ねていくうちに、僕のついていけるスピードじゃないスピードに変化して作品が出来上がりました。変化することと変化しないことがバラバラに存在するのではなく、変化するからこそ、変わらないものが見つかる。生まれて死んでいくからこそ、生きてよかったなと思えることがあるという思いに至りました。そんな思いを観客の皆さんと共有できて、生きてよかったなと一緒に感じてもらえたらと思っています。

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安西慎太郎(ゴッホ役)
シャトナーさんが変化とおっしゃっていましたが、場当たりをすると、照明も変化して、音楽も変化して、役者の気持ちも変化して、舞台上で起こっている変化が、お客様の心を変えることができると思いました。役作りで一番大切にしようと思っていたのは、虫の視点で描いていることを大切にしようと思っていました。例えば、セミの飛び方は、シャトナーさんやみんなと一緒に話しながら全力で作っていきました。お客様に届けられる稽古をして来ましたし、それを届けられるスタッフとメンバーが揃っておりますので楽しみにしてください。

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山下聖菜(ベアトリーチェ役)
ゴッホの幼馴染で蜜を吸うことと寝ることが好き。ゴッホが1年早く羽化してしまって、1年後に会える日を楽しみに強く生きているまっすぐな愛を観ていただきたいなと思います。

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小澤亮太(バンクォー役)
赤ちゃんの頃から見た虫を演じることがシャトナーさんの舞台でよかったです。虫として演じていると頭の中はぐちゃぐちゃになったりもしましたけど、本当に勉強になったし、この舞台を見せられるのは楽しみで、お客様にも楽しんでもらえたらいいですね。

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木ノ本嶺浩(ホセ役)
シャトナーさんの作品は感覚的な作品で、頭で理解するよりも感覚で感じる演劇という気がします。ミミズは、タートルネックで普通の人のように見えるのですが、シャトナーさんからそれが一番特別じゃないかとおっしゃっていただいた時に、違った世界が広がったような気がしました。お客様もいろんな世界を見ることができると思います。シャトナーさんの言葉たくみなセリフ回しを楽しんでいただけたらと思います。

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山本匠馬(アムンゼン役)
アムンゼンは唯一鳴くことをしない生き物ですが、一夏で鳴くことのできないセミがどのように生を駆け抜けていくのかを観ていただきたいです。がむしゃらに駆け抜けたいと思います。

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陳内将(ゼノン役)
昆虫は人間とは全然違う考えかたをするかもしれませんが、僕らにできる昆虫の感情を追求していきたいです。シャトナーさんからは、ゼノンは、作家であるシャトナーさんの化身であるとおっしゃられたとき、納得したんです。僕が不思議に思っていることをみんなが代弁してくれる。それを感じられるのはシャトナー作品の醍醐味だと思います。明日から、人間界の見方が変わる、昆虫への興味が持っていただけたら嬉しいです。

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米原幸佑(ジンパチ役)
ジンパチは、礼儀や仲間を重んじるマフィアみたいなかっこいい蜂の役。今回演じることになって、蜂が愛おしくなりました。最後まで駆け抜けたいと思います。

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平田裕一郎(セルバンテス役)
みんなの中で一番姿が変わります。最初は半ズボンで、ズボンが次第に伸びて行きますので楽しんでください。

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兼崎健太郎(イルクーツク役)
シャトナーさんは独特の世界観のお芝居を作られるので、稽古中はいつも悩みながら取り組むんです。でも、今回はシャトナーさんの大好きな昆虫を物語にするということで楽しみにしていました。抽象的なシーンも、お客さんにわかりやすく表現して伝えていくのがシャトナーさんの作品だと思っています。虫の世界観を理解してもらって、一緒に生きていけたらいいなと思っています。

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萩野崇(ラングレン役)
シャトナーさんのオリジナル作品に参加できるのが幸せです。シャトナーさんと会話をしたときに、登場人物みんないい人だよねという話をしていました。人との繋がりとや他者との繋がりが素敵な作品だと思っていますので、来ていただくお客様に、少しでも優しさを感じていただければと思います。

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石坂勇(ブックハウス役)
生きるというテーマは人も虫も変わらないという気持ちになりました。長く生きるもの、あっという間に去って行くものを目の前にして、昆虫の見方が変わりました。これから関わり方が変わるような気がします。この舞台を精一杯生きたいと思います。

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〈公演情報〉

05 のコピー


キティエンターテイメント×東映 Presents
SHATNER of WONDER #6
『遠い夏のゴッホ』
作・演出◇西田シャトナー
出演◇安西慎太郎 
山下聖菜/小澤亮太 木ノ本嶺浩 山本匠馬/陳内将
伊勢大貴 宮下雄也 三上俊 永田彬 土屋シオン 丸目聖人
 星元裕月
米原幸佑  平田裕一郎 兼崎健太郎
萩野崇 石坂勇
●7/14〜23◎天王洲 銀河劇場
●7/29〜30◎森ノ宮ピロティホール
〈お問い合わせ〉東京音協 03-5774-3030(平日11:00〜17:00)




【取材・文・撮影:竹下力】





ミュージカル「しゃばけ」弐  〜空のビードロ・畳紙〜






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