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可憐にして偉大なるオンチの歌手、フローレンス・フォスター・ジェンキンズの実話を元に描いた、ピーター・キルター作のオリジナル傑作コメディ『グローリアス!〜Glorious!〜』が、8月18日にDDD青山クロスシアターで幕を開ける。(9月15日まで。のち金沢ほか地方公演あり)

【物語】
時は1944年、場所はニューヨーク。オンチと称されながらもソプラノ歌手になる夢を諦めないフローレンスは、コズメというピアニストに出会う。最初は渋々レッスンを引き受けるコズメだったが、レッスンを重ねるにつれて、彼女の活気溢れる歌声の魅力に気付き始める。時にバッシングを受けながらも、音楽を信じ邁進する二人にある時、音楽の殿堂と呼ばれるカーネギーホールからオファーが入って――。 

歌うことに生涯を捧げたフローレンス・フォスター・ジェンキンズの、笑いあり涙ありのドラマティックでハートフルな物語で、2016年にはメリル・ストリープとヒュー・グランドの2大スターが共演した映画、『マダム・フローレンス!夢見るふたり』のモチーフにもなった。
このオンチなオペラ歌手、フローレンスを演じるのは篠井英介。そしてそのピアニスト、コズメ・マクムーンを演じるのは水田航生。2人に作品と役柄について話してもらった。
 
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水田航生・篠井英介

楽しいオンチで魅力があった歌手フローレンス

──篠井さんは、このフローレンス役のオファーを受けていかがでしたか?
篠井 とても嬉しかったです。僕は基本的に自分は女形だと思っているのですが、もちろん女優さんがいっぱいいるので、女性の役が来ることは少なくて、おじさん役が多いんです(笑)。でも、昨年の劇団☆新感線の『Vamp Bamboo Burn〜ヴァン!バン!バーン!〜』は、宮藤(官九郎)くんの当て書きだったので「女にしてねっ」とお願いしたり(笑)、『ダブリンの鐘つきカビ人間』(2015年)も、牧師さん役を尼僧にしてもらいました。映像の世界では女形が女性役をやるのは難しいので、想像力で観ることのできる舞台では、なるべく女の役で出させていただきたいと思っているんです。
──オンチのオペラ歌手の役ということについては、どう取り組もうと?
篠井 オンチといっても楽しいオンチで、実際にとても人気のある方だったそうですから、何かしら魅力があったはずだと思うんです。ですからまず、どんな女性だったんだろうと興味を惹かれますし、そこに物語の一番のポイントがあるはずだと思っているので、その魅力をうまく表現できればと思っています。
──水田さんはピアニストのコズメ役ですが、篠井さんとは初共演だそうですね?
水田 僕は三人芝居自体が初めてなので、プレッシャーも大きかったんですが、英介さんとポスター撮影で初めてお会いしたその瞬間から、自然に巻き込まれるというか包み込まれるというか、居心地のいい空気を感じて、自分の中で考え込んでいたことなども払拭されて、ポジティブな気持ちになれました。とにかく稽古初日の本読みから楽しかったんです。本読みはいつも緊張するのですが、初めて「楽しい!」と思えたし、英介さんが演じるフローレンスに、コズメがどんどん巻き込まれていく状態が、自分の感覚としてリアルに感じられて嬉しかったです。
篠井 航生くんは舞台経験が沢山おありになるのに、初々しくて清潔ですよね。どんな役でも清潔感はすごく大事で、そういう意味で素材として素晴らしいなと。それに謙虚でいらっしゃる。そこも素敵だなと。僕はいつも、自分の役は自分1人で頑張ってもできないと思っていて、一緒に芝居してくれる人がどう対応してくれるかで、自分の役が浮き彫りになると思っているんです。フローレンスは、ちょっとエキセントリックで華やかで楽しい人ですから、派手な部分は出したいとは思いますが、「がんばって熱演していたね」とならないようにしたい。航生くんや彩吹(真央)さんがフローレンスを素敵な人物に作り上げてくださるに違いないと思っていますし、航生くんが生き生きとコズメを生きてくださることが、フローレンスも生きることになると思っています。

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わざとらしいオンチではなく楽しそうに幸せそうに歌いたい

──コズメは、フローレンスを理解して支えますが、かなりユニークで面白い人ですね。
水田 最初は「なんなんだこの人は?」と、ちょっと驚きさえありました(笑)。コズメ自身、セクシャル・マイノリティでもあったり、たぶん色々な思いをして生きてきた人だったと思うんです。その中で、天真爛漫で屈託のないフローレンスに出会った時に心が動いて、「この人に付いていきたいな」とか「一緒に歩んでいきたいな」と思ったのではないかと。ですから、コズメ自身がわからないまま巻き込まれていく感じにはしたくないんです。あえて自分わかって巻き込まれていく、そういう巻き込まれ方を、英介さんと向き合う中で、作れていけたら面白いんじゃないかと思っています。
篠井 プレッシャーをかけるわけではないけど、コズメは受ける演技なので難しいだろうなと思います。受け身から心が動いていって、最終的には自分でも気づかないうちにフローレンスに惹かれていって、ある種の友情というか愛情を感じて、自分にできることはなんでもしてあげたいと思えるようになる。自分では自覚なくそう思っていくところが、とても人間らしいしチャーミングですよね。そういう意味では、フローレンスもコズメもキーポイントはチャーミングということだし、人間として可愛げがある人たちなんだろうなと思います。
──その役を演じるお二人が、まさに役柄にぴったりだなと。
水田 僕、この物語もですが、実在のマダム・ジェンキンズのことを、僕はすごく好きなんだろうなと思います(笑)。はじめは、笑えるぐらいオンチな歌って、実際に聴くまで想像がつかなかったんです。でも残っている音源やYouTubeで聴いたら、本当に笑っちゃって、「ああ、この感覚なんだ」と理解できて、「俺、たぶんこの人のこと好きだな」と。残っている写真などを見ても、この人となら仲良くなれるという気がしますから。
──もう役作りは必要ないですね。
水田 (笑)、確かにコズメが全く違う感じの人だったら、頭を使って役を理解していくことが必要だったかもしれません。でもこのコズメなら、僕の感受性でどんどん寄っていったり、自分の感覚に落とし込んだり、色々なアプローチができるなと思って嬉しかったですね。
篠井 どんどんやってください!それに向き合えるだけの存在感を出せるように、フローレンスも頑張りますので(笑)。

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──ピアニストということでは、劇中でピアノを弾く場面はあるのですか?
水田 ピアニストの方が出演されているので、僕は実際には弾かないんです。でも最初は自分で弾くものだと思っていたので、キーボードを買って、ヒーヒー言いながら一生懸命練習して(笑)。ただ、全く触ってないよりは触っているほうが説得力がありますから、音は出さなくても弾きたいですね。
──篠井さんのフローレンスは歌う場面がありますが、オンチをどこまで意識して歌いますか?
篠井 そこは今、演出のスズカツ(鈴木勝秀)さんと相談していますが、わざとらしいオンチはお客様も笑えないので、あんまりやりすぎないようにしたいですね。僕は男の声なので、裏声を使っても出せない女声の音域が現実にあるんです。そういう面白さで聴かせるのもありかなと思っていて。やはりフローレンスの歌が、なぜみんなを魅了したのかというと、オンチでもお構いなしに、楽しそうに幸せそうに歌っていたからだと思うんです。それも大真面目に本気で堂々と歌う。そこさえ押さえておけば、わざとオンチを強調する必要はないような気がしているんです。

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親密感とか緻密さとか小劇場ならではの楽しさを

──今、演出の話が出ましたが、篠井さんはスズカツさんと何度も仕事をしていますが、改めて感じる鈴木演出の良さは?
篠井 スズカツさんは、その作品の一番いいお客さんでいようという方なんです。だからお行儀がいいんです。中にはものを食べたり飲んだりしながら演出する方もいますが(笑)、スズカツさんは本当にお芝居や役者さんを心から愛して、一生懸命に見てくれます。そして、必要なことは短い言葉で的確なアドバイスをしてくれる。ですから僕はすごく信頼していますし、スズカツさんの演出は大好きです。
水田 僕は初めてなのですが、スズカツさんの稽古は早く終わると聞いていて、本当に短時間で集中して稽古するんだなと。僕自身もそのほうがガッと集中してできるので有り難いです。役についてのアドバイスも、英介さんがおっしゃったように、「なるほど」と自分の中で腑に落ちることが多いし、聞いたことへはすごく的確に答えてくださいます。それに、稽古場での雰囲気がすごくハッピーというか(笑)、割とオープンにいてくださるので、色々聞きやすいです。
──今回の出演者はあと1人、彩吹真央さんがいますが、彩吹さんは何役か演じ分けるそうですね。
篠井 メキシコ人のコック兼家政婦のマリアと、フローレンスのお友達のドロシーと、ミセス・ヴェリンダー・ジェッジというアンチフローレンスの運動家みたいなアメリカの婦人(笑)、その3役を演じます。
──彩吹さんとはお二人とも初共演だそうですが、どんな印象がありますか?
篠井 宝塚出身の方ですから、舞台のキャリアは沢山積んでいらっしゃいますし、男役だったということで、既成概念みたいなものを持たないところがいいなと。今回も、僕が女の役をやっていても、変だとも思わずに飛び込んできてくださる。そういう柔軟さを持っていらっしゃるので、僕の方が胸を借りたいなと思っています。それは水田さんにもお願いして。
水田 いえ、胸を借りるのは僕のほうです。
──水田さんは、彩吹さんの印象は?
水田 先日、こまつ座の『イヌの仇討』を拝見したばかりなんですが、しっかりしたお芝居をされる方だなと。実は『サンセット大通り』というミュージカルの初演に彩吹さんが、僕は再演に出ていて、物語的には恋人役なのに残念ながらすれ違いだったんですが、今回はご縁があってご一緒できるので楽しみです。
 
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──そんな演技派3人で演じるこの舞台ですが、改めて意気込みをいただけますか。
篠井 映画が有名なのですが、物語もちょっと違いますし、こちらは三人芝居で小劇場ですから、その良さを生かして、親密感とか緻密さとか、小劇場ならではの楽しさなどを味わっていただきたいです。一応コメディですから、心温まって、最後はほっこりという作品になっていますし、暑い時期ですから納涼を兼ねて劇場へいらしていただけたらと。「楽しいお芝居で音楽もあるらしいよ。歌もあるらしいけど音痴なんだって(笑)」と、お気軽に足を運んでいただけるといいなと思っております。公演期間も1ヶ月近くございますので、何度もお運びいただいて、作品が成長していくのも観ていただけたら嬉しいですね。
水田 本当に素敵なお二人とご一緒できるので、初日を迎えるまで必死に稽古をして、しっかり自分の役に向き合って、責任を持って演じていきたいです。DDD青山クロスシアターには初めて出演させていただきますが、すごくいい空間なので楽しみです。英介さんがおっしゃったように、笑っていただきながら、最後はぐっとくるような、そういう作品になるように頑張ります。そして長期間の公演なので、3人で最後まで元気に楽しく舞台をつとめられればと思っています。

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水田航生・篠井英介

ささいえいすけ○石川県出身。日本大学藝術学部演劇学科卒業。花組芝居を経て、現代劇の女形として、多方面で活躍をしている。1992年、第29回ゴールデンアロー賞演劇新人賞を受賞。舞台の代表作に『欲望という名の電車』のブランチ役、『サド公爵夫人』など多数。最近の出演作品は、映画『探偵はBarにいる2〜ススキノ大交差点』、『清須会議』、『幕末高校生』、ドラマは連続テレビ小説『まれ』(NHK) 『下町ロケット』(TBS)など、舞台は『非常の人 何ぞ非常に』〜奇譚 平賀源内と杉田玄白〜、『きりきり舞い』、『ダブリンの鐘つきカビ人間』劇団☆新感線『Vamp Bamboo Burn〜ヴァン!バン!バーン!』などがある。

みずたこうき○大阪府出身。俳優として数多くの舞台、ドラマで活躍中。最近の主な出演作品は、映画『カノジョは嘘を愛しすぎてる』、『太陽』など、ドラマ『ファイブ』(フジテレビ)、舞台『マーキュリー・ファー Mercury Fur』、ミュージカル『サンセット大通り』、『道玄坂奇譚』、ミュージカル『JAM TOWN』、ミュージカル『エドウィン・ドルードの謎』、ミュージカル『マイ・フェア・レディ』、音楽劇 『ダニー・ボーイズ』〜いつも笑顔で歌を〜、『お勢登場』などがある。

〈公演情報〉
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シーエイティプロデュース
『グローリアス!〜Glorious!〜』
作◇ピーター・キルター
翻訳◇芦沢みどり
演出◇鈴木勝秀
出演◇篠井英介 水田航生 彩吹真央
●8/18〜9/15◎DDD青山クロスシアター
〈料金〉8,800円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉チケットスペース 03-3234-9999
●9/22◎北國新聞赤羽ホール  
〈料金〉7,800円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉北國新聞 赤羽ホール 076-260-3555
ほか地方公演予定
http://www.glorious-stage.com




【取材・文/榊原和子 撮影/竹下力】


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