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音楽家の葛藤、“神”に挑む人生を賭けた戦いの物語──松本幸四郎、最後の現代劇『AMADEUS』が幕を開ける!
ロンドン初演は1979年、すぐにブロードウェーでも上演され、トニー賞5部門の受賞に輝いたピーター・シェファー作の『アマデウス』。音楽史では永遠の謎とされるモーツァルトの死を題材に、同時代の宮廷楽長アントニオ・サリエーリによる暗殺説を軸として展開する、音楽家の葛藤、苦悩を描くこの作品は、84年の映画化でもアカデミー賞8部門受賞の快挙を成し遂げた。
 
この『AMADEUS』を松本幸四郎が初演したのは、襲名翌年の82年。初演以来、上演を重ねている本作が、9月24日から10月9日までのサンシャイン劇場を皮切りに、大阪松竹座(10月13日〜22日)、福岡(10月24、25日)での再演が決まり、公演中に450回の節目も迎える。来年、二代目松本白鸚の襲名が決まっている幸四郎にとって、現在の名前ではこれが最後の現代劇であり、大きなメモリアル公演となる。

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宮廷楽長として揺るぎない地位と名声を築きながら、若きモーツァルトの才能に衝撃を受け、彼に天賦の才を与えた“神”に人生を賭けた戦いを挑むアントニオ・サリエーリ役は、初演以来この役を演じ続けている幸四郎。時に人品卑しく、子供じみた男だが、素晴らしい楽曲を次々に生み出すヴォルフガング・アマデウス(神の寵児の意)・モーツァルト役は、これまで江守徹、市川染五郎、武田真治が演じてきたが、今回はジャニーズWESTの桐山照史。『ブラッドブラザース』などの舞台で、チャーミングなキャラと演技力の高さで注目されている。
天才であり変人であるモーツァルトの妻で、悪妻の悪名高いコンスタンツェ役は、藤真利子、渡辺梓、藤谷美紀、馬渕英俚可(当時は英里何)、内山理名に続き、今回は舞台やミュージカルを中心に活躍し、出産後初舞台となる大和田美帆。

この公演の製作発表が8月19日に都内で行われた。会見には松本幸四郎、桐山照史、大和田美帆、安孫子正松竹株式会社取締役副社長が出席。挨拶の後、質疑応答に移った。

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【挨拶】
 
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松本幸四郎
 『AMADEUS』の製作発表にこうして再び出席させて頂く事、大変嬉しゅうございます。幸四郎という名前になった翌年に上演させて頂き、以来30数年、今度は奇しくも来年、幸四郎という名前に別れを告げますので、その最後の現代劇という事で、また出演させて頂く事になりました。感無量です。毎回モーツァルト、コンスタンツェには素晴らしい俳優さん、女優さんが出て下さいますが、この度は桐山照史君がモーツァルト、大和田美帆さんがコンスタンツェ役。桐山君は『ブラッドブラザーズ』を拝見して、俳優として素晴らしい素質だなと思い、大和田さんは『ア・ソング・フォー・ユー』でしっかりした演技をされていました。大変楽しみです。これから長い長い稽古に入り、我々俳優にとって忍耐の時期です。忍耐が実を結び、素晴らしい『AMADEUS』が花咲きますように、皆様のお力を頂きたいと思います。

桐山照史
 この出演のお話を頂いた時、僕が生まれる前からされている舞台ですし、モーツァルトという偉人をさせて頂くプレッシャーよりも、また舞台に立てる喜びのほうが多かった。桐山照史が出たからには新しい風を吹かせてみせますとビッグマウスを叩きましたが、先日の本読みで、僕の前に幸四郎さんが座られて、緊張のあまり100回くらい噛んでしまい、まず第一の挫折を味わってます(笑)。これから稽古を重ねて、でも背伸びをしてもしょうがないので、幸四郎さんに一から甘えていきたい。モーツァルトとコンスタンツェが出てくる時には、ちょっと変わったスパイスになれるように頑張ります。

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大和田美帆
 先ほど照史君も仰いましたが、私達が生まれる前から上演され続けている作品に出させて頂くという事がとても光栄です。個人的にはコンスタンツェという役に元々興味があり、天才と言われた人、しかし変人とも言われているモーツァルトの妻って、どんな気持ちだったんだろう、どんな人だったんだろう。世界三大悪妻とも言われていますので、本当はどんな人なんだろうと調べた事もあり、今回とてもご縁を感じています。精一杯務めさせて頂きます。


【質疑応答】

──35年前から演じられてきて、改めての作品の魅力と、演じられるサリエリ(サリエーリ)のこういう所が好きというところは。また幸四郎最後の『AMADEUS』とありますが、数年後には(二代目松本)白鸚の『AMADEUS』も期待していいのでしょうか。
幸四郎 大変気の早いお話を(笑)。でも役者はそう言って頂けるのが生きがいです。ありがとうございます。このお芝居は皆様よくご存じで、映画にもなりましたし、私は長年やっておりまして、モーツァルトに対するサリエリの嫉妬がテーマだと思われがちですが、人間って、私のように長く生きていますと、自分の中にちっちゃな神をみつける人生のような。それぞれの中に小さな小さな神というものがあるような気がして、それを信じる時もあれば、その小さな神様から信じられるような人間にならなきゃいけないなと思うこともあります。そんな思いを繰り返して参りました。長い間、歌舞伎をはじめ、『ラ・マンチャの男』とか色々やって、色々な経験をして参りました。サリエリの言葉がいちいちモーツァルトに対する嫉妬だけかと思ったら、実は自分もそういう気持ちに何度も何度もなったんだなと。その時に、いつも自分の心にあるのは小さな神様。神様から信じられるような人間になって、神様を信じようと。これは外国のお芝居なので、バックにキリスト教が大きく影響していますし、イタリア人の宗教観も随所に出てきます。(記者に)初演からご覧ですか?(「はい」と記者)これは油断もなりませんね(笑)。そういうお客様もいらっしゃいますので、頑張りたいと思います。

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──途中から演出が高麗屋さん(幸四郎)に変えられましたが、今回は演出をどう変えられるか。
幸四郎 正直申しまして、演出はピーター・ホールという人が致しまして、その助手であったジャイルス・ブロックさんという方が日本に参られて、それ以来の演出です。私がその後を引き継ぎましたが、元になるのは二人の演出家のオリジナル版で、自分は演出というよりアレンジャー。いつもお稽古では、最初のうちは演出家として何だかんだいっぱしの事を言いますが、(桐山と大和田に)二人ともよく聞いて下さい、最初は大変厳しいような事を申しますが、そのうち初日が近づくと役の事で頭いっぱいになって演出がそっちのけになるので、だんだん優しくなって参ります(二人とも笑う)。私はそういう演出を今までして参りました。というのは、演出だけ、役者の芸、演技だけが目立ちすぎてもいけない。お客様がご覧になり、良い芝居だったね、あの役者も良かったし演出も良かったね、という事だと思うんです、お芝居は。そういう事をいつも念頭に置いてやっております。
──今回モーツァルトとコンスタンツェの顔ぶれが変わり、お二人の印象と、それを受けて桐山さんと大和田さんがどう感じられたか。
幸四郎 私はお二人をみた時、二人とも役になりきってる。俳優の中によく、普段は面白いんだけど舞台に立つと何だかつまんなそうな俳優さんっているんですね。自戒の念を込めて思いますが、逆でないと役者はいけない。普段はもう死んでていいんです(笑)。舞台の上に立ってる間だけは、自分は芝居をしているのが嬉しくて楽しくてしょうがない、これが私の生きがいです、みたいなことを感じさせる演技が、二人にはあります。そして二人が、歌舞伎座にご挨拶に来て下さった時、稽古は好きですか、嫌いですかと聞いた時、好きですと二人とも仰った。桐山君は凄く達者な役者だと思ったので「ご自分のアイディアで演技をしたの、それとも演出家のですか」と聞いたら「演出家の先生から、一から教えて頂きました」と。演出家にとって大変嬉しい俳優。大和田さんは、ミュージカルでしたから歌も歌ってらして、舞台の上にもこういうしっかりした良い女優さんが出てきたなと。松本紀保、私の娘がご一緒だったんです。期待しております。
桐山 僕もちっちゃな頃からテレビで何度も拝見している幸四郎さんとご一緒できるという緊張が凄くあって。歌舞伎座に挨拶に行かせて頂いた時、凄く緊張していましたが「桐山君の目はモーツァルトの目」と言って頂いて。それは良かったと。稽古の段階でも色々な事を言って頂きたいし、舞台は2年ぐらい経って忘れている所も多々あるので、全部甘えたいと思います。プライベートは死にます、舞台の上で輝きます(笑)。頑張ります。
大和田 私もプライベートは本当にしっちゃかめっちゃかですが(笑)、舞台上で輝ければと思います。個人的な話ですが、小さい頃から本当に舞台が好きで、19歳で初めて舞台に出させて頂いてから、ありがたいことに毎年何本か出させて頂いて…それが出産を機にストップして、初めて好きな事を続けていた事をお休みする期間を頂いた。初めは、舞台に立てない、お仕事ができない自分が苦しくて、泣いて暮らしてたんです(笑)。今となっては、休んだ事で余計大好きになり、やっぱりこれを一生やっていきたいと思った最中にお話を頂いたので、実は昨日立ち稽古初日だったんですが、今まで緊張とかであんまり感じた事がなかったですが、台本が目の前にあり、やるべき事があり、キャスト、スタッフの方が揃って、稽古場に居られるという喜びだけで、帰りの車で泣いてしまって。そのぐらい、今コンスタンツェという役を与えて頂いた事に感謝ですし、女優生命を賭けて挑みたい気分なので、お手柔らかにとは思いますが、厳しいご指導を楽しみにしています。

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──小さな神をと思い始めたのはいつ頃か。今回さらに深堀して演じ切りたい所は。
幸四郎 神を意識し始めたのは、台本を渡されて読ませて頂いてから、サリエリの神は何だったんだろうなと。サリエリが最後に言う「名もなき人のための自分は守護者だ」、あれがサリエリにとっての神じゃなかったのでしょうか。小さな神と申したのは、神様じゃないかもしれない。生まれて死ぬまで色々な事がある。良い事も悪い事も、悲しい事も嬉しい事も辛い事も、その時にその人がどういう決断をしたか、小さな決断から大きな決断までの連続のようなものが人生だと思えて、そういう意味での神ですから。あとは、大きな声では言えませんが、音楽と演劇の違いこそあれ、こんな事は日常茶飯事でございます。我々の世界には「コンチクショウ、憎らしいなあ、しかし自分にはできない」、そんな思いが毎日です。お二人はそんなことないでしょうけど(笑)。自分がやる上で、とてもじゃないけどこの芝居は他人事ではない芝居なのです。先だって、ジャズピアニストの小曽根真さんと対談しましたが、周りの事、地位や名誉にとらわれず一途にやっていく、自分を貫き通すというのはモーツァルト的だと仰った。振り返ると、歌舞伎の家に生まれ、今日まで『AMADEUS』をさせて頂いて、それを貫いてきた気がします。ご覧になったお客様お一人お一人の中に、冷たかった心の中に、何か温かいものがともるような、お帰りがけに「よし、自分も頑張るか」というようなお芝居のような気がしてなりません。それにはモーツァルトさん、コンスタンツェさんが、サリエリをやり込めるぐらい(でないと)。モーツァルトは下品な言葉を吐きますが、それがあのモーツァルトなんですから。一面性でなく、下品な一方の崇高さ。この世のものと思えない、人間業じゃない崇高さを感じさせて、それは演技プランとかじゃなく、持って生まれた立ち居振る舞い、佇まい。アトモスフェアという言葉がありますが、それをぜひお二人に掴みとって、それで立ち向かわれると、サリエリがまたそれに応えるようにやる。お互いの戦いが低い次元だと単なる嫉妬劇ですが、中に入っているのがモーツァルトのあの素晴らしいメロディがある。サリエリというお芝居の真骨頂だと思います。下品な言葉を吐いている人に崇高さがあるというのが、一見矛盾してますが、そういう所があるお芝居だと思います。
──モーツァルトは天才かつ変人ですが、共通点は。
桐山 天才とか思った事は本当にないですが、モーツァルトと、恐れ多いですが似てると思うのは「何とかなるやろ」と。ジャニーズWESTでコンサートをして緊張した時でも、心のどこかで、自信じゃないですが「何とかなるやろ」という所があるのは、ちょっと似てるかなと思います。変人な所は一切一緒じゃございません、真面目な人間です(笑)。

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写真撮影に移る直前、会場の明かりが消えて真っ暗になると「HAPPY BIRTHDAY」の歌が! この日は偶然にも幸四郎の75歳の誕生日であり、サプライズの誕生祝いが行われた。公演ロゴをあしらったケーキにロウソクがともり、桐山・大和田からは真紅の薔薇の花束が贈呈され、取材陣からも満場の拍手が送られた。幸四郎は「今日は私の57歳の…ちょっと間違えました(笑)、75歳の誕生日を祝って頂き、ありがとうございます。たしか染五郎という名前の最後が『スウィーニー・トッド』を帝劇でやって、それから幸四郎になった。それから38年経って、『AMADEUS』というお芝居に、桐山さん、大和田さんという素敵な俳優さん、女優さんと一緒に最後の幸四郎の誕生日を祝って頂きありがとうございます。来年からは名前が変わり、1歳になりますので、また一からお芝居に取り組みたい」と、感極まった表情で礼を述べた。

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〈公演情報〉
『AMADEUS 松本幸四郎inアマデウス』
作◇ピーター・シェファー
演出◇松本幸四郎
出演◇松本幸四郎 桐山照史(ジャニーズWEST) 大和田美帆ほか
●9/24〜10/9◎サンシャイン劇場
●10/13〜22◎大阪松竹座
●10/24〜25◎久留米シティプラザ
〈料金〉東京公演 S席12,500円 A席7,000円(税込)
大阪公演 1等席(1、2F)13,000円 2等席(3F)7,000円(税込)
福岡公演 S席(1F-3F)11,000円 A席(3F-4F)8,800円 B席(4F)6,000円 学生券5,000円(当日座席指定)(税込)
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹 0570-000-489または03-6745-0888(東京)06-6530-0333(大阪)



【取材・文・撮影/内河 文】



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