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幅広い視野で社会問題に取り組み、豊かなエンターテインメント性とともに観客へと提出し続ける作・演出家、詩森ろば。彼女の最新作『アンネの日』が、三鷹市芸術文化センター 星のホールで、9月8日から上演中だ。(18日まで)
 
今回は、風琴工房としては初の女性ばかりのキャストによる公演で、詩森の言葉によると、「最初は”女ならでは”から離れてみようと考えていましたが、いや、待てよ。女でしかない事象に真正面から取り組んでみようではないか」ということで、理想の生理用品の実現に情熱を注ぐ女性たちの姿を取り上げている。
 
キャストは、2016年の『残花ー1945 さくら隊 園井恵子ー』に続いて、再び詩森作品に取り組む林田麻里。そして、伊藤弘子(流山児★事務所)、石村みか(てがみ座)、ザンヨウコ、葛木英(クロムモリブデン)、笹野鈴々音、熊坂理恵子、ししどともこ。それぞれ詩森作品への出演経験がある女優たちが顔を揃えている。

初日を数日後に控え、和やかさの中にも熱気あふれる稽古場で、詩森ろばと林田麻里に話を聞いた。
 
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林田麻里・詩森ろば

安全と便利さとどちらを選びますか

──今回このテーマを選んだのは、どんなところから?
詩森 まず先に、女性だけで公演するということがあって、研究開発の話にしようということも決まっていたんです。そこで、何を研究開発する人たちがいいかと考えたんですが、女性だけで開発して不自然ではないものというのが意外に少なくて、生活用品、食品関係、薬剤くらいしかないんです。最初は女性っぽくないものがいいなと思ったのですが、例えば青色発光ダイオードを扱った『Archives of Leviathan』のような作品を女性だけで作ろうとすると、ちょっとファンタジーみたいな話になってしまう。そこで、どうせなら女性しか使わないもの、生理用ナプキンを女性たちが開発している話にしようと決めました。ナプキンは、男性が開発したものがヒットしていたりするので、それに忸怩たる思いがあった女性たちが立ち上がるというのも面白いかなと。でも、いざ取りかかってみたら、そこから女性が抱えている色々な問題が網羅されることになって、広がりのある話になったなと思っています。
──タイトルの「アンネの日」から、かつてあった実在の会社を連想したのですが、そういう創業秘話とか伝記ものではないのですね。
詩森 出てくるのは現代の会社です。もちろんアンネ社とそのネーミングの元になった「アンネの日記」の精神は、作品の中に受け継いでいますし、タイトルにある「アンネ」という言葉が、昔は生理の隠語として使われたことなども、劇中では説明しています。
──林田さんは、どんな役どころなのですか?
林田 ナプキン開発チームのリーダーの津和苑子です。
詩森 開発チームでは、女性開発者たちが最先端の技術で便利なナプキンを作ろうと思って研究しているわけです。その中で機能性と安全性というところで悩むことになる。機能性を上げていくためにはケミカルの力が強くなります。でも石村みかさんが演じる土井加奈子は、体に優しい自然派ナプキンを提案しています。このチームが向き合う「安全と便利さとどちらを選びますか」という問いかけは、生理用ナプキンだけでなく、現代を生きるうえでのあらゆるものに通じるテーマですよね。
──俳優としてこの作品に取り組む中で、発見することも多いでしょうね。
林田 いっぱいあります。まずナプキンの構造そのものや、なにで作られているかも初めて知りました。毎日のように出演者同士、お互いのことを話し合う中で、これまで自分の生理の話は、女同士でもほとんどしていないというのも発見でした。
詩森 書いていて改めて思いました。生理の歴史はその人個人の歴史だし、家族歴でもあるし、社会との関わりの歴史でもあるんです。本当に深くて広がりのある面白い題材だと思いました。

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良い悪いではなく、男女差というのは面白い

──今では隠語としての「アンネ」が死語になったように、生理についてもかなりオープンになっている部分もあると思うのですが。
詩森 それほど理解は進んでいないと思っています。男女差という面での認識もあまり変わっていなくて、一見、性差から自由になっているような気はしますが、実はほとんど変わってないですね。
林田 社会的な不自由さというのは、この作品を通して改めて実感する部分があって。ナプキン開発の話をしていると、女性の生き方とか雇用の実態とか、全部そこに関係してくるんです。もちろん男性との関係もそうですし、男性と女性という違う生き物同士の平等ってなんだろうとか、男女が一緒に働くというのはなんだろうとか、一緒に社会で生きていくというのはどういうことなんだろうとか、共存していくこととは、とか。ナプキンの問題から、人が生きていくうえでの本質的なところまで考えることになって、深い問題だなと改めて思っています。
詩森 まず女性同士でしゃべれる、そして男性も話に加われることが、やっぱりこの社会の生きやすさに繋がるんです。生理というものにきちんと関わること、知ることで助け合えることがあって、妊娠もそうですし、閉経にも今回は踏み込んでいます。そこは女性作家でないと書けないと思いますし、そこを今回書けたというのは大きいと思っています。
──閉経は生理以上に個人差がありますから、共通の問題として捉えにくかったと思います。
詩森 もちろん、なんでもオープンに話せばいいという単純な問題ではないと思いますが、少しでも知ることから、その人の人生への理解も持てるようになるし、他者への想像力も持てるようになると思っているんです。
林田 この作品に入ってから、男性の知り合いに、こういう作品をやっていると話すと、「触れていい話かどうかわからないという意識がある」と言うんですね。女性側としても、どこかで仕事をしていて平等であろうとするなら、それを匂わせないようにしようという意識があって、だからお互いにどう扱っていいかわからないんです。ですから男性にもこの作品を観てもらって、知ってもらうことが大事だと思っているんです。
──会話は専門的なやり取りが多くなるのですか?
詩森 それが面白いことに、男性の科学者ばかりだとわりとプライベートの部分は見えてこないんですけど、女性同士だと研究しながらプライベートな部分にも話が行って、そこからまた研究へのモチベーションもあがるという、そういう道筋が出来てきて、それが全然不自然ではないんです。男性同士の話では、あくまでもソーシャルな部分が大事で、プライベートな部分はあまり出てこない。それは演劇の世界でも同じで。
林田 稽古場もそうです(笑)。
詩森 例えば場面転換の作り方ひとつでも違ってくるんです。男性はリーダーがなんとなくできて統率されていきますが、女性同士はあくまで同列で、よく喋りながら、いつのまにかできていく。混沌としてます(笑)。良い悪いではなく、男女差というのは面白いなと。

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今の社会が抱えている問題を多層的に考える

──林田さんは女性ばかりの作品は?
林田 4年前に女性5人の『熱風』という作品を、KAKUTAの桑原(裕子)さんの作・演出でやっています。今回と共通するのは、女たちってきゃいきゃい力を合わせていくんだなと(笑)。
詩森 稽古場に来るのが楽しそうだよね。今回は全員、一度は私の作品に出たことがある人ばかりで、初日から親戚同士の集まりみたいで(笑)。
林田 ろばさんを通してみんな親戚みたいです(笑)。良いチームです。
──では、戯曲の読み解きなども感覚でわかり合える感じですか?
林田 いえ、ものすごく話し合ってます。
詩森 俳優同士でもすごく踏み込んで話してくれてますね。ここやりづらい、みたいな話もすごくしてるのに、個人批判にならない。男だから女だから関係なく、風琴工房史上で最強のチームだと思います。作品の解釈的なことを言うと、たぶん私は、作家としてジェンダー的に女性性にも男性性にも属してないな、と思うことがあるんです。扱うテーマも金融問題の芝居を書いたりとか、いわゆる女性作家というのとは、ちょっと位相が違うなと思っていて、詩森ろばっていうジェンダーを生きてるなぁ、と長く思ってきました。ただ作家という仕事自体が、それぞれそういう面はあると思うんですけどね。勝手に世間が、女性作家、男性作家と分けているだけで。なので、私の作品を解釈するためには、きちんと言葉でやりとりする必要はあって、それは、みんな自覚的にやってくれています。そのことに対しての理解力の高さでも、奇跡的ではありますね。
──詩森さんは女性的な目線を持ちつつも、女性性にとらわれないですね。
詩森 それは今回の女優さんはみんなそうで、女性の業も持ちつつ、そこだけに特化されていない人ばかりで、本当に面白いです。
──林田さんにとってジェンダーの問題はいかがですか?
林田 私は基本的に、その人が女性だからとか男性だからとか、そういう見方をしてないんだと思います。
──まさにニュートラルですね。詩森さんから見て、女優・林田麻里のどこが魅力ですか?
詩森 私が好きでいいなと思う役者さんは、男女に関係なく、何をバックボーンにその演技を出してくるのかわからない人なんです。林田さんが私にとって良い芝居をしているけれど、何をもってそれをしているのかはまったくわからない。でもわからないからまた一緒に作業したくなるんです。そして、作品を大事にしてくれる、サボらずに読んできてくれる、つねに私が書いたもの以上のものを見せてくれる、そこは信頼しています。真ん中を取っていける人だと思うし、一緒に問題の核心を取っていけるというのは大事だと思います。
──そういう意味では『残花』での共同作業は見事でした。
詩森 今回は創作だから、園井恵子さんをやるのとは違うでしょう?
林田 全然違います!(笑)
詩森 私も『残花』はプレッシャーでした。私よりその人を愛している人が沢山いるわけですから。今回は、まったくの創作なので、そういう意味では楽しみしかない。
林田 楽しいんですけど、まったくゼロからというのは、取っかかりを見つけるまでがたいへんです。
──最後に『アンネの日』公演に向けて、改めてメッセージをいただければ。
詩森 女性の問題だけでなく、今の社会が抱えている問題を多層的に考えることができる、そういう題材にたどり着けたこと、それをこのメンバーで出来ることが嬉しいです。小さなナプキンの話からグローバルに話は広がっていって、まさにそこには宇宙があります。観にきていただいたお客様にとっても、どこかで重なる話になればいいなと思います。
林田 お客様が観てくださって、どういう反応をいただけるのか、それがすごく楽しみです。今回、8人の女性それぞれ生き方があって、女性のお客様は、どの役かにご自身やどなたかを重ねて観る部分があると思います。女性を語ることは男性を語ることになるし、それは人間を、社会を語ることだと思います。ですから、ぜひ男性にも観ていただきたいです。

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林田麻里・詩森ろば

しもりろば○岩手県出身。1993年、劇団風琴工房旗揚げ。以後すべての脚本と演出を担当。03年『紅き深爪』で劇作家協会新人戯曲賞優秀賞受賞。13年『国語の時間』(作・演出)で読売演劇大賞優秀作品賞を受賞。16年NPO法人いわてアートサポートセンター主催公演『残花─0945 さくら隊 園井恵子─』と風琴工房企画製作公演『insider』で第五十一紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。今後の予定としては、9月20日〜10月1日劇団俳優座『海の凹凸』(作)、12月風琴工房『ちゅらと修羅』(作・演出)が控えている。

はやしだまり○福岡県出身。映像と舞台で活躍中。第48回紀伊國屋演劇賞個人賞受賞。最近の主な出演作品は、映画『天空の蜂』『おくりびと』『アキレスと亀』『×××KISS KISS KISS』『LOCO DD 日本全国どこでもアイドル』、ドラマ『相棒』『明日、ママがいない』『アイアングランマ』『ガチ★星』『A LIFE〜愛しき人〜』『ボク、運命の人です。』、舞台『虚像の礎』『儚みのしつらえ』『たわけ者の血潮』(いずれもTRASH MASTERS)『エル・スール』『スィートホーム』『残花ー1945 さくら隊 園井恵子ー』『素晴らしい一日 2017』朗読劇『少年口伝隊一九四五』など。

【稽古場レポート】
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稽古場に組まれているのは、企画開発チームの会議用の机と椅子。これからランチミーティングが始まるところだ。リーダーの津和(林田麻里)が、会社の新プロジェクトの候補に、このチームが企画した「自然派ナプキン」が取り上げられたことを報告。メンバーたちから喜びの声があがる。

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左から杉本沙也加(笹野鈴々音)、今野裕美(熊坂理恵子)、河東響子(伊藤弘子)、津和苑子(林田麻里)、土井加奈子(石村みか)、田保明美(ザンヨウコ)、志田英華(葛木英)、後方に島村理央(ししどともこ)。

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ミーティング中にドアにノックの音がする。開発チーム入りを希望したが、会社に聞き入れてもらえなかった総務部の島村理央(ししどともこ)が、チームへの参加を直談判にきたのだ。

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戸惑うメンバーたち。津和は断るが、せめて話だけでも聞かせてほしいと粘る理央。理央(ししどともこ)、今野(熊坂理恵子)、河東(伊藤弘子)
 
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島村理央という名前を聞いて志田(葛木英)が思い当たる。

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杉本(笹野鈴々音)も、「あなたが理央さん!会いたかった」と歓迎。そして、理央からなぜ開発に加わりたいのかという理由が語られる。

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それを聞いたチームの中で、理央の参加の可否を、改めて話し合うことになる。河東(伊藤弘子)、津和(林田麻里)、土井(石村みか)
 
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自分自身も問題を抱えていることから、理央の立場にナーバスな反応をしてしまう今野(熊坂理恵子)。そんな今野を気づかって、田保(ザンヨウコ)は「大丈夫だよ。今野の気持ちは島村さんにもわかっていると思うよ」と慰め、元気づける。 

稽古はここまでだったが、この場面がやがて開発チームの団結へと大きく繋がっていく。

8人の女性たちには、それぞれが生きてきた背景があり、また、新製品開発のプロセスを通して、今の日本社会、そして世界の状況に、いやおうなく向き合うことになる。そんな現実の中で、理想の商品開発という夢に、それぞれの想いや生き甲斐を託して、立ち向かっていく女性たち。その凜々しさ、頼もしさ。女性だけでなく男性にとっても、勇気と共感を与えてくれるような、優しく、力強い作品ができあがった。


〈公演情報〉
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MITAKA“NEXT”Selection 18th
風琴工房『アンネの日』
作・演出◇詩森ろば
出演◇林田麻里、伊藤弘子(流山児★事務所)、石村みか(てがみ座)、ザンヨウコ、葛木 英(クロムモリブデン)、笹野鈴々音、熊坂理恵子、ししどともこ
●9/8〜18◎三鷹市芸術文化センター 星のホール
〈料金〉
一般/前売3,800円・当日4,000円 
学生/2,000円(前売・当日とも)
高校生以下/1,000円(前売・当日とも)
障がい者/1,000円(前売・当日とも/当日障がい者手帳拝見)




【取材・文・撮影(稽古場)/榊原和子 撮影(人物)/安川啓太 舞台写真提供/風琴工房】





細貝圭 佐藤祐基 加藤虎ノ介『オーファンズ』


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