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彩の国さいたま芸術劇場を拠点に、国内はもとよりパリ、香港など海外でも積極的に公演を行ってきた高齢者演劇集団「さいたまゴールド・シアター」。 
 
故・蜷川幸雄が、2006年にこの劇場の芸術監督就任したとき、第一に取り組むべき事業として立ち上げた劇団で、第1回公演の岩松了を皮切りに、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、松井周、清水邦夫と優れた劇作家たちの戯曲を、蜷川演出によって上演。同じく、さいたま芸術劇場を拠点とする若手演劇集団「さいたまネクスト・シアター」とのコラボで成果をあげた『リチャード二世』など、大きな実績を積み上げている。
そのゴールド・シアターの6年ぶりとなる新作公演『薄い桃色のかたまり』が、彩の国さいたま芸術劇場インサイド・シアターで、9月21日に幕を開ける。(10月1日まで)
 
この作品『薄い桃色のかたまり』は、岩松了の書き下ろし新作で、第1回公演『船上のピクニック』(2007年)、第5回公演『ルート99』(2011年)に続く3作目。劇作のモチーフとなっているのは「福島」。
岩松の近作『少女ミウ』(本年5月〜6月)でも「東日本大震災」をモチーフに、若手キャストを中心とした群像劇を描いていたが、本作品では、平均年齢78.0歳のゴールドのメンバーとともに「福島」を描くことで注目されている。
また、これまでのゴールド・シアター公演と大きく異なるのは、演出も岩松が手がけていることで、その演出への取り組みについて、岩松は広報誌(埼玉アーツシアター通信第70号)の中で、こんなふうに話している。

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通常、僕が書く戯曲は正確さを求めた、スピード感ある対話劇で、それによって緊張感やある空気を生んだりする芝居です。でも彼らとやりたいことはそれではないし、ゴールドの人たちがこれを聞いたら怒るかもしれませんけれど、『セリフを覚えきれないかもしれない』前提で本を書くと思うんです。でもこれはマイナス要素ではなくて、僕の中に新しい演劇的な意味合いが生まれるチャンスだと思っている。そういった状況でも演劇が成り立つというのは、これまで試したことがないことですから。ヘンな話、僕が今まで築いたものを壊そうとする人たちが演じるワケです。そこから生まれるドラマ性があればいいなと。10年前だったら、こんなこと思いもしなかったと思う。」

おそらく岩松了にとっても、未知の領域であるにちがいないゴールドとの創作現場。初日も迫ってきたある日、その稽古を目にする機会を得た。

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【あらすじ】
未曽有の大震災から6年が経った。
住人がいない地域では、動物たちが、とりわけ、イノシシが我がもの顔に人家への出入りを繰り返すという事態になっていた。
一時避難を余儀なくされている添田家では、やがて帰還するために、少しずつ家の修復をしようとしていた。集まっているのは復興に尽力するとともに添田家を励ます人たちだ。
ある日、添田家の働き頭の長男、学がイノシシに襲われ怪我を負ったところを復興本社に勤めるハタヤマが救った。
一方で、線路が見える丘の上には、ひとりの若い男が立っていた。男は恋人が乗るはずだった、走って来るはずのない列車を見に来るのだった。
その頃、東京から北へ向かう列車には恋人を探しに来たミドリが女たちと共に乗り合わせていた――。

【稽古場レポート】
 
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今回のタイトルの『薄い桃色のかたまり』とは、今年の春、帰還困難地区を岩松了が訪れた際に見た、満開の桜並木からとったという。舞台になるのはそんな場所だ。

この日の稽古場面は、線路を復旧させるために力を合わせて1日中働いた住人たちが、夕方に集会場に集まって、踊り、飲み、食べながら、復興への期待と不安を話し合うシーン。
ゴールド・シアターとネクスト・シアターのメンバーが長いテーブルを取り囲んで座り、ゴールドの高齢のメンバーの動きなどを、ネクストの若者たちが慣れた様子でフォローしながら、芝居が進んで行く。それはそのまま地域の共同体の自然な暮らしそのものにも見える。

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そこへ復興会社のハタヤマがやってきて、座は盛り上がる。イノシシ事件で活躍し、東京本社とのパイプ役をつとめるハタヤマへの期待は大きく、復興予算に関する陳情書の結果を尋ねるが、ハタヤマの口から返ってきたのは…。現地担当としての想いと東京本社の意向とに引き裂かれるハタヤマの姿に、被災地のリアルな現実が重なる。

そんなハタヤマの言葉は、やがて彼が見たイノシシの行動と「イノシシの意志」へと向けられていく。「イノシシたちは、復興を望んでいるのか、あるいはそれを阻止しようとしているのか、そのことが判然としなくなったのです」。妄想なのか、メタファーなのか、あるいは本当にイノシシに意志はあるのか…。岩松戯曲ならではの幻惑的な言葉のやりとりを、日常会話として引き寄せ展開していく出演者たち。シェイクスピアから現代劇まで、多彩な戯曲で鍛えられてきたゴールドとネクストの俳優たちの底力がうかがえるシーンだ。

いきなりハタヤマがうずくまる。イノシシと闘った時の傷のせいではないかと心配する住人たち。苦しげに呟くハタヤマ。「今私がどこにいるのか。どんな季節の中にいるのか。……私はわからない」。見えないところで深い傷を負っているようなハタヤマのモノローグによって、時と季節を喪失してしまったような被災地の風景が、目の前に一気に立ち上がってくる。


【インタビュー】


賑やかで活気に満ちた稽古場の一隅で、ゴールド・シアターのメンバーで、今回、夫婦役を演じている遠山陽一と百元夏繪に、岩松作品と演出について話してもらった。

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遠山陽一(クボ役)
これまで12年間、蜷川さんの演出でお芝居をしてきましたが、今回、初めての岩松さんの演出ということで、とても新鮮な気持ちで取り組んでいます。
岩松さんの台本は3本目になりますが、いつも捻りがあって面白いですね。セリフが普通じゃないんですよね。今回も例えば、ひとが踊っているのを見て、女房が「誰、あの人たちは?」と言うと、「何を言ってるんだ、オレたちじゃないか」と答えるんです。ずっと前の、家を建てたときの記憶を、そういう形で喋らせられるんです。そういうところが、すごくいいなと思います。
今回の作品での見どころの1つは、さっきのセリフの場面で、停電中に夫婦でダンスを踊るんです。そこはみんなにも評判がいいので、ぜひ注目してください(笑)。それから、僕のセリフではないのですが、「目の前から色がなくなってしまった」という言葉が出てくるんです。違う町になってしまったという、そういう辛さや、いまだに帰れない方たちがいることとか、そういう「福島」のことを、この芝居で思い出してもらえたらと思います。

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百元夏繪(久保役)
今回、初めての岩松さんの演出ですが、演出の意図をはっきり伝えていただけるので、とても楽しく稽古しています。一番感じることは、例えばセリフを言う人の位置が遠かったら、蜷川さんの場合は、その人は動かさずに、言う人を近い人に変えてしまうんです。でも岩松さんは言う人の位置を動かすんです。たぶんその人固有のセリフを書かれているんだなと思いました。
私の役柄は、遠山さんと夫婦役で、ダンスのシーンは震災直後で、停電の中でお茶碗でお茶を飲むような、そういう場面で、あの頃を思い出される方も多いと思います。でもそんな夫なのに、他の女性にも気があるんです(笑)。6年という月日の中で、人の気持ちも変化があるという、すごく人間くさい部分も描かれています。笑いもあります。その中で、「福島」のことを思い起こしていただければいいですね。
この作品は、さいたまゴールド・シアターの新しい一歩だと思います。それにふさわしい素晴らしい台本をいただいたので、みんなで頑張って、これまで積み重ねてきたものを大事に、前に進んでいければと思っています。

 
〈公演情報〉
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さいたまゴールド・シアター第7回公演
『薄い桃色のかたまり』 
作・演出◇岩松 了
出演◇
さいたまゴールド・シアター/
石井菖子、石川佳代、宇畑 稔、大串三和子、小渕光世、葛西 弘、神尾冨美子、上村正子、北澤雅章、小林允子、佐藤禮子、重本惠津子、田内一子、眦沈深O此盒 清、滝澤多江、竹居正武、谷川美枝、田村律子、ちの弘子、都村敏子、寺村耀子、遠山陽一、納敬子、中野富吉、中村絹江、林田惠子、百元夏繪、益田ひろ子、美坂公子、宮田道代、森下竜一、吉久智恵子、渡邉杏奴
ゲスト/岡田 正
さいたまネクスト・シアター/周本絵梨香、竪山隼太、堀 源起、茂手木桜子、内田健司、中西 晶、市野将理、白川 大、續木淳平、井上夕貴、佐藤 蛍、鈴木真之介、盒怯儡
 
●9/21〜10/1◎彩の国さいたま芸術劇場インサイド・シアター(大ホール内)
〈料金〉4,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉SAFチケットセンター 0570-064-939(彩の国さいたま芸術劇場休館日を除く10:00〜19:00)
〈公演HP〉 
https://www.saf.or.jp



【取材・文・撮影(人物)/榊原和子 稽古撮影/宮川舞子】




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