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結婚前夜の男女と、双方の親という4人だけの出演者で描かれる、緩急自在な会話劇『ミッドナイト・イン・バリ〜史上最悪の結婚前夜〜』が、日比谷のシアタークリエで上演中だ(29日まで)。

『ミッドナイト・イン・バリ〜史上最悪の結婚前夜〜』は、現在絶賛放映中のNHK連続テレビ小説『ひよっこ』を手掛ける国民的脚本家・岡田惠和が書き下ろした舞台戯曲。『60歳のラブ・レター』『いつまた、君と〜何日君再来〜』などの大ヒット映画で知られる映画監督深川栄洋が、初の舞台演出に挑み、その美貌はもちろん、近年心境著しい演技派としても評価の高い栗山千明、舞台はもちろん、テレビドラマ、バラエティでも活躍する溝端淳平、映画・ドラマ等で変わらぬチャーミングな存在感を見せる浅田美代子、俳優だけでなく歌手としての活動も目覚ましい中村雅俊という、バラエティあふれるキャストが集結。あらゆる意味での化学反応が巻き起こる舞台となっている。

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【STORY】

加賀美幸子(栗山千明)と木暮治(溝端淳平)は明日行われる二人の結婚式の為、バリ島のコテージに宿泊している。だが、外は生憎の暴風雨。結婚前夜に外に出ることもままならない悪天候に、マリッジブルーの幸子の気持ちは揺れ動き、作家を志しているものの、現在はフリーターである治への不満が噴出。平和主義者で争いを好まない治は、幸子にほぼ言われっぱなしになりながらオロオロするばかり。
幸子の母親の敏子(浅田美代子)は、そんな二人の様子を見ながら止めるでもなく、むしろ今ならまだ間に合う、結婚などやめてしまえば?と言い出す始末。敏子はそもそもこの結婚が気に入らないのだ。そんな母親の態度にもいらだつ幸子は、治だけでなく敏子とも言い争いをはじめてしまう。そこへ治の父親の久男(中村雅俊)が大雨の中を遅れて到着する。だが、久男を見た敏子がほぼパニック状態になったことから、その場はさらに混乱。やがてそれぞれの意外な過去が明らかになり、事態は思わぬ方向へと進んで行く。果たして幸子と治の結婚式は滞りなく挙げられるのだろうか……?

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下手にこの作品の音楽も担当する荻野清子のピアノの生演奏をはじめ、舞台を彩る演奏家たち。上手側に扉。更にその扉からの出入りの様子が見える窓の外が広がる、全体をバリ島のコテージにしつらえた舞台で、たった4人の俳優が繰り広げるノンストップ約100分の会話劇と言えば、非常に緊迫感があふれたものを想像するのではないだろうか。もちろん実際にこの舞台も、ポンポンと続く会話と会話の応酬が、ハイスピードだし、かなりシビアなもの含まれていていて、緊張感もほどよくあるのだが、そこに非常に巧みな緩急と、笑いと、ペーソスが織りなされているので、全く息苦しさを感じずに、展開されていくドラマに浸ることができる。
特に、幸子が母親に抱えている鬱屈がわかると、なぜそうならざるを得なかったのか?の母親敏子の過去がわかり、そこにはあっと驚く治の父親の久男の存在が関係していたことがわかり、そこから、なぜ治が平和主義者と言う名の事なかれ主義を貫くようになったのかがわかり、更に、更に、と展開していくドラマが、あまりにも自然に大きな驚きを抱えながらつながっていく見事さには、驚嘆させられる。

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この怒涛の展開に巻き込まれ、まるで客席にいて劇中の登場人物と同じ驚き、同じ喜び、同じ悲しみを共有しているかのような気持ちになれるのは、目の前で体温を感じる人が演じる演劇の強みならではの世界だし、100分という長丁場を、4人の会話だけでもたせるというのも、映像では考えられない手法だろう。これは映像畑で押しも押されもせぬ名声を勝ち取っている脚本家の岡田惠和の言葉通りの「舞台でなければ描けない、舞台だからこそ描きたかった物語」に他ならず、彼の舞台戯曲第1作だった『スタンド・バイ・ユー〜家庭内再婚〜』の経験から、この大脚本家が「舞台」の特性を更に活かす術を手に入れたことがわかる、優れた作品になっていた。

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更に、そんな戯曲を生き生きと舞台に乗せた演出の深川栄洋の、ある意味初めての舞台演出だからこその自由さ、遊び心が効いている。中でも特徴的なのは、元々の戯曲にはなかったという、登場人物たちが驚きの展開を迎えた折などに突然歌い出すシーンが織り込まれたことだ。この突然歌い出す、突然踊り出すという流れに、最も親和性があるのは「舞台演劇」の世界なのは間違いないから、唐突にかつ真剣に歌い出す出演者一同に、呆気にとられるではなく、素直に大笑いさせてもらえる。大変失礼ながら、あまり歌唱力には秀でていないメンバーもいるのだが、それが逆になんとも言えない良い味になっていて、朗々と歌う「ミュージカル」とは全く違う歌とダンスの使い方が面白い。

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何より、様々なトラウマをそれぞれに抱えた登場人物たちが、それ故に至ったものの考え方や性格を「明日から変えてみよう」「幾つになっても新しい生き方をすれば良い」と思い至るやさしさが、作品をなんとも温かいものにしているのが心地良い。治に代表されるように登場人物たちの性格が、揃って前向きでパワフルという訳では決してない中で、新しい明日は誰にとっても新しい可能性のあふれた一日と思わせてくれる、そっと背中を押してくれるドラマが胸にしみた。

そんな作品で、膨大な台詞と、歌と踊りに取り組んだ4人の出演者たちの個性が際立っているのも、舞台を更に奥深いものにしていて素晴らしい。

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結婚を明日に控えた幸子を演じる栗山千明は、自分の人生の大きな決断の前に揺れ動く女性の心と、それ故の苛立ちを巧みに表現している。例えそれが結婚でなくても、大きな決断をする時に迷った経験のない人を探した方が早いだろうし、その時ちょっと八つ当たりをしてしまったり、他者に責任転嫁をしたくなってしまったりするのは、誰にでも覚えのあることで、そんな幸子を栗山が魅力的に演じてくれているから、更に共感しやすいキャラクターになっていて見事。ふとした仕草や表情も時に見惚れるほど美しく、舞台作品への出演は5年ぶりとのことだが、今後も、是非舞台にも積極的に登場して欲しい人だ。

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治の溝端淳平は、持ち前の爽やかな二枚目ぶりを、眼鏡や猫背になりがちの姿勢の中に封じ込めて、いつも人の顔色を見て自分の意見を言わない治を、まず視覚から確実に描き出している。更に溝端が元々持っている温かな芸風が役に生き、なぜ治がそのような生き方を選択し、それが性格にまでなっていったのか?がつまびらかになる後半はもちろん、初登場時点から一度も「はっきりしない男性だな」とか「うじうじしている」とか、ネガティブにつながる感情を、治という人物に感じさせなかったのは溝端の資質と演技力の賜物。この舞台の4人の出演者の中では最も舞台出演経験が豊富な人になるだろうが、その溝端が余裕綽々ではなく、如何にも一生懸命歌って踊っているのも初々しさにつながって、良い効果となっていた。

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幸子の母親・敏子の浅田美代子は、かなり辛辣でシビアな母親として登場して、世間一般でもここ数年で一気に表面化してきた「母娘」の間に横たわり勝ちな確執を、幸子との間に持っていることも、さもありなんと思わせるキャラクターをシニカルに演じている。だが、そこは元祖アイドルで、今なお茶の間の人気者である浅田のこと。そんな敏子像がただ厳格なだけではなく柔らかさも残すから、性格が変わるきっかけとなった大きなできごとが明かされても、現在の敏子と乖離しない。そのことが、言い争いながらも、心の底では互いを思い合っている母と娘の関係性を絵空事にしなかったのも、ドラマに優しさを生んでいた。

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初登場時点から衣装も華やかに、テンション高く登場する治の父親・久男の中村雅俊は、作品の鍵を握る役どころ。元グループサウンズのメンバーだった、という久男の過去が、大きな驚きと共にドラマを転がしていくだけに、舞台に嵐を呼ばなければならないが、その役割をおおらかな芸風とスター性が十二分に果たしている。歌手でもある人だけに、歌と踊りも堂に入っているし、この人からにじみ出るやさしさオーラ、大ヒット曲「ふれあい」に通じる温かみが、久男という役柄の、どこか神様のような純粋さと純愛に、リアリティーを与えていてこれはキャスティングの見事な勝利だった。

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何よりも、劇中歌「みんな愛してる」のタイトル通りに、観終わって自分以外の誰かを愛せることの素晴らしさがしみじみと感じられる舞台に仕上がっていて、もしかしたら貴方の名前も呼んでもらえるかも知れないよ?のお楽しみを含めて、是非シアター・クリエで、更に全国の劇場で、家族、恋人、友人、等々、大好きな誰かと体感してもらいたい作品となっている。

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〈公演情報〉
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『ミッドナイト・イン・バリ〜史上最悪の結婚前夜〜』
脚本◇岡田惠和
演出◇深川栄洋
音楽・演奏◇荻野清子
出演◇栗山千明、溝端淳平、浅田美代子、中村雅俊
●9/15〜29◎日比谷シアタークリエ
〈料金〉9.200円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777(9時半〜17時半)
〈公式ホームページ〉http://www.tohostage.com/midnight/

【全国ツアースケジュール】
●10/3日◎静岡・富士市文化会館 ロゼシアター
〈お問い合わせ〉富士市文化会館 ロゼシアター 0545-60-2500
●10/5◎愛知・愛知県芸術劇場
〈お問い合わせ〉キョードー東海 052-972-7466
●10/7〜8◎大阪・サンケイホールブリーゼ
〈お問い合わせ〉ブリーゼチケットセンター 06-6341-8888
●10/10◎福岡・久留米シティプラザ
〈お問い合わせ〉ピクニックチケットセンター 050-3539-8330
●10/12◎鹿児島・鹿児島市民文化ホール第2
〈お問い合わせ〉ピクニックチケットセンター 050-3539-8330
●10/14◎山口・ルネッサながと
〈お問い合わせ〉 ルネッサながと 0837-26-6001
●10/17◎岡山・岡山市民会館
〈お問い合わせ〉 岡山市民会館 086-223-2165
●10/19◎愛知・豊川市文化会館
〈お問い合わせ〉(公社)豊川文化協会 0533-89-7082
●10/22◎新潟・りゅーとぴあ
〈お問い合わせ〉りゅーとぴあチケット専用ダイヤル 025-224-5521
●10/24◎岩手・岩手県民会館
〈お問い合わせ〉岩手県民会館 事業課 019-624-1173
●10/29◎千葉・印西市文化ホール
〈お問い合わせ〉印西市文化ホール 0476-42-8811
●10/31〜11/11◎金沢・北國新聞赤羽ホール
〈お問い合わせ〉一般財団法人北國芸術振興財団 076-260-3555




【取材・文・撮影/橘涼香】


唐組『動物園が消える日』
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