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KAAT×パルコ プロデュース公演『オーランドー』が、KAAT神奈川芸術劇場にて9月23日に幕を開けた(10月9日まで。のち新国立劇場 中劇場で10月26日〜29日上演)。

日本初演となる本作は、20世紀モダニズム文学の重鎮で最も有名な女流作家のひとりであるヴァージニア・ウルフの代表作を、1974年生まれのアメリカの劇作家サラ・ルールが翻案。サリー・ポッター監督の映画『オルランド』(1992年)でも知られる人物オーランドーを、現代的に甦らせる。奇想天外なストーリーながらも、数奇な運命をたどるオーランドーの人生をなぞり、“真の運命の相手には時代も国も性別も関係なく巡り合えるはず!”というヴァージニア・ウルフの強いメッセージが感じられる作品となっている。
 
演出するのは、KAAT神奈川芸術劇場の芸術監督・白井晃。これまでKAATプロデュース公演で演出してきた『ペール・ギュント』『夢の劇―ドリーム・プレイ―』『マハゴニー市の興亡』など、上質でアカデミックな印象の作風を踏襲しつつも、わずか 6名の俳優で、これまでとはひと味異なった新たな表現に挑戦する。
 
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出演は、あらゆる女性を虜にする美貌の青年貴族オーランドー役に多部未華子。オーランドーを寵愛するエリザベス女王には小日向文世。さらに、TEAM NACSの戸次重幸や、池田鉄洋、野間口徹らが、年代や性別の異なる複数の人物を演じ分ける。また若手女優の小芝風花がミステリアなロシアの姫君サーシャに抜擢されている。 
 
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【あらすじ】
16世紀のイングランドに生を受けた少年貴族オーランドー(多部未華子)は、エリザベス女王(小日向文世)をはじめ、あらゆる女性を虜にする美貌の持ち主。しかし初めて恋に落ちたロシアの美姫サーシャ(小芝風花)には手ひどくフラれてしまう。傷心のオーランドーはトルコに渡る。その地で30歳を迎えた彼は、なんと一夜にして艶やかな女性に変身! オーランドーは18世紀、19世紀と時を超えて生き続け、またもや運命の人に会い、それから…。
 
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舞台上手に楽器隊のパーカッションの相川瞳とサックスの鈴木広志。下手にグランドピアノの林正樹。ほとんどが素舞台で舞台奥にホリゾントが垂れている。舞台上は、まるで時が止まった感覚。ホリゾントには映像が投射されるのだが、時代を特定させたり時間の流れを感じさせない。ピアノの奥の方から1枚の抽象画が描かれた板が降りてくる。そこは役者たちが役を替える場所でもある。自在に性と時を超えるためのこの美術は松井るみ。また、奏でられる林正樹の音楽は、クラシックやジャズ、ワールドミュージックを取り入れた、現代でしか味わえない趣の音楽なのだが、それでも16世紀でありつつ16世紀でないとも感じる。シンプルでいて印象深いメロディだ。

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オープニングは16世紀から。物語が始まるとホリゾントに海が映し出される。オーランドーに重大な試練の航海が待ち受けているのか。はたまた幸せの航海となるのか…。
柔らかなムードの音楽とともにオーランドーが登場し、次々にコーラス隊が登場する。戸次重幸、池田鉄洋、野間口徹、小日向文世、そして小芝風花。狂言回しのように次々に時代背景を説明する彼らは、8月から稽古をしていたというだけあって、リズムや掛け合いがみごとだ。

そして1枚の樫の木の描かれた幕がホリゾントに降りてくる。その樹は、詩人になろうと志しているオーランドーが夢みる「壮大な詩」を象徴しているように見える。だがまだ、この場面の彼は、その大樹の下で詩を推敲するばかりだ。イノセントで、屈託のなさが魅力の、夢みがちな若者を演じる多部未華子は、男装がよく似合って初々しい。
 
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サックスが高らかに鳴り響くと小日向文世のエリザベス女王が従者を従えてやってくる。女王は、オーランドーをいたく気に入り宮廷に招き入れる。そこから宮廷人としての暮らしが始まるのだが、そんな日々に飽き飽きしたオーランドーは、小間使いの若い娘(小芝風花)をはじめ、様々な女性たちとの恋の火遊びにふける。
エリザベス女王の小日向文世の華やかなコメディエンヌぶりをはじめ、貴婦人たちに扮した戸次重幸、池田鉄洋、野間口徹の怪演と、ちょっとブラックな笑いと風刺の中で、オーランドーの恋の遍歴が繰り広げられる。

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やがて17世紀、イギリスを大寒波が襲う。成人したオーランドーの前に、スケートで颯爽と現れたのは、美しいロシアの姫君サーシャ(小芝風花)。オーランドーは一目惚れをするが、自由で奔放な彼女に裏切られ、痛手を抱えて、トルコ大使としてコンスタンチノープルへの赴任を願いでる。その赴任先で、オーランドーは女性へと変身。そこまでが前半で、やがてオーランドーは時を超え、なんと21世紀まで生き続けることになるのだ。

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ファンタジックで奇想天外なこの物語にふさわしく、舞台美術は抽象的で自由で幻想的だ。時と場所を自由に飛翔するために、装置は極めて少なく、映像や布、照明の力を駆使しながら、物語を進めていく。

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対照的に衣装は具体的で、時代と国の違いや、男女の差を反映させている。それは、この荒唐無稽な物語で、作者ヴァージニア・ウルフが、また、戯曲に翻案したサラ・ルールが、そして、演出の白井晃が表現しようとした、「性の逆転によって何が見えてくるか」というテーマを語るうえで、欠かせない仕掛けなのだ。

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そして男装する女優、女装する男優というかたちで、俳優たちの性が逆転させ、また、元に戻してみせることで、性差の意味、あるいは男性と女性という概念を消失させ、つまりは時間を超越した存在、イデアであり、普遍的な魂なのだと訴えかけてくる。
演出の白井晃は、そんな深遠なテーマを、たった6人の俳優たちによって、生き生きと、笑いと切なさ、そして厳粛ささえ感じさせながら描き出してみせる。どこまでも壮大で不思議なファンタジー、そしてどこか滑稽で美しい1つの魂の記録である。

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この作品の演出家、白井晃インタビューはこちら
http://kangekiyoho.blog.jp/archives/52036311.html

〈公演情報〉 
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KAAT×パルコ プロデュース公演『オーランドー』 
原作◇ヴァージニア・ウルフ
翻案・脚本◇サラ・ルール
翻訳◇小田島恒志/小田島則子
演出◇白井晃 
出演◇多部未華子 小芝風花 戸次重幸 池田鉄洋 野間口徹 小日向文世
演奏◇林正樹 相川瞳 鈴木広志
●9/23〜10/9◎KAAT 神奈川芸術劇場 ホール 
●10/26〜29◎新国立劇場 中劇場
●10/18◎松本市民芸術館
●10/21・22◎庫県立芸術文化センター
〈お問い合わせ〉チケットかながわ 0570-015-415 (10:00〜18:00) 
パルコステージ 03-3477-5858 (月〜土11:00〜19:00/日・祝11:00〜15:00) 
 


【取材・文・撮影/竹下力】



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