s_IMG_0046

前川知大の傑作戯曲で、劇団イキウメの代表作の1つ『関数ドミノ』が、劇団外で初めて上演され、10月4日に本多劇場で幕を開ける。(15日まで。その後、九州、北海道、兵庫公演あり)
 
今回の演出は、劇団tsumazuki no ishi主宰の寺十吾が手がけ、出演は『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』に続けて前川戯曲に挑む瀬戸康史をはじめ、柄本時生、小島藤子、鈴木裕樹、山田悠介、池岡亮介、八幡みゆき、千葉雅子、勝村政信と多彩な顔ぶれが揃った。
 
物語は、とある交通事故で起きた「奇跡」と、それを解き明かそうとする人々の思惑や欲望を、前川作品ならではの超常現象的アプローチで浮かび上がらせるというもの。
 
イキウメの大ファンを自負する瀬戸が、作者の前川知大とともに本作の見どころと、真壁役への意欲を語った「えんぶ10月号」のインタビューを、別バージョンの写真とともにご紹介する。

s_IMG_0012
瀬戸康史 前川知大  

最初のドミノを倒せば、人生をコントロールできる

──まず、この作品のモチーフはどこから?
前川 初演がちょうど「カオス理論」が流行り始めた頃で、『バタフライ・エフェクト』(04年/アメリカ)という映画も作られてヒットしたんですが、自然現象にちょっとした力を加えることで、蝶の羽ばたきが台風になるとか、ほんのちょっとしたことで、すごい結果を出しちゃうみたいなことなんですが。
瀬戸 力が連鎖していくんですね?
前川 ドミノみたいにね。大きな出来事の原因を突き詰めていったら、結果的に小さいところにある。それってちょっと人生っぽい感じがするじゃないですか。なんかそういう、最初のこのドミノを倒せば、人生がコントロールできるみたいな。そこらへんからアイデアから始まったんです。
──関数との関係は?
前川 関数は方程式を書けばわかりやすいのですが、例えとしてはブラックボックスという謎の箱があって、何か入れるとその結果が出てくる。その謎の箱が「関数」であり、この作品では「ドミノ」で、その「ドミノ」とは、いったい何なのかという話になっています。
──なるほど、絶妙なネーミングですね。
前川 ものすごく気に入っているタイトルです(笑)。
──瀬戸さんはこの『関数ドミノ』という作品が大好きで、待望の出演だそうですが。
瀬戸 僕は2014年版を観たんですが、「奇跡」というものと、それを取り巻く人間関係が生々しくて、面白いなと。もともとイキウメが好きで、ある時期から必ず観に行くようになって。昨年、『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』で前川さんの作品に出られて、その時も嬉しかったんですけど、続けて前川さんの作品に出演できるのは、それこそドミノじゃないですけど、連鎖的な運命的なものを勝手に感じています(笑)。

jpg修正済み

単なる二枚目じゃないほうが面白くなる役者だと

──『遠野物語』の瀬戸さんは、ササキ役で強い印象を残しました。
前川 ササキは伝承を語るうちに憑依しちゃうような役どころだったんですが、瀬戸くんは稽古場から、まるで憑依したような演技を見せてくれました。もちろん、すごく冷静に作れる俳優さんで、いわゆる憑依タイプではないと思いますが、人が変わったかのように、客席の空気をガラッと変えてしまう力があります。
瀬戸 あの時は確かに、憑依ってこういう感じなのかなという感覚があって、たぶん初めての経験だった気がします。今までは自分と役が半々ぐらいでしたが、ササキは誰かが自分を支配しているような感じがあって。言葉であの感覚を説明するのは難しいんですけど。
──瀬戸さんは映像では普通の好青年をよく演じていますが、舞台では意外と屈折感のある役が多くて、今回の真壁もかなり複雑な内面を持っていますね。
前川 作家とか演出家に、単なる二枚目よりはそうじゃない方が面白いと感じさせる人なんでしょうね。真壁はコンプレックスを持っていて、それもものすごく強いもので、それを納得させないとストーリーが通らない。瀬戸くんはきっとできるし面白いだろうなと。一方で、順風満帆な森魚という役を、今回、柄本時生くんがやる面白さがあると思うし、2人がうまくはまると絶対に面白くなるはずなんです。
──今回のラストは14年版ではなくて09年版に戻るそうですね。
前川 劇団公演では劇団の俳優にリライトするので、14年に安井(順平)さんが真壁をやった時、彼に合わせてかなり辛口なラストになったんです。今回は、カンパニー全体のイメージからも、09年版をポジティブに使うといいんじゃないかと。少し希望が見えるようなラストにしようと思っています。

s_IMG_0015

人間は自分で見えなくしている部分がある

──演出の寺十吾さんの印象は?
前川 演出作品も見ているし、俳優としてもよく知っていますが、僕としては楽しみでしかないですね。
瀬戸 寺十さんの作品は、とても丁寧に作られている印象があります。以前、この『関数ドミノ』のオーディションがあって、僕もアドバイスというかお話させていただく機会があったのですが、全くと言っていいほどNOと言わない方なんです。ちょっと意外でした。
前川 そういう人のほうが怖いかもしれない(笑)。
──そういう前川さんの演出は怖いのですか?
瀬戸 優しいです。『遠野物語』では、共通認識みたいなところから話し合って、1つ1つ積み重ねていく稽古場で、作品の理解も深まるし、スタッフさん含め、全員で1つの作品を作っている感じがすごくあって、本当に楽しかったです。
──前川さんの作品は共通言語、とくに超常的なものについての共通認識が欠かせないでしょうね。
瀬戸 僕は前川さんの話はすごくわかるんです。感覚が似ているといったらおこがましいのですが、霊的というかそういうものの存在を感じるし、見えないものに対する興味もものすごくあるので。人間って、自分で見えなくしている部分があるんじゃないかと思うんですよね。見ないようにするとか、なかったことにするとか、そのへんを前川さんの作品は気づかせてくれるんです。
──確かに「ドミノ」も、たとえば「念」とかに置き換えるとよくわかるのですが、日常の中で漠然と感じているものを、前川さんが論理的に表現してくれることで、改めて意識化させられるところがあります。
前川 瀬戸くんが言ったように、日常生活でそういうものを見ないことにしてしまうとか、見えないからないんだと了解をとっているのは、あまり面白くないので、この作品で「ドミノ」という現象として表現してみたわけですが。そういうものがあるのかなと思わせる力がある作品だと思っています。神社に行って何かを願うとき、とりあえず手を合わせるだけか、本気で祈るか、そこには差があるわけです。少なくともこの作品を見たあとは、本気で祈ってみるのも悪いことじゃないし、それでその人の何かが変われば、そっちの方が面白いと思っているので。

s_IMG_0071

早く瀬戸くんを「こいつ最悪だ」と思いたい!

──ますます期待が高まりますが、最後に観る方へメッセージを。
瀬戸 『関数ドミノ』を知っている方の中には、僕が真壁を演じることに違和感を抱く方もいるかもしれませんが、僕が真壁をやることで、観た方が共感してくださったり、僕が真壁をやる意味をきちんと感じていただけるようにしたいですね。
前川 僕が一番楽しみにしているのは瀬戸くんの真壁で、早く「こいつ最悪だ」と思いたいですね(笑)。みんなが少なからず持っている「人を妬んだり嫉妬したりする被害妄想」みたいなものを凝縮したような人間なので、絶対共感できるんだけど、共感と同時に嫌悪するから、観ている方たちにちゃんと嫌悪感を立ち上がらせることができたら、成功なので。
──瀬戸さんのファンが一瞬引いたりするかもしれませんね。
前川 ファンなのに、「こいつ最悪」って思っちゃったら成功ですね(笑)。ただ09年版は、最後に自分の価値にも気づいて、ちょっと前向きになるので、そこは瀬戸くんだからこそで。それに14年版の安井さんの真壁は孤独だったけれども、今回は理解者の女性が1人いて恵まれているんです。にも関わらずひがんで、世の中を恨んでいて(笑)。そういう真壁に瀬戸くんが説得力を持たせてくれたら、本当に面白くなると思う。
瀬戸 全ての言葉をプレッシャーに感じていますが(笑)、がんばります。


s_IMG_0040
前川知大 瀬戸康史

まえかわともひろ○新潟県柏崎市出身。03年結成のイキウメを主宰。日常に潜む異界を超常的な世界観で描く。13年からは、劇団の実験室「カタルシツ」を開始。最近の作品は『プレイヤー』『天の敵』『生きてる時間』『太陽』『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』。『太陽』は入江悠監督、『散歩する侵略者』は黒沢清監督により、映画化される。『散歩する侵略者』は、小説(角川文庫)発売中、映画が9/9より公開中、イキウメの舞台が10/27から上演となる。

せとこうじ○福岡県出身。2005年俳優デビュー。以降、舞台・映画・ドラマで幅広く活躍中。最近の出演作品は、ドラマは、NHK連続テレビ小説『あさが来た』『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』『幕末グルメ ブシメシ!』(主演)など。舞台は『マーキュリー・ファー』『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』『陥没』など。ドラマ『先に生まれただけの僕』(NTV系)が10月から放送開始、映画『ナラタージュ』が10/7公開、映画『ミックス。』が10/21公開される。

 〈公演情報〉
s_PR

『関数ドミノ』
作◇前川知大 
演出◇寺十吾
出演◇瀬戸康史 柄本時生 小島藤子 鈴木裕樹 山田悠介 池岡亮介 八幡みゆき 千葉雅子 勝村政信 
●10/4〜15◎本多劇場
九州、北海道、兵庫公演あり
〈お問い合わせ〉ワタナベエンターテインメント 03-5410-1885(平日11:00〜18:00)




【文/宮田華子 撮影/アラカワヤスコ】

 


唐組『動物園が消える日』
kick shop nikkan engeki