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後藤ひろひとの傑作『人間風車』が、東京芸術劇場プレイハウスにて9月28日より上演中だ(10月9日まで。その後、仙台公演の11月2日まで続く)。

舞台『人間風車』は、1997年に後藤ひろひとが劇団「遊気舎」に書き下し上演された。2000年には、パルコ劇場にてG2演出のもと、生瀬勝久、斉藤由貴、阿部サダヲ、八嶋智人、大倉孝二など錚々たるキャストが集結し再演。おかしな爆笑童話の世界から、一転して展開される恐怖のストーリーと凄まじいエンディングの衝撃度で演劇界の伝説となっている。さらに2003年には永作博美、入江雅人、河原雅彦らにより再演。
それから14年を経た今回は、03年でサム役を務めた河原雅彦を演出に迎え、キャストを一新、新たな『人間風車』として満を持して上演することになった。

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主演の売れない童話作家の平川役は、高い身体能力と演技力で八面六臂の活躍をする実力派俳優、成河(ソンハ)。ヒロインのアキラ役は存在感と透明感、確かな演技力に定評があるミムラ。そして、物語のキーとなる青年サム役は、バラエティ番組でブレイクを果たし唯一無二の存在感を放つ加藤諒。また、平川に憧れる則明少年には、『男水!』や『東京喰種トーキョーグール』に主演、人気急上昇中の松田凌。平川の友人でテレビ局で働く小杉にストレートプレイからミュージカル『ジャージーボーイズ』まで出演している若手演技派の矢崎広。同じく友人の国尾は、ライブ・スペクタクル『NARUTO-ナルト-』など2.5次元舞台からミュージカルまで幅広く活躍中の良知真次が演じる。さらに、元・キングオブコメディで、テレビや舞台の俳優にも挑戦中の今野浩喜、放送作家で個性派俳優でもある堀部圭亮など、多彩な役者が揃っている。

演出は、2003年版でサムを演じた河原雅彦。エンターテインメント性とカルトな世界観を両立させる独特な美学に定評がある彼が、どのような2017年版『人間風車』を作り上げるか注目を集めている。その作品の通し舞台稽古と囲み取材が初日の前に行われた。
 
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【あらすじ】
童話作家の平川(成河)は、作品のひねくれ度のせいで一冊の本も出版出来ない。それでも、新聞配達をしながら、せっせと童話を書いている。毎週末に怪獣公園と呼ばれる近所の公園で、平川は子供たちに自作のへんてこ童話を語って聞かせるのだった。友人の童話作家・国尾(良知真次)は作品を発表しろと忠告するが、平川はマイペースで、今日も公園で子供たちに話を聞かせている。そんなある日、子供たちと一緒に童話を聞く青年が現れた。彼の名前はおさむ。自らをサムと名乗る彼、サム(加藤諒)は平川の童話を聞くとすぐにその話を覚え、自分で工夫した衣裳を身にまとい童話の登場人物になりきって現れる。見た目は大人だが、まだ幼い少年のような言動の不可思議な青年だった。ある日、どうしてもお金が足りなくなり、大学時代の友人で今はテレビ局のディレクターをしている小杉(矢崎広)にお金を借りようと局を訪れた平川。ひょんなことで、女優でレポーターのアキラ(ミムラ)と知り合い、恋心が芽生える。そして平川はアキラと知り合ってついに傑作童話を書きあげる。しかしそのことが発端となって、平川は親友だと思っていた男に裏切られ、恋人からは誤解され、そして世間から見捨てられてしまう。理不尽な目に会い、転落した平川が取った行動とは…。

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舞台は、4人の幼い子供の母親が童話を朗読している。そして成河が演じる平川が登場し、舞台が明るくなると、平川の書いた童話のお話が劇中劇として始まる。中世の貴族の衣装をまとった貴族同士が、他国の王女を妃に迎えようとして諍いをしているのだが…。友情、信頼、そんな胸の熱くなるお話かと子供たちは期待するが、貴族は最終学歴を問われるなどファンタジー要素のかけらもないオチになり、平川はそれを嬉々として子供達の前で話す。

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売れない作家の平川は、同期の小杉(矢崎広)というテレビディレクターにお金を借りにテレビ局にいく。そこには元・女優でテレビキャスターを務めるアキラ(ミムラ)がいて、ある事件をきっかけに平川は密かに恋心を抱くようになる。そのことで次第に彼の内面に変化が現れ、自由な想像力の羽ばたきではないかと思わせてくれるファンタジーを追い求め始める。そして童話の文学賞へ応募を決心、彼は新しい童話を書くのだが…。   

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現実の世界と童話の世界が風車のようにとめどなく回る舞台なので、ほとんどの俳優が何役もこなす。変わらないのは、成河の平川と加藤諒のサムぐらいで、平川を中心とした世界がくるくる回っていき、誰も止めることのできない人間模様と、それが織りなす台風のような怒濤のストーリー展開が圧巻だ。
 
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成河の平川は童話作家らしい純粋さがあり、人を疑わない純真さもある。だがそんな彼が裏切りにあったことで、その想像力に秘められていたブラックな部分が噴出する。そんな劇的な人間を、成河ならではの豊かな表現力で見せ、観客を牽引していく。
 
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アキラのミムラは、一見、オープンマインドで屈託ない明るい女性なのだが、実は影を持っていて、その屈折感を美しい表情に覗かせる。

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サムの加藤諒は、まさにトリックスター。平川の作る物語のどんな主人公にでもなり切ってしまう青年として、あらゆる表現を駆使して、ストーリーに風を起こし続ける。打算も現実も関係ない、ファンタジーの世界こそが彼の世界なのだという説得力に溢れている。
 
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則明少年の松田凌は、公園に集まる子供たちの親分的な存在。そして平川に絶大な信頼を寄せている。平川の話のリアルなオチが大好きで、そんな少年の内面世界も感じさせ、独自の存在感がある。

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小杉の矢崎広は、テレビ業界アルアルを感じさせる人間で、アキラに密かに恋心を抱いているようだが、だが本気でもなさそうな、かなりチャラい男をフットワークよく演じてみせる。
 
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国尾の良知真次は、平川の良き理解者である一面とともに、相手より売れているという傲慢さを覗かせる。その人間くさくて小物な部分が物語の展開に大きな役割を担うのだが、そんなキャラクターを的確な演技で印象づけ、劇中のミュージカル部分でも大活躍。

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また、童話の王様かと思えば刑事役をこなしたりと、何役も演じ分けて、大活躍するのが、今野浩喜と堀部圭亮。刑事役でのどこか斜に構えた堀部と部下の今野も突っ込みも楽しいし、劇中劇での2人のボケの応酬は笑いをさらう。

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そのほか、則明の友だちの少年少女たち、のん役の菊池明明、かっつん役の山本圭祐などが子供の幼さを全開。小杉の部下、中野役の川村紗也はアキラが心を許せる存在感。小松利昌は童話賞の選考委員として物語の核心を背負うような不気味さがある。近所の親たちのリーダー紺野の佐藤真弓は、平川を毛嫌いしているが子供は言うことを聞かないというジレンマを感じさせる。

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注目すべきは石原敬の美術で、空へ伸びるように積み上げられた、まるでバベルの塔のようなセットは、今にも傾きそうなぐらい儚く、キッチュでポップでカラフルだ。回り舞台なので、童話の世界と現実世界、メリーゴーランドのように様々な仕掛けを見せて表情豊かだ。
 
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演出を手がける河原雅彦は、舞台上での現実と虚構の世界をシームレスに回転させながらスペクタクルを見せてくれる。その中で、次第に加藤諒のサムの存在が収拾がつかなくなるぐらいに早く回転し始める。そして浮かび上がる人間の暗部に吹き荒れる嵐、その猛々しさを感じさせて見事な演出だ。
 
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後藤ひろひとは、この作品で作家の仕事とその影響力というものを、自らにも突きつけながら、さらに普遍的な人間の内部へと洞察を広げていく。自らが求めるものと現実とのギャップにもがく人間たち。その果ての狂気を孕んだ人生をモチーフにした悲劇であるとともに、乗り越えた先には光が見えるような喜劇にも思える。悲劇と喜劇、人間たちは永遠にその風車の中で回り続けるのだ。
 
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矢崎広、良知真次、ミムラ、成河、加藤諒、松田凌
 
初日前に公開舞台稽古と囲みインタビューが行われ、成河、ミムラ、加藤諒、松田凌、良知真次、矢崎広が登壇した。

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──2003年以来、脚本も改定され、新演出になった『人間風車』の初日をいよいよ迎えます。
成河 約5週間、河原さんも粘り強く、僕たちにお付き合いいただいて、充実した稽古ができました。河原さんは役柄の繊細な部分にまで演出してくださり、たくさんディスカッションをしながら稽古ができたので、かけてきた時間と仲間を信じ、本番でもっともっと成長していきたいと思います。現代劇として14年のブランクをどう埋めるかを、後藤ひろひとさんもお考えになられて改訂してくださって感謝しています。今を生きている僕たちのリアルな感覚が届くように、お客さんにとって嘘のないものにすれば、この作品の本質的で普遍的な部分をお見せできると思っています。

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──ミムラさんご自身も大変な読書家で童話も好きだそうですが、平川の作る童話はいかがですか。
ミムラ 平川の作るお話は王道ではないのですが、時々ものすごい光を放つ原石もあると感じることがあって、ちょっと転がし方を変えれば、グンと作家としての腕を上げられるリアリティを感じられる人です。私は複数の役をやるのが初めてで、いつかやってみたいと思っていました。今回は3役をやらせていただくので楽しいです。それから、舞台特有の同じことを何回もできる楽しさがあって、体脂肪が5%落ちて、体重が5キロ増えました(笑)。

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──加藤さんのサムという役は作品のキーになりますが、今回挑戦したことはありますか。
加藤 今までは例えば喧嘩をするシーンは、受け身になることが多かったのですが、今回は攻めていくぞ!というところが挑戦ですね。

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──今回、稽古を通じて楽しかったことを教えてください。
矢崎 僕と松田くんは若手ですが、河原さんは若手に対しても細かくご指導くださいますし、先輩方の芝居を見ても勉強になりました。若手にとっては幸せな現場だと思う毎日の連続です。みなさん稽古場でもすごく仲良くしてくださって楽しかった。ご飯も何度も行ったんです。加藤くんが、攻めると言っていますが、稽古着からトラ柄の短パンを履いて、稽古から攻めていましたね。
加藤 そのこと今言う!?(笑)
成河 加藤くんは攻め間違えていますね(笑)。

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松田
 矢崎くんがおっしゃったように、素敵な先輩に恵まれました。お芝居の作り方から勉強になるし、河原さんと成河さんとミムラさんが役柄や重要なシーンで話しているところを拝見すると、羨ましくもあり、悔しくもあり、こんな自分も、もっと河原さんとお話できるような刺激的な現場に…。
成河 完璧だったもん。
松田 幕明けてないですからプレッシャーかけないでください(笑)。場当たりで、加藤くんが舞台から足を踏み外したことがあって、河原さんがお前みたいな生物の代わりはいないから、ちゃんと大事にしてくれと言われて、その通りだなと。加藤くんは唯一無二の人だと思いました。

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良知
 初挑戦のことが多くて、稽古場から新鮮な気持ちで、河原さんにお世話になって気持ちよく稽古をさせていただきました。稽古では成河さんに支えられたので、舞台上では僕が支えることがあるから、成河さんに何かお返しができるように頑張りたいと思います。
──演じる上で一番注意したところはありますか。
成河 平川はものすごく周りに振り回されて、葛藤したり振れ幅の大きな役なんですね。最後には人間の業を背負っていく部分も描かれていて、プレッシャーや責任も感じています。ただ、自分にとって嘘にならないように気をつけようと思いました。あまり見世物になりすぎないようにするのが一番大変ですが、やりがいを感じています。
ミムラ 後藤さんとお話をする機会があった時に、アキラはどんな女性ですかと聞きました。思ったことが口から出てしまうすごく瞬発力がある女性ということでした。もちろんダークな部分もあるんです。ただ、演出の河原さんからあまり沈み込まずに、あえて明るく表情や仕草で演技することで透けてくる裏側が見えたらいいというお話だったので、基本的には明るく溌剌とチャーミングに、その裏に何があるのか想像してもらうように演じられたらと思います。
加藤 平川さんが話した童話の主人公になってしまう役で、童話が沢山出てきて6役ぐらい演じますが、どう演じ分けるか成河さんに相談しながら稽古を積み重ねてきたので、僕の変身ぶりを見てください。

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──ご自身に恐怖体験はありますか。
加藤 場当たりのとき、セットの中心部は暗いんですよ。そこで待機していたら肩を叩かれて、ふっと振り向いたら演出部の方しかいなかった。演出部さんは仕事中だから絶対にしないじゃないですか。おばけじゃない?
全員 (笑)。

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──最後に楽しいところを伝えていただければ。
成河 見渡すと全員が私服みたいですよね。これでストイックな会話劇をやるのかという印象を持たれるかもしれませんが、これがリアルな世界の人間で、その世界から飛び出す童話の世界に入るとめちゃくちゃになります(笑)。いろんな国の服装や被り物が出てくるので、思いっきり笑い転げるシーンがたくさんあります。現実と童話のシーンを行ったり来たりする演劇的仕掛けも豊かで、劇場でこその演劇の醍醐味が詰まっている作品だと思います。そういう演劇体験をしたことのない方にも、この機会に足を運んでいただければ嬉しいですね。

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〈公演情報〉
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PARCO&CUBE20th present 『人間風車』
作◇後藤ひろひと 
演出◇河原雅彦 
出演◇成河 ミムラ 加藤諒 矢崎広 松田凌 今野浩喜 菊池明明  川村紗也 山本圭祐  小松利昌 佐藤真弓 堀部圭亮 良知真次 
●9/28〜10/9◎東京芸術劇場プレイハウス
〈料金〉S席8,900円、A席7,800円 U-25チケット:5,000円(全席指定・税込)
その他、高知、福岡、大阪、新潟、長野、仙台公演あり
 〈お問い合わせ〉
パルコステージ 03-3477-5858(月〜土11:00〜19:00/日・祝11:00〜15:00)
キューブ 03-5485-2252(平日12:00〜18:00)
http://cubeinc.co.jp/stage/info/ningen2017.html




【取材・文・撮影/竹下力】



唐組『動物園が消える日』
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