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シェイクスピア『ハムレット』のスピンオフ的作品で、『ロズ・ギル』の愛称で呼ばれて親しまれている『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』が、10月30日〜11月26日まで世田谷パブリックシアターにて上演される。
タイトルロールの2人はハムレットの学友だが、劇中では「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ…」という1行で片づけられてしまう。そんな2人を主人公に、イギリスの巨匠トム・ストッパードが書き下ろしたのが本作。ハムレットの悲劇に巻き込まれる彼らの不条理な運命を、知的ユーモアとアイロニーたっぷりに描き出している。
その物語で2人を翻弄する存在であり、裏主人公とも言えるハムレット役を演じるのが林遣都。
若手ながら映像では10年のキャリアで、昨年9月には、倉持裕作・演出の『家族の基礎〜大道寺家の人々』で初舞台、続けて今年7月〜8月には三谷幸喜作・演出の『子供の事情』に出演、舞台俳優としても注目を集めている。
そんな林遣都に、舞台という新しい表現の場について語ってもらった「えんぶ10月号」のインタビューを、別バージョンの写真とともにご紹介する。

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ヨーロッパの空気を感じてきたことで

──トム・ストッパードの戯曲『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』には、もう目を通しましたか?
松岡和子さんが翻訳されたものがあるのは知っているのですが、まだあえて読んでいないんです。やはり今回の演出の小川絵梨子さんの新訳に、真っさらな状態で向き合いたいと思っていて、小川さんがどんなふうに訳されるのかとても楽しみです。
──林さんの役はハムレットですね。シェイクスピアの『ハムレット』については?
まだ生の舞台は観たことはないのですが、DVDを見たり、シェイクスピアの戯曲本も読みました。ただ『ロズ・ギル』のハムレットは、少し違うキャラクターではないかと思っているので、まだ役については考えないほうがいいかなと。先日、ヨーロッパを旅する機会があり、戯曲の雰囲気を肌で知っておきたいと思っていたところだったので良い経験になりました。ちょうどシェイクスピア作品によく出てくるようなどんよりした曇り空で、そういう空気感だけでも味わえたのはよかったなと。それから何か芝居が観たいなと思って劇場にも足を運んだんですけど、結局、ミュージカルを観たりしました。
──まずは土地を体感してきたのですね。
やはり台詞を言うときに、具体的なイメージが浮かびやすくなるし、作品の世界に入っていくために、少しは役に立つのではないかと思っています。

毎日同じクオリティのものを届けるのが舞台

──林さんは、倉持裕さんの『家族の基礎〜大道寺家の人々』が初舞台で、いきなり難解な作品のエキセントリックな役柄を見事に演じていました。
あの作品はすごく楽しかったことしか記憶にないんです。もっとこの世界にいたいと思ったし、稽古序盤でそんな気持ちになるくらい楽しかったです。共演した役者さんたちが素晴らしく、倉持さんの物語がすごく面白かったからですが、とても良い経験をさせてもらいました。
──倉持作品特有の歪んだ人ばかり出てくる芝居ですから、演じる側も大変だったのではないかと。 
倉持さんがすごく細かくキャラクターとか背景とか説明してくださったので、わからないところはなかったです。結局みんなズルイ人間の集まりなんだ、ひどい奴らばかりなんだという(笑)、どこか笑える部分も多くて面白かったです。
──芸術家肌で頭の良い青年役が似合っていましたが、役も入りやすかったですか?
いえ、役自体を考えるのはもっと後の作業で、まず最初に舞台の基本的な見せ方、舞台での表現、それを周りの役者さんたちをよく見て、試して、広げていかなくてはいけないということを教えてもらいました。それは『子供の事情』でも、三谷さんが同じことをおっしゃって、そこは僕にとっては新しい経験でした。
──映像では10年のキャリアですが、舞台は違いましたか?
まったく違いました。倉持さんに「それでは表現が届かないからとにかく体を動かしてみろ」とよく言われました。松重(豊)さんがドンと真ん中にいてくださって、本番に向けて作っていく姿が、ブレがなくて、隙がなくて、どこからみても届いてくるので、「あ、参考にすべき姿だな」と。毎日同じクオリティのものを、お客様に届けなくてはいけないというのが松重さんの信念で、僕も、それを本番前の準備などで思い出しています。

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三谷幸喜になるとか小さい考えはいらない

──その初舞台を経て、三谷作品の『子供の事情』のホジョリンも好評です。
三谷さんにも稽古で沢山のことを教えていただきました。それに本番に入ってからの共演者の方々のパワーや変化がすごいので、自分の経験のなさを痛感しています。一瞬一瞬の台詞の発し方など圧倒されっぱなしです。
──ホジョリンは外見も三谷さんの少年時代に似ていて、作者を投影している役に見えるのですが。
僕自身も最初にこの役を演じると知ったとき、どこまで意識したらいいのかと思って、三谷さんに「どこまで本当の話なんですか」と伺ったら、即座に「まったく気にしなくていい」と。「ホジョリンという役を、読んだまんまでやってくれればいい、三谷幸喜になるとか小さい考えはいらない」と。だから三谷さんをやるという気持ちは全然なくなりました。ただ、描かれている背景を知ろうとは思ったので、三谷さんの小学校時代に流行っていたものや、好きだった映画や俳優、それを調べたり観たりしました。あの時代の空気を感じたかったので。
──ホジョリンは語り手でもあって、どこか俯瞰して見ていて、他の登場人物とはちょっと立ち位置が違いますね。
ある意味では本当にいたのかなというような、どこかファンタジックな部分があって、物語自体が少年の作り話かなという見方もできるんです。三谷さんも「そこは林くんの感覚ではっきり決めなくていい」と。立ち位置も「林くんと等身大の青年が小学校時代を振り返っているうちに、物語の中に入ってしまうような」と言ってくれたので、それから本の読み方が変わりました。

『ロズ・ギル』のハムレット役はとにかく美しくあれと

──林さんはこれまでの舞台2作だけでも、役の振り幅がとても広いですね。
それはたぶんこの顔のおかげで、それは親に感謝してるんですが、わりと色が白くて、抽象的な顔とか言われるので、この顔でいることで良い面があるんだと思います。
──普通の青年の顔なのに、役をまとうと個性が突出する気がします。舞台の経験で、映像へフィードバックするものはありますか?
これまでも映像の現場で、舞台をやっている方たちの凄さを感じていたのですが、実際に舞台で一緒になると全然違うエネルギーがあるんです。それに、演じる時間の違いというか、やっぱりカット割りがあって一瞬で演じるのと、物語の初めから終わりまでずっと演じるのとでは役への入り方が違うんです。そういう作り方を映像でもやっていくべきだなと思っています。
──舞台は長い稽古期間の中でいろいろ試行錯誤できますからね。
それは映像でも可能で、テストがあるし準備する時間があるので、その中でいろいろな選択肢を持てるし、色々なことを試せるんです。映像はカット割りで細かい動きまで決められていることもあるのですが、舞台で鍛えられることで対応できることが多くなるのではないかと思っています。
──またこの舞台を経てさらに魅力的になる林さんが楽しみです。最後に改めてハムレット役への意気込みを。
以前この作品を演じた古田新太さんが言ってくださったのですが、「『ロズ・ギル』のハムレット役はとにかく美しくあれ」と。その言葉を小川絵梨子さんの台本と演出の中で、追求していければと思っています。

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はやしけんと○滋賀県出身。07年、映画『バッテリー』で主演デビュー。同作にて日本アカデミー賞ほか数多くの新人賞を受賞。以降、瑞々しい存在感と演技力で幅広い映画、ドラマで活躍する。16年『家族の基礎〜大道寺家の人々〜』で初舞台。最近の出演作は、ドラマ『精霊の守り人』『べっぴんさん』『火花』『アオゾラカット』、映画『しゃぼん玉』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』、舞台『子供の事情』など。


〈公演情報〉
シス・カンパニー公演
『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』
作◇トム・ストッパード
翻訳・演出◇小川絵梨子
出演◇生田斗真 菅田将暉/林 遣都 半海一晃 安西慎太郎 松澤一之 立石涼子//小野武彦  ほか
●10/30〜11/26◎世田谷パブリックシアター 
〈お問い合わせ〉シス・カンパニー 03-5423-5906(平日11:00〜19:00)




【文/宮田華子 撮影/岩田えり】


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