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中津留章仁が異色キャストとともに、新境地に挑戦する注目作、『明日がある、かな』が、10月24日から新宿・紀伊國屋ホールで開幕する。(30日まで)
 
【物語】
夫は自動車を売っていた。妻はアレルギーが酷い息子を心配し、家族は郊外へ引っ越した。やがて息子のアレルギーの症状は出なくなった。そして、街に幹線道路が通り、街は富み栄えていく。しかし、息子の体にまたアレルギーの症状が...。息子のアレルギーは自動車と関係している。やがて、夫もアレルギーを発症する。出世街道から外れる夫...。高度経済成長期を経て、人間の生活環境は大きく変わった。人間の価値観も大きな変化を余儀なくされたのか。そして現代。アレルギーによって人間の尊厳が侵されていく。
 
現代の国民病ともいわれる「花粉症」を切り口に、ストーリーは繰り広げられる。
キャストは、自動車メーカーに勤める夫の阿久津幸次郎に、TRASHMASTERSで活躍する盒桐硫陝その妻で元ジャーナリストの聖子に、実力派女優で社会福祉に関する著作でも知られる斉藤とも子。妻の友人の女性ジャーナリスト甲本優美には、中華人民共和国出身の女優・李丹。また幸次郎の上司である山崎広重には、映像や舞台で活躍する真山章志。そのほかに尾身美詞、太平、滝沢花野、辻井彰太、伊藤壮太郎の出演で、栃木のある地域の中での、自然と人間たちの問題が浮かび上がってくる。
そのキャストの中から盒桐硫陝斉藤とも子・李丹・真山章志に、中津留章仁とともに語り合ってもらった。

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真山章志・李丹・中津留章仁・斉藤とも子・盒桐硫

1960年代の日本の会社と地域共同体の話

──今回、タイトルが面白いですね。
中津留 プロデューサーからコメディをという要望があったんですが、今はそんなにコメディらしいコメディを描く気持ちはなかったので、せめて書きたいテーマを少しでもわかりやすいものにしようと、こういうタイトルにしました。
──アレルギーの子供を持つ夫婦の話が中心となっていますね。
中津留 初めは、うち(TRASHMASTERS)の盒兇鮗膠蕕砲靴燭發里鬚噺世錣譴董△海譴泙任Δ舛亮乃錣任蘯膠蕕靴燭海箸ないのに大丈夫かと(笑)。
高橋 ははは(笑)。
中津留 それで斉藤とも子さんという人を軸に考えようと。この夫婦がどういう夫婦かという話と、夫の会社のことや田舎ならではの地域共同体の話にしました。
──斉藤さんは、社会への視点も持った知性派の女優さんですから、この作品と役柄にふさわしいですね。中津留作品は初出演ですね?
斉藤 そうなんです。すごく好きでよく拝見していたんですけど、でもお声がかかることはあり得ないだろうなと思っていたので、今回のお話はすごく嬉しかったです。もっと大変な役かなと思っていたんですが、とても入りやすい役でよかったなと。ただ、あまりにも共感できすぎてしまうので、自分になりすぎないように気を付けようと思ってます。

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──夫の幸次郎が盒兇気鵑如中津留さんに言わせると主役をしたことがないということですが。
 僕はTRASHでは主演はやらないと言ってて、それは自分の力量もありますし、冗談も含めて言ってるんですが。でも今回、プロデューサーさんからのお話があったので有り難くお受けしようと。それで台本を読んでみたら、そうかこれをやるのかと、ショックを受けました。役の芯の部分が苦手な価値観の人なので、今の僕にとってはすごく難しい。理屈では多少分かるんですが、無意識で受け付けない部分があるので、そこをどう体に落としこむかという毎日です。
── 一番抵抗を感じる部分はどんなことですか?
高橋 幸次郎は三幕の物語の中で、すごく変わっていくんですが、根本にある日本人的な体質というか、彼は戦争を経験して大陸に思いも残してきて、でも戦後日本の経済復興の中でみんなでがんばっていこうという部分ですね。僕は俳優デビューがアメリカだったんです。だからみんなで何かを目指そうというのが、どこか気持ち悪くて、いや個々それぞれだろうと。でも、日本人の考え方の中には、自分一人のことなんて些末なことだ、人のため国のために生きるというところがある。そこが僕には、なかなか受け入れにくいんです。
中津留 そこはわかっててやらせていて、そこをクリアしないと俳優として仕事が広がらない。日本的な価値観の人間というのはどんな作品にも出てきますから。彼は個の思いを持っている役とか、ちょっと周りから外れている役とか、そういうほうが得意なんですが、そういうものばかりやってるわけにはいかないので。
高橋 そうなんです。でも台本を読んで、こうくるか!と。正直読み返すのが怖かったです(笑)。でもやるしかない。自分の中にあるかもしれない、そういう部分を引っ張り出します。

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ここまで満州つながりという、偶然と不思議

──李丹さんは、斉藤さん扮する聖子の友人でジャーナリストですね。
李丹 甲本優美という女性で台湾の華僑の一族なんです。私も盒兇気鵑汎韻犬如△錣◆△海Δいμ鬚きたんだ!と(笑)。中津留さんとお話しをして、1960年代の東京オリンピック前の、日本の田舎のファミリーにとっては異邦人というか、違和感を持ち込む存在だなと。そしてたぶん彼女自身も不安定なんです。聖子さんが、唯一心を許せる人なんだと思いますが、優美自身は安定してないんです。
── 一家とその周りの状況は、一番冷静に見られる人だという気がしますが。
李丹 もちろん、ジャーナリストですからね。でもコンプレックスもあって、その部分は二幕で出てきます。自分の考えは持っている人ですし、一生懸命に生きている。男とか女とかではなく、人間として生きている人だと思います。
中津留 ちょっとカットしてしまったんですけど、同じようなバックボーンだから、やたらと王貞治を応援してるというシーンも書いたんです(笑)。ちょうどこの時代、一本足打法に変えて打ち始めた。そういう王貞治を優美がすごく応援するという。
李丹 わかります。私はこの台本を読んですごく嬉しかったです。
中津留 TRASHの演目で中国の人が出てくる『来訪者』というのもありましたが、自分のファミリーというか、作品作りの集団の中に、李丹さんのような方を取り込みたいなという思いがあったんです。長く一緒にできる役者さんの1人に中国の方がいるというのは、表現が豊かになるじゃないですか。
李丹 すごく嬉しいです。60年代の田舎のファミリーに、異質な人として入っていこうと思います。
──立ち位置の違う人が1人いることで、全体も見えやすくなりますね、優美は、聖子が地域で孤立していく中では、心強い存在なのですね。
斉藤 そうなんです。それを離れても、今回、李丹さんとご一緒させていただけるのがすごく嬉しくて。私の父の生まれと李丹さんの生まれた場所が近くて。父は旧満州の吉林なんです。
李丹 まあ!私はハルピンです。同じ旧満州です。
斉藤 すごいご縁を感じます。
中津留 うちの親父も満州で生まれているんです。
李丹・斉藤 えーっ(笑)。
真山 僕のお祖父ちゃんは満鉄です。
中津留 すごいね。満州つながりだ!

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──なぜそういう人ばかり集まったのでしょう?なんだかすごいですね!
中津留 きっと血が呼ぶんでしょうね。
斉藤 だから中国に関係することに無関心でいられないというか、どこか自分たちにも責任があるような、そういう気持ちがあって。でも、そういう自分の意識を突き詰めるのが、どこか怖くもあったりするんです。
真山 わかります。
──満鉄にお祖父様がいた真山さんですが、役は企業ごりごりの日本人ですね。
真山 ここまで本格的な嫌な役は初めてです(笑)。でも、人柄は実は意外と悪くはないんです。戦争で相当傷ついていて、歳から計算すると、大正元年くらいの生まれなんです。だとすると若い頃は日本が勝ってて戦争特需で儲かって、それが30歳過ぎると太平洋戦争が始まって、日本が敗けて、価値観が突然ひっくり返るわけです。そして、敗けるとこんなに苦しいことになるんだという思いをする。その経験が、彼が自動車会社の中で昇り詰めていくことの根底にある。それは彼だけじゃなく、色々な人のバイタリティになった。日本を支えてきた中年の代表みたいな人なんです。
──経済成長と日本の発展と自分の幸せが一致していたのですね。だから自分の力も信じているし、国とも一体化する。
真山 そうなんです。敗戦の悲惨さを知っているだけに、日本を良くするんだというモチベーションはすごいわけです。だから部下の考えが変わっていくのを理解できないんです。こういう人は定年退職するまで変わらないんです。でもこういう層が戦後の日本経済を、良くも悪くも支えていたわけです。
──真山さんは、たしか中津留さんの作品は2度目ですね。
真山 前回が『欺瞞と戯言』(2012年)で、そのとき自分では、中津留さんが要求する深さまでたどり着けてなかったと思うので、今回声をかけていただいて有り難かったです。今回は、僕なりに最善を尽くしているつもりですが、中津留さんから見たらどうなのか。
中津留 前回より順調だと思います(笑)。
──すごく役柄が似合っている気がします。
真山 嫌なやつが似合うんです(笑)。いや、人柄は良いやつなんですが、戦争の傷があって、それがドロッと出てきます。
 
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田舎の閉塞感を描いているけれど、今は国自体が閉じている

──この作品は、この頃では原因のわからなかった花粉症の話から、車の排気ガス問題、同時に地域社会で社会的な運動をすることの難しさも描かれています。斉藤さんはそういう地道な闘いをする女性にはまさに適役ですね。
斉藤 いえ、私は前に立ってというのはできなくて、自分の足元のことしかできないんですけど、でも、周りにそういうことをしていらっしゃる方々がいて、そういう方たちに出会うと、やはり人ごとではなくなってしまうんです。この作品で描かれていることも、福島の状況とまったく同じではないかと思います。放射能による土壌汚染が公にされなかったり、作品と同じことが起こっているなと。だから今の話なんですよね。
中津留 そうなんです。今の日本を描くことは僕の大きなテーマですから、1960年代が背景になっていますが、昔の話ではないんです。昔からこうだったんだよ、今もそうだよと。それに田舎の閉塞感を描いていますけど、今は国自体がそうなっていっている。「閉じていく」というのは、この国のもとからある価値観で、それこそ差別を生んだりして続いてきたわけです。今回、園美さんという幸次郎の従姉妹が出てきます。彼女の言葉は今、ネットで飛び交っている汚い言葉と一緒なんです。この日本の現実をリアルに映してます。
──盒兇気鵑蓮中津留さんの作品に沢山出演している経験から、どこが魅力だと思いますか?
 人間が痛いなと思うようなことをダイレクトに見せますよね。そこは個人的にもすごくリスペクトしていて、こんな作家が日本にはいるんだぞと、よその国に教えたいくらいです。日本人が暗黙の了解として口に出して言わないようなことを、「お前ら本当はこう思ってるだろ」と、突きつけてくる。でも出てくる人間たちは必死に生きていて、そこは美しいなと思うんです。今回の真山さんの役なんか、こういう言葉を吐く人間ってどういう人生を歩んできたのだろうと、逆に感動してしまったくらいで。

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真山 ひどいよね。優美に「あんたはな、親が日本人に頭下げて育ったんや」とか。
李丹 すごいリアルです。
真山 でもそれは差別で言ってるわけじゃないんですよね。
李丹 正論なんですよ。
──中津留さんは、日本人のおためごかしとか馴れ合いの部分を衝いてきますね。
真山 本当のことだから痛いわけですよね。人をひっかくんです、台詞が。
 海外でも通用する台詞なんですよね。
──確かに会話がロジカルなので、海外でも、とくにイギリスではすごく理解される気がします。
中津留 実はいま英訳してもらってる作品があるんです。あちらで上演してもらえる可能性も出てきました。
斉藤 絶対に興味を持ってもらえると思いますよ。
中津留 今の日本はこうなっているらしいと思ってもらえれば。

この国がよくなるために演劇はどこまで役に立つか
 
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──話を作品に戻しますと、キャッチコピーに社会派コメディとついているだけあって、決して暗いお話ではないですね。とくに少年2人の場面とかすごく明るいですね。
中津留 夫婦の息子の裕太と、その又従兄弟の英生という中学生の2人がいいんです。自分で台詞を書いててあれなんですけど、いいこと言うんです。
全員 (笑)。
 裕太は妻の教育がよかったんです(笑)。
──次世代への期待を感じさせます。では最後に一言ずつ意気込みを。
真山 非常に考えさせられる芝居ですが、どこかで共感できるんです。人間は愚かな歴史を繰り返すんだな、今もこんなことやってるなと、そう思いながら観ていただければ。
 やはり命の尊厳を考えさせられます。そして豊かさとはなんだろうということは、人間は100年後も突きつけられていると思います。そういう意味で普遍的なテーマです。これを観てちょっと足をとめて、自分の生き方について考えてもらえればいいなと。
斉藤 登場人物の中には、ひどいこと言うなというような人もいますが、観ていくとそうならざるを得なかった事情が見えてくるんですね。だから本当に悪い人はいなくて、逆に私の役などは一見まっとうに見えるんですけど、自分の息子は、病院で順番待ちしないで診てもらったり。そこが人間っぽいなと思いますが。そういう意味では観た方も誰かに共感してもらえるかなと。私自身、どの役も自分の中にもあるなと思いますから。そして観てくださった方が、何かを考えていくきっかけになればと思います。
李丹 今の世の中は自分のことしか考えませんよね。国もそうです。この作品はそれを鋭く描いているし、何が大事なのかという価値観を突きつけます。それから、栃木の言葉がとても可愛いです(笑)。
斉藤 そうなんです!
李丹 そして中津留さんは愛がある演出家です。すごく忍耐強くて。
全員 そうそう(笑)。
李丹 親切に丁寧に演出してくださるので、すごく勉強になります。すごく良い作品になると思います。
中津留 まずドラマとしてもしっかり楽しめるように作ってあります。そして観た方は、この作品を通して今の日本を考えることになると思いますし、そこは狙って作っています。この国がどうやったらよくなるか、そこは常に考えていて、そのために演劇はどこまで役に立つかわからないけれど、そこは続けていかなくてはいけないので。楽しい作品になっていると思います。そして持って帰るものが沢山あると思います。

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〈公演情報〉
 
s_チラシ表「明日がある、かな」

トム・プロジェクト プロデュース
『明日がある、かな』
作・演出◇中津留章仁  
出演◇盒桐硫陝\篤とも子 李丹 真山章志 尾身美詞 太平 滝沢花野 辻井彰太 伊藤壮太郎
●10/24〜30◎紀伊國屋ホール
〈料金〉一般前売¥4,500 当日¥5,000  U-25(25歳以下)¥2,500 シニア(60歳以上)¥4,000(全席指定・税込)
※U-25・シニア券はトム・プロジェクトのみで販売。要身分証明書。前売当日とも同料金
〈お問い合わせ〉トム・プロジェクト 03-5371-1153(平日10:00〜18:00)




【取材・文/榊原和子 撮影/アラカワヤスコ】




浪漫活劇譚『艶漢』第二夜
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