Mitamura-Ounishi
三田村周三  大西弘記

舞台は多摩川に近い、世田谷区にある築50年の一軒家。
そこに一人で住む老人の静かな日常と彼を案じる子供や孫の思惑。
「家族」「幸せ」とは何か。考えずにはいられない。
そんな作品を書き上げ、演出中の大西弘記(TOKYOハンバーグ主宰)が、今回、主役に迎えたのは、憧れの俳優・三田村周三。
三田村は、大西の「並々ならぬ熱意に乗ってみよう」と出演を決めたという。
その二人が本番直前の稽古場にて、作品にかける意気込みを語る。

今回は、自分の経験を生かして書きました

——台本を読ませていただいて、多摩川に近い世田谷に住むある家族と、ハウスクリーニング業者という設定にリアリティがあり、親しみやすく感じました。この設定を選んだいきさつなどがありましたら、教えて下さい。
大西 前々から老後問題を描きたいと考えていたんですけど、そう簡単に家族の問題は書けないなと思っていて。ある家庭に他人が入っていけるのは何があるだろうと考えたときに、デイサービスがあるけど、それではあんまりそのままだからなぁと。そのとき、ふと、ダスキンを思いついて。ぼく半年くらいダスキンでバイトをしてたことがあるんですよ。いろんな家に行って掃除をするんですけど、中にはおじいちゃんおばあちゃんが1人で住んでいる家もあって。掃除なんてすぐ終わるんですけど、ずっとしゃべってるんです。寂しいんでしょうねぇ。ご家族やお孫さんの話が多いんですけど、なかなか終わらないんです。ぼくは次の現場に行かないといけないですけど帰れなくて。そういうことを描きたいなぁと思っていたのが一つ。もう一つは自分の実家の話ですね。ぼくの祖父母は、今は亡くなりましたが、認知症を発症して大変だったんです。当時の様子もちょっとリンクさせて、書きました。
——ハウスクリーニング業者の描写が、新鮮でした。
大西 頭の中だけで書いても限界があるので、いつも脚本を書くとき、題材を決めたら取材に行くんです。今回は、自分の経験を生かして書きました。

あまりいらんことをせずに存在してみようかな

——三田村さんは、築50年の家に一人で住んでいる男性を演じられていますが、いかがですか。
三田村 自分は実際、73才で80才っていうのはなかなか…。今80といっても元気な方は、若い人が多いので・・・。今までぼくが年寄りで死んでいく役っていうのは、三田村組でたくさんやってきたんです。でもぼくはその頃まだ65〜70才くらいだったから、客観的にというか自分の当面の問題というよりも、それをいかにおもしろく見せるかみたいなことを考えていました。でも今回の80才は近いようで遠いですね。ぼく3年前に癌をやりまして、ちょうど今が3年半でまだ再発はしてないんですけど。そんなこともあって「これで死ぬのかなあ」っていう思いはずっとあって。病気や怪我は、ボケとは違いますけども、今回自分が演じるお父さんはしっかりした方なので。わりとアプローチできるかなーと。最初ちょっと救いがないのがヤダなぁという感じはしたんですけども。でも避けて通れないというか。あえてここで、あまりいらんことをせずに存在してみようかな、という感じでやっています。

主人公をおじいちゃんに変えたら、物語がぐっと広がった

——奥さんを去年亡くしている役なんですよね。
三田村 この年で奥さんをなくしてるっていうのがね、相当大っきいと思うんです。僕も女房と2人だし。両方の両親は亡くなってますねからね。世の中に、ある意味2人きりしかいないっていう感じがずっとあります。特に病気してから、もし先に女房に死なれちゃったらどうなるんだろうなーと。
——作品では、亡くなって1年後くらいに子供たちが動き出しています。女性だと先に連れ合いを亡くして、お一人でも元気な方が多いような気がしますけど。
大西 今回、再演で、ずいぶん改稿してるんです。一番変わったのが、主役で、元々はおばあちゃんのお話だったんです。そこを今回、おじいちゃんに変えたら、物語がぐっと広がって。おじいちゃんの亡くなった妻の役っていうのも前回はなかったんです。
——妻が出てくることで、お話全体に少し明るさが出る気がしました。主人公のセリフも増えるので、考えも分かりますし。
大西 ぼくは、今は結婚していませんけど、もしもこの先、そういうことになったら…と、自分の老後をイメージしながら書きました。ぼくの両親は60代後半で今は元気ですけど、ぼくは東京で離れて暮らしていて、もしそうなったら、どう接するのかなぁと。そういうことも考えながら。

生き生きと居られればなんとか最後まで見てもらえるのかな

——亡き妻としゃべってる様子を、ボケというより普通のこととして読んでしまいました。
大西 ただお化けが出てきたとか老人のボケが発症しているという状況ではなく。現象としてはそう見えるかもしれないけれど、本人は亡くなった方と話してるだけという。僕の祖母もよく一人でしゃべってるなぁと思ってよくよく聞いていると、戦争で亡くした弟としゃべってることがあって。その姿は、一人芝居として見たら名優でした。
——そういう役を演じられる上で、気をつけることなどはありますか?
三田村 あんまりボケたという芝居はせず、自分としてはラストシーン1カ所にしようと思っています。あと全体としてドラマチックなことが起こるわけではないし、動きも少ない芝居なので、なるべく普通に元気な、60代くらいの俺みたいな感じで楽しく、明快な老人、としていたいなぁと。1人で喋っているシーンもありますけど、別になんか楽しくというか、生き生きと居られればなんとか最後まで見てもらえるのかなという気がしています。

俳優が本当に素晴らしいのでそれを見てほしい

——最後に意気込み、アピールを。
大西 今回も本当に素晴らしい俳優に恵まれ、僕の書いた本が本当に素晴らしくなって板の上で生きてくれるのがとても幸せです。俳優が本当に素晴らしいのでそれを見てほしい。
三田村 とにかく長丁場でもあるし、決して劇的な作品ではないので丁寧に生きてみたいなぁと。静かだけど丁寧にこの時間を生きることをできたらいいかなと。自分がプロデュースをしていたときは自分が気に入った役者としかやっていなかったんです。ところが呼ばれたところに出ると全然、今までの自分の知らなかった役者と出会える。その人がとてつもなく面白いということがここのところずっとあって。今回もそういう発見がたくさんあって。そんなことがものすごく嬉しいですね。

【プロフィール】
大西弘記(右)
おおにしひろき○三重県伊勢市出身。TOKYOハンバーグ主宰/劇作家/演出家/俳優。1999年に伊藤正次演劇研究所に入所し演劇を始める。2006年に自らの作品を上演するためTOKYOハンバーグを立ち上げ、以降すべてを脚本・演出担当する。

三田村周三(左)
みたむらしゅうぞう○北海道札幌市出身。高校卒業後、舞台芸術学院に進み演劇を学ぶ。1990年代後半〜2010年、三田村組プロデューサー兼俳優として、若手脚本家と数々の傑作を世に出す。現在、舞台を中心に活動し、ドラマ・CMでも活躍中。

【公演情報】
syabondama
TOKYOハンバーグ
『しゃぼん玉の欠片を眺めて』
作・演出◇大西弘記(TOKYOハンバーグ)
出演◇三田村周三(三田村組)
永田涼香 山本由奈 小林大輔(以上TOKYOハンバーグ) 他
10/25〜11/7◎新宿サンモールスタジオ


【取材・文・撮影/矢崎亜希子】


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