s_saku235 のコピー


コンスタントに新作の上演を続ける一方、自身が主宰する演劇ユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」での活動、また創作団体・葛河思潮社における三好十郎やハロルド・ピンターといった近代戯曲への取り組み、さらに子供向けの演劇作品の創作など、劇作家・演出家として、積極的な活動を続ける長塚圭史。

彼が、KAAT神奈川芸術劇場のプロデュースとして初演出を手がけるのは、イタリアの劇作家・小説家・詩人で、ノーベル文学賞受賞者であるルイージ・ピランデッロ(1867−1936)によって、1921年に書かれた『作者を探す六人の登場人物』。その公演が、10月26日、KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオで初日を迎えた。(11月5日まで)

【物語】
ある劇団が芝居の稽古をしていると、男女2人と継娘と息子、男児・女児という6人の奇妙な人物たちが訪ねてきて、自分たちは作者に拒絶され見捨てられた、行き先の無い登場人物で、自分たちのドラマを完成し、表現してくれる新しい作者を探しているのだと語る。座長ほか劇団員たちは、初めはその唐突な話に呆れ、取り合おうとしないが、彼らがそれぞれの人生を語るうち、彼らのドラマに魅せられていく……。

出演者は、家族の「父親」には、実直で飄々とした雰囲気を持ちながらも確かな存在感で異彩を放つ山崎一、「母親」には世界的バレリーナとして活躍、現在では女優として幅広く活動する草刈民代、「継娘」には舞台・映画への出演が続き今後の活躍が期待される若手女優安藤輪子、「息子」役には今作で本格的な戯曲作品に初挑戦するダンスカンパニー コンドルズの香取直登。また平田敦子、岡部たかし、玉置孝匡ら話題の舞台に欠かせないベテラン俳優陣に加え、様々なジャンルから集まった注目の若手ダンサー達が、一見難解とも思える本作を、長塚とともに、“言語”と“身体”を切り口に創りあげる。
 
まさにKAAT神奈川芸術劇場というクリエイティブな場所だからこそ実現した今回の公演について、稽古中のある日、長塚圭史に話を聞くことができた。

【長塚圭史インタビュー】 

IMG_3257

生まれてから死ぬまでの時間を内包した6人

──これは1921年の戯曲ですが、とても現代的な感じがします。
そうですね。100年近く前に描かれたものですが、今も鮮度は失っていません。
──8月にBunkamuraで演出した『プレイヤー』と、どこかメタシアター的な部分で共通する気もします。そこが長塚さんの興味を惹いたのかなと。
確かにメタシアトリカルな構造もありますが、僕が惹かれたのは、チラシにも書いてあるように本当にシンプルな、彼らは自分たちが生きる場所、つまり本がないから作者を探しているだけなんだというところで。僕はもともとミヒャエル・エンデの世界などが好きで、本の中と読んでいる人間との世界に境目がないという、そういう感覚は自分の中にはずっとあったので、この戯曲を読んだとき、どこか懐かしいような想いがしたほど、当たり前のように面白かったんです。だからメタシアトリカルな作品をやりたいという動機ではなく、話としてシンプルに惹かれたんです。
──6人はある劇団の稽古場にやってきて、そこで自分たちのドラマを訴えます。その存在が幻惑的で、劇団員ならずとも取り込まれそうになります。
芝居には時間芸術という面があって、1つの作品の時間の中で、登場人物がそれぞれ深い時間を抱えているわけです。この作品で言えば、生まれてから死ぬまでの時間をそれぞれ内包している6人がいる。そして6人は、この芝居でそれぞれ登場人物としての一生を生きていると言う。ではそれを演じている彼らは誰なのか。さらに観客は上演している2時間を観劇しながら生きているわけで。こうしていくつかの時間が重なり合う。次第に脳みそがぐちゃぐちゃになるんです。メタ演劇として、ここまでうまくやれているのはなかなかないと思います。観客の揺さぶり方がすごく優れている。

劇団員になるダンサーたちが言葉でなく劇を支える

──舞台には6人と彼らに侵入されてしまう劇団員たちがいますが、その違いを身体表現で見せるために、ダンサーの方を多く起用しているそうですね。
劇団側に入っている彼らは、言葉でなく、身体で劇を支えられないか考えていて、リアクションや関心の抱き方で、登場人物たちの世界を映す鏡のような役割が作れないだろうかと、振付の平原慎太郎さんと相談しながら作っています。劇団員の彼らの仕事はすごく大変です。全編、極めて限られたセリフの中で、登場人物たちをリアクションで照らすのです。踊るシーンもありますが、ほとんどはダンスとは違う身体表現になります。
──登場人物6人の見え方が、劇団側の表現にかかってくるわけですね。
そうです。いかに鮮度を持って彼らを受け入れるか。そして、そうだと思っていたことが、そうではなかったとわからせていくかですから。
──リアルな人間でありつつ、特殊な身体表現で見せるのはたいへんですね。
ただ、大枠はコメディですから若干戯画化しないと。本当は全員ダンサーでやることも考えたんです。長年生き残っている芝居ですし、どういうアプローチがあるかなと。今回はこういう形になりましたが、これは1つの入り口で、今後も色々なことができる作品だと思います。

結末を見た人たちがそこにいるわかりやすさ

──6人の登場人物はメンタルな問題や狂気を抱えていますが、そこは現代人の病む部分と重なりますし、ある意味とてもわかるという気もします。
もちろん彼らの内包している家族ドラマは誰にでもわかりやすいと思います。また、彼らが、物語の始まりから終わり迄の時間を抱えているということもどうしてか理解出来ます。僕らもいずれ死ぬ運命にあるわけですから、この奇抜が想像出来るんですね。立場の違いも面白い。同じ俳優でありながら登場人物6人と座長と劇団員とに分かれています。登場人物6人もそれぞれに様々な体験を披露しますが、6人の見解は全てバラバラです。ひとつの出来事もそれを見る人次第で価値も認識も変わってしまう。つまりはどんな出来事もその本人にとってしかわからないということで。つまり共感は出来ないわけです。ピランデッロはいつも「理解し合えない」というところに立って書いていて、登場人物も理解し合わないし、家族も理解し合わない、だれも理解し合わない。そこが僕は愛しいですね。根源的だし、この劇の極めて現代的なところだと思います。
──とても深くて大きなテーマが書かれているわけですね。
ただ、そんなに深刻にやろうと思ってないんです。コメディですから。作る作業はたいへんなんですが、観る方にとってはまったく難しい話ではないので。ノーベル文学賞を取った作家だと構えるかもしれないけど、わりと親しみの持てる家族の話が本から飛びだしてきて、僕らはそれに戸惑う、そういう非常にシンプルな作品ですから。
──日常の地続きで、どこか違和感を感じるというような?
そうなると思います。ちょっと感覚を研ぎ澄ませて観ていただけば、身体表現も含めて、すごくわかりやすい世界があると思います。ただ、大きなテーマを孕んでいるし、実は時代によって見え方も変わってくる。書かれたのが1921年ですから、様々な価値観や体制が崩壊する寸前の時期で、だからこそ新しい発想で書かれているし、さまざまな可能性を秘めた、普遍的で面白い戯曲なんです。
 
IMG_3252
ながつかけいし○劇作家・演出家・俳優・阿佐ヶ谷スパイダース主宰。1996 年、演劇プロデュースユニット・阿佐ヶ谷スパイダースを旗揚げし、作・演出・出演の三役を担う。2008年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト・葛河思潮社を始動、『浮標』『冒した者』『背信』を上演。17年には福田転球、山内圭哉、大堀こういちと新ユニット・新ロイヤル大衆舎を結成し、4月に北條秀司の傑作『王将』三部作を下北沢・小劇場楽園で上演。 
近年の舞台では作、演出、出演に、『ツインズ』(作、演出のみ)、『かがみのかなたはたなかのなかに』(12 月に再演)、『あかいくらやみ−天狗党幻譚』。演出に『プレイヤー』、『十一ぴきのネコ』、『蛙昇天』、『鼬(いたち)』、『マクベス』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。また俳優としても『あさが来た』(NHK)、『Dr.倫太郎』(NTV)、『グーグーだって猫である』(シリーズ/WOWOW)、映画『バケモノの子』、『花筐/HANAGATAMI』(12 月16日公開)、『yes!−明日への頼り』(ナレーション/TOKYO FM)など。


【舞台写真】
s_saku394 のコピー
6人の登場人物たち/継娘(安藤輪子)、父親(山崎一)、息子(香取直登)、男児(みのり)、母親(草刈民代)、女児(藤戸野絵・Wキャスト)
s_saku001 のコピー
客席から登場する6人の登場人物たち。 中央/女児(佐野仁香・Wキャスト) 
s_saku144 のコピー 2
「私どもは作者を探しております」と語る父親。 手前/劇団の主演男優(玉置孝匡) 右端/劇団の演出家兼座長(岡部たかし) 
s_saku235 のコピー
6人は座長の前で自分のドラマを演じはじめるs_saku275 のコピー
対立する継娘と父親
s_saku258 のコピー
劇団員たちが見つめる中で6人の登場人物は芝居を続ける

〈公演情報〉
35135_1

KAAT 神奈川芸術劇場プロデュース
『作者を探す六人の登場人物』
作◇ルイージ・ピランデッロ
翻訳◇白澤定雄
上演台本・演出◇長塚圭史
出演◇(戯曲配役順)
山崎一、草刈民代、安藤輪子、香取直登、
みのり、佐野仁香/藤戸野絵(ダブルキャスト)、平田敦子、
玉置孝匡、碓井菜央、中嶋野々子、水島晃太郎、
並川花連、北川結、美木マサオ、岡部たかし
●10/26〜11/5◎KAA神奈川芸術劇場 中スタジオ
〈料金〉一般5,000 円  U24 チケット(24 歳以下)2,500 円  高校生以下 1,000 円  シルバー割引(満 65 歳以上)4,500 円[全席指定・税込] 
※未就学児入場不可
※U24、高校生以下、シルバー割引は、チケットかながわの電話・窓口で取扱(前売のみ、枚数限定 
〈お問い合わせ〉チケットかながわ 0570-015-415(10:00〜18:00)
 http://www.kaat.jp/




【取材・文・撮影(人物)/榊原和子 撮影(舞台)/岡千里】

 

花組芝居『黒蜥蜴』お得なチケット販売中!
kick shop nikkan engeki