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劇団チョコレートケーキの古川健が書き下ろし、演出を文学座の高橋正徳が手がける水戸芸術館主催の『斜交(しゃっこう)〜昭和40年のクロスロード〜』が、11月23日から水戸芸術館ACM劇場で幕を開ける。(26日まで。そののち12月8日〜10日◎東京青山・草月ホールで上演)
犯罪史上に残る誘拐殺人事件「吉展ちゃん事件」に取り組んだ茨城出身で、昭和を代表する名刑事・平塚八兵衛をモデルにした作品となっている。

昭和38年、日本が復興そしてオリンピックで盛り上がった時代、その波に乗れなかった男がいた。男は、金策に困り果て衝動的に子供を誘拐し、深い考えもないままその子供を絞め殺してしまう。それが世に言う「吉展ちゃん事件」である。
捜査は初動のミスもあって難航し、事件は解決の糸口すら見つけられず、いたずらに2年の月日が流れてしまっていた。何度も捜査線上にあがりながら、決定的な証拠を見つけられなかった容疑者をもう一度取り調べることになった時、選ばれたのが「落としの八兵衛」と異名をもった捜査一課の生え抜き刑事・平塚八兵衛であった。
帝銀事件や三億円事件など、昭和史に残る数々の難事件に取り組んできた平塚の、もっともドラマチックで、また平塚自身をも有名にした「吉展ちゃん誘拐事件」。その顛末を通じて、刑事と容疑者の、取調室での息詰まる攻防を描き出す。

平塚八兵衛がモデルの刑事役には近藤芳正、その相棒の刑事役は中島歩、容疑者役には劇団温泉ドラゴンの筑波竜一、警視庁の上司に福士惠二、容疑者の愛人は渋谷はるか、そして容疑者の母には五味多恵子が扮する。
その稽古場写真と出演者の近藤芳正、作を手がけた古川健のコメントが届いた。

近藤芳正
脚本の古川健さんとご一緒するのは2回目です。初めて古川さんが所属する劇団チョコレートケーキ見たのは5年前だと思いますが、そこからつながりができ、バンダ・ラ・コンチャンという僕の個人ユニットとチョコレートケーキと一緒に『ライン(国境)の向こう』を2015年に上演することができました。古川さんは史実や実際に起きた事件を題材にしたハードの物語を書かれていますが、ここ数年急速に注目を集めていますよね。僕が言うのはおこがましいけれど、出会ったころに比べると、戯曲を通してより人間が見えてくるようになった気がします。
『斜交』は「吉展ちゃん誘拐事件」を題材に、取調室での刑事と容疑者の息が詰まりそうなやりとりを描いていますが、憎むべき事件であっても、その事件を起こした人間までは憎まないというか、優しい眼差しで見ている古川さんがいる。僕が演じる三塚九兵衛も、今の時代にはそぐわない昔気質の刑事ですから滑稽に見えるときもある。けれど志やプライドを持ち、それを貫く生き様が感じられる。しかもそれらは直接せりふで語るのではなく、戯曲そのものから匂うように伝わってくるんです。
三塚九兵衛は、モデルである平塚八兵衛さんと近藤芳正をまぜ合わせたようなキャラクター。なにがあっても己れの道をいく、人から非難されようが信念を貫いていく。そして行動力があって、自分が納得するまで妥協はしない。犯人の足取りについて、調べあげた事実があるので間違いなくクロだという確信がある。確かに過去2度の取り調べをかい潜ってきた犯人ですが、刑事人生をかけて、絶対に落としてやるという思いで容疑者に向かいます。果たしてどんな結果になるか楽しみにしていてください。

古川健
『斜交』は、平塚八兵衛さんという刑事さんのことを書いた本「刑事一代 ― 平塚八兵衛の昭和事件史」を、水戸芸術館演劇部門の芸術監督・井上桂さんがいつか上演したいと温めていた企画です。最初はリーディンングをイメージしていらしたそうですが、演出の高橋正徳さんと打ち合わせを重ねる中で、せっかくなら芝居にしようということになり、作家は誰がいいかという流れで声をかけていただきました。僕は「吉展ちゃん誘拐事件」を知らなかったので、改めて調べたら、演劇として上演する面白さを感じて、ぜひやらせてくださいとお願いしました。
主人公の刑事のキャラクターも、ヒーロー的ではなく、もっと人間くさい部分を正直に書いて、その上で好かれるような人物像にということを意識して書きました。ただ迷宮入りする寸前だった大事件を解決した人ですから、伝説の刑事として神格化されて、いいことが書かれた資料ばかり。ただ一つの資料にだけ、取り調べの最中に容疑者に手を挙げてしまったことを新聞記者に告白したと書かれていて、そのエッセンスを一つの核として大事にしています。この世代の刑事さんは戦争中に特高として活躍した人も多く、けっこうきわどいこともやっていたようです。今だったら絶対許されないようなことも。けれど一方で刑事魂はとても熱いものがある。そしてこういう人たちが活躍していたのは遠い昔ではなく、ほんの50年前なんですよね。主演が近藤芳正さんだということは早い段階から聞いていて、前にご一緒したときはひょうきんなところを出せるようにと考えたのですが、今度は逆にハードな面が存分に出せたらいいなあ、こんなせりふを言ってほしいなと思って書きました。
戯曲を書くにあたって、どういう時代かを想像できるように、物の値段や情報を織り込んでいます。それは“時代は変わっている”ということをお客さんに伝えるためです。けれど時代が変わっていても、その時代をつくっていくのは人間。その人間も一緒に変わるかといえばそうではないし、逆に安易に変わってはいけない。その大事な何かはきっと個人の心にあるはず。時代性は描いていますが、それを超越した人間として大切なものがお客様に届いたらいいなと思いますし、それがお客さんの心の中で何かことを起こすきっかけになるとうれしいですね。

〈公演情報〉
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『斜光〜昭和40年のクロスワード〜』
作◇古川健 (劇団チョコレートケーキ)
演出◇高橋正徳 (文学座)
出演◇近藤芳正 筑波竜一 福士惠二 五味多恵子 渋谷はるか/中島歩
●11/23〜26◎水戸芸術館ACM劇場 
〈料金〉S席5,000円 A席4,500円 B席3,500円 U-25(25歳以下対象)2,500円 S席限定平日割引4,500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉水戸芸術館チケット予約センター 029-225-3555(9:30〜18:00 月曜休館)
●12/8〜10◎東京青山・草月ホール
〈料金〉5,000円 U-25(25歳以下対象)2,500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(全日10:00-18:00)



【稽古場写真/池村隆司】
 


『サロメ』
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