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まもなく 50 年を迎えようとしている青年座劇場。つねに新しい創造の場であるこの劇場で、今年は、演劇界注目の劇作家の新作が連続上演される。その第3弾としてTRASHMASTERSの中津留章仁が書き下ろす新作は『断罪』。芸能プロダクションという、演劇と大きく関わる場所を舞台に、壮絶な人間ドラマを描き出す。その公演がいよいよ12月8日から幕を開ける。(17日まで)

【あらすじ】
ある大物俳優が、生放送の番組で現政府を批判し、所属する芸能事務所を去ることになった。
この一件により、事務所幹部は、これまでより更に、所属タレント及び社員の言論と行動に対して厳しく管理していくことになる。
タレントを商品としてではなく一人の人間として見て欲しいと考えるマネージャー岸本亜弓は、過剰な管理体制や排斥行為はタレントの「人権侵害」にあたると上司の蓮見亮介に訴えるが、取り合ってはもらえなかった。
ついに岸本は自分の正義を貫き、業界全体に蔓延する体質の改善を求めるべく、内部告発に踏み切る。そして―――。

この作品で芸能事務所の若手女子社員、千田茜の役を演じる田上唯。まだ入団5年目だが、注目作で次々に大役を演じている期待の女優だ。そんな彼女に、稽古入りしてまもない時期に、この作品への取り組みや、女優としての今について話してもらった。

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それぞれが「生きる」ことに正直であるがゆえにぶつかり合う

──今回の台本を読んだ第一印象から聞かせてください。
まず、個々の人間、それぞれのキャラクターがはっきりしていること、そして、普通の人間の日常にあるようなことが書かれているなと思いました。みんなそれぞれ会社や仕事の中で自分の役割を生きていて、でも、その裏に何かしら抱えている。そういう人たちの本音が、ある事件をきっかけに見えてきます。今、稽古しているところは、その表向きの顔の中から、チラチラッとそれぞれが抱えているものが見えてきているという段階で、これからその部分が絡み合ってきたら、どんどん面白くなっていくだろうなとワクワクしています。
──役は千田茜という事務所の女性スタッフですね。
入社3年目で、まだこの芸能事務所では若手という立ち位置です。電話番をしたりお茶を持ってきたり、ちょっと不器用で、一見、天然っぽい感じなのですが、実は…という女性です。
──中津留さんの作品についての印象は?
10月に上演された『明日がある、かな』を拝見して、それが初めてだったのですが、やはり社会へのメッセージがすごく強いなと感じました。そして、1人1人の人物像が深く描き込まれていて面白かったです。私も今回の『断罪』で、何も考えていなさそうに見えて、実は心の中では色々抱えている女性を演じます。今まではわりと真っ直ぐな人間を演じることが多かったので、こういう役は新鮮です。私は今年27歳になったのですが、やはりこの年齢だからこそ考えることもあって、そういうものが生かせるかなと思っています。
──ほかの登場人物も年齢やキャラクターが様々で、どの人も面白いですね。
一見すると悪者に見える人とか、裏のある人とか、そういう人間ばかりで絡み合っていくような物語ですが、それぞれが「生きる」ということに対して一生懸命で、正直であるがゆえのぶつかり合いもあって、何が正しいとか正しくないとか決められないんですよね。そこが中津留さんの作品らしいし、考えさせられるところだと思います。
──テーマは沢山あって、メディアでの政治問題、芸能事務所とメディアの関係、その中での人間たちの対立なども描かれていて、人ごとではないなと思います。
すごくリアルですね。生活があるから思っていることがあっても言えないとか、会社として存続するために社員を切り捨てるとか、誰もが思い当たることが多い作品だと思います。私が前回出演した『旗を高く掲げよ』という作品もナチスの話で、政治状況と市民の家庭との繋がりがとても具体的に出てきて、私にとっては意識が変わるというか、人生観が変わった作品だったんです。そこからさらに身近で、現代の私たちの生活に重なる作品がきたなという感じです。
──芸能の仕事をしている方にとって本当に切実でしょうね。メディア側である自分へも問いかけられるような話ですから。
有り難いことに青年座では、とても自由にやらせてもらっています。それにまだそういう問題とは直接ぶつかっていないのですが、でも芸能界というのはそういう部分もあるのだなと、他人ごとではないなと思いながら台本を読みました。

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目から鱗だった『旗を高く掲げよ』のリーザ役

──今回のキャストですが、先輩の俳優さんたちも劇団を代表するような精鋭揃いですね。
本当に尊敬する大好きな先輩ばかりで嬉しいです。『旗を高く掲げよ』で父親役だった石母田(史朗)さんが、今回ちょっと悪の匂いがある役で(笑)、大家(仁志)さんが、メディアと良心のあいだで煩悶する役です。大家さんは私の初舞台の『横濱短篇ホテル』(2013年)以来、何度も共演させていただいてます。初めて役をいただいたことですごく緊張していたのですが、「好きなようにやっていいから、何でも受けるから」と言ってくださって。本当に好きなようにやらせていただいて有り難かったです。
──初舞台なのに好きなようにやれる田上さんもすごいですね。
いえ(笑)。入団して1年間は、稽古場付きで色々な舞台の稽古を見せていただける機会があるんですが、そこで、もし私がこの役をやるならとか演じたい思いがふつふつと溢れて、ボルテージがどんどん上がって、早く自分も舞台に立ちたいという思いではち切れそうになっていたので、本当に思いきりやらせていただきました。好き放題やったのを全部受けていただいて楽しかったです。
──田上さんは、役を作っていくことが苦でないというか、楽しそうに見えますね。
たぶん1人の人を深めるとか、そういう作業が好きなんだと思います。今回の千田茜も普段どんなものが好きでどんな音楽を聴いているんだろうとか、そういうところから考えています。私は想像するのが好きで、たとえば何かを買っている人を見たところから、その人の生活を想像したりするんです。そして役を細かいところから膨らませていく、そういう作業がとても好きなんだと思います。
──想像力だけでなく表現力もありますね。『旗を高く掲げよ』の、ナチスを信奉するリーザ役では狂気が漂っていました。
その表現ではとても勉強になったことがありまして、最初、台本を読んで狂信的な印象を受けたので、その狂信的な感じをそのまま表現しようと思っていたんです。でも演出の黒岩(亮)さんが「狂信的というのは、結果としてそう見えるだけで、リーザとしては一生懸命に、少女同盟が世のため人のためになると思ってやっているんだ」と。それが結果、狂信的に見えるのだと言っていただいて、それが目から鱗で、「あ、私はすごい間違いをおかしていた」と。結果を演じるのではなく、そうなっていく過程と中身をどう作るのかなのだとハッとしました。
──こういう少女はあの時期のドイツには沢山いたのだろうなと思わせて、鬼気迫ると同時に痛ましくもありました。
私も役を離れて考えると、10代というのは普通なら一番無邪気に遊んだり恋をしたり、楽しく過ごしている時期なのにと、胸が痛くなりました。

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スポーツで鍛えた少女時代、大学でいきなり演劇の世界へ

──田上さんは、九州大谷短期大学という、演劇で有名な学校の出身ですが、演劇はいつから?
高校までは演劇とは無縁だったんです。スポーツが好きで、水泳と体操は2歳からやっていました。小さい頃からエネルギーが有り余っていた子みたいで(笑)、母が色々な習い事をさせてくれて、ピアノも小学校から始めましたし、体操も小学校から新体操に移行しました。両親が映画好きで、その影響もあって演劇にも興味があったのですが、高校まではスポーツばかりやっていました。中学の陸上部は一番きつい部活で、200メートル10本とか、根性も鍛えられました(笑)。
──運動能力に長けているのは役者としてメリットですね。そして短大で演劇を始めたのですね。
短大で初めて演劇を色々教えてもらいました。日舞とか狂言とか発声とか、すごく身に付きましたし、専用の劇場もあって充実していました。そこで俳優になるための基盤を作ってもらったと思います。ですから上京して1人で暮らしていても、その基盤があったのでがんばれたのかなと。研究所の授業も大学の内容と通ずるものが多かったので、わりとスムーズに馴染めた気がします。
──大学卒業後の進路はどんなふうに決めたのですか?
ちょうど私の学年から青年座の研究所の推薦入試が始まって、ワークショップと面接で夏に早めに入所を決められる制度ができたんです。その青年座のカリキュラムやチラシを見たとき、直感で「あ!行きたい!」と思って決めました。
──すごくスムーズに恵まれた環境でここまできたのですね。
それは有り難いなと思います。大学でも青年座の研究所でも、自分のやりたいことをさせてもらって楽しくて、すごく幸せな演劇生活を送りましたから。
──そして今、期待の女優さんになっているわけですが、役者として心がけていることなどありますか?
日常で大切にしていることがありまして、生きていると楽しいこともありますけど、悲しいことやつらいこともいっぱいあって、そういう時、いわゆるマイナスと言われるようなそういう感情について、母が、「感情は人間だから当たり前。悲しくなったりしたときに、無理にごまかして元気になろうとしないでいい」と。どんな感情も素直に受け止めて、ありのまま受け入れて、その感情に浸かるというか、その感情も大切にして自分を見つめることが大事だと。前はそういう悲しい気持ちになると「元気にならなくちゃ」と思っていたんですが、役者という仕事をしていると、色々な感情の引き出しがあればあるほどいいんです。それが役者という職業の有り難いところで、役者じゃなかったら、そういう自分にとってつらい感情を大切にできなかったかもしれないので。全部の感情を大切にごまかさないで100%で向き合う。何に対しても本気で向き合うことが大事ですし、演じるのではなく、その人物として生きるためには、普段の自分も豊かでないといけない。それは年々感じるようになりました。日常で人間として豊かに深く生きるためにも、全部の自分の感情と素直に向き合おうと思っています。

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あとから考えたら生き生きと苦しんでいたなと

──伺っていると、良い意味でのタフさや芯の強さがあって頼もしいですね。劇団も5年目ですが、青年座の良さというのは?
この作品の話にも通じると思いますが、本当に芝居だけに没頭できるんです。余計なことを考えなくていいという、その環境がどれだけ幸せかと感じます。今年4月の『わが兄の弟』という作品で、小間使いの役をいただいて、出演時間はとても短かったんですけど、それができなくて怒られて、本当に取り憑かれたように自分でも稽古していたのですが、なかなか出来なくて、寝れなかったし苦しみました。でも後から考えると、そんな中でも生き生きと苦しんでいたなと。ある意味、前向きに生き生きと苦しんでいたんです。それはやっぱりお芝居だけを考えていればいい環境にいるからで。その幸せを感じましたし、恵まれているなと。それに、劇団は家族みたいな感覚でホッとする場所なんです。そういう場所があるのは幸せです。
──生き生きと苦しむという言葉は素敵ですね。本当に芝居が好きなのだとわかります。そして、これからどういう女優になっていきたいですか?
観た方の生きるエネルギーになれればと、それは人としてもですが、どういう形であれそうなれたらいいなと思います。その人のお芝居によって、生きるエネルギーが湧いてくるって素晴らしいなと思うので。たぶん日常の小さなことから大きなことまで1つ1つを楽しんで、もがいて、エネルギッシュに向き合っていくことで、そういう人になれるのかなと思いますし、そうなれたら幸せだなと思います。
──そういう人が演じたらどんな役も魅力的になりますね。悪役でも。
やってみたいです。悪役もその人がなぜそうなったのかを考えることが大事だと思いますし。その人の人生や、生きるエネルギーが見えるようになりたいです。
──いつか魅力的な悪役も見せてください。最後にこの『断罪』への意気込みを。
この作品に出てくる人たちは、みんなが一生懸命に生きているので、それぞれちょっとエグイです(笑)。そんな中津留さんならではのエグさが、魅力の作品だと思います。そこも含めてお客様に共感していただいたり、自分と重ねて考えたりしていただければ。そして人間が生きていくエネルギーを、受け取っていただければと思います。

【プロフィール】
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たのうえゆい○福岡県出身、2012年、青年座入団。最近の主な舞台作品は、『旗を高く掲げよ』(2017年)『からゆきさん』(2015年〜17年)『わが兄の弟』(2017年)『見よ、飛行機の高くとべるを』(2014年・17年)『世界へ』(2014年)『地の乳房』(2014年)『夜明けに消えた』(2013年) 『横濱短篇ホテル』(2013年・16年)など。テレビドラマ『いつか陽のあたる場所でスペシャル』(2014年 NHK)『同窓生〜人は、三度、恋をする〜 』第1話(2014年 TBS)『37.5℃の涙』(2015年TBS)など。

〈公演情報〉
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劇団青年座第230回公演
『断罪』
作◇中津留章仁(TRASHMASTERS)
演出◇伊藤大
出演◇山本龍二 大家仁志 石母田史朗/逢笠恵祐 前田聖太 津田真澄/安藤瞳 田上 唯 當銀祥恵 市橋恵(逢笠さんの逢はしんにょうの点が1つになります)
●12/8〜17◎青年座劇場
〈料金〉一般4,200円 U25[25歳以下]3,000円(全席指定・税込)※初日割引(12/8)3,000円
〈お問い合わせ〉劇団青年座 0120-291-481(チケット専用 11時〜18時、土日祝日除く)
〈青年座HP〉http://seinenza.com




【取材・文/榊原和子 撮影/山崎伸康】


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