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豪華絢爛な『京鹿子娘五人道成寺』と幻想的な『二人椀久』。シネマ歌舞伎ならではの撮り下ろし場面も含め、濃密な映像作品が、来年1月にいよいよ公開される。 
 
歌舞伎の舞台公演を映画館で楽しめるシネマ歌舞伎。生の舞台ではなかなか観ること、感じることができないような、俳優のリアルな息遣い、美しい衣裳のディテールなどを堪能できて、実際の観劇とはひと味違った舞台の味わい方ができることで、2005年1月の第1弾(今は亡き十八代目中村勘三郎主演の『野田版 鼠小僧』)から、11月25日公開の第29弾『め組の喧嘩』まで、順調に公開作品を増やしている。その最新作が、2018年1月13日に東京・東劇ほかで全国公開される、シネマ歌舞伎『京鹿子娘五人道成寺/二人椀久』(二作同時上映)である。

京鹿子娘五人道成寺/二人椀久』メイン_史

今回、初公開される『五人道成寺』と『二人椀久』はいずれも歌舞伎の舞踊作品。
『五人道成寺』は、女方舞踊の屈指の大曲とされる『京鹿子娘道成寺』を、人間国宝でもある坂東玉三郎を筆頭に、次代を担う中村勘九郎、中村七之助、中村梅枝、中村児太郎の五人で踊り分ける、かつてない趣向の舞踊で、2016年12月に歌舞伎座で、初めて上演された。
恋の恨みから、清姫が蛇に姿を変えて愛する男・安珍を寺の鐘ごと焼き尽くしたという「安珍・清姫伝説」をもとに、白拍子花子が、女性の移りゆく恋心を、場面を変え、衣裳を替え、小道具を替え、鮮やかに表現していく面白さがある。玉三郎はこれまで、一人で踊る『道成寺』はもちろん、二人の花子が登場する『京鹿子娘二人道成寺』も手掛けている。

 『京鹿子娘五人道成寺/二人椀久』サブ2_史

『二人椀久』は、恋人の松山太夫を失い悲しみのあまり発狂した椀屋久兵衛(略して椀久)が、まどろむうちに松山に再開し、二人で束の間の逢瀬を楽しんだが、また松山が姿を消すと、全ては幻だったと椀久が気づく…という、切ない物語を描いた舞踊作品。これも『五人道成寺』と同じく、2016年12月に歌舞伎座で上演されたもので、玉三郎と勘九郎が『二人椀久』で共演するのは今回が初めて(勘九郎にとっては初役でもある)。

【取材会】
公開にさきがけて、11月13日、坂東玉三郎の取材会が都内で行われた。挨拶の後、質疑応答に移り、上演当時のことやシネマ歌舞伎としての面白さなどについて、玉三郎が語ってくれた。
 
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──ドキュメンタリー風にするかどうかについて反対は出ませんでしたか。
独断です。というのは冗談ですが(笑)、スタッフの皆さんがわからない状態でした。『藤娘』の時、変な意味での種明かしや裏落ちを見せることが絶対ないように、舞台の夢を壊さない程度の裏を見せるということでやって、お客様にはご理解をいただきました。『阿古屋』でも、出の前の緊張感を出しました。『五人道成寺』ですと、舞台裏しか見せることがないので、「これしかできなかったけど」と言ったらそれで受けてくれた感じですね。 
──思った通りになりましたか。
お客様が喜んでくださったら思った通りですが、喜んでくださらなかったら、全然良くなかったということになるんです。これは役者としての思いですが、舞台裏で支度をしてる時に、鬘屋さん、衣裳屋さん、それぞれ小道具さんが並んで、五人がダーッと着替えているのを横から見たら、意外と壮観だったんです。これは多分、一人の『道成寺』ではないこと。これだけ裏側で働いている人がいればこそ、五人が表で見れるという事を、説明はしていませんが、観て頂くとよくわかると思うんです。
──誰がどこを踊るかは、玉三郎さんが決めるのですか。
私も決めますが、振付師が、役者の先輩後輩順を考えたら必然的にこうなるんです。「金冠烏帽子」(所化〈僧〉との問答の後、金の烏帽子をつけ、扇を手に踊る場面、最初の見所)と、「恋の手習い」(手拭を手に、恋心と恨みをしっとり表現する場面、作品最大の見所)を私が踊らなければいけないのは当然なので、自然に決まります。
──踊りについてのアドバイスは。
みんな若いエネルギーがあって、力任せになるので、花子という役からはみ出ないようにということをずっと言っていました。
──若い方はお互い意識し合ったりは。
そんなこと誰も考えてません。ひたすら自分のところをちゃんとやると思っていたと思います。勘九郎君と七之助君は、揃って踊らなければいけないので、そこはお互いに考えたと思います。皆さん、虚心坦懐に、道成寺というものに向かったと僕は思います。
──毬唄のところの皆さんの並びなどは。
誰が良いようにというより、揃えて踊るにはどうするかですね。「左右見るな」とか「もう少し離れなさい」とか。

京鹿子娘五人道成寺/二人椀久』サブ1_史
 
──今回のことで、ご自身が得たものや刺激を受けたことは。
踊らなくていい場面があったということです(笑)。私たちはここで初めて会ったわけではなく、ずっと一緒に暮らしてきたし、この子たちがヨチヨチ歩きの頃から知っているので、これで刺激を受けたなんて、あまりに美しすぎることはありません(笑)。ただ、同じ(姿)形をして踊ることで、それぞれが学んだであろうと。何を学んだかは、口にして説明することはできないんです。説明しないのでなく、できないものが伝わることが大事なんじゃないかなと。それぞれがはみ出てしまった個性を、どうやって五人で揃えるかということに終始していたというのが、正直なところではないでしょうか。
──編集上の苦労は。
座っているのが一番つらいです(笑)。編集作業は、実際は楽しいです。一人の『道成寺』の映像を入れたらどうかなどと考えて、制作の方たちに、それが違和感があるかどうかなどは相談しています。舞台裏については、お客様がご覧になって「憧れられる支度場」ということが大事だと思います。舞台でも真剣だけれど、裏でも一挙手一投足、油断のできない時間だということを知って頂くのが大事だと。そこはシネマ歌舞伎だからこそ観られるんじゃないでしょうか。僕は実は編集が好きで、10年以上やっていますが、座っている苦痛さえなければ、一年中編集してても大丈夫(笑)。
──五人ならではの面白さを出すことについては。
面白くというよりも、苦肉の策ですね(笑)。歌舞伎座の舞台は広いといえども、五人もの人間があの衣裳を着て踊るとぶつかるんです。だから、それを綺麗にするにはどうすればいいか。それから、メンバーがどういう組み合わせになったらいいか。一応私を真ん中にして、それぞれ恐れ多いと思わないところで横に行ったり、ここぞという時に真ん中で踊る。「ここで真ん中に行きなさい」「はい」みたいな世界です。
──勘九郎さんが、日々自分たちが変化したと仰ってましたが、玉三郎さんがご覧になって、後輩たちの変化は。
舞台はみんなが変化しています。だからこそ、長く続ける意味があるし、良いと思うんです。公演中に喋っていると、「袖が触れないように」「花子から出ないように」とか、具体的なことが出てくるんです。そして意外とみんながその奥を理解しているということが嬉しかったんですね。インタビューはだいぶカットされていますが、編集では全部見るんです。そのとき「こんなことわかってたんだ」みたいな(笑)。七之助君が「中が動でいて、外側が静でいる」ということを、言ってないのにわかっていて、彼なりの言葉で説明している。こんな言い方があるのか、こういう風に理解していたんだと。梅枝君も、こうでなければいけないと思ったと言ってましたが、僕に言ってくれない。「終わってから言うんじゃなくて」って思いました(笑)。
──『二人椀久』のシンプルな見せ方は、『五人道成寺』の編集とは全く違いますが、それは一つの映画として見せるからこそ、緩急をつけてという事ですか。
二本立ての場合は、二本立てなりの雰囲気がなければいけません。『五人道成寺』は(編集で)繋ぐのが大変だったので、『二人椀久』のほうは凄くオーソドックスに繋いでみました。『五人道成寺』で盛り上がって、『二人椀久』ですっと終わるほうが、清涼感があっていいということで、順番が決まるわけです。勘九郎さんとしては、花子が終わった後で『二人椀久』になったほうが、効果はあるんです。モンタージュの面白さですね。

『京鹿子娘五人道成寺/二人椀久』サブ3史
 
──後輩の皆さんは、インタビューのこの部分が使われたという事はご存知ですか。
許可は得ました。要点だけを繋ぎました。梅枝君は慣れてなくて、『道成寺』に対するインタビューだから、かわいそうに汗だくでした。初日はうまく喋れなくて、二回目のテイクです。七之助君は、着物に羽織って言ったのに部屋着で来ちゃって、撮り直しになったの(笑)。
──皆さん随分、理路整然と話されていますね。
撮り直しなんです(笑)。梅枝君は物凄く緊張していて、言葉をかなり選んでいるので、聞かれてなかなか答えられなかった。でも非常に良いことを喋っていますよね、本当に。 
──それぞれかなり面白いことを。
そこは私が言葉を入れ替えたりして、モンタージュしているからで(一同笑)。面白いところを、ここぞという時にはめていってあげる。勘九郎さんは聞かれ慣れていて、「星の数ほど、道成寺をやりたい人がいる」という事を聞いた時、「あ、そうだった」と。自分が何度もやってきているから、そのことを忘れていたんです。
──13作目のシネマ歌舞伎ですが、編集技術はかなりアップしましたか。
アップよりも、飽きないようにどうするかで(笑)。次はどういうものがくるんだろうか、それでいて、ケレンでも迎合でもなく、奇をてらわずに、どうやってこの作品の思わぬところを観て頂くか。そう思いつつも、全くそれができない『二人椀久』みたいな作品もあります。華やかなものが終わっていく淋しさというのは、奈落へ帰っていくことで、なんとなくその味が出る。芝居以外に、役者の思いが出るという感じでしょうか。その意味では、拵え中にひそひそ喋っているところは、かなり瞬間的なもので、僕が勘九郎君に何か言っていて、「はい、わかりました」と答えて、三回目に「ねえ、大丈夫ね」と言ったら「わかりました!(怒)」って顔をしてるのね(笑)。そこも入れておいたんだけど(笑)。
──なぜ “五人” 道成寺だったんでしょうか。
『二人道成寺』があって、(七代目尾上)梅幸さんと今の(尾上)菊五郎さん、(尾上)菊之助さんの『三人道成寺』があったのだから、五人でもいいんじゃない、という感じですね。「さよなら歌舞伎座」公演の時、(中村)福助さん、(中村)時蔵さんが入って『五人道成寺』をやって、これは俳優祭のようなノリで踊ったのですが、そうしたら、お客様が「楽しい」って仰ってくださったんです。それで、あれをもう一回やりましょうという事になりました。
──五人分の衣裳はあったんですか。
作ったんです。観て頂くとわかりますが、浅葱色や藤色のものは、私が一番汚いものを着ています(笑)。自分だけ良い衣裳を着て、後輩に古い衣裳を着せるのが嫌だから。勘九郎君と七之助君のものが一番新しくて、僕のものが一番古いんですよ(笑)。

〈公開情報〉
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シネマ歌舞伎『京鹿子娘五人道成寺』『二人椀久』同時上映
出演◇坂東玉三郎 中村勘九郎 中村七之助 中村梅枝 中村児太郎 坂東亀三郎(現彦三郎) 市村橘太郎 中村吉之丞ほか
●2018年1/13◎東劇ほか全国公開
〈料金〉当日料金 一般2,100円 学生・小人1,500円(税込)
〈お問い合わせ〉東劇(東京)03-3541-2711 ほか各上映映画館
 http://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/

 

【取材・文/内河 文 資料提供/松竹】


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