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レバノン出身の劇作家ワジディ・ムワワドによる『炎 アンサンディ』は、2014年と2017年にシアタートラムで上演され、演劇界に大きな衝撃を与えるとともに、数多くの演劇賞に輝いた。その『炎 アンサンディ』を含むムワワドの “約束の血4部作”の1作目となる『岸 リトラル』が、2月20日からシアタートラムで上演される。(3月11日まで)

出演者は岡本健一、栗田桃子、小柳友という『炎 アンサンディ』メンバーに加え、新しく亀田佳明、鈴木勝大、佐川和正、大谷亮介、中嶋朋子と、若手からベテランまで演技力に定評のある俳優陣が顔を揃えている。

【ストーリー】

青年ウィルフリード(亀田佳明)はある夜、ずっと疎遠だった父イスマイル(岡本健一)の死を突然知らされる電話をとった。彼は死体安置所で変わり果てた姿の父親と対面する。ウィルフリードは自分を生んですぐにこの世を去った母ジャンヌ(中嶋朋子)の墓に、父の亡骸を一緒に埋葬しようと決意するのだが、母の親族たちから猛反対される。どうやら、彼の知らない父と母の関係があるようだ。その語られなかった封印された父母の過去とは何なのか? 突如起き上がった父の死体とともに、内戦の傷跡がいまだ癒えぬ祖国へ向けて、奇妙な父子の旅がはじまる……。 

 

演出を手がけるのは、『炎 アンサンディ』と同じ上村聡史。上村が「この物語は、死んだ父の埋葬場所を探し旅する子どもたちの話だ。しかし、既にこの世にはいない父が、事あるごとに子どもたちにつきまとう」と解説しているように、物語にはさまざまな「息子たち」が登場する。その「息子たち」の中で、アメ役を演じる小柳友とマシ役の鈴木勝大に、まもなく稽古が始まるという時期に作品に挑む思いを語ってもらった。
 

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ふとした瞬間に、今も『炎 アンサンディ』が浮かんでくる

──この『岸 リトラル』は、『炎 アンサンディ』(以下、『岸』と『炎』)を含む“約束の血4部作”の1作目となるわけですが、鈴木さんは『炎』は、ご覧になったそうですね。
鈴木 再演を拝見しました。まずシアタートラムに足を踏み入れたときに目に入ったのが素舞台に近い状況で、そこから登場人物が現れて喋りだした瞬間、一気に世界が広がっていったのがすごく印象に残っています。出ている役者さんたちのパワーに同化したような気持ちで、一緒に物語を突き進むような感覚で観ていました。
──小柳さんは出演者の側でしたが、どんな思い出がありますか?
小柳 思い出すことは沢山あって、今もふとした瞬間にふっと色々なシーンが浮かんでくるんですが。とくに、ご一緒していた中嶋しゅうさんがお亡くなりになったことで、舞台に立つということへの覚悟を、改めて突きつけられたような気持ちになりました。命をかけて舞台に立つということが、自分にもできるのだろうかと。
──物語の始まりが、公証人の中嶋しゅうさんの台詞で、素晴らしかったですね。
鈴木 「確かに、確かに、確かに」と3度繰り返すんですけど、その台詞から、一体何が始まるのだろうと惹きつけられました。そして、明確な暗転とかセットの転換とかはなくて、登場する人間の力で、まったく別の場所と時間にパッと切り替わる。これは演出の力なのか役者の力なのか、どういう力なのだろうと思いながら観ていました。
──作品の内容はどう受け止めていましたか?
鈴木 いや、もう感想なんか簡単には言えないような気持ちというか(笑)。
小柳 そうなんですよね。観にきてくれた方に終演後にお会いすると、皆さん言葉が出てこないみたいな(笑)。演じている僕らは、もちろん深く入り込んではいますが、そこまで重くなってはいなくて(笑)。
鈴木 観ていてその世界に入りきっていたから、なかなか抜け出せなかったんだと思います。
──初演の作品作りは、たいへんだったのでは?
小柳 僕の役のシモンは、具体的にボクシングとか課題もありましたけど、なによりもシモンの人生が壮絶すぎて、僕の人生ではあり得ないことばかりで、でもそこに自分を寄せていかなくてはならない。その作業が体力的にも精神的にもしんどかったです。でも再演では、岡本(健一)さんに楽しみ方を教えていただいたこともあって、すごく楽しかったです。
──楽しみ方というのは?
小柳 シモンはつらい人生だけど、それを演じている自分を客観的に見ることが必要だし、演じる以上、苦しむのではなく楽しんだほうがいいと。役を本当に楽しむところに行くには、相当がんばらないといけないわけですが、そこへ行くためにも、自分の中で作品や役を深めていこうという思いになれました。それは岡本さんだけでなく、しゅうさんもおっしゃっていて、いつも楽屋を出るときに「よし、楽しんでこよう!」と。その言葉にいつも勇気をもらっていました。
 

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出てくる人間たちがウィルフリードの色々な面を照らす

──鈴木さんは、そんな舞台に出ることになった気持ちは?
鈴木 実は『炎』の再演を観たときは、すでに『岸』への出演が決まっていたんです。オーディションのような形で台本を読む機会もあったので、自分なりに『岸』の世界については想像したりしていました。でも『炎』は本も読んでなかったし、ストーリーもわかっていなかったから、舞台を観たときは衝撃で、想像していたものと違うというより、想像をはるかに超えている舞台だったので、正直「まずいな」と思いました(笑)。
──しかも、お二人ともアメとマシという本役以外に、何役も演じるのですね。
小柳 僕は5役です。『炎』では僕はシモンとあと1役くらいだったのですが、岡本さんや中村彰男さんは6〜7役くらい演じていたと思います。それをそばで見ていたことが、今回は役に立つかなと。お二人とも場面ごとにまったく違う人間になって出てくるし、その役としてちゃんと返してくださるので、毎回すごいなと思っていました。
鈴木 僕も、今回マシという役とは別に5役くらい演じるのですが、どの役も基本的に、息子ウィルフリードの色々な面を見せるためにいるところもあると思うんです。この物語は父イスマイルとウィルフリードの二人が変化していく話だし、ウィルフリードのイメージするシーンも出てきますし、彼の様々な面を照らすために、それぞれの役割もあると思うので、そこも自分の責任の1つだと思ってやっていきたいなと。そのうえで、それぞれの役柄自体が自分とは年齢も立場も立ち位置も違うので、そこを演じ分けていくことが必要だと思っています。
小柳 僕も1人1人を丁寧に作っていけば、それぞれ違う人に見せられるかなと思っていて、それぞれの役が自分という媒体を通してどう見えるのか、楽しみでもあるんです。でもあまり狙いすぎると恐いなと思っています。上っ面だけ変えてやれるような作品ではないので。
──ムワワドの戯曲は、政治や宗教、死生観、様々なテーマが入っています。その複雑な構造を、『炎』ではどうクリアしたのですか?
小柳 『炎』は、麻実れいさんが演じられたナワルの物語という主軸があって、その過去へと辿っていくという物語でしたから、主軸としての麻実さんがいてくれたことで、ある意味、自分たちの位置も把握しやすかったんです。でも『岸』は、時空も場所も役割もそれぞれなので、関係性をどう自分たちで作っていくかが課題だと思います。ただ今回も岡本健一さんがいらっしゃるので心強いなと。ダメ出しはもちろん、この映画を観たらいいとか、イメージを一緒に考えてくださったり、それは他の方たちもそうでしたが、カンパニーが1つになって作れたのはすごく有り難かったです。
 

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根本的にはいつの時代も変わらない。だから今やる意味がある

──『炎』は母と子がテーマでしたが、『岸』は父と息子です。
小柳 この物語に出てくる「父」は、たくさんの「息子たち」の父であるので、たぶん観ている方たちの自分の父親への思いも、いやでも見えてくると思います。
鈴木 この作品の中にある世界、環境とか起きている事象などは、今の僕らの世界で現在起きているものとは全然違うものだし、ここで描かれている関係は僕らの中にはなかなかないものなんですよね。でもそのうえで、根っこの部分ではすごく理解できたり、人間の感情は成長期に何が足りないとどうなってしまうのか、そういう根本はいつの時代も変わらないんだなと。だから今、ここでこの作品を上演することは意味があるんだと思います。
──3人の息子はそれぞれ父親との関係が異なりますね。自分の役に重なるところは?
小柳 アメは父親を殺してしまったわけですが、そのことが自分の心の傷としてすごく大きいからこそ、内面を人に見せることが少ない人間かなと。そのアメがどう生きてきたか。暴力的になる気持ちもわかりますし、周りが見えていないという意味では、『炎』の初演時の自分と一緒だなと。あの経験はもしかしたら役に立つかなと思ってます(笑)。
鈴木 僕は、すごく個人的な見解なんですけど、男って自分のルーツとか知りたがるなと。
小柳 あるね!
鈴木 そこがぐらついたりするとすごく不安になったりする。マシはすごくそこを知りたいのに、知ることができない不安とか恐怖があって、ゆえに今の自分がなぜ生まれてきたか、なんのためにここに居るのかが不明瞭なまま大きくなってきた。それは僕も、状況は違っていてもわからないことはなくて、存在の不安みたいなものが男にはあるのかなと。女性はそういう理由とかルーツとか関係なく、そこに存在していられるのを感じます。
 

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しゅうさんも、きっと観にきて、ダメだししてくれそうです

──演出の上村さんの印象も伺いたいのですが。
小柳 優しい方ですし、細かく丁寧に演出してくださいます。演出される作品もよく観せていただくのですが、繊細ですし、僕が言うのも生意気ですが見せ方が本当に上手だなと。シアター風姿花伝で上演した『悲しみを聴く石』とか、最後は吐きそうになるぐらい(笑)リアルで、本当に人間の内面の描き方がうまい方だなと思います。
鈴木 僕は3度ほどお会いしていて、最初はさっきも話に出たオーディションのときで、1人に40〜50分くらいかけてくださって、読んだ場面をその場で「こういうブレスでこういう言い方でやってみて」と。僕はかなりアップアップになりましたが(笑)。でもそのときのやり取りで、絶対ご一緒したいなと思いました。今回、演出していただけるのが本当に嬉しいです。
──戯曲について確かなイメージを持っている方なので信頼できますね。
鈴木 とくに今回の作品は、人によって読み方が違う部分は必ずあるだろうなと。それを上村さんなら率先して導いてくれるだろうし、その向かう方向を想像しながら稽古するのは、とても楽しみです。
──そういえば今回、お二人は初共演ですね?
鈴木 そうなんです。一応共通の知り合いはいますけど、話すのは初めてです。
小柳 でも、もう馴染んでますけどね(笑)。
鈴木 前回の『炎』に出ていたということで、本当に心強いです。
小柳 あまり頼りにならないと思うけど(笑)。でも一緒に作れるのがすごく楽しみです。
──色々な意味で興味が尽きない作品ですね。最後に改めてメッセージを。
小柳 この作品をできること、板の上で生きられることが幸せです。色々な人の思いを背負って立たなくてはいけないのですが、僕が信頼している方々が出演しているので、素晴らしい舞台になるのは間違いないです。亡くなったしゅうさんも、きっと観にきてくれるかなと。ダメ出しされるのではないかと(笑)思っています。
鈴木 こういう作品を経験させていただくことに感謝していますし、本当に貴重だなと思っています。今も世界にはこういう状況はあるわけで、台本を読んでいるとどこまでも考えさせられます。稽古でそれをどこまで自分が理解して、共演の皆さんと一緒に作り上げていけるか。でも、素晴らしいものになると確信しているので、ぜひ幅広く色々な方々に観ていただきたいです。
 

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鈴木勝大・小柳友

こやなぎゆう○1988年生まれ、東京都出身。テレビ、映画で活躍した後、舞台へも活動の場を広げる。主な出演映画は『トウキョウソナタ』『がじまる食堂の恋』『アオハライド』『ANIMAを撃て!』『娼年』など。舞台は『家康と按針』『非常の人、何ぞ非常に〜奇譚 平賀源内と杉田玄白〜』『炎 アンサンディ』『BENT』『すべての四月のために』など。2015年から作・演出・出演を自らがおこなうユニットGus4を兄弟で立ち上げ、二人芝居にも挑戦している。

すずきかつひろ○1992生まれ、神奈川県出身。第22回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストで準グランプリを受賞し、芸能界デビュー。2012年『特命戦隊ゴーバスターズ』で主演を飾り、ドラマ初主演を果たした。以降、ドラマ『妄想彼女』『弱くても勝てます〜青志先生とへっぽこ高校球児の野望〜』、映画は『帝一の國』『一礼して、キス』、舞台は『ロマンス2015』『シブヤから遠く離れて』『何者』などに出演。

〈公演情報〉

L234492-0001-001-180110
『岸 リトラル』
作◇ワジディ・ムワワド
翻訳◇藤井慎太郎
演出◇上村聡史
出演◇岡本健一 亀田佳明 栗田桃子 小柳友
鈴木勝大 佐川和正 大谷亮介 中嶋朋子
●2/20〜3/11◎シアタートラム
〈料金〉6,800円 高校生以下3,000円 U-24 3,400円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515
〈公演HP〉https://setagaya-pt.jp/performances/201802kishi.html




【取材・文/榊原和子 撮影/アラカワヤスコ】

 
 


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