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坂手洋二の作・演出による「ふたり芝居」の舞台が、3月19日に下北沢ザ・スズナリにて幕を開ける。(4月1日まで。)
この作品は、2002年に演劇集団円に書き下ろしたもので、その時は岸田今日子と塩見三省が演じている。今回は高橋和也と都築香弥子という若くなったキャストでの上演で、坂手自身が初演出することでも注目を浴びている。
登場人物は2人だけ。かつて音楽活動とともに変革のための運動に身を投じていた男が、デモの最中の衝突事件で逮捕された。男の冤罪を信じ、支援活動に身を捧げる女。手を握り合ったこともない2人は、男が獄中にいるまま結婚。十数年後、男が出所し、女が2人のために用意した家で一緒に暮らすその日から、物語は始まる──。
坂手の言葉によると「ポリティカル・ウェルメイド・メロドラマ」という、この「ふたり芝居」に取り組む高橋和也と都築香弥子に、舞台となるセットの中で、作品世界と役柄について話してもらった。
 
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硬質なテーマと言葉の奥に
あるのはラブストーリ
 
──まず作品を読んだ第一印象はいかがでしたか?
都築 たいへんハードルの高い、手強い作品だなと思いました。もちろん台詞の量も膨大ですし、学生運動が盛んだった1970年代に青春時代を過ごした人たちの話ということで、私はちょっと年代的には下なので、その頃の人たち、ある強い意志を持った人たちの心を掴もうと今、必死になっています。
高橋 非常に硬質な作品だなという感じがしました。文体もそうですし、でもそこの中に何か引っかかるものがあって、それは根底にあるのはラブストーリーだということで。一見、非常に政治的な色合いが強いんですが、その奥にある2人の愛情、そこが表現できたら素晴らしいラブストーリーになると思いました。
──それぞれの役柄についても話していただけますか。
高橋 僕の演じる男は、「ブラインド・タッチ」という2人だけのピアノバンドをやっていたんです。学生運動をしている人たちの間でも支持され、あの時代の音楽家として学生運動にも深くコミットし、デモにも参加していました。そして、渋谷で騒動があり、機動隊員が亡くなるという事件が起きたとき、運動のリーダーと間違えられ捕まってしまうんです。つまりは冤罪で、彼は28年間、獄に閉じ込められるわけです。そして都築さん演じる女性と出会います。最初は活動家として知り合い、やがて獄中結婚し、彼にとっては面会にくる彼女が、外の世界との唯一の接点で、そういう18年を過ごし、彼が出所して、2人が初めて一緒に暮らすところから色々なことが始まっていきます。
都築 出会って18年、獄中結婚してから16年というその年月を、妻は月に1回、面会に通い続け、手紙を書き続け、アパートを借りて彼を待つわけです。
──彼が出所して暮らしが始まることで、2人の間に変化が起きていくわけですね。
都築 まず今まで触れられなかった人に、触ることができるようになる。それはとてもドキドキすることであり、待ち望んでいたことでもあるのですが、実際に触るという感覚によって生まれるもの、そこが大きなテーマでもあると思います。
高橋 面会室の中で完結していた2人に現実の世界が一挙に開かれた。それによって2人の間にも変化は出てきます。とくに僕の役は、28年前と大きく違っているこの世界に入っていく、その葛藤があるわけで、彼女はそれを一生懸命サポートし、男を社会で生きていける人間にしようとする。でも彼はバンドのもう1人のピアニストが、まだ獄中にいるということもあって、精神的に苦しみ続けるわけです。そして自分が過ごした70年代と今の社会がまるで違ってしまっていることについていけない。理想としていたものが跡形もなく消えてしまい、なぜこうなったのかということが受け入れられないんです。誰にもわかってもらえないその思いを、妻だけはわかってくれるのですが、でも妻が男に期待するものもあるわけで……、そこもズレていくんです。そんな2人が、このあとどう生活していくのか、そこが見どころでもあり、そういう意味ではとても深いラブストーリーになっています。しかも活動家だった2人なので、社会への思いや変革への意志など色々な想いが強い。そういう2人であるがゆえに交わされる会話が、お客様にとってはきっと興味深いものになると思います。
 
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裏にあるものを読んでしまう時代に
誠実はとても美しいということを
 
──実際に暮らしはじめてギャップも出てくると思いますが、思想とか信念が共通する2人だから乗り越えられるものもあるのでしょうね。
高橋 2人は色々な意味で揺さぶられるのですが、獄中で出会い、獄中で結婚した、最初のときのその想いは変わらずにあるんです。だから、社会や周りに振り回されながらも、今どうあるべきかを語り合っていく。この2人は本当に誠実な人たちなんだと思います。そしてその誠実さがとても美しいと思えるんです。今の時代は誠実とか信じにくい、裏にあるものを読んでしまうような時代で、そんな中で本当にシンプルに人間としてどう生きるべきかを追求している2人なんです。そういうある種の潔さとか凜としたものがこの作品にはあって、それは演じる僕らにも求められていて、そこがこの作品の核になっていると思います。
──坂手さんはそういう男女を描くことで、時代を照らし返したいと思ったのでしょうね。坂手さんの演出について感じることは?
都築 リアルであることにこだわっていらっしゃいます。そして、言葉の中にその時だけでない、流れ続けているものが込められるべきだと。流れ続けているものをべースに言うべき言葉をきちんと言うことを求められます。
高橋 これまで左翼運動とか学生運動とかそういう方たちの使う言葉や思想が、僕にはすごく遠く感じられていたのですが、坂手さんの演出を受けながらここまで稽古してきた中で、色んなことが自分の中に落ちてきているんです。当時、一生懸命に運動をしていた70年代の青年たちの物の考え方とか正しさとか。男は全国から彼を応援するために送られてきた膨大な手紙をすごく大切に思っていて、それが妻と自分を支えてくれる大事なものなんです。今、手書きの手紙を誰かに書いて送ること自体が少なくなっていますよね。彼は手紙を1つ1つ読んで、出してくれた人のその当時に想いを馳せながら返事を書くんです。そういう意味では、今の人たちが無くしてしまったものを持ち続けている。そういう男と女を僕たちが演じることで、自分も色々なことを学んでいて、例えば沖縄の基地問題なども、難しすぎて「仕方ないよね」とか、あまり考えずに流されてしまいがちになる。でも男は深い思いで沖縄について考え続けるわけです。そういうことを、男を演じることとは別に、「じゃあ高橋和也自身はどう思うんだ?」と突きつけられます。そこは最終的に役に滲んでくる。書いてある言葉を喋るだけではない部分、それは自分自身もちゃんと理解しないとできないので、そこを坂手さんの演出を受ける中ですごく学んでいます。
 
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男女の6才という年齢差が
2人の関係性をよりリアルに
  
──お二人は初めての共演になりますが、お互いについて感じることは?
都築 私は和也さんの20才の時の舞台、蜷川幸雄さん演出の『ペール・ギュント』を拝見していて、その時から今までの年月が、ちょうどこの作品で男が獄中にいた時間と同じなんです。そう考えると28年という時間の重みが実感として感じられました。俳優としての和也さんは、本当に真摯で誠実で、そして目を見ていると吸い込まれそうになります。目の奥がすごく綺麗でずっと見ていたくなるような。物語の中で、面会に行ったときもきっとそうだったのだろうなと。それから妻は彼に、とにかく音楽に戻ってほしい、音楽に戻ってくれさえすれば自由になれてこの時代を生きていけるからと。なんとかピアノを弾かせたいと思っているのですが、なかなか弾いてくれないんです。最後、あるシーンでピアノに触れるのですが、その最初の稽古のとき、私は後ろ向きで音だけ聴いていたんですけど、その1音がすごかったです。音に対する敏感さ、和也さんの優しさ、そういうものが1音で伝わりました。
高橋 都築さんとは今回初めてご一緒しているのですが、やはり新劇でしっかりと基礎を身に付けてこられた方だなと。僕がすごく憧れている新劇の俳優さんたちの演技力とか普段の誠実な居方とか、それを体現されている方で、俳優として尊敬する先輩です。稽古中にも、役のヤエさんがぐっと立ち上がってくる瞬間があって、そういうときは本当に圧倒されます。僕の役はヤエさんより6才若い設定になっていて、それは初演では10才年下だったそうですが、坂手さんが僕らの実年齢に合わせてくれました。その6才という年齢差が姉と弟のようでもあり、男が妻の母性に包まれている感覚にうまく重なって、都築さんに甘えてみたり叱られてみたり、尻を叩かれてみたり(笑)。男が28年ぶりに世の中に出て、女性に感じるそういう感覚は、都築さんだからこそ感じる部分も多いと思います。
──音楽家で活動家で、でも社会的に生きるには不器用な男性ということで、やはり支えてあげたくなるでしょうね。
都築 そういう男性の可愛さが和也さんにもあるんです。それにお茶目さもあって(笑)。
高橋 この2人には、男女のあり方として普遍的なものがある気がします。男は自分で立っているつもりでいますが、やはり女性に支えてもらっているというところがすごく描かれていて、そこはたぶんご覧になる方も共感されるところかなと。意地を張って、生意気なことを言ってみたり、逆らってみたり、いなされたり(笑)。でもプライドとか意地とか、そういうものが自分を支えているところもあるので。そこもこの作品はうまく描かれているなと思います。
 
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想像と余韻を残すような
ハッピーエンドになれば
 
──タイトルも含めて作品の背景には音楽がありますが、お二人もミュージカルへの出演や楽器演奏など、音楽とは遠くないと思いますが。
都築 私は、演じる作品はストレートプレイのほうが多いのですが、音楽との関係では母が音楽の先生でしたので、ピアノを3才から母に習いました。でもあまり勉強熱心ではなくて、譜面を見ながら弾くのではなく、母の指の動きと音で覚えたんです。その記憶が今、稽古しながらふっと浮かんできます。そして劇団四季に在籍していたときも、私は芝居担当でしたが、周りに音楽のプロフェッショナルの方が沢山いらして、その素晴らしい声を毎日聴いていました。本当に皆さん素晴らしくて、まるで楽器のような鳴り方をするんです。そういう意味でも音楽がつねにそばにありました。
高橋 音楽は僕にとっては救いなんです。音楽をやらない自分は考えられないし、ギターを弾くとか歌を歌うとか、そういうことが俳優である自分の癒しになっているんです。それもどんどん自分に向けて歌うようになっていて、音楽との向き合い方もそうなっています。この作品の中の音楽のあり方はとても素敵で、男は音楽によって獄に閉じ込められたわけですし、いわば音楽に苦しめられてきました。でも妻はそういう男に「あなたはもう一度音楽をすべきだ」とずっと言い続けるんです。そんな男が音楽とどう向き合うのか、男と女がどう1つになっていくのか。単純なハッピーエンドというより想像と余韻を残すような、そこが坂手さんの素晴らしさなのですが、そういうラストになっています。
──改めて、そんな作品をご覧になる方へメッセージをいただければ。
都築 硬質な言葉などが沢山出てくるのですが、人間ってこんなふうに不器用で、でも誠実なんだという、根源的な、本質的な部分、そこをできれば若い方にぜひ観ていただいたいです。もしかしたらこんな人たち本当にいたの?と思われるかもしれないのですが、きっとなにか心に響くものがあると信じています。
高橋 この『ブラインド・タッチ』という、今の時代に抗うような2人を、都築さんと一緒に一生懸命に毎日演じることで、皆さまに少しでも、坂手さんの思い、僕らの思い、あるいは今の社会への思いを、届けられればと思っています。


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【プロフィール】  
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たかはしかずや○東京都出身。1988年、男闘呼組としてデビュー。93年解散後、映画『KAMIKAZETAXI』(原田眞人監督)『八つ墓村』(市川崑監督)『Hush!』(橋口亮輔監督)、テレビ『寺子屋ゆめ指南』大河ドラマ『風林火山』(以上NHK)などの作品で活躍。近年の出演作品に、舞台『イリアス』(栗山民也演出)『血の婚礼』(蜷川幸雄演出)『嵐が丘』(G2 演出)『オーファンズ』(宮田慶子演出)『リトル・ヴォイス』(日澤雄介演出)『紙屋町さくらホテル』(鵜山仁演出)『三文オペラ』(谷賢一演出)など、映画『そこのみにて光輝く』(呉美保監督)『ダブルミンツ』(内田英治監督)『あゝ、荒野』(岸善幸監督)など、ドラマ『撃てない警官』(WOWOW)『64』『大河ドラマ 真田丸』『植木等とのぼせもん』(NHK)など。今年、主演映画『たった一度の歌』(宮武由衣監督)の公開を予定している。
 
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つづきかやこ〇愛知県出身。1986年文学座附属演劇研究所入所。2006年まで劇団文学座所属。当時の芸名は、香月弥生(かづきやよい)。『桃花春』(加藤新吉演出)『グリークス』(鵜山仁他演出)『ペンテコスト』(松本祐子演出)『アラビアンナイト』(高瀬久男演出)など。 劇団外公演に、『ジ・アート・オブ・サクセス』(栗山民也演出)『ペリクリーズ』(出口典雄演出)『イーハトーボの劇列車』(木村光一演出)『三人姉妹』(加藤健一演出)『グリークス』『kitchen』(蜷川幸雄演出)など。2006年から2010年まで劇団四季所属。『鹿鳴館』『この生命誰のもの』(浅利慶太演出)『ミュージカル春のめざめ』など。退団後は『しみじみ日本・乃木大将』(蜷川幸雄演出)『現代能楽集クイズ・ショウ』『バートルビーズ』『くじらの墓標』(坂手洋二演出)『カムアウト2016↔1989』(藤井ごう演出)などに出演。
 
〈公演情報〉
チラシ表
 
『ブラインド・タッチ』
作・演出◇坂手洋二 
出演◇高橋和也 都築香弥子
●3/19〜4/1◎下北沢 ザ・スズナリ
〈料金〉一般席¥4,500(当日券4,800) 学生席2,500 ペア席8,000(全席指定・税込)(学生券は前日までに予約のうえ当日受付にて要学生証提示)     
〈お問い合わせ〉オフィス・ミヤモト 03-3312-3526(平日10:00 〜 18:00)
 


【取材・文/榊原和子 撮影/友澤綾乃】




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