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村の自然と共存する人々を守るためにダム建設反対を掲げ、時の権力を相手に戦い続けた男とその妻の半生を追った実話をもとに、東憲司が書き下ろした『砦』。2016年に上演され、大きな感動を呼んだこの作品が、北海道・四国公演を経て4月10日〜15日、東京・両国シアターΧ(カイ)にて上演される。
原作となった松下竜一作『砦に拠る』(1977年)は、大分県と熊本県にまたがる下筌(しもうけ)ダムの建設反対を掲げて、国を相手に13年に及ぶ闘争を繰り広げた山林地主・室原知幸が主人公のノンフィクションである。
──その夫婦は誰よりも故郷を愛していた。故郷で静かに老いることが幸せだと思っていた。「日本は戦争に負けた、それを思えばこれくらいの犠牲がなんです」、ダム建設予定地の住民に投げ掛けた職員の言葉に一人の男が立ち上がった。戸数21戸の小さな集落で、男はダム建設予定地に砦を立て、アヒルや牛も反対闘争に参加させた──。
 
今回の再演に向けての思いを、室原夫妻を演じる村井國夫と藤田弓子、影という名で何役も演じる原口健太郎、浅井伸治、滝沢花野の3人、そして作・演出の東憲司に、まもなくツアーが始まるという時期に稽古場で話してもらった。

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東憲司、藤田弓子、村井國夫
原口健太郎、滝沢花野、浅井伸治


作品の力が素晴らしくて
最後まで緩むことのなかった初演

──好評再演の作品ですが、まず作・演出の東さんに、この作品を書いたきっかけから伺いたいのですが。
 松下竜一さんが書かれたノンフィクション『砦に拠る』を読む機会があり、僕も福岡出身ですが、同じ故郷にそういう方がいらしたというのを知って、ぜひ舞台化したいと。室原知幸さんという方は、晩年になってから私財を投げ打って、国を相手に反対闘争をされたわけで、その苦労はいかばかりだったかという想いと、室原さんという存在の陰に隠れがちだった奥様のヨシさんのご苦労もさぞやと思ったんです。このことではかなりご主人を恨む気持ちもあっただろうなと。でもあの時代の女性ですから、夫を止めるとか反抗するとか考えもしなかったのだろうなと。
村井 僕らからしたら、なぜなんだろうと思いますよね。我慢するのが当然の時代だったんでしょうかね。
 明治生まれの男の人ですからね。でも室原さんはまた特別だったんでしょうね。でもヨシさんは手記に、「あのときはものすごく腹が立った。許せなかった」と書いてて、本当にたいへんだったんだろうなと想像してます。
──出演の皆さんには、初演時の手応えを伺いたいのですが、村井さんは出ずっぱりで、13年にわたる戦いを表現するということで、たいへんだったのでは?
村井 一番たいへんだったのは、病気で出られなくなった人の代役で、急に参加することになった原口くんで(笑)。
原口 皆さんにご心配かけました(笑)。
村井 いやいや。初日まで3日しかなかったから、とにかく自分のことより心配で(笑)。
藤田 いい緊張感がありました(笑)。
村井 だから初演は、ただただ夢中だった記憶しかないんです。でもさすが劇団桟敷童子含めて30年をともにしてだけのことはあって、東くんの世界を掴むのが早くて、素晴らしかったです。それが僕たちにも良い刺激になったのかもしれないと思うくらいで。でも、とにかく初演は無我夢中でしたので、今回はもう少し落ち着いて台本も読み直して、新たな気持ちで取り組んでいます。

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藤田 もともと作品の力が素晴らしいので、そのまま取り組めば良かったところに、また1つそういうことがあって、よりギュッと座組みが引き締まりました。最後までまったく緩むことがなかったです。私は自分でいつも言ってるんですけど、稽古場の劣等生で(笑)、内容は把握していてもとんでもない台詞を言ってしまったり(笑)。しかも熊本の方言が難しいので、今回もまたそこで苦しんでます(笑)。
村井 あまり難しく考えずに、九州の言葉なんだとわかるニュアンスでいいんですよ。
藤田 村井さんにまた引っ張っていただきながら。すごく素敵な俳優さんなので、女房役がこんな人なの?と思われないように。
村井 何を言うんですか、かゆくなっちゃうよ(笑)。
──実際の室原さんもきっと素敵な男性だったのでしょうね。
藤田 私はそう思ってます。信念の人だし、長い闘争の間に絶対にぶれないんです。すごくチャーミングな人だったのではないかと。
 うーん…そこは紙一重のところはあるかなと(笑)。凄い人ではあるんですけど、奥さんに対してとか周りに対して傲慢な部分もあったようですから。ただ、根底には愛情があったからだと思うんですが。
村井 その愛情を表現するのが、なかなかたいへんです(笑)。
藤田 大丈夫! 少ない愛情をしっかりと受け取ってます(笑)。

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単なる英雄ではない人間くささを 
引き出すことが影たちの役割

──影役の方たちにも伺いますが、まず代役で入った原口さんから。
原口 初演の記憶はほとんどないんです。3日しかないというので、自分の台詞だけでは絶対に覚えるのは無理なので、台本全部覚えるしかないなと。それでなんとかなりました。出番も色々あって、めまぐるしくて、花野ちゃんとかこんな可愛い顔してるのに、僕がちゃんとできるか恐い顔で見張ってるんです(笑)。
滝沢 そんなことないです!心配だっただけです(笑)。
浅井 僕も、3人一緒のシーンが沢山あったので正直ちょっと恐くて、本番に入るまでどうなるかなと思ってたんですが、台詞は完璧ですし、驚きました。
滝沢 原口さんが入ってきた途端にリズムができたというか、東さんの方向にちゃんと持っていかれて、さすがだなと。
村井 あれは凄かったね。やっぱり東くんの作品のリズムを体でよく知ってるなと。
 皆さんちょっと原口を持ち上げすぎですよ(笑)。
──やはり長年の経験で台詞などは入りやすいのでしょうね?
原口 自分ではあまり自覚はないんですけどね。とにかく悩んだり考えたりする時間がなかったので、そのまま動いて喋って。その結果そういうふうに見てもらえたのかもしれません。 
──浅井さんと滝沢さんは、初演で作品について感じたことは?
浅井 これだけ何役もするのは初めてでしたから、その演じ分けも楽しかったですし、いわゆる英雄的な存在として捉えられる室原さんの、そうでない部分が僕らの役で透けて見えるようになれたらと思ってました。単純なヒーローじゃない、ある意味嫌なやつでもあるけど、でも良いよねこの人という、そういう部分の助けが僕らの役でできたら、お芝居自体も1つ上がるかなと。役所の人間や村の人や色々な角度からアプローチする中で、室原さんの人間くささみたいなものが出せたらいいな、素敵だなと。
──室原さんを多面的に照らして見せることで、彼の戦いの本質も伝わりやすくなるということですね。
浅井 東さんは、社会的な問題を描いて堅苦しくなりがちな内容を、誰もがわかる人間ドラマとして書いてるんですよね。初演は僕も自分のことしか考えられなかったんですが、今回は1歩引いて、この本をどう見せていくかにもう一度立ち返っているところです。東さんも、今回はそういう部分を大事に演出しているのを感じますので、作品全体がもう1つ深いところに行くだろうなと思っています。

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滝沢 影って巻き込まれていくだけじゃなく、巻き起こしていく役でもあるんですね。事件にしても2人へのアプローチにしても、色々な立場から巻き起こしていくし提示していく。初演のときは私も必死すぎて、巻き込まれていた感じでしたけど、今回改めて、こんなに沢山のことが起きているのだと。話の中心はご夫婦なんですが、私たち3人が主観も含めて巻き起こしていくというのが大事で、私たちから出していかないといけないなんだなと改めて思っています。
──再演にあたって、東さん自身は変化などありますか?
 もう一度読み直しながら、室原さんはやっぱり凄い人だなという思いもありますし、今の時代に通じる状況、国家権力の横暴などもひしひし感じていますが、やはり根本にある夫婦の人間ドラマというものを生かしていきたいなと。演出でいえば、僕はせっかちなので少しゆっくりめに、深める方向でいきたいと思いながらやってます。
藤田 今回凄かったのは、全員が稽古初日に台本を離したんです。それは凄いなと。でもその後はやっぱり1000本ノックみたいな稽古で(笑)、全然ゆっくりなんかしてないです(笑)。私の役でいえば、のんびり暮らしていた人が、とんでもない事に巻き込まれるわけですが、その中で見せる強さとか、ヨシさん個人を演じてはいますが、後ろにいる村の人たちのことも感じさせることが必要だと思っているんです。劇中にも出てくるのですが、村に支援できたオルグの人たちとか、さっさといなくなったり、やっぱり他人事なんですよね。そういう社会とか歴史とかの事実もきちんと伝えていく作品になっています。
村井 ヨシさんは、そこは室原さんと違って冷静に見ているんです。そこがいいなと思うし、この作品があくまで人間というものを描いているなと思えるところなんです。僕は室原知幸という役を離れると、最後のほうのヨシさんの台詞とか、泣けて泣けて仕方ないんですが、舞台ではそこは我慢して頑固一徹な夫になってます(笑)。

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初日から台本を持たない
村井さんを見て

──今回、夫婦役ということでお互いについて感じていることは?
村井 僕は演技の質が硬いほうなので、藤田さんの柔らかさやフワッとした演技にとても助けられてます。
藤田 私はもともと文学座の中でも喜劇部出身と言っていたんです。そんなものはありませんけれど(笑)。ちょっと押したら飛んでいっちゃうような私の芝居を、村井さんに押さえていただいて、重みのあるものにしていただいてます。そのうえでどこか包容力が出るようなヨシさんになればと思っているんです。
──東さんから見て、この5人だからこそという部分は?
 藤田さんの温かさ、柔らかな演技がこの芝居には必要だと思いましたし、村井さんは今回で4回目くらいのお付き合いなんですが、とにかく凄いパワーがあって、よく劇団でも村井さんのパワーを見習えと。
村井 何言ってるの(笑)。
原口 いや、本当に僕らいつも聞いてますから(笑)。さっき話に出た初日から台本を持たないという話ですけど、村井さんが持たないからなんです。
村井 それは平(幹二朗)さんと『オセロー』で一緒に仕事してからなんです。平さんが稽古初日に台本を持っていらっしゃらなかった。そこから僕も持たないことにしたんです。
 でもシェイクスピアとかチェーホフみたいな何百年前からある戯曲じゃなくて、前の日にやっと全部書き上がったみたいな(笑)僕の本でさえ、ちゃんと覚えてきてくださるんです。
村井 東さんの芝居は、僕から出たいとお願いしたくらい大好きですし、稽古初日に台詞を入れてくるくらい役者として当たり前だと思ってますから。

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──影の3人の方たちはいかがですか?
 滝沢さんは新国立劇場の研修所を出ていて、話に聞いていた通り優秀な女優さんだなと。浅井さんは今人気の劇団の人だから、鼻息荒い感じで来られたらどうしようと思っていたんですが(笑)。
村井 荒いよね(笑)。
浅井 荒くないですよ! 
 全然そんなことなくて、良い意味で泥臭いところがあってアングラチックなところがあるのがいいなと。
村井 今の人には珍しいよね。
 原口は初演では本当に助けてもらいました。でも僕は3日あれば大丈夫だろうと思ってて(笑)。それで、稽古場でがんばってたから、飯でも奢ってあげようかと誘ったら、「今夜はホテルで台詞を覚えるので」と断られて。さすがの原口も精神的にきてるんだと(笑)。
原口 いや、さすがにそこで付いていったらあかんでしょ(笑)。
村井 影は本当にたいへんだもんね。僕は芝居をしていて新しい才能と出会うのがいつも楽しみで、出会って刺激を受けながら自分も豊かになっていきたいと思っているんですが、この3人には本当に刺激されます。浅井くんは色々考えてくるし、花野ちゃんはこの2年で凄く成長したなと。原口くんのユーモラスな台詞とか聞きながらいつも笑ってますし、最後のほうで男2人が「室原知幸死去」と語る台詞とか、涙しながら聞いてます。本当に良い座組だなと幸せだし、この3人がいてくれて嬉しいです。

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故郷を奪われるということは
今もまさに起きていること

──そんな素敵な座組の皆さんから、改めてメッセージをいただければ。
滝沢 ダム反対闘争の話ですが、夫婦の話であり、周りの人たちの話でもあり、人間を描いていて、心にくるシーンがいっぱいあります。13年間の出来事を2時間弱でやるわけですが、観ているかたも一緒に巻き込まれてほしいです。
浅井 国と闘った人とそれを支えた奥さんの話ですが、たぶん皆さんが、生きていくうえで何かと闘っていて、1人1人に闘いがあると思うんです。そこを重ねて観ていただければと思います。そしてこの少ない人数で一大スペクタクルをやるので、そこは期待していただきたいですね。
原口 室原さんの生き様か村井さんの生き様かわからないくらいですが、男の生き様を感じる作品です。そして藤田さんのヨシさんが、まあチャーミングで可愛くて。そして、我々3人が、敵わないけれどお二人に挑んでいってます(笑)。

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藤田 芝居って何才になっても勉強だなと思いますし、逆に年をとってきたからこういう役をさせていただけるのは幸せだなと。前回、年齢が同じくらいのお客様が、観終わったあと滂陀の涙で立ち上がれなかったとおっしゃって。その言葉を聞いたときに、自分の人生と重ねてくださるだけじゃなく、この室原夫妻の人生をちゃんと観てくださったんだなと。やっぱりこの作品は人が描けているんだなと思います。
村井 個人の力で国と対峙するということは大変な覚悟と勇気がいるんですよね。それを行った室原さんの心情などは察するに余りあって、これをどう表現していけばいいのかずっと考えています。もちろん我々俳優も色々なものとつねに闘っているわけです、自分自身とも闘っている。そういう意味では負けちゃいけないと思うし、僕の役者人生の中でも、これほどに自分のすべてをかけてやれる役はそうそう出会わないと思っているので、東さんの戯曲と松下竜一さんの原作と、そこから提起されるものを渾身の力を込めて、意志を持ってやっていきたいと思っています。芝居は全員のアンサンブルが大事と言いますが、とても素敵なアンサンブルで出来ているので、そこも感じていただければ。
 50年前の話ですが、故郷を奪われるということは今もまさに起きていることですし、夫婦を描いていますがドキュメンタリーでもありますので、やはりそこはきちんと伝えていきたいと思います。村井さん藤田さん、影の3人、その力で素敵な舞台になっています。ぜひご覧いただければ嬉しいです。

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【プロフィール】

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ひがしけんじ○福岡県出身。劇団桟敷童子代表。劇作・演出・美術を手がける。近年では劇団以外でも幅広く活動、トム・プロジェクトやこまつ座をはじめ外部作品も積極的に手がけている。2012年には紀伊國屋演劇賞・個人賞、読売演劇大賞優秀演出家賞、鶴屋南北戯曲賞をトリプル受賞。また『蝉の詩』『標〜shirube〜』で2017年度第25回読売演劇大賞優秀スタッフ賞受賞するなど受賞多数。
                    
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むらいくにお○佐賀県出身。俳優座養成所第15期生。舞台や映像で活躍中。『蜘蛛女のキス』(92年)で芸術祭賞、『秘密はうたう』(11年)で第19回読売演劇大賞優秀男優賞。近年の舞台は、シアターコクーン・オンレパートリー+キューブ2016『8月の家族たち August:OsageCount』、『ハムレット』、音楽劇『魔都夜曲』、ミュージカル『戯伝写楽2018』など。

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ふじたゆみこ○東京都出身。1964年に劇団文学座研究所に入り、1967年にアトリエ公演『カンガルー』で初舞台、1970年正劇団員、71年に退団してフリーに。1968年NHK連続テレビ小説『あしたこそ』のヒロインでデビュー。映画・テレビなどで、幅広く活躍。静岡県伊豆の国市で生活し、地元の市民劇団『いず夢』で座長として演出もしている。最近の出演舞台は『ペコロスの母に会いに行く』、『結婚する女』など。

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はらぐちけんたろう○福岡県出身。演劇企画グループ木冬社を経て劇団桟敷童子の旗揚げに参加。最近の劇団以外の出演作品はトム・プロジェクト『百枚めの写真 一銭五厘たちの横丁』、舞台『トンマッコルへようこそ』、オフィスコットーネプロデュース『怪談牡丹燈籠』、キャラメルボックス2017グリーティングシアターVOL.4『光の帝国』など。

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あさいしんじ○長野県出身。劇団チョコレートケーキ所属。劇団公演以外の主な出演作品は、流山児★事務所『新・殺人狂時代〜12人の怒れる男たち〜』、トム・プロジェクト プロデュース『挽歌』、雷ストレンジャーズ公演 演劇ジェット紀行オーストリア編『緑のオウム亭−1幕のグロテスク劇−』など。

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たきざわはなの○東京都出身。東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科卒業、新国立劇場演劇研修所8期生。研修所卒業後の主な出演作品は、劇団印象-indian elephant- リーディング公演『グローバル・ベイビー・ファクトリー』トム・プロジェクト プロデュース『百枚めの写真〜一銭五厘たちの横丁〜』、梅田芸術劇場『黒蜥蜴』など。


〈公演情報〉
砦 チラシ表面2018
 
トム・プロジェクト プロデュース
『砦』
原作◇松下竜一「砦に拠る」
作・演出◇東憲司
出演◇村井國夫、藤田弓子、原口健太郎、浅井伸治、滝沢花野
●4/10〜15◎東京・両国シアターΧ(カイ)
〈料金〉前売5,000円 当日5,500円 U-25 2,500円 シニア 4,500円(※ U-25 、シニア券はトム・プロジェクトのみで販売)
〈お問い合わせ〉トム・プロジェクト  03-5371-1153(平日10:00〜18:00)



【取材・文/榊原和子 撮影/山崎伸康】




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