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イプセンの問題作『ヘッダ・ガブラー』が、寺島しのぶをタイトルロールに迎え、小日向文世、池田成志、水野美紀、段田安則ら錚々たる演技派たちによって演じられる! その舞台が本日、4月7日、Bunkamura シアターコクーンにて初日を迎えた。(4月30日まで)

物語の主人公は高名な将軍の娘で、美貌と才気に恵まれた女性ヘッダ。思いのままに人を操り、すべてを手に入れたかに見える彼女だったが、実は現状への不安や不満、言いようのない焦燥感にかられ…。
はたして彼女は希代の悪女だったのか、時代に抗った新しい女なのか!?

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作者は『人形の家』で広く知られているノルウェーの劇作家ヘンリック・イプセン。彼の戯曲には、19世紀の社会制度や女性の地位を背景にした印象的な女性像が多く登場する。たとえば『人形の家』ならノラ、そして今回の『ヘッダ・ガブラー』ではヘッダ。ふたりとも、すでに資本主義概念が劇的な成長を遂げた19世紀末においても、なかなか容認しがたい生き方をした女性たちと言える。なかでも本作のヒロイン・ヘッダの性格や行動は、発表当時から「悪魔的、破滅的」と形容されてきた。
「将軍の娘」として恵まれた環境に育ち、自由で享楽的なようだが、実は臆病で社会の規範から外れることを恐れている。そして、常に何かを渇望しながら、それが何かが自分ではわからず、いつもフラストレーションを抱えている。他人が何か「生きがい」や「目的」に目を輝かせるのは面白くなく徹底的に邪魔をする…それがヘッダ。
そんな彼女の「心の闇」に演出の栗山民也は光を当て、現代を生きる我々にとっても普遍的な人間の感情や葛藤を突きつけてみせるのだ。

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【STORY】
高名なガブラー将軍の娘で美しく気位が高いヘッダ(寺島しのぶ)は、社交界でも話題の中心にいて、いつも男たちに崇められる魅力的な存在だった。しかし、頼りの父親が世を去り、ヘッダは周りの男たちの中から、将来を嘱望されている文化史専攻の学者イェルゲン・テスマン(小日向文世)を選び、世の女性たちと同じように、結婚する道を選んだ。
この物語は、二人が半年の長い新婚旅行から帰ってきた翌朝から幕をあける。
新居には、イェルゲンの叔母ミス・テスマン(佐藤直子)とメイドのベルテ(福井裕子)が二人を待っていた。彼らに思いやりを示すイェルゲンに対し、新妻ヘッダは、自分が強く望んで購入させたにも関わらず、新居への不満を並べ、すでにこの結婚に退屈している様子を隠そうともしない。
そこへ、昔からの知り合いであるエルヴステード夫人(水野美紀)が訪ねてきた。今は田舎の名士の後妻となった彼女だが、義理の子供たちの家庭教師だったエイレルト・レェーヴボルク(池田成志)を探しに街にやって来たのだという。レェーヴボルクとは、イェルゲンのライバルであった研究者で、一時期、自堕落な生活で再起不能と言われたが、田舎町で再起。最近出版した論文が大きな評判をとっている男だった。
そのレェーヴボルクこそ、ヘッダのかつての恋人だった。しかし、彼のヘッダへの執着がエスカレートすることに対し、ゴシップのネタにされることを恐れたヘッダが、拳銃で彼を脅して一方的に関係を断ち切ったという過去があった。ヘッダとの関係を知らないエルヴステード夫人は、彼を再起させるために論文執筆にも協力したことを語り出し、都会に戻った彼が、また昔の自堕落な暮らしに戻ることを恐れ、追いかけてきたという。そして、もう夫の元には戻らない覚悟を決めていた。また、ライバルであったイェルゲンもレェーヴボルクの才能は高く評価していたと、その再起を喜んでいた。そんな二人の純粋な思いを前に、苛立ちを覚えるヘッダ。そこに、夫婦が懇意にしているブラック判事(段田安則)が訪ねてくる。判事から、イェルゲンが有力と言われていた大学教授の候補に、レェーヴボルクも復活してきたことを聞かされたヘッダの心中は大きくざわつき始める。
ブラック判事と二人になったヘッダは、いかにこの結婚や毎日の暮らしが退屈か、このまま子供を生んで平凡な母親になることだけは嫌だと激白する。ヘッダに気があるブラックは、このまま見せかけの結婚生活を送りながら、気ままに浮気を楽しめばいいと、それとなく誘うが、そんな自分にはなりたくないと断るヘッダ。やがて、レェーヴボルクが現われた。久々に対面し、まだ互いに惹かれ合っていることを感じ合う二人。
しかし、エルヴステード夫人とそこで会えたことを素直に喜ぶレェーヴボルクの姿を見て嫉妬したヘッダは、まだ自分に彼を操る力があるかを試すために、酒の席を避けて更正していた彼を言葉巧みに、ブラック判事主催のパーティへと送り出してしまう。
案の定、酒の力で自分を見失ったレェーヴボルク。あろうことか、大事に持ち歩いていた次回出版予定の原稿を紛失してしまう。原稿は、たまたまイェルゲンが拾い、ヘッダに託したのだが、ヘッダはそれを戸棚に隠してしまう。そこに落ち込んだレェーヴボルクが憔悴しきった姿で現われるが、ヘッダは、隠した原稿を出そうともしない。そして、レェーヴボルクに自分が大切にしていた父の形見を手渡し、ある言葉を彼に囁く……。

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【初日前会見】

この舞台の初日前日の4月6日、主演でヘッダを演じる寺島しのぶ、その夫イェルゲン・テスマン役の小日向文世、ヘッダの元恋人で最後には彼女の歪んだ美学に捕われるレェーヴボルク役の池田成志、ヘッダの学校の後輩で自立を期すエルヴステード夫人役の水野美紀、そして衝撃の結末のカギを握るブラック判事役の段田安則が、通し舞台稽古前にプレスへの会見を行った。

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池田成志・小日向文世・寺島しのぶ・水野美紀・段田安則

──まずは演じる役柄について聞かせてください
寺島 ヘッダ・ガブラー役の寺島しのぶです。ヘッダの役は、自分の家もどこか似ているところはあるので、それも組み込んでできたらいいなと思っております。なかなか洋物ということと、タイトルがとっつきにくいかもしれませんが、内容はいたって普遍的で、わかりやすいものになっていますし、共演者の皆様もワザの応酬ですので、そこを楽しみに観ていただきたいと思っています。
小日向 演出の栗山さんと初めてご一緒したのはけっこう前で、劇団が解散したあとで40代だったんです。そのときの相手役がしのぶちゃんで、恋人役で。
寺島 えー、旦那さんでしょ。
小日向 あ、夫婦か(笑)。だから2度目の夫婦役ですが、すごく時間が経ってるし、寺島さんはもうお子さんがいるにもかかわらず、まったく印象が変わらないのがちょっと驚きでした。栗山さんの稽古はすごく短いんです。だから台詞をなかなか入れられなくて、昨日もまだあたふたしてまして、久々に緊張する初日を迎える感じで、今も緊張してます。でも栗山さんがすごく硬質な本を噛み砕いて、僕は最初読んだときなんかよくわからなかったんですけど、『ヘッダ・ガブラー』という作品の面白さ、イプセンの面白さの方向を示してくれたので、僕らは安心それに向かっていけばいいので、あとは台詞をきちんと入れて初日に臨みたいですね。共演者の皆さんでは池田さんはドラマはご一緒してますが舞台は初めてです。水野美紀さんは実は僕が初めて連ドラをやったとき以来です。段田さんとは『国民の映画』以来ですね。ということで、良い大人の座組で非常に楽しんで良い稽古をしてきました。
水野 エルヴステード夫人です。とにかくヘッダ・ガブラーにいじめられてもすがりついていくという役です。演出がついていく中で動きが足されたりするんですけど、いじめられ度合いに関しては日々手が増えていまして、まったく台本のト書きにはなかったのに、髪を引っ張られたりつねられたり(笑)、暴力が加わっているんですが、それでもヘッダ・ガブラーを信じて、頼って、ついていくという孤独な人の役です。このメンバーに参加させていただいて、すごく楽しんでいます。
池田 役名のエイレルト・レェーヴボルクもそうですが、名前がどれも言いづらいな、から始まって、はたしてイプセンをできるんだろうかと思っていましたが、日々少しずつその世界に馴染んでいます。でも「大胆さと繊細さ」と栗山さんがおっしゃっていた、その意味を汲み取るまでの時間が若干短かったので、今、なるほどなと。「リアルじゃ面白くないんだよね」とおっしゃっていたことも「そうか、なるほど」と思いながら、明日の初日を迎えようと思っています。そういう繊細な、すごくシンとして恐いみたいな稽古なんですけど、時折り小日向さんが素敵な言い間違いをしてくださいますので(笑)、稽古場がほんわかして、本当に助けていただいてます。舞台上では「なんか冷たいな」というようなものを感じるかもしれませんが、役者はスタッフは中に熱いものを秘めているのを、感じていただければ幸いです。
段田 ブラック判事です。稽古場の雰囲気を少ししゃべりますと、稽古場のスターは間違いなく小日向文世さんで(笑)、共演は先ほども話に出た『国民の映画』以来です。他の方は初めましてですが、それも楽しみの1つです。正直申しましてこの『ヘッダ・ガブラー』というタイトルを見たとき、どこが面白いんだろうとちょっと思っていましたが(笑)、自分のところはともかく他の方の稽古シーンを見ておりますと、「これ、いけるんじゃないの?」という感触を得ています(笑)。しかし『ヘッダ・ガブラー』がタイトルロールですから、成功したら寺島さんのものです(笑)。私たちは関係ありません(笑)。失敗した場合も僕らは関係ありません(笑)。きっと成功するとは思いますが(笑)。ぜひ1人でも多くの方にお運び願いたいと思っています。
 
──寺島さん、重なる部分もあるというヘッダ像を、稽古でどんなふうに形作っていったのですか?
寺島 ヘッダは、家が偉大すぎて羽がのばせなかった、籠の中に入れられて外にはみ出さないという教育を受けてきた、その中のひずみとか彼女の渇望みたいなものが、どんどん変な形でたぎってきてしまった人で…。このお芝居というのは、クライマックスの八合目から始まるようなお芝居なんです。その前にヘッダ・ガブラーと父の将軍との家庭の話があり、6か月も新婚旅行に行っていて、そこから帰ってきたばかりで、越してきて何日かあとが結末になるのですが…。出たいのに出れなかった、だから自分の家に男の人を呼び込んだり、エルヴステード夫人をいじめたり。自分が嫌な思いをするのは嫌なんですけど、人がぐちゃぐちゃになっていく瞬間を見ることで発散することができるという、悲しい女の話です。だから見た目はものすごく酷いことをしていますけど、やればやるほど、ああ寂しい人だな、哀しい人だなという思いが、自分の中ではしていますが、見た目はそう見えないかもしれないです。ぜも自分の中では、そういう生き方しかできないヘッダ・ガブラーは、ある意味可哀想だなと思います。

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──寺島さん以外の方たちは、役と自分の重なるところなどは?
段田 僕のブラック判事はヘッダさんを好きで、あるヨーロッパの本の解釈では2、3度キスをしたことがあると。でも一方的にヘッダを好きで、ヘッダさんも喋ったりからかったりしてる分には楽しんでいるかなという関係なんですが。私も綺麗な女性は好きなので、共通するところはいっぱいあります(笑)。あまり深いことはわからないのですが、150年ぐらい前のノルウェーの判事で、でも判事といっても日本の今の判事と違ってもっと権力を色々持ってたり、階級制度も残ってて、『人形の家』のあとくらいの話ですから、わからない部分もありますが、でも今生きてる僕でも「あ、わかるな」というところがいっぱいあるので、それをよすがにやってます。
水野 今より格段に環境とか世間体に縛られていた時代なので、枷が強いぶん感情が濃いというか、発散できることが少ないのだろうなと。私の役は成志さん演じるレェーヴボルクに一途に恋をして、旦那を捨てて家出までしてしまう女性で、一見すがる人もいなくてひとりぼっちで弱いように見えて、実はヘッダなんかよりよっぽど大胆な決断をしてしまえるような最強な人だと思います。そのことに本人は無自覚なんだとは思いますが。でも、周りも見えなくなるくらい好きになったり、我慢して我慢してプチッと切ってしまうような人間の感覚は、普遍的なところがあるので、想像しやすいなと思ってやってます。
池田 僕は今、海外ドラマが好きで『バイキング』を観てるんですけど、ノルウェーのお話で、それを観てると女性がすごく強いんです。戦士として戦ってたり、首長だったりする。それを経て封建的な世界になって、それで抑圧された女性が『人形の家』みたいな形になったのかなと。それを考えると北欧は昔から女性が強くて、それがある時代になって抑圧されて、そこからこういう作品が出てきたのかもしれないなと、すごく興味深いんですが。それにデンマーク映画やカウリスマキの作品など観ていると、意外と気持ちのもっていきかたが日本人に近いなというのがあるので、これノルウェーの話だからわからないじゃなくて、いつもと同じようにやればいいと思っていて、人間ってすごく不条理なことするんだよねという、その時代とか風俗に捉われずにやればいいんじゃないかなと。観にきた人が「これ全然ノルウェーじゃないよ」とか言ったら、「お前はノルウェーの何を知ってるんだ」と言い返すくらいの気持ちでやってます(笑)。
小日向 テスマンはいわゆる色男じゃないんです。それでヘッダに全然相手にされてないし、でも結婚して子供もできたので、そういう恋愛の瞬間もあったんでしょうが、今は飽きられている。そういうのは非常に身近に感じます(笑)。僕はだいたい捨てられる人生を送ってきたので(全員爆笑)。だから非常にやりやすい。色男よりはわかるので。テスマンをしっかり演じることで、人間の切なさというか、人間って哀しいなとか愛すべき存在だなとか、色々なことを感じながらやってますので、僕は楽しんでやってます。

──この作品をどういう方に観てほしいですか?
寺島 色々なキャラクターを持った人が出てくるんです。で、それぞれの価値観を持って動いていて、観ていて忙しいんです。栗山さんがよくおっしゃるんですけど、それぞれの感情とか価値観とか、それを皆さんがエッジをきかせてやると、この舞台は成功だと。それくらい個性が強いです。だからいらっしゃった方それぞれが、どこを観られても面白いように、誰に注目しても面白いようになっていると思いますし、なによりとても綺麗な舞台だと思います。段田さんとはラブシーンがありますし。
段田 はい。ありがとうございます。
寺島 成志さんともラブシーンっぽいのがあるのですが、旦那には1回も触れないという。
小日向 ハハハ(笑)。
寺島 あ、1回だけ触れてる?
小日向 僕のほうからね。
寺島 自分からは触れないのよね。そういうとても不思議な芝居で、だからどこを見ても楽しいと思います。 

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〈公演情報〉
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シス・カンパニー公演
『ヘッダ・ガブラー』
作◇ヘンリック・イプセン 
演出◇栗山民也 
翻訳◇徐 賀世子
出演◇寺島しのぶ、小日向文世、池田成志、水野美紀、佐藤直子、福井裕子、段田安則
●4/7〜30◎Bunkamuraシアターコクーン
〈料金〉 S席\9,000 A席\7,000 コクーンシート\5,000(全席指定・税込)  
〈お問い合わせ〉シス・カンパニー(03-5423-5906)



【取材・文/榊原和子 舞台写真提供/シス・カンパニー 舞台撮影/宮川舞子】




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