チラシポスター使用)
『弁天娘女男白浪』弁天小僧菊之助=尾上菊五郎(H22.3歌舞伎座)

歌舞伎史上屈指の名優をしのぶ「團菊祭」が今年も開催決定!
明治の劇聖といわれ、歌舞伎の今日の隆盛の礎を築いたといわれる九代目市川團十郎と五代目尾上菊五郎。その二人を顕彰するため、1936年(昭和11年)から、いくたびか中断しながらも、歌舞伎座の吉例行事として行われてきたのが「團菊祭」。今年も『團菊祭五月大歌舞伎』として、5月2日から26日まで歌舞伎座で上演される。

演目だが、昼の部は、まずは團十郎家のお家芸である歌舞伎十八番のなかから、「毛抜」「鳴神」「不動」の三つが盛り込まれた大作の「雷神不動北山櫻(なるかみふどうきたやまざくら)」の通し上演。市川海老蔵が高僧の鳴神上人・帝位継承を狙う早雲王子・ある難題を知恵で解決する粂寺弾正・陰陽師の安倍清行・不動明王の五役を演じるなどエンターテインメント性も高い作品。そして、女伊達(おんなだて・女性の侠客)が花盛りの新吉原で粋に踊る「女伊達」の二本立て。
夜の部は、まずは「知らざぁ言って聞かせやしょう」の名台詞でおなじみ、盗賊(白浪)5人が活躍する音羽屋(尾上菊五郎家)の家の芸「弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)」。次に、源氏の家を再興しようと、牛若丸(義経)が姿を変え、かつては源氏で今は平家方の鬼一の本心を探ろうとする「鬼一法眼三略巻 菊畑」。そして、春爛漫の京・東山にほろ酔いの喜撰(きせん)法師(六歌仙の一人)がやってきて、茶汲女や弟子たちと賑やかな踊りをみせる「喜撰」と、バラエティに富んだ構成となっている。

4月10日、歌舞伎座の稽古場で、座頭である尾上菊五郎の合同取材会が行われた。菊五郎は、夜の部の「弁天娘女男白浪」で、当り役でもある弁天小僧を5年ぶりに勤める。この弁天の舞台姿が似合うようにと、70代にしてダイエットで身体をしぼるほど気合は十分。盟友・團十郎の「五年祭」でもある今回の公演についての思い、演目や役にかける思いなどをたっぷり語った。

尾上菊五郎取材会写真

〈質疑応答〉
 
──弁天小僧は杮落し以来ですが、今回なさろうと思った経緯は
これだけ人数が揃ったし、(市川)左團次さんのようにずっと一緒にやってくださる方も(座組に)いれば、海老蔵君の日本駄右衛門は初めてだと思うんだ。(尾上)松緑も(尾上)菊之助も揃ったんで、このあたりでいっぺんしようかなと。古い歌舞伎座の時、この「五人男」(「弁天娘男女白浪」の通称)で、「稲勢川」で五人男がちょうど全員揃うんですよね。その時に「あと10年後くらいにこれをやって、誰も抜けてないだろうな」と言って、「そんなことないよ」と言った夏雄ちゃん(十二世市川團十郎)が一番先に逝っちゃって、それから寿(十世坂東三津五郎)が逝っちゃって、非常に淋しい思いをしましたが、今度は「五年祭」ということで、海老蔵君の駄右衛門を楽しみにしております。
──弁天小僧といえば、五代目(菊五郎)さん以来ですね。思いはひとしおのお芝居ですか。
そうですね。東横ホールで初めてやらせていただいたのが昭和40年。何年前だろう?
──50数年前ですね。
おぉいやだ!(笑)
──22歳ですから。思い出とかは。
何がなんだかわからないですよ。前にやった方のビデオなんかなくて、自分の感じだけですからね。父(七代目尾上梅幸)がやったものを、自分もやりたいなと思いながら観ていた。それだけで、あとはしっかり教わってやりましたので。
──昭和48年の襲名のときにもなさって。
襲名でもやらせていただきましたね。そういう節々に、それから、違った劇場へ行くたびにもやらせていただきました。京都南座、大阪新歌舞伎座、松竹座、中座、博多座、御園座。
──周りを演じていらっしゃった先輩方がいなくなって、(残っているのは)左團次さんだけじゃないですか。演目を次の世代に受け継いでいってほしいという思いも強いのでは。
それはそうです。観て感じを覚えておいてもらえれば。映像だけ観るんじゃなくて、一緒に演じていたことを思い出してくれるでしょう。
──手順がきっちり決まったものですが、なかで工夫されたこともあると思いますが。
手順は、何回かやらせていただいてるのでね。最初は本当に大変でした。煙管だとか、赤い鹿の子の布をどこで出すのだ、お金をどこに入れるのだ、それから台詞ではない捨て台詞。それが本当に難しくって。つい現代語になってペラペラ言っちゃって、あとで台詞がなくなって困ったこともありますし(笑)。
──その段階を過ぎてあとからお考えになったこともあると思いますが。
毎回ですね。今回もきっと、稽古に入ってから何か感じるものはあると思います。回数はやっていますが、別に完成品じゃないですし。
──まだし足りないことがある?
やっぱり、いろいろ勉強だなと。それに25日間ですからね。25日間をそれぞれ完璧にやりきるなんて、至難の業でございます。
──気になる箇所が出てくる?
どうでしょうね。立役の部分が良くなってくると、女方が気になってくるし、女方が良くなってくると、今度は立役が気になってくるし。究極の、今流行の“二刀流”ですから(笑)。
──若い時に気になったことと今とでは違う?
違いますね。演じるということは、演じるんですが、もう76(歳)ですから、年ということもありますよね。弁天“小僧”ですよ。16、17(歳)の人間にならなくちゃいけないんだから、姿勢なども本当に、腰がメリメリいうほど痛いんですよね。若い時には気にならなかったことが。
──今回、通しで大屋根の立廻りもありますが。
立廻りになったら、菊之助に変わってもらうかもしれない(場内爆笑)。
──やるからには通しで?
そのぐらいまではやりたいなと思って。五代目さんは晩年、T字の杭を打って、それに寄りかかってやったんですよね。そうまではしてやりたくはないけどね。
──大屋根のがんどう返し(大屋根が後ろに倒れていく大仕掛け)では足の裏がすれて。
痛いよ。上からずーっと降りてくるから。摩擦熱で。
──25日間だとかなり大変ですね。
そんなでもないですよ。本当に大変だと思ったら、自分で滑り降りちゃうから。
──弁天小僧というお役は、菊五郎さんの若さを確認するような役? これがやれてるうちはまだ若いぞと。
まぁね、肚の中は(笑)。
──「勢揃い」はお客さんがわくところですが、難しさは。
あそこは気持ち良いですよ。「しらなみの〜」と音に乗って。
──今回、寺島眞秀さん(寺島しのぶの息子、菊五郎の孫)も出られますが。
しのぶが「どうしてもお祖父様の弁天小僧には絶対やらせてほしい」と。
──同じ作品に出ることがやっぱり大切?
どうだろう、全然わかりませんしね。丁稚は裏に控えていて、ときどき出てくるだけだからね。ただ、覚えておいてもらえればね。
──若い時、ご覧になった村上元三先生が「こんなのが強請に来たらどうしよう」と思ったと。
そう言ってくださったらしいですけどね。
──等身大の感じがあったんでしょうね。楽しかったですか。
怖いもの知らずで楽しんでやっちゃった時もありますし、非常に悩んだ時もありますし。これでいいのかなと。あんまり回数をやらせていただけるので、それがなんでかなと悩んじゃうんです、逆に。
──ずっと菊五郎さんが弁天の時代がありましたよね。その頃ですか。
だと思います。やればやるほど、だんだんわからなくなってきて。
──それがいつ頃から。
年代でいくと40代ですかね。30代までは何だか勢いでやっちゃいましたけどね。これでお客さんが喜んでるのかな、自分の言ってることが通じてるのかなとか、いろいろ考えちゃうんですよ。世話物って、相手役によって違うでしょう。義太夫狂言と違って、自分一人やってるわけじゃなくて、必ず相手との言葉のキャッチボールがあって、そこで相手と合わない時もあるわけですよね。そういう時に、何でだろう、自分のやり方が悪いのかなとか、考えると深みにはまっていきますよ。

尾上菊五郎インタビューカット
 
──後輩たちにこういうことを観てほしいというところは。
言葉の間かなぁ。それと、歌舞伎の江戸っ子言葉。それをあんまり表に出されてもいやなんだよね。「ひゃく」と言わないで「しゃく」と言うでしょう? 「しゃくがにしゃくと賽銭の…」と言われるとゾ〜ッとしちゃう。「ひゃ」と言っておいて「しゃ」なんだよね。昔の江戸っ子はそう言ったかもしれないけど、歌舞伎でやる場合は、お客さんに聞かせる場合は違うんだよね。「ひゃ」と「しゃ」の間くらいでね。
──音羽屋の家の芸としてはこの作品は大事ですか。
五代目さんが考えられたものですから、絶対に大事にしたいですね。
──相手によって世話物は雰囲気が変わると仰いましたが、左團次さんとは60年以上の付き合いですが、どういうやり取りを楽しまれますか。
「この南郷で名を上げてやろう」なんて気がさらさらなくて、前へ出ないで、弁天小僧がしやすいようにしてくださる方です。
──日本駄右衛門は海老蔵さんに。お父様の面影を感じることになるのでしょうか。
今度はそういうことを意識して、配役を決めました。鳶頭も、(六代目尾上)松助がやってたので、(尾上)松也にやらせようと思って。
──「五人男」の最大の魅力は何ですか?
(しばらく考え込んで)目かな…。目から入る美しさ、のようなもの。それが一番大事なんじゃないかなという気がします。「浜松屋」もそうですし、「五人男(稲勢川)」もそうです。「屋根」も「極楽寺山門」もそうですし。「わぁ、きれいだなあ!」とお客さんが観てくださったら、ある程度は成功じゃないかと思いますね。「美」だな。
──ずっとやってきたからわかることもあるでしょう。年功を積まないとわからないことが。
そうですね、確かに。それと、「やる」から「見せる」に変わるよね、どこかから。最初は自分が喜んで、興奮してやってるけど、お客さんに観て、喜んでもらう。まだまだ勉強のことがいっぱいあります。若い人のを観ていて「お前、自分は一生懸命やってるけど、お客さんのことを考えてやってるか?」なんて言いますけど、自分たちも若い時はきっとこうだったんだろうなと。やっていることが本当にお客さんに伝わっているのか、それとも、(自分が)伝えられないのか。それも一つの勉強ですね。
──たとえば、客席の中に五代目がいるような感覚になりますか。
それはありますよ。「おめぇ、そんな恰好してちゃ駄目じゃねえか」っていうような声がね、聞こえる気がする時がありますよ。衣裳を着ていて、「そんな着方じゃ駄目じゃねぇか」って、ふと声が聞こえるような気がする時があるんですね。父親とか、(十七代目市村)羽左衛門のおじだとか、紀尾井町(二代目松緑)のおじさんだとか、そういう方が出てきて。
──たくさんいる先輩から言われたことで、一番心に残っていることは。
少し考えた時期に、後ろから日本駄右衛門の紀尾井町のおじさんが「おめぇ、威勢がねぇぞ」と。威勢ってのも必要なんですね、パパッ!と裾をめくりあげて座るのもね。観てる人にはそう見えるんだな、いけない、と思ったり、いろいろありますよ。
──團十郎さんとの思い出は。
そうね、歌舞伎座が改装になって、大阪で團菊祭をやろうということになった時、二人で相談して、九代目と五代目の銅像を大阪に送ってもらって、團菊祭が向こうじゃわからないだろうからと、由緒いわれを書いて見てもらった思い出もありますね。
 

〈公演情報〉
5月仮ちらし(癸押HP用JPEG画像

歌舞伎座百三十年『團菊祭五月大歌舞伎』十二世市川團十郎五年祭
【昼の部】(午前11時開演)
一、通し狂言 雷神不動北山櫻 
二、女伊達
【夜の部】(午後4時30分開演)
一、 弁天娘女男白浪
二、 鬼一法眼三略巻 菊畑
三、 六歌仙容彩 喜撰
出演◇尾上菊五郎、中村梅玉、中村時蔵、中村雀右衛門、中村錦之助、尾上松緑、尾上菊之助、市川海老蔵、市川團蔵、市川左團次 ほか
●5/2〜26◎歌舞伎座
〈料金〉1等席18,000円 2等席14,000円 3階A席6,000円 3階B席4,000円
1階桟敷席20,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹0570-000-489(10:00〜18:00)
 チケットWeb松竹 (24時間受付)
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/564

 
【取材・文/内河 文 写真提供/松竹】



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