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10周年だった2017年6月のKAAT公演をもって劇団体制を終了し、この5月公演『グッド・デス・バイブレーション考』から個人プロジェクトとして指導する松井周のサンプル。「変態」していくことをテーマに、松井のややアブノーマルな妄想を遊んできたのは変わらない。
松井が「誰かと少しずつお互いの「変」を認めあう、というよりも触りあうという感覚で何かをつくっていきたい。それが一番楽しいことだし、たとえ苦しくても触りあった感覚を信じてつくっていきたい」との言葉を読むと、むしろ純度を高めていくのかもしれない。新作『グッド・デス・バイブレーション考』は、松井のバイブルという深沢七郎の小説「楢山節考」が色濃く共鳴している近未来の物語だ。

【ものがたり】
閉ざされた地域に暮らす一つの家族。貧困家庭の65歳を過ぎた人間は、肉体を捨てることを強く望まれる社会。元ポップスターの父と、介護と子育てに疲労する娘と孫が直面する現実とは? 別の集落からやってくる孫の嫁、隣人、謎の男が加わることで、家族の形が少しずつ変化していく。彼らはどのように生きていくのか?

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「楢山節考」がいつも
自分の中でざわざわしている

──サンプルが松井さんの個人ユニットになりました。そのことで松井さんの中にあるイメージをより実現していきたいとのことですね?
そうですね。でも自分のイメージといっても、演劇は役者やスタッフみんなで作るものなので、いろんなアイデアに助けられたり、気づきはやはりたくさんあります。変化を挙げるとすれば今、あまり自分に迷いがないかな。スタッフが出してくれたアイデアの方がいいかもと思ったら、すぐに実現したいと思うようになりました。そういう意味で、僕自身がつくりたい世界がくっきりあるんでしょう。今つくりたいのはずっとこだわってきた「楢山節考」みたいなものなので、よりくっきりしているかもしれません。
──「楢山節考」は松井さんにとってバイブルなんですよね!
なんでしょうね、昔読んだ絵本なんかですごく印象に残っている絵とか場面があったりするじゃないですか。そういう感じなんですよね。どうしてかなあと考えたんですけど、割り切れないんです。「楢山節考」は山深い貧しい部落の因習で、年老いた母を真冬の楢山へ捨てに行くという話。自ら“楢山まいり”の日を早める母と、優しい息子の切っても切れない絆を描いたいい話に見えるし、一方で人権を無視した慣習で殺されていく話のようにも見える。小説はそのどちらにも寄らずに淡々と書かれているからこそ、僕の中で、いつまでたってもざわざわしていて、ずっと気になっているんです。そして作品をつくるときに、いつも頭のどこかにある。さいたまゴールド・シアターに書いた『聖地』も、安楽死法が施行され、ある年齢になると強制的に安楽死させられる世の中で老人たちが老人ホームに立てこもるという話でした。サンプルでも『自慢の息子』などよくベテラン女優の羽場睦子さんに出演していただいているんですけど、老人にこだわっているからなんです。それは僕がおばあちゃん子だったということもあると思うんですけど、なんなんだろう、なんだろうとずっと考えていますね。

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現代日本のあらゆる問題が
組み込まれている作品

──『グッド・デス・バイブレーション考』は現代、近未来の物語として描かれていますが、現代日本のもやもやするようなさまざまな問題が組み込まれていますね。
僕自身の今の環境も大きかったと思います。僕の両親など周囲に体調を悪くしていたり、一方で子育ても始まっています。日本自体が晩婚化して、介護と子育てが同時にくるというのは現代的なテーマだと思います。「楢山節考」にも関連する要素でもあるなと思って、上演してみたらいろいろ感じてくださる方もいるんじゃないかという狙いもあります。それから、いろんな場面で、実態と関係なくどんどんどんどん情報だけが流れていく時代に、自分の物差しが持てない、自分はこうだという立場を自身で客観的に見ることができずに、多くの人がわっと流れる時代だと思うんです。そういう状態だから国が個人を管理下に簡単に置いてしまう。例えばほんの少し前は管理社会、セキュリティということに抵抗していたはずなのに、あっという間にマイナンバーカードを持ったり、監視カメラがあるから安全だというふう変わりましたよね。逆に管理される方が楽だという考えもあって、そうなったら生も死も性も管理されるだろうなと妄想を考えているうちに、そうした世界を描いてみたいなあと。でも、流されることに抵抗している人もいるんだけど、普通に暮らしている人はそれがなんとなくいいことかもしれないという風潮もある。そういう人たちがダメだというわけではなく、彼らこそが流されながらもサバイバルしていくとどうなるのかなと。空気が読めなかったら、それはそれで日本では生きにくいと思うんです。でも空気を読みすぎると、それが集団になってスケープゴートを生み、いじめの構造が生まれるのも気持ち悪い。生きる上でほどほどをどう表現したらいいのかなというモヤモヤを、僕はそのまま演劇にしているような気がします。
──楢山まいりを「船出」と置き換えているところが、未来を感じますよね。
楢山まいりで山に行く。積極的な意味というか末広がりになるような意味でもあるんですけど、慣習ということでごまかされているかもしれないなというような、両義的になるように付けているんですよね。
──生まれて来る子どもについては「ひよっこ」と表現しています。
子どもを産むこともコントロールされていて、子ども自身は人権がない存在として描いています。中央にいる裕福な人たちは、ひよっこが大人になったら自分の世代を受け継ぐ存在になるかもしれないけれど、基本的にはペットのような存在として飼っている。その時代になると子どもも遺伝子操作で自分の好みに育てられるようになっていて、産んだ子どもは所有物であるかのような感覚になっているのかもしれません。そこからはずれた貧困層の人びとは産んだ子どもを売ることで生計を立てる。その子どもたちは動物実験に使われる。でも家族はそこに情のようなものを感じていたりもして、なんか矛盾の中で生きているんです。
──でも特定の人を愛することが差別禁止法で取り締まられてしまうという設定と、子どもの問題が加わると、現代のバランスが悪い日本の人口構成がよいバランスになっていくかもしれない。なんか、社会問題を解決できるかもという期待もあって、いよいよ松井さんならではの気持ち悪い世界になっていきますね。
そうなんですよ。多様な遺伝子を持つ人間同士をもうざっくりとマッチングすることによって、子どもを増やしていけば国が復興するという世界の物語ですよね。それにしても、なんで僕こんな設定ばかり考えているんでしょうね!(苦笑)

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おじさんにも少女にも
女性的にもパンクにもなる戸川純

──歌ってもいけない、夢を見てもいけない、もはやすべてが管理されている時代だからこそ、戸川純さんが演じる元ポップスターの父という役どころが輝いてきます。物語の世の中に迎合しないというポジションが、そのままインディーズからデビューして、自分の生き方を持っている戸川さんがリンクしていきますね。
戸川さんには僕より一世代上の皆さんが熱狂してたと思うんですけど、僕の世代も下の世代も聞いている人はすごく多い。つまりすごく突出した存在なんです。一方で、戸川さんは「これは普通なんですよ」と言い続けていらっしゃったし、私は変化していないし、ヘンだと言われることにすごく抗って来た。実際にお話しすると常識的な感覚も持っているし、すごく聡明。80年代に戸川純というキャラクターだけが勝手に歩き出した部分もあるんでしょうね。そのキャラクターに対し、すごく地に足がついた考えをお持ちで、俳優ということも真面目に考えている。メディアの中での戸川さんと実際の戸川さんにはズレがあって、そういう感覚がすごく好きで僕は惹かれるんです。パンクな部分もあるけど、すごく常識的。そういう矛盾を抱えた面白さを、芝居に生かしたいと思ってます。そしていろいろな矛盾を抱えるからこそ、いろいろなものを超えて何にでも変身できるんですよ、戸川さんは。おじさんにも少女にも、女性的にもパンクにも。そういう魅力を出していきたいですね。
──この管理された社会における元ポップスターの父とその家族がどう生きていくかが描かれるわけですね。松井ワールド全開で!
「楢山節考」は、楢山まいりをして、親を捨てたところで終わるんですけど、僕はそこにどうしても抵抗があって。どうそれをうまく見せられるのかをずっと考えていたんですよね。第三の道はないだろうかということで考えたラストですが、自分なりの決着は付けられたんじゃないかとは思っています。「カムイ伝」という白土三平さんの漫画があるんです。人間の世界も描かれているけれど、動物の世界も描かれていて、人間がトライ&エラーを繰り返す物語なんです。それは少しずつ進んでいるとも言えるんですけど、その繰り返しが永遠に続くというイメージが僕の中にはあって、人間を描くというよりは、何かの生態を描いたり、この類はどうやって生き残っていくんだろうかという生存戦略みたいなことを考えるのが好きなんです。そういう意味では「楢山節考」もそう。今回は小さく、家族だけの話として描いていますが、いずれ、もっと何世代もかけて変化していくみたいな大きな話として描きという思いはありますね。
 
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まついしゅう○劇作家、演出家、俳優。1972年生東京都出身。1996年劇団「青年団」に俳優として入団後、作家・演出家としても活動を開始する。2007年『カロリーの消費』より劇団「サンプル」を旗揚げ、青年団から独立。バラバラの自分だけの地図を持って彷徨する人間たちの彷徨を描きながら、現実と虚構、モノとヒト、男性と女性、俳優と観客、などあらゆる関係の境界線を疑い、踏み越え、混ぜ合わせることを試みている。2011年『自慢の息子』で第55回岸田國士戯曲賞を受賞。脚本提供も多数。また小説やエッセイ、TVドラマ脚本などの執筆活動、CMや映画、TVドラマへの出演なども行う。

〈公演情報〉
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サンプル『グッド・デス・バイブレーション考』
作・演出◇松井周
出演◇戸川純 野津あおい 稲継美保 板橋駿谷 椎橋綾那 松井周
●5/5〜5/15◎神奈川芸術劇場中スタジオ 
〈お問い合わせ〉チケットかながわ 0570-015-415(10:00〜18:00)



【取材・文/いまいこういち 撮影/アラカワヤスコ】



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