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フランスを拠点に精力的に作品を発表してきた伊藤郁女(かおり)。彼女の作品中でも特に高い評価を受けている『私は言葉を信じないので踊る』が、7月 21日、22 日、彩の国さいたま芸術劇場で上演される。海外で活躍する日本人若手クリエイターでダンサー・振付家の伊藤郁女と、彫刻家の父・伊藤博史がダンスと言葉の交差点で再会するデュエットである。

伊藤郁女は、フランスの振付家フィリップ・ドゥクフレが日本で創作し、世界中で上演された作品『IRIS』をきっかけに渡欧。その後もアンジュラン・プレルジョカージュ、ジェイムズ・ティエレ(チャップリンの孫)、シディ・ラルビ・シェルカウイ、アラン・プラテルなど、世界の名だたる振付家たちにその才能を認められ、ヨーロッパのダンスシーンのなかで意欲的な活動を展開している。現在、パリの3つの市立劇場でレジデンス・アーティストの契約をしているなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。

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この作品『私は言葉を信じないので踊る』は、娘である伊藤郁女が彫刻家の実父とのユニークな関係を綴った話題作。2015年の初演以来、これまで40都市以上で上演されている。
舞台上には娘と父、ただ二人。「どうして?」「なぜ?」と、父親に夥しい数の質問を投げかけ、踊る娘は、言葉を信じていないと言う。
「どうして煙草を吸うの?」「なぜ私の友達を嫌うの?」「私が小さかった頃、なぜギリシアの音楽を聴いていたの?」「ステージ・デザイナーの仕事をしなくなったのはどうして?」「娘を誇りに思う?」「どうして弟の批判をするの?」
あるときは無垢な少女のように、あるときは父親を責めるかのように必死に問いかけ続ける娘の一方で、一見気難しそうに見える父親は飄々として、どこかユーモラスな空気を醸し出す。

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【伊藤郁女による制作ノート】
2011年3月、津波の年。10 年ぶりに東京にある実家の自分の部屋を見に行きました。そこは 20 代の頃から全く変わっていませんでした。両親はいつもなにも手をつけず、そのままにしていました。そんなとき、リビングルームで見つけた私の写真。その写真を見て、私はこの家では自分が死者であるかのような感覚に陥りました。それはまるで両親が日本にいた頃の私をそのまま保存しようとしているかのよう、私が家を出てからまるで時間が止まったかのようでした。
娘にとって、父親は権力と越えなければならない人間を象徴するものです。私はいつも父を喜ばせようとしていました。私の人生すべてをかけて、父を幸せにしようとがんばってきたつもりです。小さいときは自分が何をすべきか、父はいつも指示しました。父は彫刻家なので、以前は、いつも彼の芸術的なアドバイスに敬意を持って耳を傾けていました。父は私が憧れた人であり、真実を知っている人で、だから私は父の指示には忠実に従ってきました。ときに父のアドバイスは実に深淵なものでした。「空間の中で動く必要は無い、踊りが空間を動かすんだ」
父は常に娘の私への権力を誇示しようとしてきました。ひょっとすると、それゆえ私は父の娘であり続けたのかもしれません。逆説的ですが、父のもとを去った今、芸術家として父を身近に感じるようになり、感情的には遠くに感じるようになりました。最近になって、私を喜ばせようとしていたのは父のほうであったことに気づきました。父は今、私に対してダンサーとして敬意を示しています。プロのダンサーと認識しているからこそ、私と踊りたいと思ったのです。
私が日本に戻ったとき、父は私とダンスホールで踊りたがりました。いつもそれが嫌でしたが、今では公共の場で父と踊る準備ができています。
ステージ上の父をもう一度観たい。
彫刻とダンスで培われた、私たち親子の身体が再びステージ上で繋がることによって、空間が動くことでしょう。
距離があったことにより、私たちは愛情を別の、より繊細な方法で表現することが必要とされました。日本では一般的に感情を表に出しません。日本で家族が再び親しくなるとき、同じものを見て共有することで親密さが得られますが、地球の反対側で生きることで、自分の家族に対して他人のような感覚をもつようになり、具体的な関係性は失われてしまいます。
おそらく、この作品の目的は私たちが一緒に踊ることにあります。かつて私たちが言葉で伝えられたことを表現するために。なぜなら私も父も、言葉を信じないからです。

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【メディアによる舞台評】

『ル・モンド』紙 ― ロジータ・ボワソー
「伊藤郁女は、感動的でヒューマニズム溢れる作品を創った。そしてそれは父親と彼ら2人の関係に捧げられている。」

『Mouvement』― アリス・ブルジョワ
「『私は言葉を信じないので踊る』は、ダンサーで振付家の伊藤郁女と父親の対話を、ダンスと会話で巧みに構成した心を揺さぶる作品だ。この作品は芸術への愛の物語でもある。父と娘のユニークな関係を扱った本作は、今後我々の記憶に刻まれる。」

『リベラシオン』紙 ― エヴ・ボーヴァレ
「悪魔祓いをしようとしているのか、あるいはソクラテスの問答法(産婆術)か。それは嬉しい驚きだった。タイトルは一見平凡だが、そのテーマは作品の中で強度をもって表現され、反復される。」

『Le Temps』紙 ― アレクサンドル・ドゥミドフ
「父と娘はこの上ない繊細な愛の物語を描く。『私は言葉を信じないので踊る』は、娘と父が関係を修復しようとする物語である。」

『La Provence』紙 ― ジャン・バラク
「本作はゆったりと展開する。その理由は明らかで、遠慮深くあるものの、傷つきやすい猫のような踊りからは稲妻が走り、一瞬舞踏のように見えたりもする。我々に問いかけ、心を揺さぶる美しいカタルシスの作品だ。」

KAORI ITO_Je danse (c)Gregory Batardon-1s

■『私は言葉を信じないので踊る』公演トレーラー


〈公演情報〉
彩の国さいたま芸術劇場ダンス・ラインナップ 2018-2019 
『私は言葉を信じないので踊る』
テキスト・演出・振付◇伊藤郁女
舞台美術◇伊藤博史
出演◇伊藤郁女 伊藤博史
●7/21、22◎彩の国さいたま芸術劇場 小ホール
〈料金〉一般 4,000円 U-25  2,000 円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉SAF チケットセンター 0570-064-939(休館日を除く 10:00〜19:00)

[日本ツアー]
●7/27・28◎穂の国とよはし芸術劇場 PLATアートスペース
〈料金〉一般 3,000円、U24 1,500円、高校生以下1,000円
〈お問い合わせ〉プラットチケットセンター 0532-39-3090

●8/4・5◎ 金沢21世紀美術館 シアター21
〈料金〉一般 3,000円(ほか割引料金あり)
〈お問い合わせ〉金沢21世紀美術館 交流課 076-220-2811


【資料提供/彩の国さいたま芸術劇場 (c) Gregory Batardon】



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