boat(1545)(c)井上佐由紀

マームとジプシーの藤田貴大が、7月16日から最新作『BOAT』を東京芸術劇場プレイハウスで上演中だ。(26日まで)
これまでこの劇場では『小指の思い出』、『ロミオとジュリエット』と発表してきた藤田が、初めてオリジナルで書き下ろした新作で、中嶋朋子、青柳いづみ、豊田エリー、宮沢氷魚らが出演。宮沢氷魚は今回が舞台初出演、中嶋朋子は藤田作品へは初参加となる。

【STORY】
土地は、
ボートによって発見された。流れ着いた人々は、そこで暮らし、子孫を繁栄させた。
現在も、
海岸にはときどき、ボートが漂着する。しかし、人々はそのことにもう関心がない。
ある日、
上空は、ボートで埋め尽くされた。その意味を知らないまま、人々は慌てふためく。
人々は、
ふたたび、ボートに乗って。ここではない土地を、海より向こうを目指すのだった。

boat(1573)(c)井上佐由紀

藤田の言によると「マームとジプシーがここ数年描いてきた『カタチノチガウ』『sheep sleep sharp』の完結編」となるこの舞台は、それらの作品で描かれてきたテーマ、たとえばコミュニティの崩壊や行き場のない閉塞感などが、その領域をさらに広げ、この国全体の問題として生々しく描き出されている。
 
作中の彼らが住んでいる「この場所」は他の地域への出口が海しかない。この閉ざされた場所では「漂着者」は不吉な出来事を運んでくる異物であり、「余所者」も疎外される。そんなある日、そこは突然「住めない場所」になる。住民たちは先を争って脱出をはかり、混乱の中で無秩序と暴力が人々を支配しはじめる…。
 
この設定でわかるように、相次ぐ災害と経済格差の進行で国民が疲弊し、「疎外」「排斥」が顕在化しているこの日本の現実というダイレクトなテーマが根底にある。だが、そのテーマを藤田貴大にしかできない繊細で美しい言葉と、リズミカルかつスマートな身体表現で昇華し、寓話的側面を持たせることで、普遍的な人間そのものの魂を問う物語として突きつけてくる。

boat(3143)(c)井上佐由紀

タイトルの通り劇中には沢山の本物のボートが登場する。そのボートを動かし、また大小の仕切り板を駆使してのスピーディな場面転換は、物語を覆う状況の切迫感をあますところなく伝え、また登場人物たちに起きるドラマを同時進行的に見せていく役割りも果たして見事だ。

閉じ込められたその場所で追い詰められた人間たちは、さまざまな選択を迫られていく。たとえば「殺すか」「残るか」「生きるか」。登場人物たちが行わなければならないその選択は、震災以来この国の人々を襲う不安と不信に突き当たり、この空間にいる全員、すなわち観客の内面までもいやおうなく焙り出す緊迫感に満ちている。
 
パンフの中で藤田は「転落していきそうな、この世界を。どうしたら。どうしたら肯定できるか。」と書いている。その深い絶望感と、だからこそ今、これを創らずにはいられないという創作者としての熱。その想いのすべてを注ぎ込んだ『BOAT』は、作品に描かれるすべての事象が息詰まるほどに切実で、観る者を打ちのめさずにはいない。

boat(3372)(c)井上佐由紀


【観劇カフェ開催】
高校生観劇応援プロジェクトの一環で観劇後に語り合う場を設ける企画。
『BOAT』7月22日、13:00公演の終演後、東京芸術劇場内会議室にて開催。
※高校生に限らず、参加可能とのこと。また当日ではなくてもこの作品を観劇した人も参加可。
 

〈公演情報〉
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『BOAT』
作・演出◇藤田貴大(マームとジプシー)
出演◇宮沢氷魚 青柳いづみ 豊田エリー 
川崎ゆり子 佐々木美奈 長谷川洋子 石井亮介 尾野島慎太朗 辻本達也 中島広隆 波佐谷聡 船津健太 山本直寛
中嶋朋子
●7/16〜26◎東京芸術劇場プレイハウス
〈料金〉S席5,500円 A席 4,500円 65歳以上(S席)5,000円/25歳以下(A席)3,000円/高校生以下 1,000円(全席指定・税込)
※65歳以上、25歳以下、高校生以下チケットは、劇場ボックスオフィスのみ取扱い。(枚数限定・要証明書)
〈お問い合わせ〉東京芸術劇場ボックスオフィス 0570-010-296(休館日を除く10時〜19時)



【文/榊原和子 写真提供/東京芸術劇場 撮影/井上佐由紀】



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