死神植田さん2

伊坂幸太郎の同名小説を初めて舞台化、大きな反響を呼んだ『死神の精度』が、9年ぶりに再演される。09年の初演は和田憲明が脚本・演出を手がけ、「伊坂ワールド」のみごとな立体化として、伊坂ファンからも演劇ファンからも圧倒的な好評を得た。その再演となる今回の公演が8月30日に東京・あうるすぽっとで幕を開ける。(9月9日まで。そののち倉敷、名古屋、兵庫、山形、仙台、盛岡公演あり。)
 
今回も引き続き和田憲明が演出を担当、ラサール石井のほかは新キャストで個性豊かな顔ぶれが揃った。
主人公のミュージックが好きな死神・千葉には萩原聖人。死神のターゲットとなるヤクザ・藤田にラサール石井。藤田を慕う若いヤクザ・阿久津に植田圭輔。もう1人の死神の役を細見大輔が演じる。
この舞台で、ベテラン陣とともにたった4人で伊坂幸太郎の世界に取り組むことになる植田圭輔は、2.5次元作品で人気になり、今年春の芥川賞受賞作の舞台『火花』の好演で一気に注目を集めている若手演技派。そんな植田に、この作品と俳優としてのこれまでこれからを聞いた「えんぶ8月号」のインタビューを、別バージョンの写真とともにご紹介する。
 
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いつも通りの自分でないと
ここにいる意味がない

──まず出演が決まったときの気持ちから聞かせてください。
この作品の話をいただく前に、演出の和田憲明さんと一度お話させていただいたんです。それで出演するかどうか決まるということで、その時はなんとなくやれないような気がしていたんです。でも出演の決定がきて、共演の方々もその時点でわかっていたので、この4人の中に自分が入るのかと、これは相当の試練だなと思いました。
──和田さんの演出は厳しいと言われていますが、前回出演していたラサール(石井)さんとはなにか話しましたか?
ポスターの撮影でお会いしたのですが、「いやあ、とにかく大変だよ」とおっしゃって(笑)、「一緒に乗り越えよう」と言っていただきました。
──役柄は、ラサールさん扮する藤田を慕っている若いヤクザの阿久津ですが、どう取り組もうと?
阿久津の表立って見える部分と、考えていることとか生きている上で積み上げてきたものはまた別で、彼が何を目標として生きているかということは、物語の後半でわかってくるのですが、けっこう作品のトリガーというか、キーになっているなと。物語そのものを阿久津というキャラクターが動かす瞬間もかなりあるので、その覚悟というか、そういう重要な役をいただいたということに関して、感謝と恐れみたいなものはあります。でも正直なところ和田さんがどんな演出をされるのかまだわかってないし、たぶんボコボコにされるんだろうなと(笑)。だったら自分で何も決めていかないほうがいっそラクなので。もともと一役者の固定観念とかあまり必要じゃないと思っていて、今回、本当にすごい方々との公演で、大切な役どころをいただいたからこそ、いつも通りにいくべきではないかと。じゃなきゃ自分がここにいる意味がないし、もしダメだったらすぐ直せばいいくらいの気持ちでいようと思っています。

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地獄を見た上で笑わせる
芸人さんの神々しさ

──今12年目で、次々に主役も演じていますが、ここまで続けてくるために力になったことは?
ちょっと観点が違うかもしれないんですけど、バイトですね。東京へ来てから4〜5年、中華レストランで働いてて、時間帯責任者にもなったり。
──責任をまかされるなんてすごいですね。
いや、まかされたくなかったんですが(笑)。自分はお芝居をしに東京に来てるのにと思ったし。でもそのバイト時代があるから、役者としてハングリー精神を持ち続けられたので、それがなかったらちょっと腐ったような人間になっていたかもしれない。だからバイトが役に立ったかなと。
──そこまでして続けたいと思ったこの仕事の面白さは?
びっくりするくらい自分じゃない役をやっているときとか面白いなと。基本的に自分はネガティブで打たれ弱くて、いつも人と比べてて。それは絶対に人には見せないんですが、そういうタイプの人間なので。たとえば強気な役だったり、すごく温厚で人に優しいとか、まったく自分にはない人格で生きることができるのは面白いなと。本当に素はつまらない人間なんです(笑)。
──今年の春に出演した『火花』ですが、これまで多く出演してきた2.5次元が絵を大事にする作品だすると、リアルな表現でいわば真逆かなと。
ところが僕自身はやっぱりいつもと変わらないという感覚で、映像なら映像のやり方、舞台なら舞台版のやり方、『火花』みたいな作品にはそのやり方があって、それに準じているだけで、別にお芝居を種類で分けたことはないので。極論で言えば「ウソはつきたくない」ということでしかやってないし、違いは感じないんです。
──『火花』では素に近いものが見えた気がしました。でもそれは植田さんにしてみれば役でそうなったと。
そうです。ただ相手が石田(明)さんでしたから、石田さんの出方でいろんな乗っかり方があるべきだと考えながらやってました。そこから自分の素っぽい部分も出ていたのだと思います。
──俳優としての石田さんはいかがでした?
とても役者さんでした(笑)。稽古で最初の一言をかわしたとき「めっちゃ役者さんや」と思いましたから。あの現場においては「生業としてはお笑い芸人をやっている役者さん」という感じで、その役者さんがやるお笑い芸人の役ですから、それはすごいはずだなと。
──役者同士としてはぶつかりやすかった?
ぶつかりやすかったです。感じてることや考えていることが、わりと一緒だったので、それは本当によかったなと。
──『火花』が好評で、役者・植田圭輔がやってきた方法は間違っていなかったと確認できたのでは?
そうですね。ただ実感としてはそれどころではなくて、お笑いに関して、漫才師であるということに関して、乗り越えることに一生懸命でした。
──たしか大阪出身でしたね。お笑い芸人役へのプレッシャーも普通ではなかったでしょうね。
命がけでお笑いをやっている人たちなんです。本当に貧乏覚悟で、それは役者も一緒ですが、でも芸人さんの見る地獄は本当に地獄だなと。売れるなんて一握りで公園でネタ合わせをやってる人がほとんどで。なんのためにやってるんだと思ったり、腐ったりするでしょうし。そういう地獄を見た上で、ああやって人前で笑わせている。神々しいです。

死神植田さん1

「試練と選択」に
負けず嫌いで立ち向かう

──『火花』、そして今回の『死神の精度』と、役者・植田圭輔への注目度が高くなっています。そんな自分をどう認識していますか?
自分が世間からどう見られているかまったくわかってないのですが、たしかに取り巻く環境が変わってきているので、それに順応できるスキルを身につけたいなと。目の前にあることを1つ1つ大切にと思っていますが、冷静に客観的に見て、「試練と選択」の年なのかなと、今、感じています。
──わりと厳しい認識なんですね。 
ちょっと背水の陣的な勝負どころかなと。1つ越えられなかったら役者やめようと思うくらいの場所かなと捉えています。
──『火花』ではみごとに乗り越えたわけですが、乗り越えるためのモチベーションは?
負けず嫌いですね。生まれたときから負けず嫌いだったらしくて、僕は本来左利きなんですが、箸は右手なんです。ファミレスとかで食事していると左利きだと隣とぶつかるんですよね。たぶん2歳か3歳のとき「左手邪魔やなあ」と親に言われたのがきっかけで右で食べるようになったんです。その負けず嫌いが、今も自分の核にあるのだと思います。
──その負けず嫌いでこの作品も乗り越えてください。最後に公演のアピールを。
そうそうたる方々の中に自分も入れてもらえたことが嬉しいです。自分にとってもお客様にとっても、この作品を知ることができてよかったと思っていただける作品になるように、そういう作品作りを先輩たちとともにやっていけたらと思っています。ぜひ観にいらしてください。
 
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うえだけいすけ〇大阪府出身。第19回「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」のファイナリストに選出され、翌2007年に俳優デビュー。舞台は『K』ミュージカル『ヘタリア』『おそ松さん on STAGE』劇団シャイニング from うたの☆プリンスさまっ♪『天下無敵の忍び道』ミュージカル『しゃばけ』『文豪ストレイドッグス』舞台『火花〜Ghost of the Novelist〜』などに出演。舞台のみならず、ドラマ『弱虫ペダル』や、声優として TV アニメ『王室教師ハイネ』のハイネ役など幅広く活躍中。初のCD「START LINE〜時の轍〜」が発売中。

〈公演情報〉
死神PR

石井光三オフィスプロデュース
『死神の精度〜7Days Judgement』
原作◇伊坂幸太郎『死神の精度』(文春文庫刊)
脚本・演出◇和田憲明
出演◇萩原聖人 植田圭輔 細見大輔 ラサール石井
●8/30〜9/9◎あうるすぽっと 
〈料金〉6,800円 U25  4,000円(全席指定・税込) 
〈お問い合わせ〉石井光三オフィス 03-5797-5502(平日 12:00ー19:00)
9/11〜30◎倉敷、名古屋、兵庫、山形、仙台、盛岡




【取材・文/宮田華子 撮影/國田茂十】



『死神の精度』


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