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伊坂幸太郎の代表作の1つを舞台化した『死神の精度〜7Days Judgement』が、8月30日に東京・あうるすぽっとで開幕した。(9月9日まで。その後、岡山、愛知、兵庫、山形、宮城、岩手公演あり)
 
伊坂幸太郎の同名小説の舞台化で09年に初演。和田憲明が脚本・演出を手がけ、伊坂ワールドのみごとな演劇化として、原作ファンからも演劇ファンからも圧倒的な好評を得た。今回は9年ぶりに再演で、和田が再び演出を担当している。
主人公の死神・千葉には萩原聖人、前回から引き続きヤクザの藤田はラサール石井、藤田を慕う若いヤクザの阿久津には2.5 次元舞台や舞台『火花』で注目の植田圭輔、もう1人の死神は演劇集団キャラメルボックスを経て声優にもフィールドを広げている細見大輔が演じている。

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【あらすじ】
主人公は死神。その姿は毎回、「仕事」がしやすいように設定されている。
仕事とは、「死」を実行される対象となった人間を1週間、つまり7日間調査し、その実行が「可」か「見送り」か判断し報告する。調査員の死神は、実行がどのような形でなされるかを知らないが、8日目、死神はそれを自ら確認する。そうして、死神の1つの仕事が終わる。
調査と言ってもたいそうなことではない。1週間前に相手に接触し、2、3度話を聞くだけ。判断基準は個々の裁量にまかされているが、よほどのことがない限りは「可」の報告をすることになっている。 
死神たちは人間やその死には興味がないが、人間界のミュージックはこよなく愛している。これは死神に共通して言えることで、CDショップに行けば必ずといっていいほど他の死神と出会うことが出来る。
主人公である「死神」が仕事のために人間界へ赴くと必ず雨が降っており、彼は青空を見たことがない。
今回、彼が担当するのは、藤田という中年の男だった。事前に渡された情報によれば「ヤクザ」ということらしい。死神の千葉(萩原聖人)は指令を受けてヤクザの藤田(ラサール石井)のところにやってきた。今回の千葉の姿は40代の中年男。藤田は兄貴分を敵対する栗木に殺され、その敵を取ろうと舎弟分の阿久津(植田圭輔)に探らせていた。死神を派遣する情報部の予定通り、阿久津は千葉と巡り会う。
藤田が匿われている部屋に潜入した千葉は、藤田を観察し始める。馬鹿正直なくらいの任侠の男、藤田。その藤田に心底惚れ込んでいる阿久津。死神・千葉が加わったことで、彼らの運命は加速する。
ストーンズの能天気なブラウンシュガーがBGM代りに鳴り響く──。

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伊坂幸太郎の「死神」シリーズの面白さは、なんといっても「死神」というキャラクターの造型にある。人間とは違う感覚で物事を捉える彼らの視点は、人間を分析し批評し、その愚かさも素晴らしさも照らし出す。この作品の主人公である「死神」の千葉は、今回の「死」のターゲットであるヤクザの藤田を調査するために、藤田と彼の舎弟・阿久津のそばで7日間を過ごす。その中であくまでも「仕事」として彼らと関わる「死神」の、素直な好奇心と良い意味での無関心が、逆に彼らの本心を導き出すことになる。
 
どこかひりひりするようなヤクザの世界に入り込みながら、淡々と彼らを調査するクールさと、そこで出会うミュージックには無邪気なまでに夢中になる「死神」のギャップ。そのユーモラスな感じや、人間との会話のズレの可笑しさを、萩原聖人はソフトな持ち味と自然な演技で表現。人間離れした雰囲気も漂わせつつ、「死神」らしからぬ温かさまで感じさせて、魅力的な存在に仕上げている。

植田圭輔の阿久津は藤田を慕っている役どころだが、その内面には深い闇を抱えていることを感じさせる。チンピラらしい軽さの中に、鋭い刃のような瞬間が見えたり、どこか傷つきやすいナイーブさや少年のような素直さもあって、この物語の行方を握るキャラクターとして鮮やかな存在感を発揮している。

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細見大輔は千葉の同僚の「死神」で、出番はそんなに多くはないのだが、強い印象を残す。「死神」としては千葉よりビジネスライクで人間嫌いなのだが、そんな「死神」でもミュージックには弱いところを見せてホッとさせてくれる。演出の和田がこだわったという衣装をダンディに着こなし、伊坂作品のスタイリッシュな部分を体現する。

ラサール石井のヤクザ藤田は、初演より凄みと格好よさを増して帰ってきた。任侠という言葉がよく似合う、筋を通して生きる古いヤクザで、舎弟の阿久津が自分に向ける屈折した思いや、千葉に漂う死の匂いも、すべて呑み込んで向き合う懐の深さがあって、まさに「漢」そのもの。そんな男が訥々と語る「奥入瀬」での光景は美しく切なく胸に迫ってくる。

舞台美術は奥行きを感じさせ、上手にあるらしい小部屋や、正面の扉を生かして、物語の展開を助ける。舞台奥で降り続ける雨、そこから伝わる冷気などに「死神」の不気味さや、ヤクザ世界の閉塞感を醸し出す。そんな中で「死神」が次々にかける音楽が明るく楽しく、そして優しく沁みて、「死神」ならずとも思わず「ミュージック!」と感嘆したくなる。
「死神」という虚構の存在を逆手に取って人間世界のリアルなドラマを描く伊坂ワールド、それを見事に立体化する和田憲明の丁寧でシャープな演出、4人だけで厚みのある文学世界を創出した俳優たち。まさに極上のエンターテインメントが出来上がった。

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【囲みインタビュー】
 
初日前に公開ゲネが行われ、そのあと出演の萩原聖人、植田圭輔、細見大輔、ラサール石井がプレス用の会見をおこなった。

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細見大輔、ラサール石井、萩原聖人、植田圭輔

──いよいよ初日の幕が開きますが、手応えは?
萩原 手応えはまだわかりませんが、演出の和田さんの言う通りにやってきて、格好いいものが出来てるんじゃないかなと。
ラサール 僕だけ9年前にもやってますが、またもう一度一から作ったという感じです。(ゲネは)ドキドキしましたが、失敗せずにできたかなと。
植田 開けてみてお客さんがどんな反応をしてくれるか、どんな感想を抱いてくれるのかなというワクワクと、あとは本番始まってから微調整をしていかなくてはいけないのかなと。改めて気合いの入ったゲネプロでした。
細見 初日が永遠に来ないんじゃないかというぐらい、みっちり緻密な稽古期間を経て、今、この場に立てているので、和田さんの演出を信じて、あとは本番に向けて頑張るだけだと思ってます。
──和田さんの演出はいかがですか。
萩原 四半世紀以上前に、2本やらせてもらってますが、僕もそうですが、25年経ってもそんなに変わらないなと(笑)。でも変わった部分もあってそれが成長というか。良いところは変わってないと思いながら、お互いにやっていた気がします。
植田 僕は皆さんより圧倒的に年下で大先輩たちとご一緒させていただくので、どれだけ食らいついていけるか、一生懸命できるか、どれだけ自分を好きになってもらえるか、それだけだったので、あまり余計なことを考えず素直にやろうと思って今日まで来ました。そういう意味では目標とするところは達成できたかなと。演出は沁みることもあれば、なにくそと思うこともありましたが、みんなで一緒に作ってきたという感じが強かったので、今振り返ると楽しい稽古場だったと思います。
──萩原さんは、前に出たときは植田さんより若かったのですね?
萩原 まだ20歳か21歳くらいでした。何もわかってなかったです。かといって今回何かわかったかというと、そんなにわかってない気もしますが。でも緻密さとか濃密さという和田ワールドは変わってなかったと思います。

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──ラサールさん、初演との違いは?
ラサール 今回もみんな真面目に取り組んでました。初演は本当に大変で、本番が開いてセリフや演技が安定してきたな、まとまってきたなという時に、和田さんから「全然ダメでした」と。安定が嫌いなんです(笑)。常に流動的に「今」をやっていかないといけないので、すごい大変で。初演の香川照之さんとか中川晃教くんとか、今でも会うとハグし合うぐらいの同志で。今回もそうなるんじゃないかと(笑)。
萩原 でも今回の4人はわりと図太かったと思いますよ。良い意味で負けてないで(笑)。打たれても自分なりに飲み込んだり跳ね返したり、人にぶつけたりしながら(笑)。次の日の稽古では笑顔で会うみたいな感じでしたね。
──萩原さん、死神・千葉のイメージは?
萩原 僕がはじめに考えた千葉のイメージとは違う千葉を和田さんから要求されたので、和田さんが見たい今回の千葉というのを納得するのは時間がかかりましたが。これは観てくださった皆さんがどう感じるかですし、やりたい芝居と良い芝居は違うんだなと思います。作品全体が硬派なハードボイルドでありファンタジーなこの世界が、どう観えているか、和田ワールドとして成立すれば成功だと思いますし、花が一輪もない男だけ4人ですが、瑞々しい芝居になっていると思います。瑞々しさという意味では、雨がいっぱい降ってますが(笑)。
ラサール 本物が降ってますから、あそこの近くに行くと涼しいんです(笑)。

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──植田さんの役柄は初めての感じかなと
植田 そうですね。人間臭くて屈折してるけど、取る人によってちょっと可愛らしかったり、ちょっと拍子抜けだったり間抜けだったり、色々なところがあります。僕自身もちょっと屈折した人間なので、そういう意味ではやりやすかったし(笑)、こういう人間臭さは好きだなと思いました。阿久津というキャラクターは楽しんでやらせていただいてます。
──細見さんも人間ではない役ですが。
細見 僕はとにかく着替えが大変で、なぜか出るたびに衣装を変えてて(笑)。ヤクザの用心棒なので、和田さんの好みが反映した衣装になってて、帽子までこだわってます。稽古中もですが、皆さんがやってる芝居を見ている時間のほうが長いので、普通に面白いなと思いながら観てます。
──萩原さんはドラフト任命されプロ雀士になりましたが、稽古場で麻雀は?
ラサール しませんよ。僕らがやって勝てるはずがないので(笑)。
萩原 稽古中に誕生日があったんですが、稽古終わりに麻雀卓みたいなケーキを用意してくださって。
ラサール それが国士無双で13面待ちなんですよね、なかなかない(笑)。
──俳優との二刀流については。
萩原 2つのことに真剣に向き合うということでは、1回リセットされた気がします。すごく新鮮な気持ちで、俳優の仕事にも向き合えるようになったなと。僕の中では両方ちゃんと成立させられたときに、僕の人生これでよかったんじゃないかと思える気がしているので、両方を極めたいなと思ってます。そういう意味ではこの『死神の精度』は打ってつけの作品だったなと。俳優にどっぷり漬からなければできない作品なので。
──この作品を麻雀に例えるとどんな役になりますか?
萩原 純チャン三色ですかね。それも待ちの悪い、場に2枚出てるペンチーソー待ちで(笑)。でもそれをツモっちゃうとハネ満になる(笑)。
──では最後に皆さん一言ずつ。
萩原 イメージはちょっと暗い芝居に見えますが、そんなことはなくて、どの年齢層の方が観ても楽しめると思います。男だけで暑苦しいですけど、劇場は雨が降ってて涼しいです(笑)。ぜひ足をお運びください。
植田 和田ワールドの伊坂幸太郎ワールドになっていると思います。観終わったあと、雨が好きになったり、晴れた空が好きになれる、そんな作品を目指していますので、応援のほどよろしくお願いいたします。

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細見 さっき華がないという話でしたが、僕の中では植田くんがヒロインだと思っています。
全員 (笑)。
ラサール かわいらしいよね(笑)。
細見 そんな植田くんの頑張っている姿を、それに年齢の高い3人も頑張ってますのでぜひ観にきてください。
ラサール 僕は藤田というヤクザをやってまして、普段のイメージとはずいぶん違うんですけども、初演では初めてカッコイイという感想を言われた役なので、老ヤクザを頑張ってやっております。伊坂幸太郎ファンももちろん、明るいエンタメ演劇の好きな人も楽しめる作品になってます。ぜひ楽しんでいただきたいです。

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〈公演情報〉
死神PR

石井光三オフィスプロデュース
『死神の精度〜7Days Judgement』
原作◇伊坂幸太郎『死神の精度』(文春文庫刊)
脚本・演出◇和田憲明
出演◇萩原聖人 植田圭輔 細見大輔 ラサール石井
●8/30〜9/9◎あうるすぽっと 
〈料金〉6,800円 U25  4,000円(全席指定・税込) 
〈お問い合わせ〉石井光三オフィス 03-5797-5502(平日 12:00ー19:00)
9/11〜30◎倉敷、名古屋、兵庫、山形、仙台、盛岡
 



【取材・文・撮影(囲み)/榊原和子 舞台写真提供/石井光三オフィス】




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