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男優2人による翻訳劇『受取人不明 ADDRESS UNKNOWN』が、9月13日より、赤坂RED/THEATERにて、クリエイティブ・ユニット「アン・ラト」のプロデュースで上演される。
 
本作は、1832年から2年間に交わされた20数通の手紙によって綴られた二人の男の物語。第二次世界大戦でドイツのナチスがユダヤ人迫害を行う少し前、ミュンヘンに住むドイツ人マルティンとアメリカに住むユダヤ人マックスの親友二人は、国境を越えて手紙を送りあう。 
 
稽古場には、1930年代の蓄音機やラジオ。それぞれの国で、互いの手紙を受け取る二人……。1938年にアメリカのストーリ誌で連載され人気を博したこの物語は、日本でも小説化され、オフ・ブロードウェイで舞台上演されるなど、多くの人に衝撃を与えてきた。 
 
今回、舞台版は日本初演として翻訳され、異なる俳優の組み合わせによる2チームにて上演される。こちらでは池田努と畠山典之のチームに話を聞いた。

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畠山典之 池田努

ドイツ人とユダヤ人、二人の男の友情物語

──本作出演の決め手はなんですか?
畠山 実は、脚本を読む前からやると決めていたんですよ。レッドシアターもいいですし、「アン・ラト」さんもこれまで素敵な作品をされているから、今回も絶対面白い作品を選んできたんだろうなと自信がありました。実際に脚本を読んだら、どんどん燃えてきましたね。
池田 こんなに引き込まれる脚本は初めてかも。読んだ瞬間「見つけた!」という感じ。1938年に書かれた小説ですが、こんな本があることをなんで知らなかったんだろうと思いました。ただ手紙のやり取りなのに映像が浮かぶし、読んでいる間は時間を忘れる経験でした。俳優として驚きと感動がまずありましたが、すぐ「こりゃ大変な作品だぞ」と(笑)。
畠山 しまった、やるって言っちゃったぞとね(笑)。僕はストレートプレイは2年ぶりぐらいなので、怖い。同時に、活字と向き合う孤独な作業を楽しんでいます。
池田 ひさびさのストレートプレイがこの作品って、大変でしょう!台詞もものすごく多いし、戦争ものなので、生半可な気持ちじゃできない。僕は平和なところで生まれ育ってきたという引け目もあるんでしょうね。俳優としてだけでなく人として、自分にこの作品をやれるのかという気持ちもあります。今、作品の舞台となる1930年頃のことを調べたりしていますが、第二次対戦やナチスについて知ってはいるけれど、我が身のこととしては考えていなかったんだなと実感しています。
畠山 自分が何もわかっていなかったんだということに気づけたよね。学校でもサラッとしか習ってないですし。
池田 そうなんですよね。学校やテレビで見聞きしているので、ドイツのナチスがユダヤ人を大量虐殺したことも知っている。それでもあまり心が動いていなかった自分を再発見しました。今は、より深く知り、もし自分がその時代にいたらどういう気分になるだろうと想像する作業をしています。

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──物語では、手紙のやり取りを通して二人の気持ちが変化していきます。時代背景には戦争がありますが、男二人の友情物語ですよね。演じるお二人はとても仲が良く感じますが、初共演ですよね?
畠山 まだ会って4回目くらいです。でも初めてという気がしない。いつもお互いくだらないことを言い合っては、笑っちゃっています。
池田 そういえば、初日に靴が一緒だったよね!マニアックなメーカーだから同じものを持っている人に初めて会いましたよ。
畠山 そうそうそう! サイズ以外、色も形もまるきり一緒でした。顔合わせ早々「すみません、初対面なんですけど靴一緒ですよね?」と話しましたよね。
池田 あの共通項は大きかったですね。一緒にお揃いの靴を買った親友、って感じでした。二人で自主稽古するも遊んでるみたいに楽しくやっています。
畠山 やっぱりマックスとマルティンも仲が良いんですよ。二人の関係が変化していくのも、親友だからこそ。なんとも思ってない人に言われても気にならないことでも、心を許した人に言われるとものすごく苦しい事もありますよね。『受取人不明』は、時代や世界という大きなものに友情が翻弄される物語。手紙をSNSに置き換えると二人の気持ちを身近に考えられます。主人公が二人いる作品だとどちらかに肩入れしてしまいがちですけれど、ユダヤ人のマックスとドイツ人のマルティンのどちらの気持ちもわかるんです。
池田 僕は最初、ナチスやドイツが悪くてユダヤ人が被害者だというイメージから思っていたんですけれど、どっちが善とか悪ということではないんですよね。人間はちょっとしたことで狂気にもなってしまうあやふやさを持っている。善悪を飛び越えた先に、みんな同じ人間なんだというテーマを感じています。
畠山 当時の人々がどうして戦争や虐殺をしていったのか……。テーマはすごく壮大ですけど、物語は2つの部屋だけで進むんですよね。しかも直接会わずに手紙のやり取りだけで世界が大きく動いているのが伝わるので、演じるのは難しいです。次の手紙までに時間が3ヶ月開いたりするので、その間に何が起きているのかを俳優がわかっていないと演じられない。
池田 背景の政治状況や時代の動きをイメージできていないと、次の手紙までの時間が埋められないんですよ。当時の言葉でも、俳優が意味を理解していれば、時代背景を知らないお客さんにも伝わると思って勉強しています。
畠山 そのうちに、僕たちもどんどん作品の世界にのめり込んでいるんですよね。歴史背景に興味を持ってもいいし、友情に重点を置いてもいいし、いろんな見方ができる作品です。

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この作品に関わる前と後では全然違う

──往復書簡だけの台詞という独特な作品ですが、稽古が始まってみていかがですか? 
畠山 二人芝居だけど、会話劇じゃない。自分が送った手紙を声に出して読んでいる時に、相手はその手紙を受け取って読んでいるという構造の舞台なんです。
池田 実は最初、ちょっと動くリーディングだと聞いていて、台詞も覚えなくていいと思っていたんです。なのに、読み合わせしてみて、通常の舞台にしようとなって、慌てて台詞を覚えて、初日から台本を持たずに稽古が始まりました。
畠山 でもとんでもない台詞量なんですよね。しかもシェイクスピアの独白な長台詞しかないみたい。手紙だから、会話ではない読み言葉を口にするのは難しいんです。普段は話さない言葉遣いだし、「〜です」「〜でした」と一つの文章ごとに完結している。しかも同時に同じもの(手紙)を読んでいるのに俳優同士は直接の交流がないから、どういうタイミングで動けばいいのかというきっかけがつかめない。
池田 そうですね。普通の演技だと相手役からもらってそれに返して……とキャッチボールを繰り返すんですけれど、一人で手紙を読んでいるので自己完結するんですよ。台詞を忘れそうになっても相手の目を見れば何かが思い浮かぶというような助け舟がなく、一人の宇宙で戦わなきゃいけない。でも稽古を繰り返すうちに、相手の存在を感じるようになってきました。まるで本物の手紙みたいに、物理的な距離はとても遠いんだけど、心理的にはすごく身近に感じます。
畠山 確かに……手紙を読むと、相手のことをすごく近くに感じるよね。
池田 あまり口にしないプライベートなことも赤裸々に書いてあったりしますよね。手紙だからこその独特のコミュニケーションを畠山さんと作っているところです。
──脚本には、細かく動きや感情を指定されている場面もありますね。
畠山 相手役との会話から読み解ける部分が少ないぶん、台本に「ここはこう動く」と指定してあることで、この役はこういうことを考えてるんだなとわかります。
池田 ト書きにこの役がどんな人物なのかという地図が描かれているんですよね。自分は「こう動いた方がいいんじゃないか」と思う時もあるんですけど、やってみるとト書きに書かれているものの方が良い。見事だなぁ、やられたぜ、と悔しくなりますよ。それぐらい練られている台本なんです。
──舞台も独特です。舞台上の右はドイツ、左はアメリカと、2つの国が同時に存在する不思議な空間ですね。
畠山 稽古初日から舞台美術がほぼできていてびっくりしました。俺はこんなに素敵なお部屋に住んでるんだなぁとイメージが湧いてきた。通常の稽古場ではパイプ椅子などで代用することが多いので、初日から小道具まで揃っている環境で稽古ができることはすごくありがたいです。
池田 また音楽も見事で「ここでこの曲がくるか!」と。音楽が個人の感情も時代背景も広く包んで助けてくれる場面が随所にあります。
畠山 音楽が国境を越えますね。時代背景も伝わるし、音楽の盛り上がりと気持ちの盛り上がりがピタッとはまって神がかる瞬間があるんです。だから役者としては音楽に酔っちゃうので気をつけないと……。音楽も小道具も美術もどれも楽しめる見どころ満載の作品です。

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池田 当初は、手紙のやりとりだけの芝居は退屈なんじゃないかと心配していたんですけど、まったくそんなことないです。場面転換しないのにどんどん展開していく。
畠山 ドキドキするよね。両者の言葉の戦いが刺さるんです。手紙を通して、時代背景が大きく変化していくことが伝わってくる。状況が変化すれば考えが変わっていくことは誰でもありうるなと、環境の恐ろしさを感じます。
池田 時代背景が戦争だから、恐ろしさはある。でも戦争って最近なんですよね。まだ100年も経っていないから、この作品から大きな気づきを得られています。戦争って日本にいると遠いかもしれないけれど、今も世界では戦争が起きていて、日本もいつどうなるかはわからない。この舞台は、もし自分が戦争という状況に置かれたらどんなことに気をつけなきゃいけないか、自分を見失わないためにはどう考えればいいか、友人関係をお互いにどう作っていけばいいのかと考えるひとつの生きる指針を与えてくれるんじゃないかと思います。僕自身、この作品に関わる前と後では全然違う。
畠山 僕も、知る、気づくということは大事だなと思ったよ。
──大河内直子さんの演出はいかがですか? ご本人は「詐欺師みたいでしょう」(笑)と言っています。
畠山 役者が考えてきたことを尊重し、親身になって寄り添ってくださる方です。僕はお芝居をずっとひとつの劇団でやってきたので、他でお芝居するってどういうことなのかなと不安でした。でも飛び込んでみれば、安心して「これどうしたらいいですか」といろんな相談を持ちかけることができる。緊張しないので、じっくり役と向き合えます。大河内さんは「こう捉えてみたらどう?」と支えながら、俳優の戦いを見守ってくださる。でも気づかない間に「こっちだよ」と誘導されているかも(笑)。
池田 押し付けないですね。人によっては演出プランが明確で「こうして欲しい」という要望に合わせなければいけない時もあるけれど、大河内さんは役者から何かが出てくるのを懐深く待っていてくれるんですよ。こちらがやってみたものを否定せず、広げて答えを一緒に見つけていってくれます。役者から出てくるものを大事にしてくれるので、もう一方のチームとまったく違います。役者が違うと起きる化学反応も違っていて、雰囲気も解釈もまったく別の友情関係になっているので、両チームご覧いただけたら面白いと思います。


■プロフィール
池田努
いけだつとむ○1978年12月17日生まれ、神奈川県出身。2000年、「21世紀の石原裕次郎を探せ!」で5万人を超える応募者から選ばれ石原プロモーションへ。翌年、ドラマで俳優デビュー。乗馬や古武道を得意とし、ドラマを中心に映画、舞台で活躍中。映画『影を抱いて眠れ』(和泉聖治監督)の公開を控えている。また、画家としても活動しており現在、個展を準備中。
 
畠山典之
はたけやまのりゆき○1972年10月3日生まれ。北海道出身。音楽教師を経て1998年、劇団四季入団。2013年の退団までミュージカルを中心に数多くの舞台に出演。退団後は、浅利慶太プロデュース公演に出演。今秋、小樽発の東日本大震災チャリティーコンサート『旅するピアノ・プロジェクト』にて東北ツアーを行う。音楽活動、ワークショップ講師なども行っている。
 

〈公演情報〉
『受取人不明 ADDRESS UNKNOWN』チラシ表-1
 
『受取人不明 ADDRESS UNKNOWN』
作◇クレスマン・テイラー 
脚色◇フランク・ダンロップ 
翻訳◇小田島創志 
演出◇大河内直子
出演◇青柳尊哉・須賀貴匡/池田努・畠山典之  (登場順) 
●9/13〜17◎赤坂RED/THEAER
〈料金〉前売/一般4,800円 学生3,000円 当日/一般5,300円 学生3,500円(全席指定・税込)
(学生は当日指定席引換。要身分証明書)
〈お問い合わせ〉アン・ラト  unrato@ae-on.co.jp 



【取材・文/河野桃子 撮影/交泰】




トム・プロジェクトプロデュース『男の純情』


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