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本がこの世界から失われていくとしたら……徹底した思想管理体制のもと、書物を読むことが禁じられた近未来。隠されている本を探して焼き捨てる仕事を担う「ファイアマン」と呼ばれる機関のガイ・モンターグは、模範的な隊員だったが、ある日クラリスという女性と知り合い、彼女との交友を通じて、それまでの自分の所業に疑問を感じ始める…。
 
レイ・ブラッドベリによって1953年に書かれたSF小説「華氏451度」。この題名の意味は(本の素材である)紙が燃え始める温度を意味している。
本の所持や読書が禁じられた架空の社会を舞台に、現代社会を鋭く風刺したこのディストピア小説は、1966年にフランスのフランソワ・トリュフォー監督によって映画化され、世界的に知られるようになった。今回は日本初の舞台化で、上演台本を長塚圭史が、KAAT芸術監督の白井晃が演出を手がける。その舞台が9月28日からKAAT神奈川芸術劇場で幕を開ける。(10月14日まで。そののち豊橋、兵庫で公演)

この作品で「ファイアマン」のモンターグを演じるのは、映画・ドラマに幅広く活躍する吉沢悠。本格的な舞台は3年ぶりという彼が、この注目作への思いを語ってくれた「えんぶ10月号」のインタビューを別バージョンの写真とともにご紹介する。
 
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聞いたことのない言葉に
心を奪われていく

──この作品は有名なSF小説ですが、どんな印象を持っていますか?
僕は、今回オファーいただいたことで、初めて原作を読ませていただきました。そのときの印象としては、60年以上前に書かれた本なのに今現在の物語として共感できるかなと、すごく力のある本だなと思いました。それから、主人公は物事の真理に気づいてしまう人なんですが、周りの人間たちは彼のそういう考えを理解しないし、どうでもいいことだと思っている。でもモンターグはそこから目を背けられない。そういう意味ではとても普遍的な問題を描いている本だなと思いました。
──作者のレイ・ブラッドベリは、1950年代にテレビやラジオなどの感覚文化によって、活字文化が衰退していくことへの危機感で書いたと言われています。
今ならSNSですよね。物語の中でモニターに向かって会話している場面がありますが、今は、向き合って座っていても、それぞれスマホを見てますから(笑)。そう考えると、焚書こそないですけど、ますますこの物語のような状態になっている気がします。
──モンターグは本というものに目覚めていきますが、吉沢さんにとって、本はどんなものですか?
ある時期、読書が一番落ち着くというくらい本を読んでいました。基本的にエッセイが好きで、人生を考えるヒントとか生きていくうえでの支えとか、そういうものを本に求めていた時期がありました。だからこの作品のように本がこの世界から失われていくとしたら、とても耐えられないでしょうね。
──「本は好きなときに読むのをやめられるし、またそこから読み始められる」という言葉も出てきて、そこがデジタルとの違いだなと。
そう、僕もその言葉はすごくいいなと思いました。本は読む人間に寄り添ってくれるんですよね。書物を読むことで想像力や考える力が育てられるという言葉も出てきますが、モンターグは、クラリスという若い女性が話す言葉に惹かれていくんです。これまで聞いたことのない言葉に心を奪われて、これまでの自分の人生を考え直したくなるような思いにとらわれる。そういう「言葉を知ることの素晴らしさ」にも共感できます。

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舞台は知らない自分を
引き出される現場

──白井さんの演出への期待はいかがですか?
俳優同士としてはご一緒しているのですが、演出を受けるのは初めてなんです。でも演出作品は何本も観ていて、世界観がすごく美しいし、きっと稽古も繊細に進めていかれるのだろうな、と。実際、白井さんの演出作品に出演した知り合いたちから、「白井さんの稽古を受けられるのはとても幸せ」という言葉を聞くので、今回、やっと体験できるなと楽しみです。
──モンターグという役についてはどう演じたいですか?
原作も読んで、映画も観たのですが、そのどれもモンターグの印象が違うんです。そこに白井さんの演出がついたら、またかなり変わるんじゃないかなと。どこをフォーカスするかでこの作品自体がけっこう違ってくると思うので。
──吉沢さん自身と重なる部分はありそうですか?
最初に読んでいたときは、イメージとして猛々しいところがあるので、僕でいいのかな、と思ったんです。火に取り憑かれているというか、法を守る事に熱狂的に取り憑かれているように見えたので。でももしかしたら、そういう猛々しい面は自分にもあるのかもしれない。舞台の現場は、知らない自分を引き出される場所でもあるので、今回もそういう一面を自分の中に見つけることになるかもしれません。
──後半ではナイーブで哲学的な面を持つモンターグで、そこは無理なく演じられそうすね。
いや、僕にそういうところがあるかはわからないですけど(笑)。ただ、モンターグは禁止されている世界にどんどん踏み込んでいきますよね。それは彼の中にそういうものに惹かれ、真理を求めずにはいられない資質があったんだと思います。そういうモンターグという人間の内面や変化を、無理なく見せていければいいなと思っています。

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めちゃくちゃ苦しい現場になるか
めちゃくちゃ楽しくなるか

──舞台は3年ぶりですが、この作品だから出演しようと?
何よりも白井さんの演出というのが大きいですね。それと僕はKAATという劇場が好きで出たかったんです。一方で、もしあの舞台に自分が立ったらどうなるんだろうか、という恐さもあって、ワクワク感と恐さの両方があるんです(笑)。
──しかも『華氏451度』という話題作の主役で、かなりプレッシャーが。
そうなんですよね(笑)。初めてのKAAT、白井さんの演出、『華氏451度』という本。稽古に入ってめちゃくちゃ苦しい現場になるか、めちゃくちゃ楽しくなるか。とにかく身を任せるしかないという心境です(笑)。
──最後に改めて、公演への抱負を。
実はこの作品は、僕は40歳になって最初の仕事になるんです。それもあって、ちょっと恐いけど出演させていただけたらと。挑戦というか、新しいものと出会いたいという好奇心は、常に強くもっているので、今は楽しみです。観に来てくださる方へは、いつの時代にも共感できるような世界観の作品が、白井さんの演出と僕たち俳優たちによって肉付けされて、KAATという素晴らしい劇場に現れると思いますので、それを受け取ってもらえればいいなと思っています。

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よしざわひさし○東京都出身。98年に俳優デビュー。以降、映画、TVドラマ、舞台と幅広く活躍中。主な舞台作品は、『LOVE LETTERS』『幕末純情伝』『オーデュボンの祈り』『純愛物語 meets YUMING「8月31日〜夏休み最後の日〜」』『助太刀屋助六 外伝』『遠い夏のゴッホ』『宝塚BOYS』『きりきり舞い』『TAKE FIVE』など。映画の『ライフ・オン・ザ・ロングボード 2nd Wave』が来年春公開予定。

〈公演情報〉
華氏451度画像

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
『華氏451度』
原作◇レイ・ブラッドベリ
上演台本◇長塚圭史 
演出◇白井晃 
音楽◇種子田郷
出演◇吉沢悠 美波 堀部圭亮 粟野史浩 土井ケイト 草村礼子/吹越満
●9/28〜10/14◎KAAT神奈川芸術劇場ホール
〈料金〉S席7,000円 A席5,000円 U24チケット 3,500円 高校生以下割引 1,000円 シルバー割引 6,500円(全席指定・税込) 
〈お問い合わせ〉チケットかながわ 0570-015-415 (10:00〜18:00)
●10/27・28◎穂の国とよはし芸術劇場PLAT
●11/3・4◎兵庫県立芸術文化センター

 


【構成・文/宮田華子 撮影/山崎伸康】


『ハンサム落語第十幕』


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