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国内外の上質な戯曲を取り上げて、毎回、注目の舞台を上演する地人会新社。その第8回公演として、カナダのニュージェネレーションを代表する人気劇作家、モーリス・パニッチが2002年に発表した『金魚鉢のなかの少女』を、10月6日から赤坂RED/THEAERで上演する。(12日まで)

【STORY】 
1962年秋、アメリカとソ連による一触即発の核戦争の危機、キューバ危機に世界は直面する。
主人公のアイリスは11歳、カナダの片田舎の海に面した小さな町に住んでいる。彼女にとっての危機は、キューバの危機より母が自分と父を置いて家を出て行こうとしている事だった。
アメリカ大統領がソ連に最後通告を送ったちょうどその頃、飼っていた金魚アマールが死ぬと、アイリスは浜辺に打ち上げられていた一人の身元不明の男を家に連れて来る。
男は一体誰なのか…アマールは生まれ変わって、家族を、そして世界を危機から救うのか?

家庭崩壊を阻止しようと孤軍奮闘する少女と、互いに一方通行の両親、正体不明の下宿人たちの間で繰り広げられるおかしな数日間の出来事。この作品で主人公アイリスに扮する堺小春、そして両親役の矢柴俊博と中嶋朋子に、稽古場で話を聞いた。

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中嶋朋子・堺小春・矢柴俊博 

一筋縄でいかない多様性のある物語

──この作品を最初に読んだときの印象から聞かせてください。
矢柴 設定が1960年代のカナダの田舎町で、時代のキーワードやキリスト教のキーワードとか色々散りばめられていて、最初はとっつきにくかったのですが、そこにとらわれずに読んでいくと意外と読みやすくて、家族の話だし演劇では一番扱うテーマかなと。ある閉じられた空間から飛び出したい人とか、そこに訪れた人によって家族が変化していく。そこに演劇の醍醐味がある気がしました。
 私は読んだ時からすごく好きでした。台本をいただいて読み始めたときは、今の私に馴染みのない言葉が沢山あって、どういうことなのかなと思いながら読み進めていったのですが、最後のシーンになったとき、あ、そういうことだったのかと。それを知ったうえでもう一度読んでみたら、すごく印象が変わりました。私が演じるアイリスの11歳のときの話なんですけど、彼女が大人になってその時の自分を振り返らずにはいられなかった想いがわかって、胸が苦しくなりました。
中嶋 最初に読んだときの印象と、稽古が始まって皆さんが読まれている感触と、全然違うものを感じましたので、お客様も色々なかたちで観ていただける作品なんだろうなと。アイリスに感情移入して、自分の過去として捉える方もいらっしゃると思いますし、他の登場人物に同調して観る方もいらっしゃると思います。すごいシンプルに家族の話であるようで、いやいや違うなという、一筋縄でいかない多様性もあって、戸惑いもしたんですけど、それだけ可能性があるんだと思ったらすごくワクワクしました。先ほど矢柴さんがおっしゃった翻訳劇の民族性の違いみたいなものは、いつも埋められないで苦労するんですが、この本はそれを一度置いて眺めてみるとすごく魅力的で、すごく不揃いな人間たちを、自分たちが愛着をもって演じられれば、お客様の中に色々なかたちで残る。そういう良い戯曲だなと。ですから今は毎日楽しく飛び込んでいってます。
──登場人物たちは意外とリアルで、たとえば父親とか下宿人のローズさんなどは身近にいそうな人たちですね。
矢柴 この父親はヒーローものとかテレビドラマの主役にはなれない残念さがありますよね(笑)。色々な趣味とか持っている父親って素敵ですけど、この父親は物理とか幾何学とかに詳しいんですけど、なんでも中途半端で(笑)、ちっちゃい嫉妬とかしたり(笑)。どこか僕自身の人生と重なる部分もあったりするので、久しぶりの舞台でたいへんな台本なんですが、すごく興味を惹かれています。

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どこか演劇のパロディのような

──妻のシルビアもどこか喜劇的な気がします。夫と別れようとして家を出るとき、階段で転んで骨折したり。
中嶋 (笑)。
矢柴 それに、骨折したのは手首だから、出ていこうと思ったら出て行けるのに、なぜかそのままいるんですよね。
──そういう関係がちょっと不可解でもあり、この戯曲ならではの面白さですね。
中嶋 この夫婦はなんかくだらないことでやりとりしているんですけど、ギリシャ劇っぽい部分もあるなと思ったりするんです。自分の意見を一生懸命しゃべってる討論劇みたいな面もあって、そこがパロディというかコメディの要素もあるのかなと。わーっと対峙してわーっと吐露するとか、やっていることはギリシャ悲劇と一緒で、シェイクスピアも独白劇で朗々と「ああなってこうなって」と語りますよね。そういう演劇のスタイルというものがすごく入っているなと。でもお互いに本質は全然しゃべれてないし、書かれているようでみんなの本心が書かれていないので、それを探って迷子になって、違う角度から見てみようと思ったとき、「これ演劇のパロディかな」と考えると、本人たちのやりたいこと、やれなかったことはここかなと探せたりするんです。
──俯瞰して見ると理解しやすい作品ということですか?
中嶋 それはこの作品だけでなく、ありふれた日常のように描かれている作品のほうが引き寄せるのが難しいんです。自分を見つめるのが難しいように。それでちょっとフィルターをかけて見ると、丁々発止しているシーンが「これってすごく悲しいシーンだな」と思えたり、逆に深刻な話をしているシーンが可笑しく見えたり、1回ずつ引いて見ないとわからない。でも矢柴さんはそういうのをパパッと掴むのがお得意で、矢柴さんが「こうなんじゃない?」っておっしゃったことに、私は「そうか!」って。広岡(由里子)さんもですけど、軽くおっしゃることに発見があるんです。
──矢柴さんは常にそういう視点を持っているのですか?
矢柴 いや、僕は心がない俳優なので(笑)。中嶋さんは詰将棋のように詰めていかれるんですよね、論理的にも感情的にも。このあいだ一緒に飲んだときに「台詞はゆっくりしか覚えられない」とおっしゃってましたが、僕はとりあえず台詞を入れて、心のない状態でしゃべって、「これを言うには心が必要なんだな」と、あとで気づくんです(笑)。まずはここに向かう、というのがあったほうがいいタイプなんだと思います。

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若い女性の輝きを刻んである台本

──堺さんは、アイリス役とどんなふうに取り組んでいますか?
 私はガッと殻に閉じこもってしまう部分があるのですが、たぶんアイリスはもっと自信はあるのかなと。ウソもつきますけど想像力も豊かで自分の世界観を強く持ってるんだなというのを、稽古が休みの日にちょっと俯瞰して見ることができて気づいたんです。いつも稽古中に皆さんが意見を交わしているのを見ながら、こういうやり方で役を掴んでいけばいいのかとすごく勉強になっているのですが、改めてそれで俯瞰で見たときに、もっと色々なやり方でやってみようと。私は頭がガチガチになりがちだけど、もっと柔軟な頭で役にダイブしていけたらと、皆さんの姿ですごく発見しています。
矢柴 これだけ若い女性の輝きを刻むような台本って、なかなかないと思うんですよ。30歳になったらやれない気がしますし、たぶん女優さんが人生で1回、出会うか出会わないかというすごい役だと思います。可哀想なだけの役ではなくて、全部をつかさどりながら、中にも入りながら、そして役者本人の資質も輝かせながら、その全部を物語に封じ込めていくような、これほど決定的な役はあるんだろうかという気がします。
 私が、今のこの年齢だからこそのアイリスへの見方と、もっと大人になって色々なことを経験してアイリスを見たときとは、たぶん全然違うと思うんです。だから今の私が感じているものや今の自分の感性を大事にしていかなくては、としみじみ感じながらやってます。
中嶋 小春ちゃんが、今しかできないことをやるというところにちゃんと立っている時点ですごいし、いいなあって思いますね。本読みから全部台詞が入っててびっくりしたのですが、それだけこの役はたいへんなんだと思います。詰めるところ、手放すところ、楽しむところ、色々なものをすごい勢いで飛び込んでやっていて、勢いだけではなくやろうとしているところもあって、そこは小春ちゃんの特性なんだろうなと、眩しく毎日見ています。

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3人でいるシーンは嬉しくて

──両親役のおふたりについて感じることは?
 アイリスは友だちもいないし、関われる人間がお父さんお母さんと下宿人しかいなくて、あとはへんてこりんな人物たちが台詞の中に出てきますけど(笑)、両親が世界の全てなんです。でも台詞にも出てくるんですが、両親は自分の世界に没入していて、だから「見て見て見て」というアイリスの気持ちが、稽古中に自分の中で高まってきて、「なぜ見てくれないの」みたいな気持ちになってます(笑)。アイリスってどちらにも似ているところがあるのかなと思っていて、お父さんの1つのことに固執して熱中するところはアイリスにもあって、お母さんとは同性というところでお互いの居方が独特のものがあるのですが、やっぱりお母さんが一番好きで、女の子だからお母さんに色々教えてほしいこともあって、存在がすごく大きいなと思います。ですから3人でいるシーンとか私は嬉しくて(笑)、2人がアイリスを挟んでケンカしていることもあるんですが、でも2人の顔が見えるだけで心がほっこりしたり、安心します。それだけに最後のほうになるとすごく揺れ動くものがあります。
──普段の中嶋さんや矢柴さんとのギャップや面白さなどは?
 シルビアは意外と本質的なことを言っているようで言わないですよね。今起きていることに興味があるのかないのかもよくわからない。でも中嶋さんは矢柴さんもおっしゃっていたように「中身が決まってないと台詞が出てこない」という方で、そこがすごいし、それはシルビアとのギャップかなと。昨日も「考えすぎ?」とかおっしゃっていましたけど、そこまで考えることは大切なんだと思いました。矢柴さんは面白くて、一緒に稽古していても素で笑いたくなっちゃいます(笑)。普段は観察力がすごく高いです。
矢柴 いや、そんなでもないからね(笑)。関係が役とかぶってるのは、アイリスは父親に色々な情報を流してくれるんですが、僕もよく出トチリするんです。自分の世界に入ってしまうので。そうすると「お父さんお父さん!」って(笑)。
 すぐまた出るのに、完全にはけてしまうから(笑)。
矢柴 この前も最後の一番大事なシーンでそれをやりそうになって(笑)。小春ちゃんはしっかりしてるんです。
──実際は楽しい親子なんですね。矢柴さんは中嶋さんと初共演ということですが。
矢柴 そうです。僕はテレビで『北の国から』を観てこういう世界に興味を持ったので、今こうしてご一緒しているのは不思議です。中嶋さんは芝居をしていてすごく冷静で、演劇のことをよく解っているなと。「野球が解っている選手」という表現がありますが、芝居が解っている。存在が演劇そのものですね。
中嶋 矢柴さんこそ、むちゃくちゃ軽やかかと思いきや、ぐーっと深いところに引っ張り込むエネルギーを発している方で、すごく面白くて目が離せないです(笑)。

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戯曲の完成度の高さを感じる傑作

──では最後にお客様へのアピールをいただければ。
 観る方の年齢によって、色々な感想が生まれる作品だと思いますし、観た方が誰に感情移入するのかというのはそれぞれあると思いますので、できるだけ色々な世代の方に観ていただきたいです。人生を振り帰る要素が沢山詰まっているし、観終わったあとに持って帰るものが沢山あると思います。
矢柴 台本を読んだときに、日本人のお客さんが知識的なギャップを超えたらすごく面白く思える本だろうなと思ったし、自分の友人たちとかが観にきてくれたとき、「楽しめたよ。観てよかった」と言ってくれる作品じゃないかと思っていたんですが、こうして実際に肉体化してみると、改めて傑作だなと思います。5人で作りあげていく時間に無駄がないんです。5人全員が、くだらない役割や重い役割、意味のある役割、すごく感情的な役割などを、それぞれ持つというところに戯曲の完成度の高さを感じますし、クライマックスに向けて一気に飛躍していく爆発力とか、相当の傑作だなと感じています。女優さんが出会うのは人生に1回と言いましたけど、僕ももしかしたら1回かもしれないなと。これほどまでの役割とこれほどまでにカタルシスを組み立てていく作品に加担させてもらえる経験は、そうないだろうと。うまくすれば非常に爆発力をもったシーンが沢山詰まった、おそるべき作品になる気がします。
中嶋 そう思います。だからむちゃくちゃ難しいんですけど。1回観て受けるもの、それは私たち次第というのはありますけど、そこで色々な要素を受け取って満足して帰っていただいたとしても、何回も観られる作品なんです。そのたびに「あれ?あれ?」って、人生のボタンを掛け替えていける。そういう作品だと思うので、ぜひ何回も観ていただきたいです。

プロフィール 
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さかいこはる○東京都出身。05年にミュージカル『アニー』オーディションに合格し芸能界デビュー。その後、学業に専念。2015年、活動を再開。主な出演作品は、映画『踊る大空港』『心が叫びたがってるんだ』『亜人』『曇天に笑う』『CHEN LIANG』、ドラマ『いつまでも白い羽根』、舞台『転校生』など。

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やしばとしひろ○埼玉県出身。早稲田大学内の演劇サークルで演技を始め、小劇場で活動した後、現在、映画・ドラマ・CMなどで活躍中。最近の主な出演作品は、ドラマ『僕とシッポと神楽坂』『駐在刑事』『まんぷく』『サバイバル・ウェディング』『指定弁護士』、映画『覚悟はいいかそこの女子。』『新宿パンチ』『先生!』『64』、舞台は朗読劇『陰陽師〜藤、恋せば 篇〜』など。

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なかじまともこ○東京都出身。1976年ドラマでデビュー。1981年に始まった『北の国から』で人気を博す。以後、映像と舞台で活躍中。最近の主な出演作品は、映画『妻よ薔薇のように(家族はつらいよ掘法戞慍搬欧呂弔蕕い茖押戞愴しい星』、舞台『岸 リトラル』リーディングドラマ『シスター』『ヘンリー五世』『愛のゆくえ』『BOAT』など。1990年ブルーリボン賞助演女優賞、2009年第44回 紀伊國屋演劇賞個人賞など受賞多数。

〈公演情報〉
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地人会新社第8回公演『金魚鉢のなかの少女』
作◇モーリス・パニッチ 
翻訳・演出◇田中壮太郎
出演◇堺小春 広岡由里子 古河耕史 矢柴俊博 中嶋朋子
●10/6〜14◎赤坂RED/THEATER
〈料金〉一般6,500円 25歳以下3,000円円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉J-Stage Navi 03-5912-0840  
 


【取材・文/榊原和子 撮影/友澤綾乃】



『光より前に 〜夜明けの走者たち〜』


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