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岐阜県可児市にあり、文化芸術の持つ力で市民に元気と明日への希望を届けるをモットーにしたala(アーラ)まち元気プロジェクトで全国に先駆けて社会包摂に取り組んでいる可児市文化創造センター。2002年7月の開館から、幅広い世代の市民に向けて、さまざまな公演プログラム、ワークショップ、イベントを開催し、多くの市民が日ごろから憩いの場としてここに集っている。
そんなalaの演劇におけるオリジナル企画が「ala collectionシリーズ」。第一線で活躍する演出家、俳優、スタッフが可児市に滞在する「アーティスト・イン・レジデンス」で、新作主義の日本の演劇界に対して消費されゆく過去の優れた戯曲に焦点を当て、リメイクするプロジェクトだ。また、毎回公募される20名超の市民サポーターが、長期滞在者に対して、食生活、公演PR、製作面でのアシストなどにより舞台を支えるのも特徴だ。
2009年に柳美里脚本の『向日葵の柩』でスタート以来11本目を迎える今シーズンは、初登場となる日本の不条理劇の先駆者、別役実の初期の作品を上演する。1971年に書き下ろされた『移動』は、変化の激しい時代の中で生きていく人々の人生を、ユーモアあふれる視点で、淡々としながらもどこか寂しく、どこかコミカルにつづっていく。

【あらすじ】
かっと明るい真昼。時折、電信柱があるだけで、ほかには何もない茫漠として場所に、赤ん坊を背負った女が現れる。あとに続くは家財一式を山積みにした荷車を引く男と、彼らより年を取った男と女。どうやら5人は家族らしい。一家はそれまでの暮らし、土地や人間関係と決別し、出発した。旅路には砂漠のように何もない空間が広がり、目に入るのは同じような姿の電信柱だけ。日の明け暮れとお茶の時間だけが区切りの当てどない日々。彼らはただ黙々と歩みを進めていく。若い男、ビラ貼りの夫婦、反対方向から旅してきた別の男女。一家と束の間、時を共にする人々にも、同道者が少しずつ減っていくという現実も、彼らの道行を止めることはできない。行く先も、始まりや終わりも判然とせぬまま、ひたすら続く彼らの“移動”。その先にあるものは──。

この作品の制作発表が9月中旬に可児市創造同センターで行われ、主演で「女」役を演じる竹下景子、「男」を演じるたかお鷹をはじめ、嵐 圭史、本山可久子、山本道子、田村勝彦、横山祥二、鬼頭典子、星 智也ら出演者と、演出を手がける文学座の西川信廣、創造センター館長兼劇場総監督の衛紀生が出席、作品の見どころなどを語った。

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衛紀生(可児市文化創造センター館長兼劇場総監督)
私がこちらに参りまして11年目の事業です。当時は制作スタッフも現場スタッフも作品づくりもままならない状態でした。しかしそれが10回の公演で5作品が賞を受け取れるようになりました。そして今回、ようやく別役実さんの作品をやれることになりました。
別役さんが鈴木忠志さんの早稲田小劇場を離れ、常田富士男さんと演劇企画66を始めたときに「これまでは油絵を書いてきたけれど、これからはイラストを描くんだ」というようなことをおっしゃったのが印象的です。その後、これは私見ではありますが、66以外に作品を書くとき、別役さんは、不条理劇から逃走しようと思ったのではないかと思うんです。別役さんのお仕事は会話のズレとか、人間がどうしようもなく持っているものを、不条理という形で出しながら、笑いについて考えてきたのではないかと私は思っています。
とはいえ私たちの世代を中心に不条理劇という頭があるため、笑いにはなかなか結びつきませんでした。でもあるとき紀伊國屋ホールで『会議』というお芝居を見たときに、まったく笑わない私たちのエリアと、大笑いする若者のエリアに出会いました。そのときに、私は別役さんは若い人たちに不条理という笑いを届けようとしているんだとほぼ確信を持ちました。
今回、文学座の西川さんが初めて別役作品を手がけます。西川さんとはずいぶん長くお仕事していますが、別役作品に取り組みのは感慨深いものがあります。今までの別役劇とはまったく違う切り口が出てくるのではないかと非常に期待しています。新しい別役の見方を提出できれば、やった甲斐があると思います。

西川信廣
西川信廣(演出)
竹下さんの出演が決まったとき、実は別役さんというアイデアはなかったんです。ストーリー性があって、涙も笑いもあって、文学性があってといろいろ考えてみましたが、なかなか引っかかる作品がありませんでした。それがたまたま新国立劇場での別役さんの新作に竹下さんが出演されていたのを拝見して、竹下景子と別役実は合うんだと思い、いろいろ読み返して『移動』を選びました。
劇団では、別役作品といえば亡くなった戌井市郎さんで、僕は戌井さんの演出助手でしたが、なぜ別役作品に挑戦しなかったかといえば、そのときの印象が強烈で、自分がその世界を超えられるという自信がまったくなかったからです。見るのは好きだけど、やるのは恐ろしいと臆病になっていました。
『移動』はうちの劇団でもやっている『にしむくさむらい』という小市民の不安がテーマになった芝居の原型だと思います。たぶん、別役さんはここからどんどん捌いていって、今の小市民のかすかな不安というところににたどり着いた気がするのです。そういう意味でこの作品は、小さな不安というより、大きな不安があると感じます。チラシに「とどまることを選べない」とコピーがありますが、これが作品のテーマだと思います。
この芝居には4つの移動があります。夫婦の移動、それから若い男の移動、貼り屋の夫婦は移動しているかはわからないですけどぐるぐる回っている。そして戻ってくる移動。じゃあどこに向かっているかというと、みんなそれぞれに不安を抱えて移動しているんです。この作品は71年の戯曲で、約50年前に書かれているのですが、すごく今の不安と近いなと思いました。国はどんどん借金をするし、老後も心配、高齢化社会も心配、だけど前に進むしかないという、今の時代にぴったりはまっているなと思ったのです。
お芝居というのは、新作であれば時代の鏡として今の時代が抱えている問題を演劇的に投影するのが役目。一方で、古典も含めた古い作品を上演するときは、時代が演劇を呼ぶというのがあると思うのです。今回の『移動』は時代に呼ばれた気がしています。

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竹下景子(女)
別役作品は新国立劇場で初めてやりましたが、とても手強かったです。そしていろいろな経緯を経て今日にいたるわけですが、初めて体験した別役作品とこの『移動』、すごくスタイルは違っているようですが、根底を流れているものは変わっていないと思います。人間とはどういうものなのか、別役さんがいろんな語り口で伝えようとしているように感じました。
最初にこの戯曲を紹介いただいたときに、長くて長くてよくわからなかったんです。しかし台本として渡されたものはとてもメリハリが効いていて、不条理というよりは読んでいてクスッと笑えるようなところがたくさんあります。私が演じるのは、たかお鷹さんと一緒に旅をする、小さい子供を持つ母親。とにかく前に進むことしか考えていない。家族を引っ張っていくような女ですが、その元気さから、この役はほとんどサザエさんだなと思っています。
サザエさんは大変愛されているけれども、そのキャラクターの中には、みんなが生きていくうえで必ず持っている、おかしいこと、悲しいことを抱えて生きています。それが演劇になったときに、ヴィヴィッドに、あるいは奥深くに、人の心を映し出すところがある。これは私にとってもチャレンジあると思っています。笑いの後には思いもよらない結末が待っています。これ以上ドラマチックな作品はないように思います。諸先輩の力をお借りしつつ、どんなに伸び伸びとできるのかを思うと期待で胸が膨らんでいるところです。

たかお鷹
たかお鷹(男)
僕は文学座の研究生のころから、別役さんの作品を何度も見て何度も笑いました。なんて面白い作品なんだろうと。別役作品によく出ているだろうと言われるんですけど、実は1回しか出ていません。今回が2回目です。本当に見ていると楽しいのですが、やるとつらいんです。記者会見で話すだけでも、頭の中がパニックになっております。ただ竹下さんと共演できるのはうれしいです。

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嵐 圭史(その父)
私、昨年4月に劇団前進座を離れました。西川さんとは昨年、文化座でご一緒させていただきました。そんな関係で声をかけていただきましたが、別役作品だと知らず、うっかり返事をしてしまいました。台本を拝見したら主人公は男と女。私は父というだけですから、いくつの父なのかわからないわけですよ。私は実は前進座時代には年寄りを演じたことがありません。しかし離座してからは3本目のおじいさんの役、しかも過去2回よりも年をとっていなければいけないんじゃないかと思います。体からまったく力が抜けての芝居というのはどうなるのかな、というチャレンジがあります。もう一つの楽しみは、せりふが23個です。かつて『子午線の祀り』という4時間半の芝居に出たときに、私は冒頭から1時間半しゃべりっぱなしでした。そのときに別役実さんが「筋肉のせりふ」と評してくださったんですよ。別役さんがそんな取り方をしてくださったんだと思い、今回の台本を読み直してみましたが、まるっきり対極の世界にいらっしゃる方だなと感じます。それだけに別役さんに褒めていただいたことは励みになりました。そんな思い出も抱えながら、今回の舞台に臨みます。

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本山可久子(その母)
可児にまいりましたのはこれで3回目です。『おーい幾多郎』(金沢市民芸術村発信 文学座ユニット公演)、『風の冷たき櫻かな』(文学座)以来10年ぶりだそうです。私、1959年に17歳で文学座に入りまして、いつの間にか最長老になってしまいました。(嵐さんという)こんな若い、ご主人を持っています。どんなお芝居ができますか楽しみにしております。

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山本道子(貼り屋の妻)
私は可児は、こまつ座『闇に咲く花』でこさせていただいています。隣におります、田村が一期下で、夫婦役なのでいろいろ教えてもらいながら頑張りたく思います。

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田村勝彦(貼り屋の夫)
私は別役作品が大好きで、何本かやらせていただいているんですけど、今回は6年ぶりになります。すごく長くてこれは大変だなと思って、どなたが主役をやられるのかなと伺ったら竹下さんでした。竹下さんを頭に入れながら読み直したら、これはぴったりだなと思いました。そしてたかお鷹さんとのご夫婦役だと聞いて、これは絶対に面白いと確信に変わりました。西川さんの演出意図、これも私の思いと共通しているような気がしておりますし、これから芝居をつくっていくのがとても楽しみです。私げ演じるのはビラ貼り屋の夫。ビラ貼り屋はどういう移動なのか。この仕事は職人の部類に入るだろうと。職人のあり方は今と昔では違うとは思いますが、サラリーマンとはその過ごし方が違うような気がして、そのへんをうまく探れないかなと考えています。絶対面白い芝居になると思います。

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横山祥二(男 二)
別役作品は私はこれで3回目です。文学座アトリエでの『数字で書かれた物語』再演に出させていただきました。そのときに、アトリエ中がゲラゲラ笑うんですね。やり方によって大笑いできるお芝居じゃないかと思っております。諸先輩のお芝居を見ながら勉強させていただきたいと思います。

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鬼頭典子(女 二)
私は『あの子はだあれ、だれでしょね』で初めて別役さんの作品をやらせていただいて、これが2本目です。そのときにすごく難しくて、たかおさんがおっしゃったように、見るのとやるのでは大違い。本当に難しく思いました。けrど再び挑戦させていただくのはうれしく思います。出番としてはとても少ないのでかえって緊張しています。みんなが一方向に向かって移動しているのに、私たちは逆を行く、これは一体なんだろうと今ものすごく考えています。諸先輩方とご一緒できるのをものすごく楽しみにしております。

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星智也(若い男)
別役さんの作品は初めてです。台本を読んだときに、僕自身まったく若くはないのでどのように演じようか、それから何を水脈にこのせりふが出てきたのかまったくわからないところからスタートしています。若い男は竹下さんとたかおさんのご夫婦と一緒に進んで行くのですが、彼の不安も、自分とうまいことリンクさせながら、日本がどこに向かおうとしているのか、それに対して若い人が何を思っているのかをうまく表現できたらいいなと思っています。

【質疑応答】
 
──西川さんに、新しい別役像を出すということですが、そのあたりをもう少し教えてください。
西川 別役さんの作品は時代によって見え方がずいぶん違ってくると思うんです。はっきりしたストーリーがあるわけではありません。しかし観客が、この人はどこから来てどこへ向かうのか、何をしているのだろうかなど、人間の深いところに興味がいくようにつくろうと思います。時代を照射するという意味では、どちらへ行くのかわからない時代になっています。“移動”を別の言い方をすれば4つの生き方があるということでしょう。とにかく、まっすぐ生きていくのかが本当にいいのかという不安を抱えているので、そのへんをアジテーション的に押し付けるのではなく、観客の方が登場人物の生き方を見て、心に響いて、自分たちで理解をするというつくりにしたいです。別役さんはディテールにこだわり、しつこくしつこく描くことが観客の笑いを誘うものだと思います。言葉で埋めよう埋めようとしてわけのわからない方向に行ってしまう、そういう面白さを描けたらいいなと思います。

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──竹下さんの印象と役について?
西川 一般的なイメージでは昔はお嫁さんにしたい女優さんナンバー1でしたし、いいお母さんだったりしましが、知性感があって、品があって、誰にも好感が持たれるところがあると思うんです。しかし今回はガンガン前にいく女性、ある意味では嫌なところがあるキャラクターです。そういう意味では今までの竹下景子のイメージとは正反対ですけど、悪人ではない。衣装も普通の別役作品では時代がかっていて地味な印象ですが、今回はド派手。かなりギラギラなんです。そういう要素も含め別役芝居が打ち破れたらと思います。
竹下 今まだ自分のことはほとんどわかっていないんですけど、これから演出を受けつつ、自然発生的に何か違うものになってきているということはあるんですね。別役さんの戯曲はすごく具体的ですが物語を語っているわけではありません。やる側にしてみれば、いろんなことが試せるんです。そういう中で、いやがらせをやってやろうというわけではありませんが、いろんな表情、側面が出てくる中で、イライラする女性になっていのかなと思います。お客様が「わあ、イライラする」と思ってくだされば、私は内心しめしめという感じでしょうか。

〈公演情報〉
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ala collectionシリーズvol.11『移動』
作◇別役実
演出◇西川信廣
出演◇竹下景子 たかお鷹 嵐 圭史 本山可久子 山本道子 田村勝彦 横山祥二 鬼頭典子 星 智也
●10/15〜21◎可児市文化創造センター・小劇場
●11/7〜14◎吉祥寺シアター
●10/25◎宇都宮市文化会館
●10/27◎長岡リリックホール
●11/3◎四日市地域総合会館あさけプラザ
〈料金〉
可児公演/4,000円 18才以下2,000円(全席指定・税込)
東京公演/5,000円 学生2,500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉
可児公演/可児市文化創造センター 0574-60-3050
東京公演/石井光三オフィス 03-5428-8736
栃木・宇都宮公演/公益財団法人うつのみや文化創造財団 028-636-2121
新潟・長岡公演/公益財団法人長岡市芸術文化振興財団 0258-29-7715
三重・四日市公演/公益財団法人四日市市文化まちづくり財団 059-354-4501



【取材・文・撮影/今井浩一】




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