IMGL2601

瀬戸山美咲が初めて青年座に書き下ろす新作、『残り火』が、11月22日から下北沢 ザ・スズナリで上演される。(12月2日まで)
作品の内容は、煽り運転による交通事故の加害者と被害者、それぞれの家族を描き出すもので、演出は書き下ろし新作の立ち上げでは実績のある黒岩亮が手がける。出演者はベテラン山野史人や山本龍二を中心に、青年座の実力派俳優9人が顔を揃えている。

【ものがたり】
急成長中の居酒屋チェーンを経営する藤田健太郎は、今から12年前、煽り運転の末に交通事故を起こし、当時8歳だった少女、沢渡美希を死なせてしまった。
その後、健太郎が服役中の5年間は、古くからの友人である滝本学の援助により、家族はなんとか生きてきた。出所した健太郎は居酒屋をオープンさせ、妻、弁護士の長男、ハワイ留学を計画中の長女と豊かな生活を送るようになった。
しかし、ある男が健太郎の目の前に現れたことにより状況は一変する──。

この物語で交通事故の被害者家族の1人、沢渡大樹を演じるのが逢笠恵祐。劇団の財産演目『ブンナよ、木からおりてこい』で主役のブンナを2012年から2017年まで務め、注目を集めている期待の若手俳優だ。その逢笠恵祐に、今回の作品に取り組む思い、また自身の演劇歴などを話してもらった。(※逢笠さんの逢は一点しんにょうです。)

IMGL2616

被害者と加害者にある
法の下での不合理

──今回の台本を読んで、まずどんなことを感じましたか?
実際にあった出来事、それもまだ記憶に新しい事件に、かなり近い設定だけに、演じる僕らにもある覚悟がいると思いました。とにかく誠実に演じること、そしてリアリティをしっかり追求していきたいです。
──逢笠さんは被害者の兄、沢渡大樹を演じるのですが、彼は行動を起こしますね。
加害者のもとへ訪ねていきます。加害者の藤田健太郎は慰謝料を不払いのまま放置していて、大樹にしてみれば妹をその事故で亡くして、というより煽り運転で殺されたと言ってもいいのに、慰謝料の問題をはじめとして加害者には少しも誠実さがない。それが許せないわけです。それで乗り込んで行きます。
──藤田という加害者は、名前を変えて商売も成功させ、裕福に暮らしています。それなのに慰謝料は不払いで、相当たちの悪い人間ですね。
現実にはそういうことがけっこう多いようです。この公演のために交通事故の被害者遺族の本などを色々と読んだのですが、慰謝料や謝罪などの面で満足を得られていない遺族の方がとても多くて。もちろんどれだけ謝って貰っても、亡くなった人は二度と還らないのですが、それでも加害者側の誠意のなさに驚くことが多かったです。
──そういう事件に巻き込まれてしまう理不尽さ、それをどう解決していくかということが、この作品の中で描かれるわけですね。
まず大樹は、慰謝料を払わせ続けることが、亡くなった妹のためになると思って行動に出るわけです。その中で見えてくるのが、現在の法の下では加害者のほうが手厚く守られているという不合理さです。同時に加害者の家族にも焦点を当てると、犯罪者の家族になってしまったことで自殺している方もいる。そういう現実への問題提起もあると思います。

IMGL2649

世の中に一石を 
投じることができたら

──逢笠さんは福島の出身ですね。そういう意味では震災とその後の原発の問題については被害者でもあります。
僕は2005年くらいから東京に出て来ていたので、自分自身は被災していないのですが、実家は中通りですから被害を受けています。でも被害者という意味では、僕は実際に父親を交通事故で亡くしていて。
──そうなんですか! 何時頃ですか?
僕が2歳の時です。母親が僕と姉を女手ひとつで育ててくれました。ですからこの芝居でもやはり被害者家族への思い入れが強くなってしまって。亡くなった人への思いもとてもよくわかりますし、残された人たちのことを一番考えます。僕の場合は母親ですが、いつも母の気持ちを気遣いながら生きてきた気がします。結局つねに葛藤しているのは残された人たちであり、生きている人間なので。
──それはお母様を見てきた中での実感ですか?
そうですね。小さい時に事故の相手について一度だけ聞いたことがあるんです。そのとき「忘れた」と答えたので、ああ、言いたくないんだなと。そこから聞くのをやめました。思い出したくないんだと思います。
──逢笠さんにとっては、この作品はとても切実なのですね。
テーマがテーマなので、観てくださる方にも、楽しみにしていてくださいとか言いにくいのですが、でも世の中に一石を投じることができたらと思いながら、毎日稽古しています。

IMGL2593

自分は自分のブンナを
やるしかないと
  
──共演の方の顔ぶれは青年座の層の厚さを感じさせますが、加害者の藤田健太郎役がベテランの山本龍二さんで、対峙するシーンなど緊張しませんか?
山本さんは普段はとても優しい方ですし、役者としても人としても尊敬していますから、へんな気負いなど捨てて、思い切りぶつかっていってます。舞台を離れたら先輩ですが、舞台の上では対等に向き合わないと、山本さんにもお客さんにも失礼ですから。
──逢笠さんはあまり萎縮しないように見えますね。
初めての共演者などにはちょっと萎縮することもありますが、劇団の先輩は信頼している方々ですし、基本的に何をやってもいいよと受け入れてくださる方ばかりですから。でもわりと図太いほうかもしれませんね(笑)。
──『ブンナよ、木からおりてこい』で、主役のブンナを6年もやってきた自信は大きいでしょうね。劇団の財産演目というプレッシャーはいかがでした?
多少はありましたけど、腹を括らないといけないと。まだ自分は未熟でしたけれど、主役なのだから気持ちでは負けないように、と思いました。やはり劇団員から色々な批評がくるんです。財産演目だけにそれぞれ思い入れがありますから。でもそれに負けたくないと。自分は自分のブンナをやればいいのだと。一番大事なのは観てくださる方が楽しんでくれることですから。
──自分のブンナに自信を持ってやるしかない。
そうです。カエルのポーズなんて自信持ってやらないとできませんからね(笑)。でも人生でカエルをやるなんて、そうはないことですから面白かったです(笑)。今は久しぶりに人間になってます(笑)。

役者ってカッコいいなと
いう単純な憧れから

──青年座に入った動機ですが、小さい頃からお芝居が好きだったのですか?
青年座を受けたのは、同じ福島出身の西田敏行さんがいらっしゃった劇団ということからですが、小さい頃から舞台を観たり、映画も好きで色々観て、いつかはこういう仕事につけたらいいなと思っていたので。
──ということは例えば学芸会などで活躍したりとか。
いえ、引っ込み思案でした。先ほど自分で図太いと言いましたが、あまり欲がない人間なんです。だから逆に図太くいられるのかもしれません。別にセンターじゃなくてもいいし、単純に人と芝居をしているのが楽しいんです。
──舞台や映画を観ていたときも、あんなふうに演じてみたいなと?
演じたいとかではなくて、単純に役者ってカッコいいなという。中学生くらいの時、俳優の松田優作さんがすごく好きで、男らしいなとか立ち姿がかっこいいなとか、そういう憧れがあったし、役者というものの破天荒なところとか、どこか自由なところに、漠然とした憧れがあったんです。
──戦隊もののヒーローに憧れるのに近い感覚でしょうか?
そうかもしれません。「仮面ライダー」も「ウルトラマン」も大好きで、全部観てましたから(笑)。

IMGL2675
 
──青年座の研究所に入っていかがでした? 
厳しく怒られる毎日でした(笑)。でも入団してから、もっと厳しくされています(笑)。
──怒られ強いのですか?
いやシュンとなります(笑)。でもシュンとなったあと「負けるもんか」と。とにかく何もできないで入ったので、怒られながらここまできた感じです(笑)。
──入ってみて感じた青年座の良さは?
例えば外部の小劇場公演などで、山野(史人)さんクラスの年齢とかキャリアの方とご一緒できる機会ってほとんどなくて、やはり劇団だからだと思うんです。そういう方から直接芝居のことを指導していただけるし、一緒に芝居させてもらえる。入団1年目に山野さんの相手役に代役で入ったんですが、全然違うんです。その衝撃というのはすごかったです。それに和服とか所作とか、そういう技術をきちんと持っている先輩が沢山いらっしゃる。それは貴重だなと思います。
──層も厚いし研究所から毎年若手が入ってきます。その中でブンナに抜擢されたのは、自分では何故だと思いますか?
正直に言いますと、当時、「今なら自分じゃないかな」と思っていました。決して驕っているわけではなくて、年齢とか役柄とか、キャラクターとか、そういう面からいって、自分よりこの役に合う人間はいないんじゃないかと。芝居のうまいへたじゃなく。
──確かにブンナ役が似合うような大胆さとかアグレッシブな一面を感じます。長期の全国公演ということで、色々な経験も成長もあったでしょうね。 
本当に色々な経験をさせてもらいました。場所によって反応が全然違うんです。シャイな土地もあるし、盛り上がりやすい土地もある。客席の反応から貰うものは沢山ありました。すごく楽しかったです。
──先ほど「観ている人に楽しんでもらう」という言葉が出ましたけど、それはまさに体験の中から出てきたのですね。
やっぱり旅公演は体力的にしんどいんです。でも僕らにとっては沢山の公演の1つだとしても、観る人にとってはその1回しかなくて、前から準備して集まってくれたとか聞くと、「よしやるぞ!」ってなりますよね。そういう繰り返しで171回、なんとかやり遂げた気がします。
──171回ですか。逢笠さんの財産ですね。
観てくださる方がいないとそこまで続かないわけですから、本当に感謝しています。精神面も体力も鍛えられました。1年目は怪我と病気が恐くて、いつもマスクをして、お酒も飲まないで、ホテルに籠もっていました。1つ目のステージを終えて、残りのステージ数を考えたらぞっとしたのを覚えてます(笑)。
 
毎回これが最後くらいの
つもりで1本1本を

──今、11年目ですが、逢笠さんにとって役者であることとは?
まだ全然わからないですね。そんなに自信もないですし。20代前半の頃とか、自分は天才なんじゃないかとか、わりと思いがちじゃないですか。でも30歳を越えて、自分は凡人なんだなと、でも自分の良さはあるよなと、良い意味でラクになりました。だから毎回これが最後くらいのつもりで、1本1本をやっていこうと。向いているとかではなく、やらせてもらっているという気持ちです。そういう意味では向いてるかもしれないし、楽しいことばかりではないですけど、充実はしています。
──今回もまた1つ結果を出さないといけないですね。改めて抱負をいただけますか。
この作品のような事件はニュースでも取り上げられますけど、やはり表面だけしか伝えられていなくて、現実はもっと凄惨だし、被害者の方の痛みや悲しみは深いです。そこに迫っていけたらなと思いますし、観る方にこういう事件の奥にあるものを想像していただけたらと。そのためにも、出演者全員でがんばって良い作品にしたいです。

IMGL2558
あいがさけいすけ○福島県出身、2008年入団。主な舞台作品は、『旅とあいつとお姫さま』(2008〜9年/座・高円寺プロデュース)、『横濱短篇ホテル』(2013 年/青年座)、『もし、終電に乗り遅れたら』(2013〜18 年/俳優座劇場プロデュース)、『俺の酒が呑めない』(2016 年/青年座)、『断罪』(2017 年/青年座)、『ブンナよ、木からおりてこい』(2012〜17 年/青年座)など。
 

〈公演情報〉
最終チラシ画像
 
劇団青年座第234回公演
『残り火』
作◇瀬戸山美咲
演出◇黒岩亮
出演◇山野史人 平尾仁 山本龍二 逢笠恵祐 須田祐介
麻生侑里 松熊つる松 安藤瞳 市橋恵
(※逢笠の逢は一点しんにょう)
●11/22〜12/2◎下北沢 ザ・スズナリ
〈料金〉4,500円 初日割引3,000円(全席指定・税込)
U25  3,000 円 [青年座のみ取扱い・当日精算のみ・学生証提示]
〈お問い合わせ〉劇団青年座 0120-291-481〈チケット専用 11:00〜18:00 土日祝日除く〉
〈青年座 HP〉http://seinenza.com



【取材・文/榊原和子 撮影/友澤綾乃】




極上文學『こゝろ』


kick shop nikkan engeki