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ある日ふと「死のう」と思い立った主人公が、「命売ります」という広告を出す。すると訳ありげな怪しい男女がつぎつぎに現れて……。
死と生の狭間に揺れる人間を、切実に、そしてユーモラスに描いた三島由紀夫の極上エンターテイメント小説『命売ります』が、脚本家・演出家・俳優として活躍中のノゾエ征爾の脚本・演出で舞台化され、11月24日からサンシャイン劇場で開幕する。(12月9日まで。のち大阪公演あり)
 
三島由紀夫が、1968 年に「週刊プレイボーイ」に連載した原作は、執筆当時の時代の香りを漂わせつつも、古さは全く感じさせず、スリリングで寓意性に満ちた中に人間の生と死というテーマが描かれている。1998 年には文庫版として刊行され、累計発行部数 29 万部を越えるベストセラーとなり、しかもそのうちの 25 万部は 2015 年 7 月以降の重版と、近年、改めて注目を浴びている。
この三島由紀夫らしい多面的で複雑な人間が躍動する物語を、ノゾエ征爾は、1960 年代末という発表当時の雰囲気も残しつつ、ユーモアある切り口で軽やかに2018年の作品として上演する。主演の羽仁男を演じるのは、 グランドミュージカルに出演し大きな注目を集めている若手俳優の東啓介。この作品がストレートプレイ初挑戦となるという。そんな東啓介と、脚本・演出のノゾエ征爾に、今回の舞台への取り組みを語ってもらった。

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東啓介 ノゾエ征爾

当時の三島の思いが
エンタメという形で散りばめられて

──三島由紀夫の原作をお二人とも読まれたそうですが、その時の印象は?
 僕は最初、三島さんの小説と聞いて難しい作品かなと思っていたのですが、週刊誌に連載していたということで、読みやすくてテンポもよくて、あっという間に読んでしまいました。内容はダークでもありポップでもあって、そこが面白いし、色々考えさせられました。
ノゾエ 三島さんの作品は、それまでも何作か手にとったことはあるのですが、どれも途中までしか読めなかったんです。僕はけっこう色々なものを読んでは脱線して読み終われないことが多くて、それは読みながら他のことを想像していってしまうところがあるからで、逆にそれだけ誘発されるような言葉が多いからかもしれませんが、結果的に読破したことがなかったんです。それで今回、『命売ります』というお話をいただいて、最初は「まずいぞ!読んでないぞ!!」(笑)という気持ちがあったのですが、読んでみたらさすがに週刊誌で連載していただけに、つなぎ止めて読ませるし、ひんぱんに楽しみがあるので、気がついたら読み終えていて、自分でもびっくりしました。
──書かれたのが1968年で、2年後の1970年に自刃していますから、かなり死への傾斜を深めている時代かなと。作家同士としてその辺りを作中に感じますか?
ノゾエ ご本人が思われていたことが、エンタメという形ですごく散りばめられているような、そういうアナーキーなものを感じます。怖い力強さというようなものを感じますね。
──この小説は文庫化された2015年からまた人気再燃したわけですが、それは現代社会のカオス状態と通じるものがあるからだと言われています。若い世代の東さんにとってはいかがですか?
 そうですね。僕はYou Tubeで三島さんの東大での討論などを見て、時代は違うのですが、三島さんが言いたいことはわかる気がしました。たぶん当時の社会への絶望や、自分の考えをわかってくれる人たちがいないとか、そういう思いがこの『命売ります』には、色々な言葉で語られているなと。例えば渋谷のハロウィン騒ぎなどのような、今の日本を見透すような言葉も出てきたり。
ノゾエ 羽仁男の終盤の長台詞なんかまさにそれだよね。
 しかもそれを三島さんは、あっけらかんと普通に笑いながら話しているんです。そこに狂気みたいなものを感じたし、そこが羽仁男と一緒だなと思いました。
──当時の変貌する日本への彼の絶望が、そのまま今の日本に風刺として刺さりますね。原作の台本化で苦労した点などは?
ノゾエ あまりなかったです。信念の通った流れは出来ているので、僕が少々設定をいじったり脚色をしたところで、作品の本質が壊れたり、消えることはない。そこは信頼がありました。本と遊びやすいという感覚で楽しかったです。

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──羽仁男という役は東さんにとっては近いですか?
 僕1人というより、若者たちの色々なところが羽仁男にはギュッと詰まっているなと。たぶん僕1人では羽仁男は背負いきれないです(笑)。でも要所要所では、とてもよくわかるなと。
──ノゾエさんから見て、東さんと羽仁男や三島の世界がシンクロする部分は?
ノゾエ 東さんは良い意味で惑っていたり、例えば針をバーンと出していったときに、その針をどこに向けるべきなのか、どこに向ければいいのか、そこがまだ定まっていない感じがあります。でも内包されているシャープなもの、鋭利なもの、そういういうものがすでにあるので、それを作り出す必要はない。そこはとても合っているなと。
 普段からナイフは持っている感じは、自分でもしています(笑)。
ノゾエ 表面は爽やかだったり、健やかな印象があるからこそ、彼の内側にある狂気が、とても魅力的に感じられるんです。だから今、東くんには、「もっとニュートラルでいいよ」と言っていて、そこは無理に出さなくても自然に出ているからと。
 そこがなかなか難しいんですが(笑)。ニュートラルにしようと思うと、雑に見えてしまったりするので。
ノゾエ 素とはまた違うからね。
 そうなんです。受け取ったものに対してどう返すか、羽仁男の気持ちの見え方が大事だと。こういう役は今まで経験になかったので難しいのですが、でも楽しいです。それに周りの皆さんのキャラクターがとても色濃くて、羽仁男はそこにずんと立っていれば、物事は転がっていくんですが、でも爆発的なシーンもあるので、そこへ行くためのレールを徐々に整えている感じです。

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「よくわかんない」
ということを落とし込んだ

──タイトルでもあり、羽仁男の根底にある「命売ります」という部分は、ノゾエさんはどう落とし込んでいますか?
ノゾエ 僕は、「よくわかんない」ということを落とし込んだというか、羽仁男もたぶんはっきりしていないんです。その都度その都度、明確なものは口にしたりはするのですが、でも惑っているからこそ口にして確認しているわけで、そしてまた惑っていく。言っていることもよくよく読んでいくと、ブレていたりするんです。僕らが自分のことを理解できないように、羽仁男も自分のことをわかっているわけではない。その「わからないという部分」を皆と一緒に捉えていきたいなと。
 僕もそう思います。
ノゾエ たぶん「この人はこうなんだよ」とやってしまうと安くなる気がするんです。そんな簡単なものではないと思っていて、だから東くんにも時々、「わからないよね」という話をしているんですが(笑)。その「わかんねえよ」というところを大事にしたいし、三島自身も書きながら、「わかんねーよ」と闘っていたんじゃないかと。東くんも役と向き合う中で、「ここまで捉えていたつもりなのに、次の瞬間なんでこうなるの?」みたいに、繋がらないことって沢山あると思うんです。その葛藤をそのまま投影していってもらえばいいので。それさえ出来ていれば、東くんのそもそも持っているものと融合するので大丈夫じゃないかと。その自信はあるので。
──東さんは羽仁男のように「死のう」と思ったことは?
 あります。一度だけ。小学校から高校までテニスをやっていたのですが、怪我をして「君はもうテニスは一生できないよ」とお医者さんから言われたんです。それまでテニスしかしてこなかったので、急にそれが出来なくなったことで、何もなくなってしまって。他にやりたいことも夢もなくて、1日1日が長く感じたし、勉強も何もかも無意味に思えて、すごく虚無感に襲われたんです。その時ですね。
──そこから何に出会って立ち直れたのですが?
 この世界です。芝居と出会ったので。
ノゾエ 演劇、すごいね(笑)。 
──ノゾエさんはそういう感覚は?
ノゾエ 人並みに「ああ、死にたいなあ」みたいな思いがよぎることもありますけど、それが羽仁男が言ってるように、「死というものがすっぽり嵌まった」というところまではいかないですね。誰もがよぎるんだろうなという、僕の想像の中での皆さんと同じくらいの、その程度の感覚です。

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人生が、生きていることが、
肯定される感覚を届けたい

──この作品は劇中に音楽も出てくるそうですね。
ノゾエ 羽仁男の言葉にオリジナルの曲を付けたもので、羽仁男の気持ちを歌っています。そばにいる人が歌うことが多いので、羽仁男自身はあまり歌わないのですが。
 全員で歌うところがあるので、そこではちょっと歌ってます(笑)。
──周りのキャストも個性的な方々で楽しみですね。
 すごく刺激を受けています。皆さんすごくて、ちょっとしたハプニングでもそれを受けて場面を進めていったりするんです。笑ってはいけないのに、面白いからつい笑ってしまって(笑)。羽仁男としては、それだけは我慢しなくてはと思っているのですが。
──そういう何気ない笑いはノゾエ演出ならではのユーモアですね。
 そうなんです。ノゾエさんが「この言葉をちょっと言ってみてください」とポロッと付ける言葉が、その人が言うと確かに面白いんです。すごいです。 

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──公演がますます楽しみになってきました。改めてお客様へのアピールを。
ノゾエ どんな作品でもそうなんですが、これが言いたいとかこの言葉が届いてほしいというより、舞台上でその物語を体現している人がいます、役者がいます。その生身の人間から出てくる生き様だとか息遣いだとか、描かれている物語だとか、そういうところから、最終的に人生が肯定される感覚、生きていることが肯定される感覚、そういったものが届いていればいいなと。終演して劇場から出ていくとき、どこか心の温度が上がってくれていたらなと、思っています。
 僕と同じ世代の人は、なかなかこういう文学作品に触れることがないのですが、でも現代に起きていることと遠くないし、それについて考える機会になればと思っています。観たあとに、「これはなんだったのだろう?」とか、少しでも考えてもらうことがこの作品をやる意味かなと思っているので、ぜひ観て考えていただければ。
ノゾエ 劇中ではけっこうくだらないことも起きますし(笑)、三島さんが小説の中でこういったテーマを如何にエンタメにするか闘ったように、僕らもその原作を如何に舞台というエンタメとして生かせるか、その闘いをしていて、わりと悪くないものが生まれているんじゃないかと思っています。ともかく観ていただきたいです。

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東啓介 ノゾエ征爾

のぞえせいじ○脚本家、演出家、俳優。劇団はえぎわ主宰。青山学院大学在学中の 1999 年に「はえぎわ」を始動。以降、全作品の作・演出を手掛ける。2012 年はえぎわ公演『○○トアル風景』にて、第 56 回岸田國士戯曲賞受賞。劇団外の活動も多く、2016年にはさいたまスーパーアリーナで高齢者1600人出演の『1万人のゴールドシアター』の脚本、演出を手掛けた。近年の主な公演に、音楽劇『気づかいルーシー』(17年/脚本・演出・出演)、オールナイトニッポン50周年記念舞台『太陽のかわりに音楽を。』(17年/演出)、松尾スズキ演出『ニンゲン御破算』(18年/出演)、世界ゴールド祭2018ゴールド・アーツ・クラブ第1回公演『病は気から』(18年/脚本・演出)など。劇団20周年記念公演『桜のその菌』を来年1月31日〜2月6日、ザ・スズナリにて行う。
 
ひがしけいすけ○東京都出身。舞台『刀剣乱舞』(末満健一演出)など人気舞台で活躍し、昨年からミュージカル『スカーレット・ピンパーネル』『マタ・ハリ』『5DAYS 辺境のロミオとジュリエット』(石丸さち子演出)『マリーゴールド』(末満健一演出)などミュージカル作品で活躍中。

〈公演情報〉
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2018 PARCO PRODUCE“三島×MISHIMA”  
『命売ります』
原作◇三島由紀夫(「命売ります」ちくま文庫)
脚本・演出◇ノゾエ征爾
出演◇東啓介 上村海成 馬渕英里何 莉奈 樹里咲穂 家納ジュンコ 市川しんぺー 平田敦子 川上友里 町田水城 ノゾエ征爾 不破万作 温水洋一
●11/24〜12/9◎サンシャイン劇場
〈料金〉S席 8,500円  A席 7,000円  U-25 チケット 5,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉パルコステージ  03-3477-5858(月〜土 11:00〜19:00/日・祝 11:00〜15:00)
●12/22◎森ノ宮ピロティホール
〈お問い合わせ〉キョードーインフォメーション  0570-200-888 (10:00〜18:00)




【取材・文/榊原和子 撮影/友澤綾乃】



『帰郷』


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