04
大西弘記  永田涼香  小林大輔

劇作家・演出家の大西弘記と、俳優の永田涼香、小林大輔の劇団員3人と、作品毎に出演者を集めるプロデュース形式で毎年、数本の作品をコンスタントに発表し続ける劇団TOKYOハンバーグ。
平成最後の年末に上演するのは、劇団の代表作の一つ、都内にある夜間中学校を舞台にした作品『へたくそな字たち』。描かれるのは、昭和63年から平成元年に変わる一年間。世の中が浮かれていたあの時代に、確かに在ったあの場所、人たち。
4年ぶりの再々演に際し、気づいたこと、今現在、格闘していることなどを、初日を10日後に控えた稽古場で、劇団員の3人に聞いた。

学校の本質とは?

——今回、この作品は再々演ということですが、夜間中学校を舞台にすることになったきっかけを教えて下さい。
大西 この本を最初に書いた5、6年前は、やたらとメディアが学校でのいじめや自殺、隠蔽とかを取り上げていて。それを見ていて、「学校って何だろう?」って。学校って勉強するところ、教師は教える人、生徒は学ぶ人なんですけど。それは当たり前として、学校というコミュニティの本質って何なんだろうなと思ったのが始まりです。学校にも専門学校、養護学校などいろいろあって、調べていく中で、夜間中学校のことを知りました。それがすごく興味深くて。文部省は識字率100%と言ってますけど、そうではない、義務教育を受けることができなかった方々がいるという事実があって。なぜ義務教育を受けることができなかったのか。その背景が昭和63年の当時は、色濃く残っていたので、書きたいと思いました。
——なぜその背景、時代に惹かれたのですか?
大西 当時は今よりもっと、ちゃんと人と膝をつき合わせてつき合う機会があったと思うんです。子供同士でも、親同士でも、子供と大人でも。なんかそういう人と人とが向き合う、向かい合えるのが、いいなーっていうぼくのノスタルジックな思いがあります。

身体一貫で生きていく

——そのような作品の中、劇団員のお2人はどのような役を演じられるのですか?
小林 ぼくは北野泰久という鳶職を職業にしている男で、婚約者がいて、これから結婚して子供も授かるんです。彼は生まれたときから施設育ちで、両親も分からなくて。12才で施設を飛び出して、いろいろな困難にぶつかっていく中で鳶職っていう、仕事というか自分の生きがいをみつけて。とにかく自分の身体一貫で生きていく人生を送っていて、一人の女性と出会って、家族を知らない男が家族っていうものを作っていくという人生を、生きている男です。
——台本を読ませていただいたのですが、一番、プライベートな部分が描かれていて、情報量も多い役ですね。
小林 ぼくは、両親も、兄弟も、祖父もいる大家族で育ったので、そういう泰久の生い立ちを、自分の想像の中でしか作れないんですけど…。彼がいろいろ変わって行ったのはなぜなんだろうと考えると、やっぱり学校で出会う人たち。それぞれの人生を生きている人が年齢も関係なく、同等に付き合う、ちゃんと向き合って行く関係の中で、泰久も人間として豊かになって行ったのかなと思うのでそこを大切に演じていきたいです。

温かい気持ちになれる場所

永田 私の役は田川君子という役で、年齢は15才よりちょっと上くらい。鯖の缶詰工場で働きながら夜間中学校に通ってます。
——一番、情報量が少ない役ですね。
永田 作品の中では全然、過去や背景は描かれていないので、その描かれていないところを見えるところだけで想像してもらうのが難しいなって、すごく感じていて。今、そこを考えています。
——セリフはあまり多くないですが、印象的な場面が多かったような気がします。
永田 脳性麻痺の役なので…。うーーーん。何でしょうね。この役をいただいて、そういう施設に見学に行って、脳性麻痺の方々と、直接、お話しする機会をいただいたんですけど…。彼らは、言葉がうまく話せないけど、聞いて欲しい、伝えたいという気持ちをすごく感じました。その人と繋がりたいという強い気持ちが、この作品とも繋がってるなと。教室の雰囲気も、脳性麻痺の子がいるといないとではまったく違うと思うんです。周りのクラスメイトの反応とか関わり方とか、そういうのをすごく見て欲しいなと思います。
——確かに。教室の雰囲気は変わりそうですね。
永田 クラスメイトのみんなも同じ位置にいるわけではないんですよね。でも、いいんだよっていう。分からないことは分からないでいいし、みんなを受け入れる姿勢というか、環境がこの作品にはすごくあって。それが見学に行った場所にもあったので、温かい気持ちになりました。
——どうしてこの役を書かれたのですか?
大西 障害を背負ってるか否かというは、地球上で生きていく生き物としては何も変わらないと思うんです。学ぶ権利、そこにいる権利、誰かと接する権利は平等にあって。それが人権だと。彼女の存在を本質的に見せていくことがこの作品のカギなのかなとは思っています。
——今作の見所の一つかもしれませんね。
永田 教室に通う生徒たち一人一人も、同じような存在で。それがギュッと教室に集まってるんです。だからすごい濃いと思います。

もっともっと人に寄り添う作品を

——再演、再々演とで、台本で変わった部分などはありますか?
大西 セリフはちょこちょこ変えてますが、シーンは全部同じです。4年前の再演の時、誰かに、「人に寄り添う作品だね」と言われて。確かに人のことは好きだと思いながら書いたなぁと改めて気がついて。だから今回、改稿するにあたって、もっともっと人に寄り添おうと考えました。
——教室の生徒間の他愛ない会話にも、行間をすごく感じました。
大西 事情や心情を書いてしまうのは簡単なんですよね。でもそれは書かないで、俳優と現場で探していくというか。ストーリーとしては分かりやすい本ですが、その下には、いろんなことがあって。そこを発見するようなキーワードみたいなものはいろいろあるので、そこはスルーしないで通って欲しいなとは思っています。
——生徒のみなさんの職業がバラエティに富んでて、興味深かったです。
大西 職業はね、2013年に初演で書いたんですけど、2012年に一年かけてぼくが全部バイトしたんです。
——え!?
大西 廃品回収も、ビルの壁のクリーニングも。缶詰工場はずーっと前にやったことがあってそれは半日でバックレたんですけど(笑)。この作品を書くために、ほとんどの仕事、全部ぼくが経験しました。さっき(小林)大輔も言ってたけど、本当に身体で生きていかなきゃいけないっていう職業の中からチョイスしていったんです。
——読んでいて妙な落ち着きを感じたのですが、そこのリアリティも要因の一つかもしれないですね。
大西 ぼく才能が無いから行くしかないんです。経験で書けるんであれば、自分で獲得しに行っています。

限りないことができそうな予感

——最後にこの作品のアピールをお願いします。
大西 今回、ぼくが生きてる女優の中で一番好きな女優の西山水木さんに主役を演じていただくのが、すごくありがたくて。2回目、3回目となる内谷正文さん、丸尾聡さん、小林英樹さんも本当にハンバーグのいいところを支えてくれています。ほか初めて出て下さる八木橋里紗さん、みょんふぁさん、江刺家伸雄君、篠原あさみさん、脇田康弘さん、早瀬マミさん、葵乃まみちゃんも、みなさんのプロとして携わってくれる姿に背筋が伸びます。プロデュースのスタイルは本当に大変なんですけど、今回のこのメンバーでしかやれないことがあって。限りないことができそうな予感がしています。TOKYOハンバーグは12年目ですが、こんなに素晴らしいみなさんと一緒に作品を作れる環境が嬉しいですし、嬉しいからこそ何を見せることができるか。真摯に作っていますので、ぜひ観に来て下さい。


01
【プロフィール】
大西弘記(左)
おおにしひろき○三重県伊勢市出身。2006年、自らの作品を上演するために、TOKYOハンバーグを立ち上げる。近年、外部公演への脚本提供・演出なども手がけている。

永田涼香(中)
ながたりょうか○1994年大阪府出身。中学時代に演劇部、高校では女子サッカー部。高校卒業後、桐朋学園芸術短期大学に入学。卒業後はフリーの役者として活動後、2016年、TOKYOハンバーグに入団。

小林大輔(右)
こばやしだいすけ○1980年長野県出身。大駱駝艦白馬村野外公演、龍昇企画+温泉ドラゴン合同企画、ハイリンドなど多くの舞台に出演後、2017年、TOKYOハンバーグに入団。趣味はヨガ。

【公演情報】
hetakuso

TOKYOハンバーグ『へたくそな字たち』
12/5〜12◎座・高円寺1
作・演出◇大西弘記
出演◇西山水木 永田涼香 小林大輔 内谷正文 みょんふぁ(洪明花) 小林英樹 早瀬マミ 脇田康弘 八木橋里紗 葵乃まみ 江刺家伸雄 篠原あさみ 丸尾聡 照屋実

※出演者降板のお知らせ
出演を予定しておりました斎藤洋介は、体調不良により、やむなく降板することとなりました。代役は、照屋実がつとめます。


【取材・文・撮影◇矢崎亜希子】


『新春浅草歌舞伎』


kick shop nikkan engeki