杉原中村


ギリシャ悲劇の傑作『オイディプス王』は、父を殺し、自らの産みの母と夫婦となった若き王が、破滅への道を転がり落ちるまでを描いた物語。
この作品を若手演出家・杉原邦生が新たな切り口で上演する舞台『オイディプス REXXX(レックス)』が、12月12日から24日までKAAT神奈川芸術劇場で上演される。
タイトルロールのオイディプスを演じるのは中村橋之助。八代目中村芝翫を父に持ち、2016年に親子同時襲名で話題を呼んだ注目の若手歌舞伎俳優で、歌舞伎作品以外の舞台は今回が初めてとなる。
オイディプスの母であり妻のイオカステには南 果歩、叔父のクレオンには宮崎吐夢と実力派が集結した公演となる。
この挑戦的な舞台について、杉原邦生と中村橋之助が楽しく語り合った「えんぶ12月号」のインタビューをご紹介する。

杉原中村2
杉原邦生   中村橋之助

若さゆえの未熟さや
浅はかさの結果

──杉原さんは、以前からギリシャ悲劇に興味があったそうですね。
杉原 大学の授業で蜷川幸雄さんの『王女メディア』の映像を観たんです。それまで演劇はあまり観てなかったので、ギリシャ悲劇という言葉のイメージとまったく違うものを観て、演出次第でこんなに届くものになるんだと衝撃を受けました。
橋之助 僕は作品については知っていたのですが、ベテランの俳優さんが演じる芝居だと思っていたので、最初は父への出演依頼かと。
杉原 ははは(笑)。
橋之助 僕にきた話だと知って、すごく嬉しかったです。
──オイディプスを若い俳優でという意図は?
杉原 近親相姦劇ですから、できれば母子のように年の離れた男女のほうが、現代の観客にもリアルに伝わるんじゃないかと。それにオイディプスが権力の絶頂から落ちていくのは、若さゆえの未熟さとか浅はかさの結果でもあって、自分が取った行動が回り回って返ってくる。そういう結果を招いたのは若さゆえで、そのリアリティは若い俳優がやったほうが届きやすいなと思ったんです。
橋之助 すごくわかりやすいです。
杉原 それから、これは1つの国の繁栄と崩壊の話でもあって、王の周りにはつねにコロス、つまり民衆がいて、王の立場の変化とともにコロスの態度も変わるんです。王を歓迎していたはずなのに、落ちていくと一気に引いていく。その変わり身の早さは今の世の中と一緒で、それに翻弄される若い王というイメージはとても現代的だと思ったんです。
──歌舞伎でも、例えば『三人吉三』や『切られの与三』なども、暴走する若者と取り巻く民衆という構図が出てきますね。
橋之助 ただ歌舞伎では、出てくる人間は政治とかお上に翻弄されますが、神とか神託とかそういうものは出てこないんです。 
杉原 親の輪廻とか因果応報はあるけどね。
──とすると今回の上演で、神とか運命はどういう位置づけになりますか?
杉原 日本人の中には絶対的な信仰というものがあまりないですし、そもそも神という存在は人間がつくりだしたものだと僕は思ってるんです。人の力だけでは解決できないこと、例えば死の恐怖とか、そういうものとひとつ結着をつけるためにつくりだしたものだと。だからその存在に翻弄されていくとか、支配されていくという視点は、あまり重要だとは思ってないんです。今回の作品でも、神の意思や運命によって何かが動いてしまうのではなく,はじまりは現実に生きている人間が起こしたことであり、その連鎖によって色々なことが起きていく。そういう視点で演出したいと思ってます。
橋之助 すごくわかります。オイディプスは人を殺したわけで、それは誰のせいでもない自分がやったことだと。それではギリシャ悲劇にならないかもしれませんが、僕の世代などがこの物語を読むと、そういう読み方をするのではないでしょうか。 
杉原 古典を読むとき、これを信じなきゃ、こういうふうに読まなきゃと決めつけるのではなく、「これおかしくない?」とか「わけわかんない」と思ったその感覚から入っていくのが、一番大事だと思っているんです。

名前が一緒だから
シンパシーを感じていた

──杉原さんと歌舞伎の出会いは、木ノ下歌舞伎からですか?
杉原 僕は小学校3〜4年のとき、地元に巡業で来た先代の猿之助(現・猿翁)さんの『獨道中五十三驛』を、最前列で観ちゃったんです(笑)。早替わりとかあって単純に楽しくて、他にも観てみたいと思ったんでしょうね。そのときのパンフレットに猿之助さんの狐忠信が宙乗りしている広告が載っていて。母親に「(歌舞伎座で)これ観たい」と言っていたんですが、お身体を悪くされて、結局観れずじまいでした。
──橋之助さんは、杉原さんが演出した『勧進帳』は?
橋之助 観ました。一昨年の7月にまつもと市民芸術館で、僕らが出ている『四谷怪談』を大きいホールで、『勧進帳』を小ホールで上演していて、(中村)鶴松と一緒に観て、そのあと2人で飲みながら「ヤバイよね!」って。
杉原 (笑)歌舞伎の方々が観にくると聞いていたので、「怒られるかな」とか、ちょっとドキドキしながら劇場にいました。橋之助くんの姿も見えて、前から名前が国生(くにお)で一緒だなとシンパシーを感じていたので(笑)、「あ、観にきてくれたんだ」と。そのあと人伝てに「面白かったと言っていたよ」と聞いて、すごく嬉しかった。
橋之助 最初にお会いしたときも話したのですが、僕はずっと弁慶をやりたいと思っていて、だからずっと義経側を観ていたんですけど、最後、彼らが立ち去ったあと富樫だけ残って、そこにラジオから義経たちが追われているというニュースが聞こえてきて。そのシーンで、ああ富樫もやっぱり人間なんだなと、ここまで表現できちゃうんだ、凄いなと。
──そういう感性の橋之助さんだから、杉原さんもオイディプスをさせたいと?
杉原 襲名を経て顔つきが変わったと思うんです。覚悟を持って舞台に立ってるんだなと。それが伝わるんです。
橋之助 家の名前になったという意識はすごくありますね。祖父(七代目中村芝翫)が亡くなる1週間前、僕と(中村)児太郎の兄が呼ばれて、これからこうして生きていきなさいというような話をしてくれて。だから成駒屋という家に生まれたからには、その名前を背負って公に出る、そこは意識しています。
──その重みとともに、新しい風を吹き込む役割もありますね。お父様の芝翫さんは今回の出演については?
橋之助 すごく喜んでいて、「勉強になるからやりなさい」と。今まで言われたことはなかったんですが。僕はもともと歌舞伎以外のお芝居にも興味があって、色々な舞台を観ていたので、すごく嬉しいし、歌舞伎への風という意味では、僕を通して少しでも歌舞伎に興味をもってもらえればと思っています。

橋之助くんに
壊れてもらいます!

──作品の話に戻りますが、今回も音楽は現代風ですか?
杉原 そうなります。翻訳の河合祥一郎さんが、「コロスは歌うことがアイデンティティだ」と。コロスの歌は演出家がそのギリシャ悲劇を、どう読み解き表現するのかを提示するキーポイントになるんです。僕はこれまで歌舞伎にラップなどの現代音楽を取り入れてきましたけど、今回で封印するくらいの気持ちで、ラップの集大成にしようと(笑)。河合さんにご相談して、歌詞はひとまず僕に預けてもらっています。対するメインの3人の台詞は河合さんの訳で、シンプルにスピーディに物語を進めようと。ただ、橋之助くんに合わせて一人称を「私」から「俺」にしたり、いくつか変えてもらっています。今回、良い意味で橋之助くんに壊れてもらおうと思っているので(笑)。
橋之助 壊されましょう!(笑)
──壊れた橋之助さんは見どころですね。
橋之助 壊れた僕を(笑)ぜひ沢山の方に、その目で確かめていただきたいですね(笑)。
杉原 客席形状も初めての挑戦で楽しみなんです。、ボクシングリングのような正方形の舞台を、それを360度から見下ろす形にしました。僕にとっても初めてが多い公演ですが、今の橋之助くん、今の僕らにしかできない「オイディプス王」をしっかりつくり上げたいと思っています。

杉原中村2
杉原邦生 中村橋之助
 
すぎはらくにお○神奈川県出身。演出家、舞台美術家。KUNIO主宰。04年に自身が様々な作品を演出する場としてプロデュース公演カンパニー「KUNIO」を立ち上げる。代表作に『ハムレット』『更地』『エンジェルス・イン・アメリカ』など。歌舞伎演目上演の新たなカタチを模索するカンパニー「木ノ下歌舞伎」には06−17年まで参加、『黒塚』『東海道四谷怪談-通し上演-』『勧進帳』などを演出。近年では、歌舞伎座『東海道中膝栗毛』で構成を手がけるなど多彩な活動を展開し、演劇界から注目を集め続けている。

なかむらはしのすけ○東京都出身。八代目中村芝翫の長男、祖父は七代目中村芝翫。平成12年(2000)九月歌舞伎座『京鹿子娘道成寺』所化、『菊晴勢若駒』春駒の童で初代中村国生を名乗り初舞台。近年は、平成27年(2015)三月国立劇場『梅雨小袖昔八丈』下剃勝奴、四・五月平成中村座『極付幡随長兵衛』極楽十三、『勧進帳』亀井六郎、八月歌舞伎座『逆櫓』日吉丸又六などを演じる。コクーン歌舞伎や平成中村座などにも出演。2019年1月「新春浅草歌舞伎」の出演が控えている。


〈公演情報〉
オイディプスREXXX画像

KAAT 神奈川芸術劇場プロデュース
『オイディプス REXXX』(オイディプスレックス)
作◇ソポクレス 
翻訳◇河合祥一郎 (光文社古典新訳文庫「オイディプス王」) 
演出◇杉原邦生 
出演◇中村橋之助 南 果歩 宮崎吐夢 ほか
●12/12〜24◎KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ 
〈料金〉6,500円(全席指定・税込) 
U24チケット 3,250円 高校生以下割引 1,000円 シルバー割引 6,000円
※割引チケットなどは要問合せ
〈お問い合わせ〉チケットかながわ 0570-015-415 (10:00〜18:00) 




【取材・文/宮田華子 撮影/友澤綾乃】


『Like A Room 002』


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