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劇団新派の初春花形公演『日本橋』が、1月2日より25日まで日本橋・三越劇場で上演される。
 
泉鏡花の『日本橋』は、新派を代表する名作の1つ。
医学士・葛木晋三と日本橋の二人の名妓、稲葉家お孝と瀧の家清葉の恋と、それを取り巻く登場人物たちの織りなす人間模様が、古き良き日本橋界隈の情緒とともに、泉鏡花の美しい台詞で綴られている。大正4年に鏡花自らの手で戯曲化され初演されて以来、劇団新派のレパートリーとして名だたる名優たちにより上演が重ねられてきた。
今回は葛木晋三役に喜多村緑郎、お孝役に河合雪之丞という劇団新派の人気コンビに加えて、清葉役は三度目という高橋惠子が参加。また勝野洋も初役の笠原巡査で客演する。さらに女方の出世役と言われるお千世に河合宥希、お孝に執着する五十嵐伝吾に田口守と新派劇団員の活躍も期待される舞台だ。
その取材会が11月に行われ、演出の齋藤雅文、出演者の喜多村緑郎、河合雪之丞、河合宥季、田口守、勝野洋、高橋惠子が登壇した。

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河合宥季、田口守、河合雪之丞、喜多村緑郎、高橋惠子、勝野洋、齋藤雅文

【挨拶と質疑応答】

齋藤 新派文芸部の齋藤雅文でございます。『日本橋』は、泉鏡花畢生の大作で、劇団新派にとっても大切な作品であると同時に、日本の近代演劇にとって、こんなに美しい台詞でロマンティックな、しかも商業演劇として成立するものというのは無いのではないかと思っています。歌舞伎以外でこういう伝統的な、100年近く前の作品を商業演劇として上演できるのはとても幸せだと思いますし、続けていかなければいけないと思っています。ともかく美しい物語で、あんなに美しい台詞の日本の現代戯曲を僕は知りません。さらに磨き上げて美しい物語にしたいと思っています。物語そのものも、時代か世話かといったら世話な物語ですが、内容は非常にロマンティックで、どちらかというと神話的な感じさえする、抽象的な、寓話的な物語なので、いつの時代にも、これから何年先にも通用する大変深い作品で関われることを喜びに思っております。今回は、三越劇場という、日本文化の粋を集めたような、西洋演劇を導入してからの中では宝物のような美しい劇場なので、それを有効に使いたいと思っています。ウエストエンドなどと同じように、台詞劇としては一番良い空間で、この作品には非常に合っていると思います。題名のように橋の話なので、橋を作るかとスタッフで話していて(笑)、三越劇場というのは元々西洋演劇の様式をとっているので、花道がありませんで、真ん中に橋を作っちゃおうと。客席を多用して、舞台の真ん中でお孝が物狂いをすることもあるでしょうし、葛木や清葉もそこで笛を吹いたり出会ったりすることになるのではないかと思っています。美しい物語を作りたいです。
 
緑郎 前回は2011年の1月ですので、8年ぶりの『日本橋』の出演です。当時はまだ歌舞伎の俳優でしたので、新派俳優になりまして初めての『日本橋』となります。そして、(河合)雪之丞もそうですが、私も襲名で『婦系図』の早瀬主税をやらせて頂きまして、以来2年、一度も新派の古典というものに出ていません。そしてまた2018年は、新派創設130周年ではございましたが、1月の山田洋次監督の『家族はつらいよ』に始まって、11月の新派130周年の締めが『犬神家の一族』で、一度も古典ができませんでした(笑)。ですが、新派131年目からのスタートは、先ほど齋藤さんが仰っていましたが、これぞ「The 新派」と僕の中では思っている『日本橋』を上演できますことは、本当に嬉しく思いますし、喜多村緑郎として初めて葛木晋三にまた挑ませて頂けるということは、原点に立ち返ってもう一度新派というものを、喜多村緑郎という名前を継いだ自分に対して、もう一度ゼロから見つめ直そうという気持ちでしっかりと取り組んでいきたいと思っております。
 
雪之丞 新派に入団させて頂いて初めての古典演目で、この『日本橋』のお孝を勤めさせて頂けるというのは本当にありがたいことで。私は、歌舞伎と同時に新派も大好きで、子どもの頃から色んなお芝居を観ておりましたが、本当に新派って素晴らしいなと思ったきっかけが、昭和62年2月に、新橋演舞場の玉三郎さんの『日本橋』を客席から拝見した時に、こんな素晴らしい作品を観られて本当に幸せだなと心から思った記憶がございます。その時はまだ17歳でしたので、この役をやってみたいと思っていたわけでもありませんでしたが、歌舞伎の中におりましても、何となく稲葉家のお孝の台詞をお風呂場で口ずさんでみたりとか、そのくらいこの『日本橋』というお芝居にはとても思い入れがありました。そのうちリサイタルでも自主公演でもいいから、いずれはどこかでやりたい、挑戦してみたいと思っていたお役なので、今回その念願叶いまして、こういう舞台に立たせて頂けるというのは本当にありがたい限りですし、そういう思いで、今までにない気合いでこの『日本橋』という舞台に挑みたいと思っております。心強いのは、長年ご一緒してきた喜多村が葛木(役)で出演しているということと、3回目になる高橋惠子さんが清葉姉さんをやって頂けて、本当にお姉さんのように胸をかりて、一生懸命勤めさせて頂きます。

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田口 五十嵐伝吾は2度目です。新派に入って、昭和53年の時から観ていて、鳶をやって五十嵐伝吾を追っかけたこともありますが、今度は追っかけられる五十嵐伝吾をやらなきゃいけない(笑)。ただ、『日本橋』という作品はこれだけ長くやり続けられている作品で、大先輩方が築き上げたものですので、それを壊さないように、恥じないように、そこを気をつけてやるしかない。いつも身が締まる思いです。それにも増して、先ほど齋藤先生が、今回は特に美しい物語をと言われたので気が引けてるんですが、美しくなるように頑張ります(笑)。
 
宥希 このたび、大役お千世を勤めさせて頂きます。初春からこのような大役ができますこと、まことに嬉しくまた身の引き締まる思いでいっぱいですが、師匠と一緒に女方としてお千世を勤めさせて頂けるということも、大変嬉しく思っております。未熟者ですが、一生懸命勤めさせて頂きたいと思っています。
 
高橋 今回3回目にこうして声を掛けていただいて、本当にありがたく思っております。私も大好きな作品で、最初に演出をされた戌井(市郎)先生が「私は『日本橋』が大好きだ」と仰って稽古場で1時間ほどずっとお話されたのを思い出します。この作品は日本語の美しさ、日本人ならではのものがふんだんに織り込まれてますし、難しい役です。今まで2度演じさせて頂いても、まだまだ「できた」というところまでいっておりません。(喜多村とは)久しぶりで、「葛木さん」と言うと顔が思い浮かぶ方だったので、今回またご一緒できることが嬉しく思っております。こうして男性に囲まれるのが何年ぶりという感じですが(笑)、お二人(河合雪之丞、宥希)は女方さんですから、今までにない『日本橋』ができあがるんじゃないかと思います。私も全身全霊をかけて挑みたいと思っております。

勝野 笠原信八郎という巡査をやります。ちょっとぶっきらぼうな役で、私とは全然違うなと(笑)。今もお話を聞いていると、すごいところにきたなというか。演出家の齋藤先生の美しいお話という言葉なり、日本の原形の中に私が合うのかなと一瞬不安を持ったりしました。僕は劇団新派との最初の出会いは、昔、戌井先生の『鹿鳴館』、そのあと『華岡青洲の妻』で全国を回らせて頂きました。自分の人生に縁のない貴重な方々、先輩の方々にお会いして。また2015年には、三越劇場で『寒菊寒牡丹』を、水谷(八重子)さん、波乃(久里子)さんと一緒にやらせて頂きまして。その時、喜多村さんとも初めてお会いしたんですけれども、雪之丞さんとは今回初めてで、また私も初心のつもりでやります。2015年にもう一つ『明日の幸福』というので、高橋惠子さんと全国を回らせて頂きました。今も、自分の人生で避けて通れない、勿体ない部分を引き寄せていただいてありがとうございますという気持ちでここにおります。

【質疑応答】
 
──2011年に最初に演じたとき、どんな風に葛木晋三を捉えていましたか。
緑郎 新派に出てみないかというお話をいただいた当時は、先代(三代目)市川猿之助の座員でもありましたし部屋子でもありましたし、新派というと、どちらかというと春猿(雪之丞)のほうが非常に憧れをもっていて、僕はどちらかというと新国劇のほうが好きで。まさか自分が新派に出るとは夢にも思っていない時のお話でした。お稽古に臨んだ時に、戌井先生に初めてお声をかけて頂いて、その時に「段治郎(当時)君に色々やってもらいたいものがあるんだよ」と。また三代目猿之助の座付きに石川耕士さんがいらっしゃって、石川さんも文学座で、彼を通じて戌井先生がこう仰ってる、『歌行燈』とかやったらいいんじゃないかとか、そういう話を伺っていたところに、初めて戌井先生のお口から直にそういうお言葉を頂いて、『日本橋』の葛木も非常にあなたには合ってるからと。そのお稽古中に戌井先生が急にお亡くなりになって、齋藤先生がメインの演出になったんです。その前まで私は、師匠の猿翁の元でアンダースタディなどもやらせて頂いて、演出の勉強というのではないのですが、師匠の横で常に打ち合わせの場にいさせてもらったり、師匠の芝居の作り方が非常に好きで、また舞台に立った時のお客様の反応などに喜びを感じていました。それが、ご存じの通り師匠は2003年の11月に脳梗塞で倒れて以来、なかなか表舞台に演出として立つ機会がなくなって、それから数年たって、僕も歌舞伎の中で他の座組みにも出演させてもらったり、歌舞伎の座組の新作の作り方というものを見ていたのですが、僕なりにちょっとこの作り方は甘いんじゃないかなと、あくまで僕の意見ですけれども、そういうモヤモヤしたものがある中で2011年の『日本橋』に出演させてもらったわけです。その公演で戌井先生がお亡くなりになった後の齋藤さんの演出が、もちろんそれまでの戌井先生の演出も知っていましたが、その美に対する精神というものを、齋藤さんが全く新しく、それも奇をてらったものでなく温故知新じゃないですが、これは歌舞伎もそうですが、そういう演出に旦那が倒れてから、初めてめぐり会えたというのが、僕にとっては大変衝撃でした。あの2011年の11月、12月がなければ、もしかしたら僕はあのまま、これは斎藤さんにもお話したんですが、あれがなかったら多分僕は今でも歌舞伎界に残っていたでしょうし、本当に自分の人生の中でターニングポイントになった『日本橋』だったんです。ということで、ものすごく思い入れがある作品です。
──葛木という役に関しては。
緑郎 葛木は僕の憧れている松嶋屋の旦那(片岡仁左衛門)もおやりになってますし、どちらかというと僕のニンに合う、これは戌井先生に仰って頂いてましたし、個人的には二枚目も多いですし、すごく好きなお役でもあります。歌舞伎同様、(台詞を)謳える場面もありますし、芝居のしどころも多くて、本当にこれぞ新派だなと。葛木晋三も、お孝、清葉も、他のお役も皆さんそうですが、しどころのたくさんある良い役だなと思います。
──どの年代にも通じる作品ということで、特に現代の若い人がこの物語を観た時に共感するようなところは。
齋藤 先ほど“神話的”という言い方をしましたが、意外な感じかもしれませんが、『日本橋』って、実際にはいないくらいピュアな魂の持ち主ばかり登場するんです。五十嵐伝吾も、さっき田口さんが「美しくないかもしれない」と仰っていたり、笠原信八郎さんも武骨ですが、非常に純粋な魂の持ち主ばかりなんです。現実には多分いないですね。そういう人達が、『日本橋』というタイトルにあるように、橋の上で出会い、別れることによって、様々に転落していったり成功したり、最後には狂気に陥る人と殺人を犯してしまう人と、それを背負って生き残る人と、様々な人生のバリエーションを見せてくれる。これは多分、少年少女が観たらそれなりに、わからないなりに面白い“大人の童話”みたいな受け方をするのではないかと思う。また花柳界物なので難しい日本語が出てきてわかりにくいといっても、でもそれは、僕らが日常の中でもわからない言葉って飛び交ってますし、若者が使う横文字の言葉もいっぱい理解できないことがあっても会話は成立するわけで、わからないなりにきっと面白いと思っております。 

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──真ん中に橋を、花道を作ったり、思い切ったことをするということで、どれぐらいの規模の花道になるのでしょうか。
齋藤 橋だけでなく、色んな空間として、“第3の舞台”みたいな感じで使ってみたいと思います。三越劇場は大きさの制限があるので。間口は六間ですが、奥行きがないので、もっと観客の中にいっそ張り出してしまってはどうか。『黒蜥蜴』をやった時に、客席を非常に多用して、劇場そのものを舞台にしてしまえばいいんだというのをやって楽しかったので、それをもうちょっと上品にやろうかなと。中央が、真ん中の通路を挟んで3列3列くらいかな、潰して、そこに舞台を張り出していくということになると思います。橋だけじゃなく、別のアイディアも出そうな気がしています。
──雪之丞さんはお孝の台詞を口にしていたそうですが、どこに惹かれましたか?
河合 当時はこの役を将来絶対やりたいとか大それた思いはなくて、耳触りが良いなと思ってふと口にしているというような状態でした。逆に言えばそのくらい、『日本橋』の台詞、脚本というのは、心の中にずーっと入ってくる。先ほどから齋藤さんが仰っているような、日本語の美しさ、また美しい日本語を美しい形で書き上げていて、言葉の一つひとつだけでなく、言葉の置き方が泉鏡花ならではの、日本語を10倍美しくできる文章というか。それがすっと心に入ってくるような、稀有な作品だと思います。そういう意味で、私が何気なくお風呂場で口ずさんでしまうほど、素敵な日本語、素敵な文章なんだなと。今改めてそう思いました。ただ、いくら良い形で良い文章でも、美しい日本語として役者はお客様にお届けしないといけない。お届けした時にもその素晴らしさをお伝えできるかというのが、私達のお仕事だと思っております。
──勝野さんの巡査役ですが、齋藤先生が、武骨だが純粋な魂の持ち主というところで、人間的な部分は作りやすくなったと思いますが、新派2度目の挑戦はいかがですか。
勝野 今、齋藤先生が言われた純粋な魂のぶつかり合いという言葉でかなり感じた部分がありまして。これって凄い言葉だなと思って。演ずるんじゃなくて、魂のぶつかり合いということ。さすがだなと横で感動していました。登場人物がみな純粋で、それがゆえに傷ついたり罪を犯したりという、まさに人生というか、これぞ『日本橋』ですね巡査役はドラマでも多いので、やりやすいと言えばやりやすいし、笠原巡査は方言まじりなので安心しています。僕は熊本出身なので懐かしいというか、熊本、九州の人間じゃないと出せない部分というのは、立っているだけで大丈夫だと思います(笑)。デビューした時、ずっと熊本弁で話してて、(石原)裕次郎さんや皆さんにいっぱい迷惑をかけて、「お前、訛るな」「訛りって何ですか?」(笑)そこから始まったので。色んな良い勉強をさせて頂いて、これから先も楽しいんじゃないかと思います。
──高橋さん、田口さん、河合宥希さんにも、役への取り組みを伺いたいのですが。
高橋 清葉は現代女性とはずいぶん違うといいますか。原作にありましたが、夏の暑い日に路地を歩いていて、清葉は向こうから来る人が、軒下を、涼しいところを歩けるように自分がよけるみたいな。そこまでさらりと相手を思いやる女性なんです。お孝さんとは一見張り合ってる感じはありますが、清葉にとっては、きっと本当は自分もあんな風にしてみたいけどできずに、自分自身を抑えているというか、表と裏の様な感じもあって。後半、お孝さんとのやり取りの中で、わかり合える部分、同じ芸者という職種もそうですし、表に見えてくる部分は対照的ですが、どこかで誰よりもわかりあえているような感じで思っています。気がおかしくなってしまうお孝さんに接する時というのは、演じていてももう一人の自分、どこか他人事ではない感じでいる感じもあります。本当に清葉は難しいですが、相手の人にどう反応していくかというところで、役を作っていきたいなとは思っています。
田口 五十嵐伝吾という役は、簡単に言えばストーカーですね(笑)。よく三面記事に出てくる、好きになった女性を街角からそっと眺めている、それが昂じてだんだん懐に入っていく。そして最後には、愛する女性を傷つけてしまうという、そこまで行きつく男なんですが。先ほど齋藤先生が仰ったように、これも男の一番純粋な魂なんじゃないかなと思ってます。ですから、情念というか、純粋に一人の女を、家族を捨ててまで追いかけてしまった可哀想な男を、情熱的に演じたいと思っております。
宥希 私はお千世の大役をやらせて頂けると聞いた時に、本当に驚きしかなかったのですが、ただ、色々資料を見せて頂いたり、自分で資料を探して研究しておりますと、やっぱり花柳章太郎先生の独特な、ふわあっとした可憐な風情を出していければいいかなと思っております。また、本当に弟子として嬉しいのですが、師匠の雪之丞と二人で幕を切る場面もあったりして、嬉しさ半分、『日本橋』という新派の古典を勉強させて頂ける緊張というか怖さもありますが、お千世をやられた方は皆さん素敵な方ばかりなので、それに恥じないようにつとめたいと思っております。また、花柳先生や大矢英雄先生のされた役を、女方としては実に68年ぶりの復活ということで、しっかりつとめていかなければいけないと思っております。

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〈公演情報〉
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初春花形新派公演『日本橋』
原作◇泉鏡花
演出◇齋藤雅文
出演◇喜多村緑郎 河合雪之丞/
河合宥季 田口守/勝野洋 
高橋惠子 ほか
●2019/1/2〜25◎三越劇場
〈料金〉9,000円円(全席指定・税込)  
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹 0570-000-489(10時〜18時) 
三越劇場 0120-03-9354 (10時30分〜18時30分)




【取材・文・撮影/榊原和子】



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