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ライブハウスでありミュージカルを上演する劇場としても知られる新宿FACE、その内部が異次元の不思議な森に姿を変えていた。
空間から造ることをも含めて物語を立ち上げる劇団「おぼんろ」、その手作り感満載の舞台美術は今回も期待を裏切らない。FACEの本来のステージ部分にまでセットが建て込まれ、中央のアクティングエリアは客席と地続きに、そこから四方に伸びた通路を登場人物たちが風を孕んで駆け抜ける。
隅々まで工夫が凝らされ、観る者と一体化した空間で、まるで絵本のように美しい、だがどこか空怖ろしい物語が、瞬きする間もないほどの密度で繰り広げられていく。

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【あらすじ】
愛されたい。でも、近寄ってほしくない
「ビョードロ」と言うのは、鬱蒼とした森の奥底に住まう民の名前。彼らは、「病原菌」を作り出す技術を持っていて、何百年もの間、忌み嫌われてきた存在である。しかし、作られた病原菌は細菌兵器として戦争や政治に利用されることが常であった。
あるとき作られた一体の病原菌は「ジョウキゲン」と名付けられた。彼は彼なりに無邪気に意気込み、自分を造り出した「ビョードロ」を喜ばせるため、より凶悪な「病原菌」になろうとし続ける。手を触れればどんな者でも苦痛を伴わせて殺してしまう「ジョウキゲン」は、次第に、自分がある願いを抱いていることに気付く。それは、絶対に絶対に叶えられてはならない願いなのだった────。

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物語の内容はシビアで重い。2013年の初演ということは、まだ近い過去だった震災と原発事故の影を感じさせずにはいない。劇中で語られる「ジョウキゲン」の「花を枯らしてタネにしてしまう」能力は、ベトナム戦争で使用された枯れ葉剤などを思い起こさせるが、この日本の今を生きる観客としては、やはりどうしても原発事故の脅威とシンクロしてしまう。また、大量殺戮兵器を作り出してしまう民、「ビョードロ」は人類そのものにも、その単語の響きのように人類が抱える「病んだ心」にも思えてくるのだ。
だが、今回の作品に限らず、「おぼんろ」の一番の魅力は、救いのない病んだ現実を見据えながら、夢を紡ぐことをやめないことで、人間のあるべき姿、あるべき美しさを提示し続けてみせることだろう。世界はもしかしたら、いやたぶん間違いなく破滅に向かっている、としてもその最後まで誠実さと愛をもって生きること。世界が終わる瞬間まで愛を信じ続けること。そんなメッセージがこの『ビョードロ』のラストからも伝わってきて、痛みや悲しみをも超える限りない優しさで心を解き放ってくれるのだ。

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そんな物語の核の部分を生きる語り部たちは5人。
半分だけ「ビョードロ」の若者ユスカを演じるのは客演の鎌苅健太。素朴でナイーブな資質がタクモへの篤い友情や父への切ない思慕に生きて、初出演とは思えないほど「おぼんろ」の世界にも違和感なく馴染んでいる。
町に住む金持ち階級「シーラン」の娘リペンは黒沢ともよ。「ビョードロ」のユスカとタクモの幼なじみとして、分け隔てなく彼らと付き合う真っ直ぐな心を、明るく自由な個性で表現。軽やかな動きも魅力的だ。
リペンの父で「病原菌」を売り込むジュペンは、さひがしジュンペイ。悪の象徴でありエゴイズムの塊のような人物なのだが、どこか人間臭さと哀れを感じさせることで、物語世界にリアリティと深みを加えている。
病原菌の「ジョウキゲン」は、わかばやしめぐみ。彼女の自在で豊かな表現力には毎回魅了されるが、今回の「ジョウキゲン」は文字通り「上機嫌」な中に、渦巻く様々な感情が見え隠れして、その傷ついた魂を見事に表現してみせる。 
作・演出家の末原拓馬は「ビョードロ」のタクモ役。どちらかと言えば受け身の、周囲に振り回される役どころだが、その役割りに必要な懐の深さと大きな愛で、作品のテーマを十二分に担っている。

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最後になったが、今回の『ビョードロ〜月色の森で抱きよせて〜』の大きな見どころに、ムーヴメントアクターたちのパフォーマンスがある。初演には5人のキャストだけで紡いだ物語を、より広汎な観客へ届けたいという作・演出の末原の想いもあって、一大エンターテイメントに仕上がった。
その原動力となっているのが、9人のムーヴメントアクターたち。アクロバットやコンテンポラリーダンス、軟体技であるコントーション、エアリアルやバトントワーリングなどを、個々の技術だけでなく、ときには集合体となり、あるいは静止画になり、物語の一部となって視覚化してみせる。人間離れしたといってもいい彼らの技術と身体が、「おぼんろ」の世界観を壊すことなく、さらに想像を飛躍させる手助けになっている。この優れた表現者たちを『ビョードロ』の世界に見事に融合させて、物語を空間全体に構築してみせた末原拓馬の演出力に拍手を送りたい。
 
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〈公演情報〉
劇団おぼんろ第17回本公演
『ビョードロ〜月色の森で抱きよせて〜』
作・演出◇末原拓馬
出演◇鎌苅健太 黒沢ともよ
末原拓馬
わかばやしめぐみ さひがしジュンペイ 
Rina. 武子 展久 渡辺翔史 茉莉花
miotchery 田中翔 松本聖也  齋藤のどか 権田菜々子 
●2/14〜17◎新宿FACE 
〈料金〉一般参加チケット5,000円 当日5,500円 トリオ割チケット12,000円(3人セットチケット) ひよっこ(高校生以下)3,000円(税込)
当日別途ワンドリンク500円
〈お問い合わせ〉お問い合わせ おぼんろ制作部 info@obonro.net
〈公式サイト〉https://www.obonro-web.com/
〈公式ツイッター〉@obonro



【文/榊原和子 舞台写真/MASA】




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