稽古場見学、記者発表、インタビューなどから、近々公開される作品のおもしろさを探ります。

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インタビュー

オンチのオペラ歌手を描く傑作コメディ!『グローリアス!〜Glorious!〜』篠井英介・水田航生インタビュー

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可憐にして偉大なるオンチの歌手、フローレンス・フォスター・ジェンキンズの実話を元に描いた、ピーター・キルター作のオリジナル傑作コメディ『グローリアス!〜Glorious!〜』が、8月18日にDDD青山クロスシアターで幕を開ける。(9月15日まで。のち金沢ほか地方公演あり)

【物語】
時は1944年、場所はニューヨーク。オンチと称されながらもソプラノ歌手になる夢を諦めないフローレンスは、コズメというピアニストに出会う。最初は渋々レッスンを引き受けるコズメだったが、レッスンを重ねるにつれて、彼女の活気溢れる歌声の魅力に気付き始める。時にバッシングを受けながらも、音楽を信じ邁進する二人にある時、音楽の殿堂と呼ばれるカーネギーホールからオファーが入って――。 

歌うことに生涯を捧げたフローレンス・フォスター・ジェンキンズの、笑いあり涙ありのドラマティックでハートフルな物語で、2016年にはメリル・ストリープとヒュー・グランドの2大スターが共演した映画、『マダム・フローレンス!夢見るふたり』のモチーフにもなった。
このオンチなオペラ歌手、フローレンスを演じるのは篠井英介。そしてそのピアニスト、コズメ・マクムーンを演じるのは水田航生。2人に作品と役柄について話してもらった。
 
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水田航生・篠井英介

楽しいオンチで魅力があった歌手フローレンス

──篠井さんは、このフローレンス役のオファーを受けていかがでしたか?
篠井 とても嬉しかったです。僕は基本的に自分は女形だと思っているのですが、もちろん女優さんがいっぱいいるので、女性の役が来ることは少なくて、おじさん役が多いんです(笑)。でも、昨年の劇団☆新感線の『Vamp Bamboo Burn〜ヴァン!バン!バーン!〜』は、宮藤(官九郎)くんの当て書きだったので「女にしてねっ」とお願いしたり(笑)、『ダブリンの鐘つきカビ人間』(2015年)も、牧師さん役を尼僧にしてもらいました。映像の世界では女形が女性役をやるのは難しいので、想像力で観ることのできる舞台では、なるべく女の役で出させていただきたいと思っているんです。
──オンチのオペラ歌手の役ということについては、どう取り組もうと?
篠井 オンチといっても楽しいオンチで、実際にとても人気のある方だったそうですから、何かしら魅力があったはずだと思うんです。ですからまず、どんな女性だったんだろうと興味を惹かれますし、そこに物語の一番のポイントがあるはずだと思っているので、その魅力をうまく表現できればと思っています。
──水田さんはピアニストのコズメ役ですが、篠井さんとは初共演だそうですね?
水田 僕は三人芝居自体が初めてなので、プレッシャーも大きかったんですが、英介さんとポスター撮影で初めてお会いしたその瞬間から、自然に巻き込まれるというか包み込まれるというか、居心地のいい空気を感じて、自分の中で考え込んでいたことなども払拭されて、ポジティブな気持ちになれました。とにかく稽古初日の本読みから楽しかったんです。本読みはいつも緊張するのですが、初めて「楽しい!」と思えたし、英介さんが演じるフローレンスに、コズメがどんどん巻き込まれていく状態が、自分の感覚としてリアルに感じられて嬉しかったです。
篠井 航生くんは舞台経験が沢山おありになるのに、初々しくて清潔ですよね。どんな役でも清潔感はすごく大事で、そういう意味で素材として素晴らしいなと。それに謙虚でいらっしゃる。そこも素敵だなと。僕はいつも、自分の役は自分1人で頑張ってもできないと思っていて、一緒に芝居してくれる人がどう対応してくれるかで、自分の役が浮き彫りになると思っているんです。フローレンスは、ちょっとエキセントリックで華やかで楽しい人ですから、派手な部分は出したいとは思いますが、「がんばって熱演していたね」とならないようにしたい。航生くんや彩吹(真央)さんがフローレンスを素敵な人物に作り上げてくださるに違いないと思っていますし、航生くんが生き生きとコズメを生きてくださることが、フローレンスも生きることになると思っています。

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わざとらしいオンチではなく楽しそうに幸せそうに歌いたい

──コズメは、フローレンスを理解して支えますが、かなりユニークで面白い人ですね。
水田 最初は「なんなんだこの人は?」と、ちょっと驚きさえありました(笑)。コズメ自身、セクシャル・マイノリティでもあったり、たぶん色々な思いをして生きてきた人だったと思うんです。その中で、天真爛漫で屈託のないフローレンスに出会った時に心が動いて、「この人に付いていきたいな」とか「一緒に歩んでいきたいな」と思ったのではないかと。ですから、コズメ自身がわからないまま巻き込まれていく感じにはしたくないんです。あえて自分わかって巻き込まれていく、そういう巻き込まれ方を、英介さんと向き合う中で、作れていけたら面白いんじゃないかと思っています。
篠井 プレッシャーをかけるわけではないけど、コズメは受ける演技なので難しいだろうなと思います。受け身から心が動いていって、最終的には自分でも気づかないうちにフローレンスに惹かれていって、ある種の友情というか愛情を感じて、自分にできることはなんでもしてあげたいと思えるようになる。自分では自覚なくそう思っていくところが、とても人間らしいしチャーミングですよね。そういう意味では、フローレンスもコズメもキーポイントはチャーミングということだし、人間として可愛げがある人たちなんだろうなと思います。
──その役を演じるお二人が、まさに役柄にぴったりだなと。
水田 僕、この物語もですが、実在のマダム・ジェンキンズのことを、僕はすごく好きなんだろうなと思います(笑)。はじめは、笑えるぐらいオンチな歌って、実際に聴くまで想像がつかなかったんです。でも残っている音源やYouTubeで聴いたら、本当に笑っちゃって、「ああ、この感覚なんだ」と理解できて、「俺、たぶんこの人のこと好きだな」と。残っている写真などを見ても、この人となら仲良くなれるという気がしますから。
──もう役作りは必要ないですね。
水田 (笑)、確かにコズメが全く違う感じの人だったら、頭を使って役を理解していくことが必要だったかもしれません。でもこのコズメなら、僕の感受性でどんどん寄っていったり、自分の感覚に落とし込んだり、色々なアプローチができるなと思って嬉しかったですね。
篠井 どんどんやってください!それに向き合えるだけの存在感を出せるように、フローレンスも頑張りますので(笑)。

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──ピアニストということでは、劇中でピアノを弾く場面はあるのですか?
水田 ピアニストの方が出演されているので、僕は実際には弾かないんです。でも最初は自分で弾くものだと思っていたので、キーボードを買って、ヒーヒー言いながら一生懸命練習して(笑)。ただ、全く触ってないよりは触っているほうが説得力がありますから、音は出さなくても弾きたいですね。
──篠井さんのフローレンスは歌う場面がありますが、オンチをどこまで意識して歌いますか?
篠井 そこは今、演出のスズカツ(鈴木勝秀)さんと相談していますが、わざとらしいオンチはお客様も笑えないので、あんまりやりすぎないようにしたいですね。僕は男の声なので、裏声を使っても出せない女声の音域が現実にあるんです。そういう面白さで聴かせるのもありかなと思っていて。やはりフローレンスの歌が、なぜみんなを魅了したのかというと、オンチでもお構いなしに、楽しそうに幸せそうに歌っていたからだと思うんです。それも大真面目に本気で堂々と歌う。そこさえ押さえておけば、わざとオンチを強調する必要はないような気がしているんです。

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親密感とか緻密さとか小劇場ならではの楽しさを

──今、演出の話が出ましたが、篠井さんはスズカツさんと何度も仕事をしていますが、改めて感じる鈴木演出の良さは?
篠井 スズカツさんは、その作品の一番いいお客さんでいようという方なんです。だからお行儀がいいんです。中にはものを食べたり飲んだりしながら演出する方もいますが(笑)、スズカツさんは本当にお芝居や役者さんを心から愛して、一生懸命に見てくれます。そして、必要なことは短い言葉で的確なアドバイスをしてくれる。ですから僕はすごく信頼していますし、スズカツさんの演出は大好きです。
水田 僕は初めてなのですが、スズカツさんの稽古は早く終わると聞いていて、本当に短時間で集中して稽古するんだなと。僕自身もそのほうがガッと集中してできるので有り難いです。役についてのアドバイスも、英介さんがおっしゃったように、「なるほど」と自分の中で腑に落ちることが多いし、聞いたことへはすごく的確に答えてくださいます。それに、稽古場での雰囲気がすごくハッピーというか(笑)、割とオープンにいてくださるので、色々聞きやすいです。
──今回の出演者はあと1人、彩吹真央さんがいますが、彩吹さんは何役か演じ分けるそうですね。
篠井 メキシコ人のコック兼家政婦のマリアと、フローレンスのお友達のドロシーと、ミセス・ヴェリンダー・ジェッジというアンチフローレンスの運動家みたいなアメリカの婦人(笑)、その3役を演じます。
──彩吹さんとはお二人とも初共演だそうですが、どんな印象がありますか?
篠井 宝塚出身の方ですから、舞台のキャリアは沢山積んでいらっしゃいますし、男役だったということで、既成概念みたいなものを持たないところがいいなと。今回も、僕が女の役をやっていても、変だとも思わずに飛び込んできてくださる。そういう柔軟さを持っていらっしゃるので、僕の方が胸を借りたいなと思っています。それは水田さんにもお願いして。
水田 いえ、胸を借りるのは僕のほうです。
──水田さんは、彩吹さんの印象は?
水田 先日、こまつ座の『イヌの仇討』を拝見したばかりなんですが、しっかりしたお芝居をされる方だなと。実は『サンセット大通り』というミュージカルの初演に彩吹さんが、僕は再演に出ていて、物語的には恋人役なのに残念ながらすれ違いだったんですが、今回はご縁があってご一緒できるので楽しみです。
 
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──そんな演技派3人で演じるこの舞台ですが、改めて意気込みをいただけますか。
篠井 映画が有名なのですが、物語もちょっと違いますし、こちらは三人芝居で小劇場ですから、その良さを生かして、親密感とか緻密さとか、小劇場ならではの楽しさなどを味わっていただきたいです。一応コメディですから、心温まって、最後はほっこりという作品になっていますし、暑い時期ですから納涼を兼ねて劇場へいらしていただけたらと。「楽しいお芝居で音楽もあるらしいよ。歌もあるらしいけど音痴なんだって(笑)」と、お気軽に足を運んでいただけるといいなと思っております。公演期間も1ヶ月近くございますので、何度もお運びいただいて、作品が成長していくのも観ていただけたら嬉しいですね。
水田 本当に素敵なお二人とご一緒できるので、初日を迎えるまで必死に稽古をして、しっかり自分の役に向き合って、責任を持って演じていきたいです。DDD青山クロスシアターには初めて出演させていただきますが、すごくいい空間なので楽しみです。英介さんがおっしゃったように、笑っていただきながら、最後はぐっとくるような、そういう作品になるように頑張ります。そして長期間の公演なので、3人で最後まで元気に楽しく舞台をつとめられればと思っています。

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水田航生・篠井英介

ささいえいすけ○石川県出身。日本大学藝術学部演劇学科卒業。花組芝居を経て、現代劇の女形として、多方面で活躍をしている。1992年、第29回ゴールデンアロー賞演劇新人賞を受賞。舞台の代表作に『欲望という名の電車』のブランチ役、『サド公爵夫人』など多数。最近の出演作品は、映画『探偵はBarにいる2〜ススキノ大交差点』、『清須会議』、『幕末高校生』、ドラマは連続テレビ小説『まれ』(NHK) 『下町ロケット』(TBS)など、舞台は『非常の人 何ぞ非常に』〜奇譚 平賀源内と杉田玄白〜、『きりきり舞い』、『ダブリンの鐘つきカビ人間』劇団☆新感線『Vamp Bamboo Burn〜ヴァン!バン!バーン!』などがある。

みずたこうき○大阪府出身。俳優として数多くの舞台、ドラマで活躍中。最近の主な出演作品は、映画『カノジョは嘘を愛しすぎてる』、『太陽』など、ドラマ『ファイブ』(フジテレビ)、舞台『マーキュリー・ファー Mercury Fur』、ミュージカル『サンセット大通り』、『道玄坂奇譚』、ミュージカル『JAM TOWN』、ミュージカル『エドウィン・ドルードの謎』、ミュージカル『マイ・フェア・レディ』、音楽劇 『ダニー・ボーイズ』〜いつも笑顔で歌を〜、『お勢登場』などがある。

〈公演情報〉
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シーエイティプロデュース
『グローリアス!〜Glorious!〜』
作◇ピーター・キルター
翻訳◇芦沢みどり
演出◇鈴木勝秀
出演◇篠井英介 水田航生 彩吹真央
●8/18〜9/15◎DDD青山クロスシアター
〈料金〉8,800円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉チケットスペース 03-3234-9999
●9/22◎北國新聞赤羽ホール  
〈料金〉7,800円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉北國新聞 赤羽ホール 076-260-3555
ほか地方公演予定
http://www.glorious-stage.com




【取材・文/榊原和子 撮影/竹下力】


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TABACCHI『バルバトス』公演まもなく開幕! 主宰・演出家 戸田武臣インタビュー

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TABACCHIが8月16日から下北沢「小劇場B1」で『バルバトス』〜嘘、連鎖、叫び〜を上演する(20日まで)。
TABACCHI=タバッキーとは、オルタナティブスペースで活動する、主宰の戸田武臣による、企画・プロデュースユニット。構成メンバーは、ヘアメイク・衣装・WEBデザイナーのスタッフ4名。主宰・演出家である戸田武臣は、KERA・MAP、花組芝居ほか多数の舞台に参加後、2008年よりTABACCHIを発足させる。創りあげる演出作品は、俳優にリアリズムを求め、戯曲には「疑う・信じる・壊す」を繰り返す事により、役の匂いや、戯曲の面白さを炙り出していく。

【あらすじ】
〜地下鉄ホームに電車が入ってきた瞬間を狙って、何の関係もない人を突き飛ばす行為が、1990年代の NYで流行っていた。現代の日本でも、連日誰かが知らない人も知ってる人も殺し合っている。冤罪裁判、 不倫、情報操作、テロ行為、よくわからない引退 etc…いつ自分がわけの分からない〈渦〉に巻き込まれても、もはや不忠識ではない。人ロが増え、人間の作った諸々の制度が肥え、複雑になり、人間が部品でしかないような現代、多くの人々が自分らしさ〈自己像 〉を持てずに、時には突発的な凶行に自分の存在感を求めてしまう人種も「普通に電車の隣席に座っている」。そういう時代に私達は生きている〜

この8回目の公演、『バルバトス』の開幕を間近にした主宰・演出の戸田武臣にインタビューを行った。

抗えない渦に巻き込まれていく人々

──TABACCHIというユニット名の由来を聞かせてください。
TABACCHIはイタリアにある日本のコンビニのような店のことで、塩とタバコと収入印紙を売っているんです。どれも生きている上で必要なもので、タバコもある人にとっては大切な嗜好品なわけです。そういう、暮らしの身近にあって、色々なものがすぐに手に入る、誰でも近寄れるというイメージで、みんなに必要なユニットでいたいという意味で付けました。
──今回の作品『バルバトス』ですが、作る上で戸田さんを駆り立てたものは?
世界中で起きている異常な「うねり」と「混乱」がキーワードです。今回の作品で感じて欲しいのは、人間の剥き出しの魂の揺れや脆さです。何気ない発言で、抗えない渦の中に巻き込まれていき、絡めとられていく様を息が詰まる密度で見せたいと思いました。そこに必要なのが正義ではないかと思ったんです。
──テーマとなる具体的な事件などは?
とくにこれというものがあるわけではないのですが、よくわからない事件が多すぎるなと思っています。正しい自己像を持ちづらい窮屈な時代だと。SNS上で本人ではない名前で好きなことを言うのはフェアじゃないと思ってて、今回は改めて「正義」がマッチしていると思いました。僕は、9・11のときニューヨークの現場にいたんですが、温度差を感じてしまった。日本では、かわいそうだ、大変だとニュースになるけれど、ニューヨークの人たちはまず生きることが大切だった。日本とアメリカのニュースを見て、何が正しいのか、正しくないのか、いろんな視点を感じてもらいたいと思っていました。

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KERAさんを見て演出という仕事の面白さを

──戸田さんの演劇歴も伺いたいのですが、最初に演劇に触れたのは?
僕は東京生まれで、小学生のときから児童劇などには触れていましたが、中学一年生の時に、姉が当時の新宿ACB(アシベ)ホールでやっていた唐沢寿明さん主演の劇団ATTACKの舞台を観に連れて行ってくれました。それを観てびっくりしたのが最初ですね。
──演劇をやろうと思ったきっかけは?
実はないんです(笑)。自然と空気を吸うようにいつの間にか目覚めていました。人前に出るのが苦手なのにどうしてでしょうね。最初は役者志望で、18歳で職業として役者になろうと。劇団には入らずに、当時流行っていた雑誌の『ぴあ』の欄外にある役者募集コーナーを読んで、片っ端からオーディションを受けて、出るという形で、色々な芝居に出ていました。
──そこから演出家になろうと思ったのは?
転換期はKERA・MAPの『青十字』(2003年)ですね。キャストで出て、演出のKERA(
ケラリーノ・サンドロヴィッチ) さんを見ているうちに、俳優をチョイスしてそこに味付けをしていく演出という仕事は面白いなと思ったんです。それにKERAさんの創作への真摯な姿勢に影響を受けました。
──そして08年にTABACCHIを結成したわけですね?
自分の考える面白いものをひたすら作りたくなったので。KERAさんの作品での経験を経て、衣装、ヘアメイク、WEBデザイナーで広報関係をやってもらっている人、そういうメンバーに呼びかけて、力を貸してもらってユニットを作りました。

しっかりとした海外戯曲を発信していきたい

──設立したTABACCHIの目標としているものは?
設立時は「ラーメンズ」を目標にしていました。素舞台に靴下を履かないスーツのみのシンプルなスタイルがかっこよかった。やっぱり笑いを作るのが難しいですからね。それを飄々とやっていらした。ユニットを立ち上げた時は、コントのように短編の繋がった作品が多かったですね。今は小劇場でしっかりとした海外戯曲を発信していきたいなと思っています。これからもユニットとして生き抜いていくことを考えているので、古典と言われるものを、自分のフィルターを通して作り直して、今の人たちにもシンパシーを得られるような作品にしていきたいですね。
──今回の演出でとくに心がけていることはありますか。
歴史的な背景ではなくて、人と人とのリアルな関係性です。あの人が思っていること、この人が思っていること、そこで生じる同調や違和を大事にして作っています。
──劇場にもこだわりがあるそうですね。
いつも作品にあった劇場を選んでいます。今回も作品世界を象徴するような、閉塞感のある濃密なオルタナティブスペースを作り上げたかったんです。
──最後に本作品の見どころを。
今回はあえて「熱・正義」を前面に押し出した、心がたぎる作品にします。お客さんに、その場で呼吸してしゃべっているリアルな熱量を感じてもらいたいと思っています。ぜひ観にいらしてください。
 

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構成メンバーで ヘアメイクスタッフの生藤憲、作・演出家の戸田武臣
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出演者の渡邊聡、川島佳帆里、贈人

〈公演情報〉
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TABACCHI PRESENTS 8』
『バルバトス』〜嘘、連鎖、叫び〜 
構成・演出◇戸田武臣
出演◇贈人、川島佳帆里、渡邊聡、春名風花、中下元貴、斉藤麻衣子、狩野和馬、宮嶋みほい、坂内愛、紺野相龍、朝廣亮二、吉橋航也、青木十三雄、澤井裕一、松原瑚春、山崎未来、凪彩、
武藤直樹、大草理乙子
●8/16〜20◎下北沢「小劇場B1」
〈料金〉前売り4000円 当日4500円(全席自由・税込)
〈チケット問い合わせ〉070-6562-4480(受付時間 平日11時から19時)


※この公演のチケットをえんぶSHOPでも発売中!
http://enbu.shop21.makeshop.jp




【取材・文・撮影/竹下力】







『明日がある、かな』






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「ひとり芝居」シリーズの新作『ピース』9月に上演! 風間杜夫インタビュー

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風間杜夫の「ひとり芝居」シリーズ、その新作『ピース』が9月から東京をはじめ全国で上演される。
このシリーズがスタートしたのは1997年。作・演出の水谷龍二とのコンビで、「旅の空」「カラオケマン」「一人」「コーヒーをもう一杯」「霧のかなた」「正義の味方」の計6本を創り、日本全国、世界各国で上演してきた。2010年には五部作を一挙に上演して、上演時間は前人未到の5時間15分。この快挙に「驚異の精神力と体力と演技力」と称賛の声があがった。
そして第7弾となる今回は、『ピース』というタイトルで、東京の下町で小さな葬儀社を営む男、武藤万作を主人公に狎こκ刃臓匹鮃佑┐觝酩覆砲覆襦

【あらすじ】
東京の下町で小さな葬儀社を営む男、武藤万作。二年前の事故で、愛する妻と娘を失った...。
以来、憔悴しきって仕事は手につかず、酒浸りの毎日...。
ある日、警察から葬儀の依頼があった。亡くなったのはシリア人。
持ち物の中にはコーランと怪しい紋章が入っていた...。

またしても新しい「ひとり芝居」への挑戦を行う風間杜夫に、この新作への意欲と、「ひとり芝居」と同じ20年という歴史を刻む落語との付き合いを話してもらった「えんぶ8月号」のインタビューを、別バージョンの写真とともにご紹介する。
 
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今回はまた等身大の男の人生を

──なんと「ひとり芝居」も20年目で、しかもまた新作に挑むそうですね。
気がつけば20年経っていました。「ひとり芝居」は、これからも続けていきたいと思っていて、前作の「正義の味方」で3年間、全国を回ったので、そろそろまた新作をやろうかなと。
──タイトルが「ピース」ということですが。
世界が色々たいへんなことになってきて、平和を脅かされる状況になっている。どうしたら平和になるのか、平和とはなんなのだろうとか、そういうのを芝居にしたいよねと、水谷(龍二)さんと雑談で話していたら、そのへんを書いてきてくれたんです。
──前作の主人公はパワフルな95歳でしたが、今回は?
僕の実年齢の68歳になります。20年前にこのシリーズを始めたときは、40代から50代になろうとしている同世代へのエールになればと。それが5作続くうちに僕が60歳を越えてしまって、等身大ではなくなってしまった。そこで一気に95歳まで行ってみたのですが、今回はまた等身大から始めたかったので。
──長い間続けている「ひとり芝居」ですが、演じる面白さというのは?
落語の世界にも通じるのですが、想像力がいるんです。僕も想像力を働かせなくてはいけないけど、お客様にも想像力を働かせていただく。1人1人のお客様が自分で想像した世界を観ることができる。そこに面白さがあるんです。
──今、お話に出た落語も、20年になるそうですね。
初めて人前でやったのが1997年ですから、ちょうど20年です。
──「ひとり芝居」と落語の共通するところと異なるところは?
まず話芸と芝居は、語り口から基本的に違います。それに「ひとり芝居」はお芝居ですから、照明、音楽、衣装、舞台装置、動きもあるし、寝転んだりもします。落語は基本座ったきりで、話芸で何役か演じ分ける。共通しているところは、先ほども言った想像力で、見えない世界を、見えない相手を、お客様に想像してもらうことですね。

『ハリー・ポッター』のキャラクターを全部1人で

──想像力ということでは朗読劇も増えています。風間さんも出演されていましたね。
パルコ劇場が閉館するときの『ラヴ・レターズ』に出演しました。朗読ということでは、今、「耳で聞く本」というネット配信の企画で、『ハリー・ポッター』の全七巻シリーズを朗読しているんです。総勢50人以上のキャラクターが出てくるので、それぞれ声を変えるのがたいへんなんですが。妖怪も沢山出てきますし、校長先生や教頭先生、ヴォルデモートとか、もちろん3人組のハリーとロンとハーマイオニーも。女の子の声は肩に力が入るので、すごく疲れますね(笑)。
──演技力がないと無理ですね。たぶん風間さんじゃないとできない。
僕しかできないと思います(笑)。2年がかりで取り組んでいて、今は五巻まで吹き込んだので、あと二巻がんばらないと(笑)。
──演劇の世界だけでなく語りや声の世界まで、風間杜夫のフィールドはますます広がっていますね。
よくぞ僕にこういうことをやらせるなと思うことがありますが(笑)。落語や「ひとり芝居」で得た経験は、普通の芝居にも生きてくるし、『ハリー・ポッター』みたいな世界へも行ける。逆に『ハリー・ポッター』のおかげで落語の表現も豊かになったり、「ひとり芝居」がさらに進化することに繋がる。それぞれ刺激し合っていければと。その全部が僕の仕事なわけですから。
──最後に「ピース」への意気込みをいただければ。
今までの6作もそうですが、お客様に観ていただくことで、磨かれて、どんどん面白いものになっていく。今回もまた、水谷さんはじめみんなで知恵を出し合って、良い作品になるように作っていますので、ぜひ観に来ていただければ嬉しいです。


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かざまもりお○東京都出身。77年以降、つかこうへい事務所の舞台に出演。映画の『蒲田行進曲』では、多数の賞を受賞。舞台、映画、TVドラマ、ナレーションとマルチに活躍。20年前から落語に取り組むなど実力派俳優として第一線を走り続けている。最近の舞台に『国民の映画』『熱海殺人事件』『家庭内失踪』『世界』など。文化庁芸術祭賞演劇部門大賞、読売演劇大賞最優秀男優賞などを受賞。10年に紫綬褒章を受章。
 

〈公演情報〉
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風間杜夫ひとり芝居『ピース』
作・演出◇水谷龍二  
出演◇風間杜夫
●9/3〜10◎俳優座劇場
〈料金〉一般/前売¥4,500 当日¥5,000 U-25(25歳以下)/¥2,500 シニア(60歳以上)/¥4,000(全席指定・税込) 
〈お問い合わせ〉トム・プロジェクト 03-5371-1153  
http://www.tomproject.com/

地方公演(各地域の主催事業となります。お問い合わせは各問い合わせ先へ
●9/13◎西宮市・兵庫県立芸術文化センター TEL:0798-68-0255
●9/16◎小郡市・小郡市文化会館 TEL:0942-72-3737
●9/17◎津久見市・津久見市民会館 TEL:0972-82-9528
●9/22◎上伊那郡・中川文化センター TEL:0265-88-1005
●9/24◎小山市・小山市文化センター TEL:0285-22-9552
●9/26◎青森市・リンクモア平安閣市民ホール TEL:017-773-7300
●9/127◎盛岡市・盛岡劇場 TEL:019-622-2258)




【撮影◇岩田えり】




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舞台版「戦国BASARA」最新作 間もなく開幕! 眞嶋秀斗・井上正大インタビュー

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名だたる武将たちが活躍する大人気アクションゲーム「戦国BASARA」、その舞台版の最新作「斬劇『戦国BASARA 小田原征伐』」が、8月11日から20日までAiiA 2.5 Theater Tokyoにて、8月25日から27日まで大阪の立命館いばらきフューチャープラザ グランドホールにて上演される。
山中鹿之助などの新キャストも登場。なかでもストーリーで重要な役割を果たすのが、前作から伊達政宗役を演じている眞嶋秀斗と、全シリーズで片倉小十郎役を務めている井上正大。
「斬劇」と銘打った大迫力のシーン満載の、この舞台にかける2人が、その意気込みを語ってくれた「えんぶ8月号」のインタビューを、別バージョンの写真とともにご紹介する。

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井上正大・眞嶋秀斗

伊達主従として初めてがっつり組む2人

──いよいよ「戦国BASARA」の夏がやってきます。
眞嶋 今回は「小田原征伐」ということで、新キャラクターが出てきますし、新キャストの方々が参加します。より一層熱気に溢れた舞台になります。個人的には、時代がさかのぼることで、「蒼紅共闘」で真田幸村と組むことや、前作では映像出演された井上さんの片倉小十郎と、初めて伊達主従で組ませていただくことが楽しみです。
井上 眞嶋くんの政宗様と、初めてがっつり主従を組むことになります。会った時からすごくフィーリングが合ったので、僕も楽しみです。
──今回、役作りで変わる部分などは?
眞嶋 前作で初めて伊達政宗を演じさせていただいてから、政宗への愛が日に日に深まっていて、皆さんの求めている「戦国BASARA」を体感していただくにはどうすればいいのか、毎日考えています。それをしっかり表現できるように、殺陣の技術も磨いて、政宗のカリスマ性も発揮しながら、堂々と立てるようになりたい。
井上 今回、自分に課している挑戦は、殺陣を本当の真剣で演じているように見せること。小十郎は重心の低い達人のような殺陣を求められるのですが、試行錯誤していくうちに、無外流の居合い道場で真剣を握る機会がありました。やはり竹光とは扱い方や所作、抜刀や納刀の仕方、もちろん斬り方も全く違っていて、刃がブレてはいけないし、力を入れてはいけない。そういった経験をもとに、舞台上でリアリティーを追求していきたいですね。
眞嶋 すごいな。僕も六爪をもっと磨きたいですね。6本とも抜く角度が違っているので、自分のベストポジションを見つけたい。六爪を体の一部として戦えるようにしないと政宗ではないので、夏までにもっともっと六爪と一緒にいるようにします。
井上 殺陣をやっていて、実は大変なのは斬られる側で、斬られるリアクションがうまくいかないと斬る相手が弱く見えてしまう。そこが一番大変だしスタミナを消費するんです。だから、斬られる側を意識しつつ、斬る間合いやテンポを追求していきたいですね。
 
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「ギャップ」が面白い眞嶋秀斗、「漢」の井上正大
 
──お互いの印象を聞かせてください。
眞嶋 ズバリ「漢」ですね。どっしりとされているところは見習いたいです。それに、前作でゲスト回に出られた時に、台本を持って来て、「自分のシーンはこうしようか」など綿密に考えてきてくれて、とても嬉しかったんです。逆に何もできてない自分が情けなくて。
井上 全然情けなくなんかないから(笑)。眞嶋くんは、「ギャップ」が面白い。舞台上では凜とした政宗の印象が強いのに、舞台裏では声が細くて、「何なんだこのギャップは!」(笑)。
眞嶋 ははは(笑)。
井上 全キャストの中で、役と一番真逆のキャラクター(笑)。それに見かけよりハートが熱かったりするのも良いギャップです。
──そんなお二人に、この作品への意気込みを。
眞嶋 この夏、すべてをかける勢いで稽古に臨んでいきたいです。2度目の政宗としてパワーアップした姿を胸を張ってお見せしたい。座長としても役者としても、成長した姿を観ていただきたいです。小さいお子さんでも楽しめる作品ですし、「戦国BASARA」の世界を知らない方でも、キャラクターや殺陣など見どころがいっぱいあります。
井上 ゲームやアニメの「戦国BASARA」ファンの方々に、どれだけ満足していただけるか、そのために出演者全員がすごい熱量で挑んでいます。毎回進化しているし、今回もまた新しいチャレンジをしています。ぜひ舞台版ならではの魅力を劇場で体感してほしいです。
 
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井上正大・眞嶋秀斗

ましましゅうと◯95年生まれ。群馬県出身。15年よりミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズンの桃城武役として出演、活躍を続けている。そのほかの最近の舞台は、ミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』2〜信越地方よりアイをこめて〜など。昨年の斬劇『戦国BASARA 関ヶ原の戦い』から伊達政宗役を務めている。

いのうえまさひろ◯89年生まれ。神奈川県出身。08年に『ミュージカル・テニスの王子様』で初舞台。09年連続ドラマ『仮面ライダーディケイド』でテレビ初主演。映画版でも主役を務める。最近の舞台は、『警視庁抜刀課 vol.1』(W主演)など。舞台『戦国BASARA』では斬劇シリーズで片倉小十郎役を務めている。

 

〈公演情報〉
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斬劇『戦国BASARA』小田原征伐
原作◇CAPCOM
(「戦国BASARA」シリーズ)
構成・演出・映像◇ヨリコジュン
企画・原作監修◇小林裕幸(CAPCOM)、山本真(CAPCOM)
シナリオ協力◇松野出
出演◇眞嶋秀斗 松村龍之介 中尾拳也 沖野晃司/井上正大 椎名鯛造/小谷嘉一 他
●8/11〜20◎AiiA 2.5 Theater Tokyo
8/25〜27◎立命館いばらきフューチャープラザ グランドホール
〈料金〉7,900円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東京公演  サンライズプロモーション東京 0570-00-3337
        大阪公演 キョードーインフォメーション 0570-200-888
〈公演HP〉 
http://www.basara-st.com



【取材・文/竹下力 撮影/岩田えり】




えんぶ6号、7/10発売!






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ナチ政権下の市民の意識を題材にした青年座公演『旗を高く掲げよ』小豆畑雅一インタビュー

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まもなく 50 年を迎えようとしている青年座劇場。つねに新しい創造の場であるこの劇場で、今年は、演劇界注目の劇作家の新作が連続上演される。その第1弾として劇団チョコレートケーキの古川健が書き下ろす新作は、『旗を高く掲げよ』。タイトルは、国家社会主義ドイツ労働党(ナチス)の党歌から取っている。

1939年9月、ドイツ軍がポーランドに侵攻し第二次世界大戦が勃発。その前年から物語は始まる。歴史教師のハロルドは善良なる市民で、妻レナーテ、娘リーザ、妻の父コントラートとベルリンに暮らすミュラー家は、ごく一般的なドイツ人家庭。1938 年 11 月、ドイツ各地で起こったユダヤ人に対する組織的暴動事件(水晶の夜)直後、事件を受けて亡命を決意したユダヤ人の友人オットーが今後のドイツを憂える。レナーテはナチス支持者で、時流に乗らない夫に物足りなさを感じている。夫、妻、義父、夫の友人、妻の友人、それぞれの立場からナチスドイツを語る。その数日後、SS(ナチス親衛隊)の友人ペーターが、ハロルドに歴史の専門知識を活かした仕事をしてほしいとSSへの入隊を奨める。乗り気のレナーテに対し、二の足を踏むハロルドだったが、迷いながらもついに入隊を決断する…。

歴史上の出来事を題材に独自の視点で骨太な戯曲を創作する古川健。彼が今回掲げるテーマは「模範的なファシストは、模範的な市民でありえる」、言い換えれば、「模範的な市民は、模範的なファシストになりうる」。ナチス政権下、SS(ナチス親衛隊)という組織の中で生きる一般市民の意識変化を描き、現代日本人に警鐘を鳴らす。この作品で、物語の主人公ハロルド・ミュラーの同僚教師で、腕に障碍を持つブルーノ・コッホ役を演じる小豆畑雅一に、作品と俳優としての彼自身を語ってもらった。

掲載写真2


普通の人だからこそ変わっていくことがとても恐い

──古川健さんの作品に出演は初めてだそうですが、どんな印象がありましたか?
チョコレートケーキという劇団はすごいという話は前から聞いていて、いつかちゃんと見なくてはと思っていたところに、青年座の女優たちが参加しているユニットOn7が上演した『その頬、熱線に焼かれ』(作=古川健・演出=日澤雄介)を観ることができました。さすがというかすごい作品を書くなと思いました。
──今回はナチズムに席巻されていた頃のドイツを題材にしていますが、台本を読んで最初に感じたことは?
切り口がすごく面白いと思いました。市井の人たちの側から書いていて、面白いところを衝いているなと。そして、出てくる人たちはベルリンの街で暮らす普通の市民ばかりで、普通の人だからこそ彼らが変わっていくことがとても恐いと感じました。
──登場する人たちのほとんどは、状況の変化に気づきながらも流されていきますね。
大きな変化だと人は衝撃を受けると思いますが、少しずつ少しずつということで、気づかない。だからこそ恐ろしいですよね。それは今の時代にも言えることで、僕たちも色々なことでにじり寄られているなと。そういう流れで言えば、古川さんは歴史の切り取り方がすごくお上手で、大事な部分というか、状況が変化する部分をきちんと入れ込んで書いていますね。
──一番最初のシーンは1945年のベルリン陥落で、そこから〈水晶の夜〉の1938年に一気に戻りますね。そして何年かおきに状況の変化が描かれます。話の中心になるのは歴史教師のハロルドの一家で、彼らに関わる人たちがそれぞれの立場で出てきますが、小豆畑さんはブルーノ・コッホ役ですね。
ドイツ人でハロルドの友人、元同僚の教師です。腕に障碍を持っていて、そのせいでブルーノも少しずつ追い詰められていきます。ナチスが1933年に作った「遺伝病根絶法」によって、障碍者は生産性がない存在として扱われ、ユダヤ人ほどではありませんが、それに近い差別を受ける。そういう意味では(ユダヤ人とは)また違う切り口で、あの時代に起きたことを表現する存在だと思います。
──ハロルドとは仲の良い友人で、信頼し合っていますが、ハロルドの研究が上層部に気に入られたことでSS(ナチス親衛隊)に入隊することになり、2人はだんだん理解し合えなくなっていきますね。
ハロルドにしてみれば、単純に家族を食べさせるためとか喜ばせるためであり、戦争はいやだけど家族のためにということで流されていく。ハロルドがそうなっていく心理が、とてもうまく書かれています。ブルーノは先輩であるハロルドに憧れていた部分もあるのですが、そんなハロルドに次第に距離を置くようになる。ただ、ハロルドが最後までブルーノに対して人間同士として向き合っているのは救いです。

稽古場写真1
稽古場撮影:坂本正郁

言葉に過不足がなくすっと入ってくるセリフ

──セリフなどに古川さんならではというところは?
読みやすいですね。内容の面白さもありますが、すっと読めます。言葉に過不足がないというか、盛る部分もなければ足らないところもなくて、すごく真っ直ぐ入ってくるんです。だから覚えやすいし、気持ちの流れが繋がっていく。「てにをは」を苦労して覚えたりしなくても、言葉がすっと出やすいんです。
──政治的な用語や状況説明なども入ってきますね。
それも人間の日常に即した言い方に落とし込まれていて、難しい話なんだと距離を置かれてしまわないように、言っていることがわかるという普通の感覚を大事に書かれているのがすごいなと。
──今回の演出は黒岩亮さんですが、小豆畑さんは何度も一緒の舞台を作っていますね。
劇団の中でも多い方じゃないかと思います。特に僕にとってターニングポイントとなる大切な作品を数多く演出してもらっていて、毎回大きな課題を与えてくれます。黒岩作品で印象深かったのは、劇団に入って4年目ぐらいの『パートタイマー・秋子』(作=永井愛/2003年)です。それまでワーワー喋ったりする賑やかな役が多かったんですが、この時は元引きこもりの役で。仕事を高畑淳子さん演じる秋子に取って代られ、泣きながら帰っていくという役でした。キャスティングが決まった時、口数も少ないし、元引きこもりだし、こんなに喋らない役どうしようと、ちょっとショックだったんですが、僕なりに一生懸命やってみたら、周りの人に面白かったよと評価していただいて、役者として1つ変化するきっかけになりました。その他にも『夫婦レコード』(作=中島淳彦/2004年・06年)とか、『こんにゃくの花』(作=ふたくちつよし/2005年)。あと『切り子たちの秋』(作=ふたくちつよし/2011年)なども印象に残っています。
──日本の現代ものが多かった黒岩作品が、今回はナチスドイツで、ちょっと異色ですね。
そうですね。僕は戦争の真っ只中という芝居にはあまり出演したことがなくて…、ですから、色々な映画を見たりして勉強しているところです。やはりあの時代の状況を、少しでも知っておかないと想像できない部分もありますので。
──黒岩さんからブルーノ役への要望はありましたか?
流れているリズム感を大切にと。戦争中であることや歴史教師のリズム。話は逸れますが、僕、わざとではないんですけど、よく誤読をするんです。台本をもらった時に、正解を求めないというか、勝手に思い込んだり、わざと乱暴に読むというか、それを稽古初日にやったりするんです。
──どんな部分を誤読するのですか?
自分の役に関してで、わざとではないんですが、もし間違っててもいいんじゃないかなと。もしかしたら作家も演出家も、思っていないことに気付けるかもしれないと思ったり、正解ではないかもしれないと思いながらも、自分の解釈で読んでみるんです。それが黒岩さん的には真逆を行っていたりして(笑)、でも、これは真逆なんだなとわかれば反対に行けばいいわけですから。それで今、ダメ出しが来ている状態ですが、そういう無駄も作品を作っていく楽しみではあると思うし。
──そのぶん解釈が深まる気もしますが、でも演出家からすると手間がかかる役者だなと?
その通りです(笑)。でもそれでベクトルがはっきりしたりするので。それこそ本読みをやった時と今では全然違うから、あ、こっちなんだなと思いながらやっているところです。

稽古場写真2
稽古場撮影:坂本正郁

天才だと思っていたら、もっと凄い才能の持ち主がゴロゴロ

──小豆畑さんの俳優歴も伺いたいのですが、大学は東京経済大学ですが、演劇の世界へ入った経緯は?
僕は広島出身で、まず東京に出てくるという目的で大学に入ったんです。最初はサッカー部にいたんですが、寮の先輩がゼミでブレヒトと寺山修司を研究していて、演劇研究会を作るということになった時、僕はゼミ生じゃなかったんですけど、たまたまバイクで事故を起こしていてサッカーどころではなくなっていたんです。そこで「小豆畑、今度ウチに参加して芝居やらないか?」と声をかけられたんですね。誘われたときは何の疑問も持たずに、「演劇か…ついにやる時が来たか」ぐらいの感じで、「じゃあやります」と(笑)。
──演劇をやる自分に違和感がなかったわけですね。
なかったですね。でも母親に電話をして、「サッカー部やめて演劇やるんだ」と言ったら「あ、そう。あんた何でも中途半端じゃけんねえ」と言われて、「えっ?」と。「中途半端」という親の評価を19歳にして初めて知って(笑)、「え、俺けっこうがんばって来たのに」とカチンと来て、「よし、演劇がんばってやるぞ、このやろう」って(笑)。今思うと母親なりのエールの送り方だったかもしれないんですけど、僕にとってはショックでしたね。そこから本気でやりはじめて。演劇研究会の劇団は「みつばち」という名前で、元「猫のホテル」の菅原永二くんとか、もっと後輩には山中崇とかお笑いの「たんぽぽ」の川村エミコとか、今も活躍している人たちが参加していました。
──そこから青年座を受けた経緯は?
先輩が就職活動をし始めていきなり演劇部が2人だけになって、「どうする?」となった時に、とにかく外に目を向けようということになったんです。当時、知り合いになった青年劇場の勉強会によく参加していたのですが、そのうち代表の福島明夫さんから「うち(青年劇場)に来るか?」と誘われたんです。「お前はバカだけど野心があるから制作をやってみないか?」と言われて。それで「わかりました」と言って内定みたいな感じになったんですが、その年の12月に卒業公演をやりまして、そこでお客さんが芝居を観て泣いているのを見ちゃったんですね。その時に、もうちょっと役者で勝負したいなと思ったんです。それで内定をお断りして、アメリカに行って俳優修業したいと福島さんに相談したら、「それより日本の劇団に入ってちゃんと力つけた方がいい。青年座か文学座の研究所を受けてみろ。受かったら大したもんだ」と言われて、「わかりました」と。両方とも受験して受かったんですが、その頃の青年座には、西田敏行さんがいらっしゃったり、竹中直人さんもご出身だったので、自分のタイプを考えると青年座の方がいいかなと思って青年座の研究所に入ったんです。
――その頃は小劇場演劇も隆んになっていたと思いますが、新劇を選んだのは?
大学の後輩もびっくりしてました。「え、新劇に行くんですか?」って。「劇団黒テント」に大学の先輩がいて、よく手伝いに行っていたので、小豆畑は小劇場へ行くみたいな空気はあったんです。でも「癖をちゃんと落としてやらないと長く続けられないから」と福島さんにも言われていましたし、やっぱり俳優を長くやりたかったので、基本から身に付けたいと思ったんです。
──青年座の研究所に入ってよかったなと思うことは?
具体的なエピソードを挙げていけばきりがないのですが、色々な意味で自分を知ることになったことですね。大学で演劇やってた頃は自分は天才だと思っていたんです。でも劇団にはもっと凄い才能の持ち主がゴロゴロいて、自分は凡人なんだと嫌と言うほど思い知らされた。そこから、背伸びしてもしょうがない。自分の声と体で、できることを精一杯するしかない。毎日ひたすら稽古するしかないと。そう思うようになってからは気持ちが楽になりました。
──色々なプロセスを経て、今、俳優のどういうところが面白いですか。
これは前からずっと思っていることなんですけど、お客さんの前でやることが大事で、観客席の空気を感じながらやるのがものすごく楽しい。お客さんを掴んだとか、掴めてないなら違うふうにやってみるとか、その日によってマイナーチェンジしてみたり、お客さんと駆け引きしたり、それがちゃんとできると楽しい。もちろん映像も面白さはあるんですけど、舞台がやめられないのはそこなんだろうなと。お客さんと一緒に呼吸できることが楽しいんです。

稽古場写真3
稽古場撮影:坂本正郁
 
歴史を詳しく知らない人でも、この芝居で何かを感じてもらえたら

──今、19年目ですが、青年座にいてよかったなと思うところは?
青年座は作品のジャンルがたくさんあります。家庭劇もあれば、歴史劇もあるし、コメディも文学作品もあります。幅広く色々なことにトライできるチャンスがある。それから、僕は今、演劇ワークショップを開催したり、舞芸(舞台芸術学院)で講師をしているんですが、そういう活動をさせてもらえることも有り難いなと思います。
──教えることで得るものも多いでしょうね?
生徒たちからはすごいエネルギーを貰っています。それに教えていると、演出家の言うことが少しは咀嚼できるようになって、テクニカル的にも上がったという実感があります。
──劇団でも中堅になって、大きな役どころを次々に演じることが多くなりました。これからの課題や目標は?
実は3年前からやっと、劇団の財産演目、『ブンナよ、木からおりてこい』(作=水上勉/1978年〜)に出られるようになったんです。僕の場合、17年かかりました。青年座に入った時、ちょうど「第3次ブンナ」(演出=鈴木完一郎/1992年―2000年)の公演中でしたが、それを観た時「僕にはできない」と思ったんです。命を扱う作品で、すごくシンプルで骨太で、今の僕には命を扱う作品はできないと。自分を天才だと思っていた当時の僕がそう思ったんです。あれから19年。今は「第5次ブンナ」(演出=磯村純/2012年〜)に「百舌」役で出演しています。
──『ブンナよ、木からおりてこい』は、1978年初演ということは来年で40年目を迎えるのですね。
「第5次ブンナ」としては今年10月の新国立劇場公演で一区切りとなります。ですから自分でも集大成にしたいなと思っています。
──演じてみて、やはり特別の作品だという手応えがありますか?
肉体的にも精神的にも、小手先が通じないというか、小手先でやったところで見てもらえないというか、芝居の握力がいるんです。芯にある太い何かを掴んで離さないでいないと、振り回されちゃうんです。それだけに終わった後、ほどくにも握力がいる。そういう役であり作品で、だからこそ劇団の財産であり、残り続けるのだなと。
──その経験を踏まえて、さらに目標も高くなったのでは?
そうですね。先ほど中堅と言っていただきましたが、自分ではいつも「若手のトップです」と言ってて(笑)。ただ、気持ちはそうでも年齢は上がって来ているので、今まで色々な演出家と一緒にやれてきた実績を生かしながら、これからも色々変化することを目標にしたいですね。
─今回もどんなブルーノになるか楽しみです。最後にメッセージをぜひ。
今回の『旗を高く掲げよ』というタイトルは、知らない人は知らないで過ぎていってしまうかもしれませんが、知っている人は色々なことを受け取るだろうなと思います。もちろん歴史を詳しく知らない人でも、この芝居を観て、そこから何かを感じてもらえればと思いますし、ナチズムの時代が背景にありますが、普通の人間の日常が描かれているので、観ている方にもきっと通じるものがあると思います。台本がとにかく面白くて、読みやすいので、これが面白くなかったら僕らの責任なので。
──自分でハードルを。
上げましたね(笑)。でも上げすぎたら下をくぐればいいので(笑)。いや、本当に素晴らしい本で、古川健さん独自の視点から描かれていますので、僕らはその世界をしっかり伝えられるようにがんばります。
 

掲載写真3
あずはたまさかず○広島県出身、1999年青年座入団。最近の主な舞台作品は、『フォーカード』(2016年、作=鈴木聡  演出=宮田慶子)『ブンナよ、木からおりてこい』(2015年〜17年、作=水上勉  補綴=小松幹生  演出=磯村純)『山猫からの手紙』(2015年、作=別役実 演出=伊藤大)『横濱短篇ホテル』(2013年・16年/作=マキノノゾミ 演出=宮田慶子)など。この10月には『ブンナよ、木からおりてこい』新国立劇場公演が控えている。
 

〈公演情報〉
青年座『旗を高く掲げよ』チラシ 
劇団青年座 227 回公演
『旗を高く掲げよ』
作◇古川健(劇団チョコレートケーキ)
演出◇黒岩亮
出演◇山野史人 石母田史朗 小豆畑雅一 豊田茂 嶋田翔平 鹿野宗健 渕野陽子 松熊つる松 田上唯 市橋恵
●7/28〜8/6◎青年座劇場
〈料金〉一般4,200円 U25[25歳以下]3,000円(全席指定・税込)※初日割引(7/28)3,000円
〈お問い合わせ〉劇団青年座 0120-291-481(チケット専用 11時〜18時、土日祝日除く)
〈青年座HP〉http://seinenza.com
 



【取材・文/榊原和子 撮影/竹下力】


 

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