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『向日葵かっちゃん』舞台化決定!

インタビュー

岡田達也ロングインタビュー「現役感を失わずに いつまでも舞台に立っていたい」

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俳優・岡田達也が演劇集団キャラメルボックスへ入団したのは1992年。演技経験ゼロの24歳が演劇と格闘すること25年。そこにはきっと、数え切れない程の喜怒哀楽が渦巻いていたに違いない。限られた時間内にその全てを訊くことは出来ないが、岡田達也の“現在”を知るべく、ロングインタビューをオファーした。現在から過去へ、過去から未来へ。心優しき俳優が語る、25年+未来の物語――。(えんぶ6月号より転載)

僕から畑中へ連絡して
「絶対に出ろ」と


――本日はよろしくお願い致します。岡田さんは92年にキャラメルボックスへ入団しているので、今年が入団25年目になるとか。
 そうなんですよ。人生で最も長く続いたことが演劇になっちゃいました。
――キャラメルボックス歴イコール俳優歴で合ってます?
 はい、そうなります。25年です。
――そういった節目のエピソードもインタビュー後半でお聞き出来ればと思います。まずは近作のお話から。17年3月には『鍵泥棒のメソッド』に出演されましたが、これに関する振り返りをお願いします。
 『鍵泥棒〜』は初演の評判が非常に良く、且つ僕自身も手応えを感じていたものですから、再演をやると聞かされた時は、正直「出たいな」と思いました。後に改めて出演オファーをもらい、二つ返事で「やります」と答えたのですが、更に「今回はきみと畑中(智行)のコンビを検討している」と言われて、これは尚更やりたいなと。畑中とがっつり絡む機会はここ10年位なかったし、そこに大きな魅力を感じました。その後すぐ、僕から畑中へ連絡して「お前のところへ『鍵泥棒〜』の出演オファーがいくはずだから、絶対に出ろ」と。メインキャストへのオファーは、僕と畑中と、あと実川(貴美子)に出ていて、実川は少し迷ったらしいのですが、僕が中野の居酒屋へ連れて行き「何が起きても俺と畑中が何とかしてやるから絶対に出ろ」と説得しました。

だったら舞台上で
相まみえてみたい


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キャラメルボックス2017スプリングツアー
『鍵泥棒のメソッド』
原作◇内田けんじ(『鍵泥棒のメソッド』) 脚本・演出◇成井豊
出演◇畑中智行 実川貴美子 岡田達也 西川浩幸 大森美紀子 森めぐみ 金城あさみ 大滝真実
山雄也 竹鼻優太 山根翼/石橋徹郎(文学座) 久保田秀敏
2017/3/2〜12◎サンシャイン劇場、3/18〜20◎梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ


――そういう説得は普段からよくやられる?
 いや、このチャンスを逃すと次に畑中と出来るのはいつになるのだろう? という想いがあったので、本公演でがっつり組めるチャンスは逃すべきではないと、それで電話をしました。普段はこんなこと言わないです。
――それ故に、畑中さんや実川さんに対する想いも込められているのかな? と。
 それもあります。出演作品を観ていて、二人とも良いキャリアを重ねてきているなぁと感じていたので、だったら舞台上で相まみえてみたいなと。それは素直な気持ちですね。畑中なんて、あまりにも共演する機会が少ないから、思い切って二人で公演をやろうか? と話していたんですよ。二人芝居用の台本も用意して、これで稽古場公演をやろうというところまで思い描いていたものですから。こういう話をしていると、まるで僕が畑中のことを好きみたいですが、そんなことはないですよ。
――いやいや、いいじゃないですか。
 ま、アイツはオレのこと好きかもしれないけど(笑)。
――間違いない(笑)。岡田さんプロデュースで二人芝居をやろうと思わせる程、俳優・畑中智行が存在感を放っていたということですよね。
 これ、文字にしにくいかもしれないけど、やはり、どこか似ている所が多いんです。僕も畑中も決して上手い俳優ではなくて、おそらく劇団へ奉仕する力が非常に強い二人なんですよ。我々の存在価値は多分そこにしかない。だから、彼の悩みも苦悩もよく分かる。……あれ、何の話でしたっけ?(笑)。とにかく、そういう流れでメインキャストの三人が決まり、僕としてはその時点で満足がいくというか、久しくがっつり絡んでいないメンバーとやれるというだけで非常に楽しみな公演でした。いざ幕を開けてみたら、新人抜擢ステージもあり想像以上に大変でしたが、若手を抜擢して経験を積ませるというのはキャラメルボックスの常套手段でもありましたし、結果的にやって良かったなぁと思っています。

多面性、それに尽きます

――岡田さん待望の共演。感想などはいかがでしょう?
 ええっと……。うーんとねぇ……(熟考)。畑中に関して言うと、以前より「俳優のこだわり」みたいなことが明確に出てきていると感じました。俳優としての理論も昔より確立しているし、良い意味で、より頑固な俳優になった印象が。それは事前に予想していたので、その意味では想定の範囲内でもありましたし、共演自体はすごく楽しかったです。
――岡田さん自身のやり甲斐はどうでした? 「コンドウ」は多面性が求められるキャラクターですよね。
 やり甲斐のある役でしたねー。多面性、それに尽きます。僕、コンドウの記憶がない時は内股で、記憶がある時はがに股で歩いていて、要は身体表現すら変えちゃった。ただ、記憶喪失になった人間が歩き方まで変わるのか? と問われたら、医学的見地も含めて、そこはよく分かりません。そういうことをお客さんにつつかれたら困るなぁと思ったけれど、でもこれは演劇なんだからと、歩き方もチェンジしてしまおうと決めました。映画の香川(照之)さんもやっていることですし、「僕が観客なら面白いと思うこと」に挑戦出来たので、演じた本人は満足しています。お客様にも概ね好評でした。アンケートで「本当に記憶を失っているように見えた」とか「あの演じ分けは素晴らしかった」とか、珍しく褒めて頂けて、とても嬉しかったです。

「でもこれ、普段のお前ら
まんまだろっ!」


――岡田さんが思う、『鍵泥棒〜』のベストシーンを挙げて頂くとしたら?
 一個人としては多面性が見える面白さが好みだし、演じる楽しさもそこに尽きるのですが、シーンとしてたっぷり楽しんだという意味では、畑中と二人で「刺す練習をするシーン」。あれって最早二人の日常をそのままやっているような感覚で、稽古場で初めてやった時も、成井(豊)さんがめちゃめちゃ笑ってくれて、「でもこれ、普段のお前らまんまだろっ!」と。
――役柄同士の掛け合いから俳優同士の関係性が透けて見えることがプラスに転じる。演劇特有の魅力だと思います。
 あくまで付加価値として捉えて楽しんでもらえたらイイですね。ボケる畑中も突っ込む僕も、役柄を越えて、役者達本人が楽しんじゃっているから。「……お客さんは置いてけぼりかも」「いや、大丈夫。ついて来てくれる!」とか言いながら、二人で丁々発止やったのは、とても、とても、楽しい時間でした。

記号ではない「何か」を
乗せていくことで


――そして、今号のえんぶが発売される頃には『スキップ』の出演を終えていると思います。『スキップ』には04年に続いて二度目の出演で、同じ「桜木」役です。
 役の年齢なら今の僕の方が全然近いので、年相応にやれるのではないかと思っています。13年前はちょっと背伸びをしながらやっていました。アプローチの方法が具体的にどう変わるか? というよりも、あれから13年経ち、自分の中から何が出てくるのだろう? ということが僕自身の楽しみです。
――桜木という人物の魅力について、どのように考えていますか?
 とても良い人で、素敵な男性なんですよ。包容力があって、優しくて。演劇でやるのであれば、僕なんかよりもっと「おじさん然とした人」が適任だと思う。僕も年齢的には十分おじさんなんですが、記号としてのおじさん感というか、見た目とかフォルムとか、そういう問題。だとしたら、自分は記号ではない「何か」を乗せていくことで桜木に近づいていけたらなぁと、そんなことを考えています。13年前も同じ葛藤をしましたし、それは今でも思うことです。
――僕が思うに、ですけど、桜木の外見というより、彼の温かさや思いやりの深さ、そういう内面性が岡田さんに通じるのではないでしょうか?
 あ、嬉しいことを。ありがとうございます!

初演には
絶対負けたくないですから


――で、気付いたのですが、『鍵泥棒のメソッド』も、『スキップ』も、それから『水平線の歩き方』なども、岡田さんは同じ役を複数回担われることが多いですね。これは「あの役は岡田達也しかいない!」と、関係者や観客から寄せられる期待の高さを表しているのでは?
 おお〜。今度何かご馳走します。
――(笑)。再演で同じ配役につくということ、岡田さん自身はどう思われます?
 そうですねぇ。新しい役にチャレンジしたいという欲もありますし、再演の機会を与えてもらったらどこまで掘れるだろう、という欲もあります。だから、良いも悪いも両方あるし、もちろんプレッシャーもあります。初演は美化される傾向が強いので、それを超えようとも、超えたいとも思う。やはり、初演には絶対負けたくないですから。僕一人の力でどうこう言うことではありませんが、「あの作品は昔の方が良かった」とは言われたくない。絶対に。
――おそらく『スキップ』にも、そういう戦いがあるのでしょうね。
 だと思います。今回の座組で言うと、初演の『スキップ』に出た俳優は僕だけなんですよ。「初演を超えたい」という想いは、他の出演者よりやや大きいかもしれない。かと言って全く別物になるとも想像しにくいし、初演と同じ魅力が詰まった作品にしたいと考えています。

あの関係性が大好きで、
それが一番の要因です


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――俳優生活25周年のお話も。キャラメルボックスへ入団して25年。この時間経過について考えることはありますか?
 うーん、考えたり考えなかったり、ですかね。あっと言う間とは思わないけれど、長く続けてしまったなぁというのが正直な気持ちで。気が付いたら抜けられなくなっていた、という。
――25年を振り返り、「もう一度やってみたい」と思う役柄や作品などは?
 僕、そういうこだわりが少ないんですよねぇ。うーん……。これ、もう叶わないけれど、『TRUTH』を初演のメンバーでもう一度やってみたいかな。若き上田藩士達の青春群像劇で、僕、上川隆也、大内厚雄、菅野良一、辞めちゃった南塚康弘と清水誉雄、その六人が車座になって話しているシーンが、とても印象深いです。あれは劇団内部の立ち位置をそのまま当て書きしてもらっているんですよ。自分で言うのも変だけど、僕がリーダー役で、上川さんはテレビの仕事で既に有名になっていたから、ちょっと跳ねっ返りみたいな役、大内は無口で頭が良く、菅野は理系で理屈ばかりこねて、南塚は身体が利いて真っ直ぐな性格、清水は当時まだ若手だったけど、年上の奥様がいたのでそういう役、この六人の師匠が西川浩幸、これは当時の劇団内縮図がそのまま舞台に繋がっていました。あの関係性が大好きで、それが一番の要因です。それから、『TRUTH』はキャラメルボックスが書いた初めての悲劇。救いのない物語で、「これはお客様にどう受け止められるのだろう?」と思っていたから……、神戸公演初日のカーテンコール、あれは一生忘れられないです。やっぱり当て書きは強いですよ。もう無理だけど、出来ることならあのメンバーでもう一度やってみたい。

役作りも
していないんじゃないかなぁ?


――これまで演じてきたキャラクターの中で、最もご自分に近いと感じるキャラは?
 そういう意味では『水平線〜』ですかね。あれも当て書きです。偶然だけど、成井さんと僕の境遇が似ていて、母親が看護師で、父親がダメな人。似たような環境で幼少期を過ごしてきたから、実体験も込みで書いてもらいました。だからフィットしない方がおかしいというか、正直僕、役作りもしていないんじゃないかなぁ? 台詞を覚えて喋っているだけなので、乱暴な言い方ですけど、「役作りはどのように?」と質問されたら、「……してないかも」と答えます。内面というか、性格はさほど近くないですけど。僕は口下手でもないですし。「役作りをしていない」なんて言ったら(『水平線〜』で共演した)岡田さつきに怒られそう。「アンタ役作りやんなさいよ!」って。
――やはりどの役も「岡田達也じゃないと!」という印象がありますね。『水平線〜』は是非もう一度観たいです。
 でも僕、来年50歳なので、もう幸一はやれないでしょう。あれは三回やらせて頂いたし、しゃぶりつくした感があります(笑)。

もう少し頑張ってみようと、
考え直した瞬間でした


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――来年50歳ということは、今年が40代最後の年。気が早いかもしれませんが、「40代の岡田達也」はどうでした?
 去年だったかな、キャラメルボックスでの出演ステージ数が二千五百を越えて、外部出演を加えると、おそらく生涯ステージ数三千は越えている。三千を越えたのは劇団の中でも西川さん、坂口(理恵)さん、僕くらいで、こうなってくると、普段から「芝居が楽しいと思えない」と公言している僕ですが、最近は「ここまできたら、意地で誰よりも板の上に立ってやろう」と思うようになりました。俳優能力で勝負出来ないのなら、現役感で勝負してやろうと。隙間産業でいいから誰もやらないような仕事を請けて、いつまでも舞台の上に立ち続ける俳優を目指すというのはどうだ? と今は考えています。ほんと、楽しくないくせに(笑)。先日お亡くなりになったカクスコの井之上隆志さんと『樹海』というお芝居で共演した際、その頃の僕は気持ちがあまり前を向かなくて、飲んだ席で「自分なんかが舞台に立っていて良いのだろうかと悩むんです」と、ついポロッと言っちゃったんです。そうしたら井之上さんが「いやいや、岡田くんがいるから自分の面白さが引き立たせてもらえるんだよ。拾ったりつっこんだりしてもらえなかったら、舞台上の僕は単なるヘンな人になってしまう。だけど、岡田くんはどんな球を投げても必ず受けてくれる。それは俳優として大切な仕事じゃないのかな」と言って下さった。その一言で、気持ちがスーッと楽になりました。あれは本当に救われた。だったらもう少し頑張ってみようと、考え直した瞬間でした。

このメンバーで五人芝居が
出来ないかな? と


――そしていよいよ、来年から「50代の岡田達也」が始まります。どんな予想をしていますか?
 いやー、想像つかないですよ。人間ドックへ行っても、まぁ元気なんです。内蔵に悪いところがひとつもなく、ガンマGTPもとても低い。だから僕、あまり二日酔いにならないんですね。唯一腰痛持ちで腰が若干とかありますけど、内蔵が元気なうちは大きなアクシデントのない限り、舞台に立てるはずなので。現役感を失わずいつまでも舞台に立っていたいというスタンスは、50歳になっても基本変わらないと思う。もしかしたら今よりもうちょっとだけお芝居が好きになっているかもしれない。そうあって欲しいなぁと願いながら、舞台に立っているのではないでしょうか。
――今後やってみたい役、挑戦したいことは?
 なかなか叶わないと思うけれど、僕、カクスコが大好きなので、ああいう世界観のお芝居をいつかやってみたいと思っています。それと、飲む度にこの話になるのですが、西川さん、近江谷(太朗)さん、上川さん、自分、今は芝居を辞めちゃった今井義博、このメンバーで五人芝居が出来ないかな? と。
――それ、是非実現して下さい!
 西川さんと近江谷さんはOKで、西川さんに至っては「俺が脚本を書く」とまで言ってくれて。引退しちゃった今井くんが少し渋っているのと、あと上川さんのギャランティの問題かな(笑)。でも良くないですか? キャラメルオールドの男五人芝居。それこそカクスコ的な世界観で。
――夢しかないですね、もう。純度1 00%の夢がたっぷり詰まったプラン。
 酔うといつもこの話になる(笑)。「上川さんにいくら払えばいいんだろう?」みたいな。

少なくともそっぽを
向かれているわけじゃない


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――前回岡田さんにロングインタビューをしたのは09年で、その時はこんなことを仰っていました。「いつの日か『俺は演劇が好きだ!』と言えて、演劇の神様が振り向いてくれるんじゃないかという、そんな夢見がちなことを思ったりします」。
 そんなこと言ってました? 全然変わらないなぁ。すごい。
――その取材から今日まで、演劇の神様が振り向いてくれた瞬間はありましたか?
 僕自身の基本的なスタンスは、その言葉とずれていません。でも……、多少なりとも、神様には嫌われていないだろうと、思えるようになりました。そうじゃないと今、舞台の上にいられないので。少なくともそっぽを向かれているわけじゃないなと。相変わらず振り向いてはもらえないですが(笑)。やはり、意地だけでここまで来ましたからねぇ。演劇が好きで選んだ道じゃないからこそ、いざ入ってみて、「自分はこんなにもお芝居が出来ないのか?」と、やればやるほどコンプレックスが強くなり、それを何とか払拭しようと……。本当は辞めちゃうのが一番良いのですが、それをやったら後悔すると思うので。この「俺は芝居が出来ない」というコンプレックスを1ミリでも剥がしていきたいなぁと、その気持ちが僕の原動力になっています。

もうちょっとだけ
上手くなりたい。その連続です


――岡田さんほどのキャリアでも、そういうことを考える日がある?
 こういう特殊技能の仕事って、やればやるほど見えてくるものがあり、コレは出来るようになったけどアレはまだ出来ないとか、本当にきりがないんです。悔しさばかり残るから。こんなところで逃げ出しちゃったら絶対後悔すると思いつつ、もう少しきちんとお芝居が出来るようになるまで頑張らないとダメだと自分を諭したり。俳優としてここまで生きてきちゃったので、後悔したくないですからね。いま芝居を放りだしたら絶対後悔する。もうちょっと、もうちょっとだけ、上手くなりたい。その連続です。
――これを読んでいる読者も、そして僕も、そういう気持ちを共有出来ると思います。どんな分野にもありますよね。慣れた分だけその先が見えて、ゴールなんてどこにもない。ここまでやってきた自信と、その遥か先を見渡す絶望と。
 自信とコンプレックス、両方あるといいのでしょうし、それが健全だと思います。自信の塊みたいな人のお芝居は観たくないし、コンプレックスの塊みたいな人のお芝居も観たくない。すみません、なんか暗い話になっちゃった。
――とんでもない。とても興味深いです。今日の続きをまたいつか聞かせて下さい。
 もちろん。僕も楽しみにしています。
――最後に、どんな視点でも構いませんので、岡田達也の近年の野望をひとつ。
 野望はアレです。演劇をやりながら鳥取県知事をやりながら串揚げの店をやるという。
――あはは(笑)。完璧な人生ですね。
 みっつを成立させる。これが野望です。飲み屋と県知事と俳優をやっている日本人は誰もいませんから。これです!


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おかだたつや○68年2月13日生まれ。鳥取県鳥取市出身。俳優。鳥取工業高校から大阪芸術大学芸術学部放送学科へ進学。卒業後、憧れだった東京へ上京。サラリーマンをやりながら演劇鑑賞を始め、後にキャラメルボックス作品と出会う。92年に演劇集団キャラメルボックスへ入団。93年、『四月になれば彼女は』で初舞台を踏む。以降、劇団を代表する俳優のひとりとして数多くの作品に出演。近年は外部公演にも積極的に参加し、活躍の場を広げている。

【次回予定】
プリエールプロデュース
『世襲戦隊カゾクマン供7/21〜30◎赤坂RED/THEATER
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作・演出◇田村孝裕(ONEOR8)
出演◇山口良一 熊谷真実 芋洗坂係長 西山水木 田中真弓 岡田達也 曽世海司 他
7/21〜30◎赤坂RED/THEATER

文◇園田喬し 撮影◇曳野若菜(人物)伊東和則(舞台)



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藤山直美さん、大船に乗った気持ちで!『お江戸みやげ』波乃久里子・市村萬次郎が成功祈願&記者懇親会レポート  

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新橋演舞場7月公演は、「七月名作喜劇公演」と銘打ち、『お江戸みやげ』と『紺屋と高尾』の喜劇2作品を7月3日から上演する(25日まで)。
『お江戸みやげ』は、故・川口松太郎の名作喜劇。初演は1961年12月の明治座で、17世中村勘三郎がお辻を演じた。
梅が咲く「湯島天神」境内にやってきた行商人のお辻(波乃久里子)とおゆう(市村萬次郎)。芝居見物をした2人だが、お辻は人気役者の阪東栄紫(喜多村緑郎)に心を奪われてしまい…。

本来なら『お江戸みやげ』のお辻は、藤山直美が務める予定だったが、病気により降板。17世勘三郎の長女・波乃久里子が、父の当たり役でもあったお辻に挑む。お辻の相方のおゆうは歌舞伎から市村萬次郎。そのほかに、坂東栄紫は『黒蜥蜴』での好演も記憶に新しい喜多村緑郎、お紺にはテレビ、舞台でも活躍する小林綾子、常盤津文字辰には歌手として女優としても活動している仁支川峰子が扮し、舞台から病床の藤山直美を支える。

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6月12日、作品の舞台となる「湯島天神」にて、波乃久里子と市村萬次郎が『お江戸みやげ』の成功祈願と記者懇親会を行った。

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初夏の日差しが眩しい湯島天神の境内には、外国人観光客から学生まで、参拝客で賑わっている。参集殿から本殿へとかかる橋を、松竹株式会社取締役の西村幸記、新橋演舞場支配人の千田学、『お江戸みやげ』の演出を手がける大場正昭が神主と一緒に歩いたあと、波乃久里子と市村萬次郎が、お辻とおゆうのコンビそのまま、にこやかに笑いながら渡り、本殿に入ると成功祈願が始まった。
この神事を終えた波乃久里子、市村萬次郎の囲みインタビューが行われた。

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【囲みインタビュー】
 
波乃久里子
初日の前には必ずここに来るのですが、今日はこんなに清々しい空気で、お巫女さんの鈴も涼やかで、大入り間違いないと思いました。私は台本を神様に奉納して来ました。1961年(昭和36年)の初演の時は私は16歳で、明治座で市川翠扇のおばさまと父で観ました。その時に泣いて笑いましたから、いい作品だったと子供心に思いました。縁があって、直美さんの代役になりましたので、今日も直美さんが、守ってくれているような気がしました。以前、(7世 中村)芝翫のお兄様と中村富十郎さんがやっていらっしゃったのがビデオに残っていて、拝見させていただいております。二枚目の方なのに、見せ場で方言をつかっていてとても面白かったですね。この話は、悪人がぜんぜん出て来ませんよね。だから情の部分で泣かせるお芝居じゃないでしょうか。一人でも多くの方がいらっしゃってくれたら嬉しいと思います。演舞場へお越しくださいますようお願いいたします。

市村萬次郎
お参りさせていただいて清々しい気分になって、これで気持ちを新たに舞台稽古に入っていけるような気がしました。見どころは人が人を好きになるということですね。お芝居を観る方も自分の初恋の思い出があると思います。何かの拍子に人に惚れてしまう、その気持ちを思い出して観ていただいたら、面白いんじゃないかな。とにかくみんなで集まって楽しい舞台を作っていきます。ぜひご覧になってください。
 
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【記者懇親会】
 
成功祈願の後、大場正昭、波乃久里子、市村萬次郎を囲んで記者懇親会が行われた。

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大場正昭(『お江戸みやげ』演出)
僕は劇団新派で昭和49年から文芸部に所属しております。川口松太郎先生は、第1回の直木賞作家で、新派にたくさんの作品をお書きになられた。『明治一代女』、『風流深川唄』など花柳章太郎らの新生新派の俳優と二人三脚で今の新派を作り上げたんです。川口先生との思い出は、『遊女夕霧』の時に、客電を点つけるキューを出すことが僕の役目だったのですが、早いと言われたんですね。日本人は涙を見せるのは恥ずかしいから少し間を置けと言われた。遊女が涙を拭ったぐらいで客電が点くのがいいんだとおっしゃってもらって、日本人の心情を大切にすることを教えられました。例えば、関西には北条秀司という新派の大家がいらっしゃいました。北条先生は記録を残す方で、一語一句が骨董品だからと、きちっと大切にするんです。川口先生は、俺の書いたものは残らない、いつか消えてなくなるよという江戸っ子の資質を持った人ですね。そんな川口先生の『お江戸みやげ』を演出させていただいたのは、震災の年の4月公演でした。このときは、歌舞伎座を建て替えるため、新橋演舞場での公演でしたからご縁を感じますね。お客さんもまばらでしたが、後々になって、作家の赤川次郎さんたちが『お江戸みやげ』は面白いと書いていらっしゃって、川口松太郎さんはすごいなと改めて思いました。初演が波乃久里子さんのお父さんである17世の勘三郎さんと水谷八重子さんのお父さんである守田勘弥さんで、清川虹子さんがお出になっていらっしゃいます。久里子さんの弟で亡くなられた18世勘三郎さんが、初演のテープを持っていらっしゃって、すごい面白いよと伺ったことがあります。弟さんができなかったことが、お姉さんがやられると思うと、お父さんも喜んでいらっしゃると思います。この作品は僕の集大成としてみせたいですね。

波乃久里子
みなさまお集まりいただきうれしゅうございます。川口松太郎先生とお会いしたのは、私が15歳の時で、明治座の歌舞伎でした。『筆屋幸兵衞』を上演していて、その時のお雪を川口先生がご覧になってくださったのが最初です。「女性は歌舞伎には必要ないから新派に来い」と言われたんです。それから、川口先生の作品は明けても暮れてもやるようになって、私の父のような人なんです。川口先生の台本を読むと舞台はそれがすべてだと感じます。この間も、(7世)芝翫のお兄様の奥様にお電話して、どうやってらっしゃったんですかと聞いたら、とても楽しんでらっしゃったそうです。芝翫のお兄様は二枚目なのに、ものすごく楽しんでチャーミングで、喜劇性がある。私の父についた看護婦さんが、方言がある方で、それを芝翫のお兄さんが言葉を真似して作ったとおっしゃっていましたね。その方言は真似させていただこうと思います。直美さんには大船に乗った気持ちでいてくださいと言いたいです。

市村萬次郎
『お江戸みやげ』は、紋吉役で三津五郎さんと鴈治郎さんの時に出させていただいて2回目です。おゆうは初役でやらせていただきます。私自身、お酒が好きですが、おゆうもお酒が好きなので、なるべく普段のようにやらせていただければと思います。やはり人を好きになることは素敵なことだと思うんです。年を取っても同じことですね。人に恋い焦がれるのは、そばで見ているのも楽しいことだと思います。人を恋する気持ちがほんわり伝わればいいかな。最初に出演させていただいたときは、歌舞伎の世話物の女方の感じでできましたので、自分の持っている普通のお芝居、歌舞伎の要素が入った芝居を基本に沿って演じてみたいと思います。

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【質疑応答】

──女方がやってきた役をやるということで気をつけることはありますか。
波乃 女方は、オーバーな仕草もエネルギーが違うから見栄えがするんです。だから水谷八重子先生は、女方の演技を女優がするくらいなら女方で見たいわとおっしゃっていました。つまり、女優は女方の真似をしちゃいけないんですね。芝翫のお兄さんは、人間の真髄を見せるから、女方よりも人間を出すので、そちらに近づけたらと思います。それでも演じるのは難しくて、長谷川伸先生はどうして女優ではダメなんですかと川口先生におっしゃったら、「女方でしか書いてない」とおっしゃった。ですから、女優でしかできないやり方で演じていきたいですね。芝翫のお兄さんを目標にして頑張りたいです。
――お酒を飲むと気持ちの大きくなる役ですね。
波乃 私は喧嘩酒で、弟は私を見て、酒をやめようと思ったぐらい(笑)。父も好きでしたね。終生、「一番の酒飲みは俺で、女方では玉三郎だ」って自慢していましたね。

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――市村さんは前回出た時のご印象は。
市村 芝居自体は、お酒が好きなのでその雰囲気でやらせていただきました。今回はビデオがありますので、久里子さんと息が合うように、基本的には古典の形で行きたいですね。役者が持っている個性が自然にでればいいなと思っています。女形を意識しないで、お互いが役を作っていけば、男女関係なく作っていけるかなと思います。
――とても気のいい役ですね。
市村 そうですね。お酒を飲んで明るくなるけれど、冷静ですし、大阪弁ですしね。一番困るのは語尾ですね。捨て台詞がとまってしまう。
波乃 捨て台詞がちゃんと言えたら一人前になれますね。
市村 語尾が上がるんですよね。今回は台本がありますから安心しています。川口先生の本は、例えば、大阪と東京の相場が変わるので、金銀の価値の違いを大阪と東京で分けているんですよね。細かいところまで目配りができていますよね。
大場 僕も初めて知りました。
波乃 市村さんに演出していただきましょう(笑)。川口先生は落語の円玉さんのところに居候していたんですよね。それで『遊女夕霧』ができたんです。本当に苦労したらしいんですよ。しかも川口先生は久保田万太郎さんのお弟子さんでしょ。久保田先生も輪にかけて貧乏(笑)。お父さんの魚屋の2階に居候していらしたそうです。あるとき、弟子が出世してロールスロイスで迎えにきたこともあるそうですね。
大場 万太郎さんは川口さんに仕事を与えていたんですよね。
波乃 その作品を演じられる。役者冥利に尽きますね。脈々と輪が繋がるんですね。直美さんにはぜひ恩返ししたいですね。

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――お辻とおゆうがこれほどまでに愛されている理由は。
波乃 それは役者次第ですね。今度は愛されるかどうかわからない(笑)。だから、女優の直美さんがやると聞いたときは勇気があるなと思ったんです。本当に父も可愛かったですからね。芝翫のお兄さんも、三津五郎さんもチャーミング。私の場合は、歌舞伎役者に惚れましたね。一番初めが、中村歌右衛門さん。とてもチャーミングだったから。だから役者を好きになるお客さんの気持ちがわかります。
市村 江戸の芝居なので、周りがみんな江戸の人間で、そこで地方から出てきて商売をして帰る。最後の方に、田舎の人は律儀だねというセリフがあるんですけど、大都会である江戸ですから、ピリピリしているところにのんびりした雰囲気のおゆうが来ることで、お客さんが人間味を感じるんでしょうね。
――勘三郎さんもやりたいとおしゃっていましたね。
大場 そうですね。役者が役者をやるのはやりにくいとおしゃっていました。ただずっと、お辻をやりたいと思っていらしたそうです。
波乃 よかった私がやって(笑)。でも、お弟がやったら、さぞ面白かったでしょうね。私はまずお墓参りで、弟と父のお墓に行って、勇気をくださいと言いました。今回、藤山さんの代役になったのは、父がやっていたからということで、松竹の西村さんが選んでくださったんですよね。もう、父には拝み倒すしかない。私は父の前で、初日の前日にセリフを言うことにしています。

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――お父様について、改めていかがですか。
波乃 この作品は『末摘花』の雰囲気があるんです。ただ、父の女方は、『末摘花』とは違う。不思議な作品です。チラシの衣装も、父のお辻の絵とか写真を見て、父と同じ顔にしてくれと言って真似をしたんですよ。今でも見ただけで泣いちゃうんです。父が乗り移ってくれたら嬉しい。
――セリフの中で、女が男に惚れるのはばかばかしいというようなセリフもありますね。
市村 人を好きになることがばかばかしくはなくて、魂が一瞬で奪われて、自分自身の人生をすべて好きな人に捧げたくなる人の姿を表現したんですよね。
波乃 萬次郎さん生き字引き。川口先生の弁護士よね。
大場 川口さんの台本は本当に泣きますからね。
波乃 川口先生の話は難しいですね。「以下役者に任せる」と書いてあるから。北条先生のものは脚本に助けられますけれど。
大場 俳優の力に頼りたい脚本でもありますから。そういう芝居は、古びないし、団塊の世代の人たちも観にきていたと聞きます。これからも残していきたい作品ですね。
 

〈公演情報〉
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『七月名作喜劇公演
 
一、お江戸みやげ(おえどみやげ) 
作◇川口松太郎
演出◇大場正昭
 
二、紺屋と高尾(こんやとたかお)
口演◇一竜斎貞丈
脚本◇平戸敬二
演出◇浅香哲哉
 
出演◇波乃久里子、浅野ゆう子、市村萬次郎、喜多村緑郎、曽我廼家文童、大津嶺子、仁支川峰子、小林綾子 他
●7/3〜25◎新橋演舞場
〈料金〉一等席13,000円、二等席8,500円、三等A席4,500円、三等B席3,000円、桟敷席14,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹 0570-000-489(10時〜18時)
 


【取材・文・撮影/竹下力】



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粟根さんと植本さんの紆余曲折!?「演劇界の気流に乗って」

【対談】粟根まこと(劇団☆新感線)× 植本潤(花組芝居)

俳優になってほぼ30年。今回対談していただいたお二人は、なんとも魅力的な自然体で、小劇場のリーディング公演から、大劇場のミュージカルやエンタテイメント作品まで、関係各所でその存在感を遺憾なく発揮しています。その秘密っていったい何処にあるのだろうか? 現代俳優道の一端を知ることで、少しでも表現世界の深淵に触れてみたい! 演劇ぶっくをつくって30年、お二人とほぼ同時期に“演劇”の世界に足を踏み入れてしまった、弊誌編集長がその疑問を解くべく、及ばずながら取材を担当いたしました。(えんぶ6月号より転載)

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 植本潤 粟根まこと

客席数30の劇場で共演。

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ゼータクチク vol.02『春宵・読ミビトツドイテ』
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亀山ゆうみ 草智文 粟根まこと 植本潤

──まずはお二人が最近出演されていた池袋にあるカフェシアターでの公演のお話から。
粟根 ゼータクチクvol.2ですね。
──ゲストで参加されてるんですか?
植本 はい、そうです。
粟根 一応、TEAM HANDY(チームハンディ)さんの企画で、彼らは「ACTACTION(アクタクション)」というアクションバリバリの企画をやりながら、それとは別に小さい劇場でお芝居中心のこともやりたいという「ゼータクチク」というレーベルがあって。
植本 主宰の亀山ゆうみさんという方は、お芝居の現場で殺陣をつけたり、アクション指導をしていらっしゃる方なので。
粟根 vol.2になって、わかぎゑふさんとやってみたいと。そして植本潤さんともお願いしたいと。はじめはだから、亀山、草(智文)、植本3人と、わかぎゑふさんが作・演出として関わる、という企画だったらしいんですけど。(ふーっと息を吐く)植本が、何を思ったか、いろんな人に声をかけ始めて。
植本 まあ紆余曲折!  粟根さんにも出演していただいて。そしたら、もう働く、働く。当パンのデザインとか、あと、タンブラーのデザインとかやるし、稽古場でも舞台監督のように、物事をしめていくしね。
粟根 ていうか、少人数だから、みんなでわーわーやんなきゃいけない。ちっちゃーい稽古場でやっていくから。分担作業を。植本君は気が利くから、いろんな食べ物を買ってきてとか。そういうメンタル面でのバックアップがうまいから。
植本 ふはは。そんなこと言われたことない!
粟根 私はそういうのが苦手だから、じゃあ、タイム計りますとか。そういうようなことを。物理面の、フィジカル面のバックアップをするという。
植本 本当にこの人がつかまって良かったんです。すごい機能してたし、みんな感謝してる。
──粟根さんがいらっしゃるとちょっと全体の雰囲気が大きくなるっていうか、ね。公演自体は、わかぎさんの作で、台本があって作られてる?
植本 はい。
粟根 わかぎさんの過去作、だいたい短めの作品から抜粋というか、選んで。
──作品そのものも面白かったけど、みなさんがすごく楽しんでる雰囲気をまた一緒に楽しむ感じで。ああ、一緒に楽しめてよかったなぁと。

唐十郎×応用微生物学VSガラスの仮面×演劇専修


──今回は、“小劇場演劇”が形になり始めた時期にスタートして現在に至るお二人に。俳優としての活動ぶりを語っていただきたいという企画なんですね。
植本 第四世代って呼ばれてるんだっけ? おれたち。
粟根 アングラとか野田(秀樹)さんとかがあって、その後ですね。
──小劇場公演のおもしろい形ができ始めたちょうどいい時期に。
植本 1980年代初め頃ですかね。
──粟根さんがちょっとだけ先輩ですね。

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粟根 芝居を始めたのもちょっと早くなるんですけど、まあまあまあ。
──粟根さんは最初の頃は大学生だったし、お芝居そのものにはそんなに興味がないというか、
植本 はははは。
粟根 そうですね。その頃は、いずれは辞めて科学者になる予定で人生を進めているわけですから。
──発酵?
粟根 はい。応用微生物学。
植本 カビですよ。
粟根 まあ、高校の時にも演劇部で唐十郎さんとかをやったりしてたんですけど。
植本 へー。
粟根 で、「大学入ったら、ま、勉強しよう!」と。でも、一応、なんか学内劇団あるらしいからって、ちょっとだけ観に行ったら、もう入らされて。
植本 はー!
粟根 大阪って、まず演劇人口が少ないから、「ちょっと無料で手伝いに来て。酒、無料で飲ませるから」みたいな感じで貸し借りが多いんですよ。で、新感線がその当時、一番メンバーが少なかった時期で。「手伝いに来て」って言われて、勉強がてら、仕込みとか手伝いに行って。
植本 仕込みの方なんだ。
粟根 スタッフとして手伝いに行って。で、無料でお芝居みせてもらって、お酒を飲んで。いるうちに、今度は出演者が足りないと。「出る?」ということになって、出たらちょっと楽しかったので、新感線に入ったという状況です。
植本 あ、楽しかったのね。
粟根 そう。
──そこが大きな分かれめでしたね。植本さんは大学で演劇を学んでるんですよね。

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植本 演劇専修。高校の時に、お芝居観たこともなかったのね。ただ、寮生活だったんですけど、『ガラスの仮面』が回し読みされて、みんなが「おもしろいね」って言ってたんだけど、おれだけは、「あ、これやろう!」って思ったの。
──え、演劇を? 『ガラスの仮面』を読んで、演劇をやろうって?
植本 そう。読んで。
──そんなに意識は高くないんですね?
植本 なんて?
──だって、唐さんの芝居を「やろう!」っていってる人と、『ガラスの仮面』を読んでって。
植本 いやいや、『ガラスの仮面』だってすごいんだよ。
──それはそうですけど。でも実技がないですよね。早稲田の演劇科って。
植本 うんうん。高校が付属だったからさ、そのまま行っただけで。で、大学の演劇サークルに入って、そこが解散しちゃったときに、花組芝居が募集してて。「この公演に出ませんか?」っていう、座員の募集ではなくてね。
──1回だけ。公演の。
植本 それに応募したら、それから20、30年近くなってしまった。新感線は創立してから何年くらいだっけ?
粟根 37年くらいです。
植本 で、在籍何年?
粟根 31年くらいかな。

外部出演の多寡と、出演希望劇団について

──お二人の共通の部分で言うと、外部出演、多いですよね? いろんな劇団だけじゃなくて。植本さんで言えば、『屋根の上のヴァイオリン弾き』まで来てますからねぇ。ミュージカル。
粟根 出たんだ。日生(劇場)?
植本 うん、日生。
──に出ていらっしゃって。花組芝居からそういう落差が大きいじゃないですか。
粟根 本当に植本君は幅が広いと思います。ストレートプレイから、ミュージカル。小っちゃい劇場から大きい劇場まで。人脈がものすごい広いんですよ。またみんなと仲良くしてるから。
植本 ふぇふぇふぇ。なんでそこ嫌そうに言う。
粟根 いやいや。ぼくは出てる出てるとおっしゃいましたけど、実はぼくが演出を受けた方って、数が少ないんですよ。
──あ、そうですかね。
粟根 いのうえ、G2さん、成井豊さん、河原(雅彦)さんを除いちゃうと、 木野(花)さんとか加納(幸和)さんとか上田誠さんとか宮田慶子さんにそれぞれ1回ずつとか。その程度。
植本 鈴木勝秀さんとか。
粟根 そのくらいなので、幅が狭いんです、わたし。
──まぁ、でも劇団☆新感線の公演期間も長いからね。
植本 そうそうそう!
粟根 まあ、それもありますけど。本当に限られた演出家としか仕事してないんですよ。呼ばれないし。
植本 あれ、どこだっけ、出たいとこ。
粟根 イキウメ。
植本 出たいんだって。
──前川さん? 何で?
粟根 SFを今、大手を振ってやってる劇団がないので。
──なるほどね。
粟根 いつ見てもおもしろいですし。あとラッパ屋さん。この2つは出てみたいですって言ってるんですけど、一回も呼んでもらえない。
植本 うはははは。
──植本さんは新感線にも何回か出演されてますよね。
植本 『花の紅天狗』が最初ですね。新感線ってレーベルがいくつかあるじゃない? 「RX」とか「ゴージャス」とか、今やすごい人を芸能界から呼んでくるじゃない。その時、1回目の「ゴージャス」というときのゲストが、木野花さんとおれと、川崎悦子さん、そんなにゴージャスじゃなかったね。
粟根 くはははは。
──出演されていてどうでしたか? 時期時期でいろんな感想があるとは思いますけど。
植本 楽しかったですね。とにかく。でも向こうも珍しがって使ってくれてる感は感じました。女形の役もあったのでね。
──お二人は、一応、俳優として成功した。と、思っていて、
植本 30年俳優を続けて居られるということでね。
──もちろん、俳優としての資質というか、頑張りがあったけど、何かもうちょっと何か、ほら、「何か別の力が働いてる」っていうのが、この前、怪我をしながら優勝しちゃった稀勢の里が言ってたけど、何かそういう上昇気流に乗ったみたいな?
粟根 ぼくは明らかにそっちですね。あの、植本君は学生の頃から演劇をやろう! と思ってやってるじゃないですか。だからたぶん、そして劇団に所属しながら、「よそにいっぱい出たい」っていうのをちゃんと言って、それを通してもらって出て、今の「植本潤」がいる。けど、わたしの場合、もうずっと巻き込まれているだけの人間で。
植本 へへへ。
粟根 人生で。劇団☆新感線にたまたま入っちゃったら、劇団☆新感線が大きくなっていって。みたいなことなので。大きな力というか、劇団の力が大きいし、まわりで面白がっていただいた方の力が大きいし。わたし自身、何の努力もしてないですよ、簡単に言うと。

客席がまわる劇場への出演と、改名!

──ま、そんなお二人の今後ですけど。一番身近なところで言うと、豊洲の、
粟根 IHIステージアラウンド東京という新しい劇場で劇団が初の試みを、この号の発売の頃にはとっくに始まっちゃってますけど。
植本 第一弾はね。
粟根 このインタビューは実はその直前でございまして。わたしは他人事と言いながら、自分事でもあり、ちょっとドキドキしてまして。第一弾が3月30日に初日が始まります。
──粟根さんが出演されるのは、第2弾。
粟根 6月27日から。植本潤さんが、植本純米に変わる日が初日でございます。
植本 ありがとうございます。
──それも伺おうと思ったんですけど。植本さんは個人的なことが一番、メインな。
粟根 人生を変える日だね。
植本 50歳の誕生日に、改名という。
──改名?
植本 改名します。

改名記念写真
植本純米改名記念写真

粟根 とりあえず、その訳は知りたいね。
植本 それはやっぱり、劇団花組芝居というところにいるからっていうのが大きいと思うんですけど、古典芸能に対する憧れですね。歌舞伎俳優とか、噺家さんとか。
粟根 襲名?
植本 襲名はできないじゃない? でも初代を名乗るつもりで、苗字は何でもいいけど、「何とか純米」さんっていう人がこの後増えていけばいいなって。
粟根 ふはははは。出ねえよ! 「何とか純米」はもう出ないでしょ。
植本 植本純米になるんですけど。
粟根 なぜ純米にしたかっていうのは興味がある。
植本 それはね、口に入れるものにしたかった。
粟根 食べ物?
植本 飲み物だけど。あとは桂都丸さんていう人が何年か前に「塩鯛」っていう名前に変わったのね。「塩」に「鯛」。素敵な名前だなと思って。
──奥さんは何って言ってますか?
植本 あの、純米っていう名前だから、「飲んだくれて死ねばいいのに」って。
粟根 ははははは!
植本 うちの母親からメールが来て、「お母さんは反対です」って。わはははは!
──素敵なお母さんですね。
粟根 誰も勧めてないってことだね?
植本 もう改名が迫ってきたから、ちょっとドキドキしますね。
粟根 本当にいいのかおれって。
──じゃあ、まあ、お二人ともいい方に囲まれて、俳優をされているわけですね。粟根さん、次回公演についての心構えは?
粟根 劇場を1回だけ、見に行ったんですけど、まあ、それは大変な劇場ですから。みなさん、行かれた方は驚いたと思うし。ただやる方がどうなるかは、まだぼくは体験してないんで。
──客席が動くんですよね
粟根 舞台が外側ですから。客席が回るわけですよ。まわりが舞台なんですよ、客席が真ん中にあって、ぐるぐる回るという劇場なので。全部のシーンが同時に見えるわけではないので、視覚は限られるんですけどもね。俳優は通常の舞台に比べて行動範囲が広いので、出番だ、着替えだ、楽屋戻るだ。常に走っていると。大変だと。
植本 あとは、みんな心配してること、お客さん酔わないかどうか。けっこう、高速で回るんだって。
粟根 ま、スピードは可変なんですけど。大丈夫だと思うんですけどね。問題点をこれからの本公演で、解消していかないといけない。花チームがいろいろとノウハウを獲得していただいたものを、我々がいただいて、『鳥髑髏』。6月27日から。
──よかったですね、2回目で。
粟根 はい!
植本 わははは。
──新感線は昔からエンターテインメント志向が旺盛で、神戸の遊園地で、
粟根 はい、ポートピアで。
──やったりもしてますからね。それの延長線上にあると思えば、劇団☆新感線の初心は豊洲公演にもあるわけですよね。
粟根 んんー、派手好きというか。おもしろがりはあると思います。
──初心からつながって、30何年来て、ここでまた動く劇場でできるなんて素晴らしいですね!
粟根 無事に終わることを祈っています。
──植本さんの今後はどうなんですか?
植本 個人的にはこまつ座の『イヌの仇討』がありますが、まずは改名です。
──改名がメインなんですね?
植本 いやいや!? こまつ座公演は演出が桟敷童子の東憲司さんという初めてご一緒する方なので、稽古を心待ちにしてます。あとは劇団が30周年なんで、記念公演のどれかには出るんだろうなと。

そして、将来のビジョンは!


──楽しみですね。近い将来はそれとして、将来うんと遠くを見据えたら、どんなビジョンがあるんですか? お二人は。
粟根 ないですね。
──あ、素晴らしい。
粟根 元気に舞台がやれてればいいなって。最近、大先輩とご一緒することが増えてきて。60、70、80代の方とご一緒すると、気が遠くなりますね。あと20年、30年、かかってあそこに行けるかっていうことを考えると、そこまでまず元気にやらないとならないし、やり続けるとあそこに行けるのかということを考えています。元気でいるということが大事だなと思って。それ以上のビジョンというのが、「どこそこの劇場に出たい」とか、「どういう作品に進出したい」とかそういうのはわたし全くないです。
──植本さんは?
植本 なんかさ、古典の人って義太夫の人とかも、70歳の人が80歳の人に教えを請いに行ったりするのを見ていると、長くやっただけおもしろいものが見えてくるんだろうなと思っていて。歌舞伎以外で、現代劇の女形の末席に身を置いている人間としては年を取ってね、おじいさんになって行ったときに、それこそお姫様とか町娘とかができるかどうかですよ。できたらいいですけどね。そういうことは可能なのかどうかというのを探ってみたいと思います。
──じゃあ、今はその前哨戦? 素でやったり。
植本 そうそう、この間の花組公演『夜叉ケ池』で百合っていう役を、
粟根 スキンヘッドでね。
植本 鬘もかぶらずに、やらせてもらって有り難かったし。座長の加納(幸和)さんは「そういうのも、ありよ、ありよ!」って言ってくれたし。「ああ、ありか」って。
粟根 あの公演は何でもありだったね。


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あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。大阪大学工学部醗酵工学科中退。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。演劇ぶっくコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。

【出演予定】
ONWARD presents 劇団☆新感線
『髑髏城の七人』
Season鳥 Produced by TBS
髑髏城PR

作◇中島かずき 演出◇いのうえひでのり
出演◇阿部サダヲ 森山未來  早乙女太一/松雪泰子/粟根まこと 福田転球 少路勇介 清水葉月/梶原善/池田成志 ほか
○6/27〜9/1◎IHIステージアラウンド東京
〈お問い合わせ〉0570-084-617(10時〜20時)


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うえもとじゅん○岩手県出身。早稲田大学演劇専修卒業。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。演劇キックweb対談「『過剰な人々』を巡る♂いささかな☀冒険」ではえんぶ編集長と月イチで様々な戯曲について語り合っている。

【出演予定】
こまつ座『イヌの仇討』
【アタリ】こまつ座PR
作◇井上ひさし 
演出◇東憲司
出演◇大谷亮介 彩吹真央 久保酎吉 植本潤 加治将樹 石原由宇 大手忍 尾身美詞 木村靖司 三田和代
●7/5〜23◎紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
〈お問い合わせ〉こまつ座 03-3862-5941
http://www.komatsuza.co.jp/


【構成・文◇坂口真人 撮影◇山崎伸康(人物) 佐藤瑞季(舞台) 伊藤馨(人物/改名分)】



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森新太郎演出で新しい感覚の「牡丹燈籠』間もなく上演! 柳下 大インタビュー

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日本三大怪談として「四谷怪談」や「番町皿屋敷」とともに挙げられる「牡丹燈籠」。
原作は三遊亭圓朝によって創作された落語の怪談噺。若い女の幽霊が恋する男のもとへ通ってくるという幽霊話に、仇討や殺人、母子再会などの事件や登場人物を絡ませて仕立てあげた一大ドラマだ。その作品が『怪談 牡丹燈籠』として、森新太郎の演出で7月14日から上演される。(30日まで。すみだパークスタジオ倉)
この舞台で、幽霊のお露と相思相愛になる萩原新三郎を演じるのが、シェイクスピアから三好十郎まで幅広い作品で活躍する柳下大。その柳下が、初めて日本古典と森新太郎演出に挑む抱負を語った「えんぶ6月号」の記事を、別バージョンの写真とともにご紹介する。

純愛の若者たちと欲にまみれた大人たち

──この作品への出演が決まったときはいかがでした?
もともと時代劇が好きですし、原作を読んだら、最初は人間関係が複雑で難しいかなと思ったのですが、後半になってそれが一気に繋がっていく。その繋がりが面白いですし、今の時代でも納得できる話だなと思いました。
──柳下さんは新三郎役ですが、どんなふうに演じようと?
新三郎は23歳で、僕より若いのですが、当時は精神年齢が今の若い人たちに比べて大人ですから、自分に近い感覚でいいのかなと。そして、恋には奥手で初めて出会ったお露に一目惚れして、その想いをずっと持ち続けるところは純粋で、亡くなったはずのお露が訪ねてくると、幽霊とは思わずに喜ぶところなどは、ちょっと滑稽にも思いました(笑)。ただ、2人の愛はすごく美しいし、美しいからこそ怖いし、そこがゾッとしていただけるところだと思います。
──幽霊と愛し合うという設定は理解できますか。
一見あり得ないことのように思えますが、2人の思いが通じ合っていて、普通の感情を1つ超えたところで繋がっていたら、あると思います。常識を超えたところで結ばれている、そういう大恋愛を、幽霊と人間を使って描いているのかなと。今は会いたいときにすぐ会える時代で、幽霊になってまで会いたいとか、そこまで人を想う気持ちは持てませんよね。だからこそ、これほどの愛があることを伝えたいです。
──2人の純愛は若いお客様には感情移入しやすいでしょうね。登場する大人たちは色と欲に溺れていますから。
すごく人間っぽいですよね(笑)。でもそこも面白くて、意外とそちらの人たちに感情移入する人もいる気がします。そういう相対する人間模様がうまく描かれていて、だから名作なんだと思います。

胸の中をぐちゃっと掴まれるような森演出

──柳下さんは、昨年から多彩なジャンルの舞台に積極的に出演していますね。
有り難いことに沢山チャンスをいただいています。だからこそ1つ1つの現場で、求められる以上の結果を出していくことが大事で、1つ1つに120%の力を出し切って取り組んで、柳下ならこのくらいは出来るだろうという、その何歩先まで行けるかだと思っています。
──演じる役も様々ですが、いつもアプローチはどんなふうに?
たとえば新三郎なら、自分とほとんど共通部分がないので、まず資料を調べてバックボーンを考えます。そのうえで自分と重ねられるものを探します。人を愛する気持ちは現代でも同じですが、表現のしかたは時代や地位などで違ったりするので、背景は体に染みこませておきたいんです。
──確かに時代が違うと愛情表現も違うでしょうね。
そこを演出の森さんが、柳下大という人間を使ってどう表現されるのか。僕の中になかった表現とか、なかった感覚を沢山引き出していただきたいですし、また新しい自分になれるのが楽しみです。
──森さんの演出の印象は?
去年『BENT』を拝見して、なんか胸の奥をぐちゃっと掴まれたような、いやーな感覚になりました(笑)。でもそういう感覚は嫌いじゃないです。正直、恐さもありますけど、意地でも付いていきたいです。 
──では最後に意気込みを。
森さんが、今までにないような『牡丹燈籠』にするとおっしゃっているので、新しい感覚の舞台になると思います。ちょっと笑えて、切なくて、すごく怖い、色々な感情を抱ける作品で、こういう怪談噺をまだ読んだことがない若い方たちにも、これを機会に興味を持ってもらえればと思っています。

 

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やなぎしたとも○神奈川県出身。06年俳優デビュー。以降、映像や舞台で活躍中。主な出演作品は、ドラマはNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』舞台は『真田十勇士』(13・15)・『オーファンズ』(演出:宮田慶子)『御宿かわせみ』(演出:G2)『浮標(ぶい)』(演出:長塚圭史)ミュージカル『手紙 2017』主演(演出:藤田俊太郎)。また、現在放送中のNHK土曜時代ドラマ『みをつくし料理帖』にも佐兵衛役にて出演中。

〈公演情報〉
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プロデュース
『怪談 牡丹燈籠』
原作◇三遊亭円朝 
脚本◇フジノサツコ
演出◇森新太郎
プロデューサー◇綿貫凜
出演◇柳下大 山本亨 西尾友樹 松本紀保 太田緑ロランス 青山勝 松金よね子 他 
●7/14〜30◎すみだパークスタジオ倉
〈料金〉前売 5,500円 当日 5,800円 シードチケット(25歳以下)
4,000円(全席指定・税込) 
〈お問い合わせ〉オフィス コットーネ 03-3411-4081 



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奇跡の成長を描いた実話『向日葵のかっちゃん』を舞台化! わかぎゑふ・三上真史 インタビュー

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時計も漢字も読めず、小学校2年生から4年生を支援学級で過ごした少年「かっちゃん」が、5年生で転校した学校で出会った森田先生から、勉強の楽しさを教えられ成長していく奇跡の物語『向日葵のかっちゃん』。小説家の西川司が自らの小学校時代を綴った自伝小説が、この夏、初めて舞台化される。

かっちゃんの人生を変えた熱血教師森田先生を演じるのは、『趣味の園芸』(NHK Eテレ)で園芸王子としても親しまれている三上真史、そして、この実際に起きた奇跡の物語の脚本・演出を手がけるのは、劇団「リリパットアーミーII」の座長を務めるわかぎゑふ。人が成長する可能性を信じたこの作品について、2人がその思いを語り合ってくれた。
 
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わかぎゑふ 三上真史

受け入れてくれる人が1人でもいれば人生は明るくなる

──まず原作を読んだ印象から教えてください。
三上 読ませて頂いてまず涙しました。作者の西川司さんの体験談、実話なので、教育、育てることって本当に大事なんだなと。かっちゃん自身には、それは転校したことから始まるのですが、出会いによって人の人生って変わるんだということを痛感しました。西川さんの講演会も聞かせて頂いたのですが「すべてを受け入れてくれる人が1人でもいれば、人生は明るくなっていく」とおっしゃっていて、本当にその通りだなと。そして、「わからないことは恥ずかしいことじゃない」という言葉が、非常にグッときました。僕もつい知ったかぶりをしてしまうところがあって、僕自身にも励みになりました。そして、大人が大人であることの重要性を感じています。子供にとって大人は模範でなければならないし、でも目線は子供と同じところにいるのが森田先生だなと思って、非常に勉強になっています。
わかぎ 私は何回泣いたかな…4箇所くらい、絶対泣くもんか!と思って読んでいたんだけど(笑)。
三上 泣けますよね。
わかぎ 舞台にすることを考えながら読んでいたので、ストレートには読んでいなかったと思うのですが、西川さんとは世代が一緒かなとなんとなく思っていたら、ドンピシャで1歳下で、でも大阪で育った私とは全く違う人生を歩いていらっしゃるんですけどね。ただ、私自身も従姉妹が障害者だったり、ほかにも色々なことがあって、意外と小さな棘が刺さっている人って見捨てられがちだなと思っていて。今、「発達障害」という言葉によって、「あ、そうだったんだ」という人が世の中にたくさん見えてきて、それまでは「物忘れが激しい」とか「あいつにものを頼んでもちっともやってくれない」とか「計算が弱い」とか言われて、見過ごされてきた。その1つ1つは小さな棘なんだけれど「小さい棘って痛いんだよね」ということを、しっかりと書いてあるので、改めて今、舞台化するのにとても良い本だなと思いました。パラリンピックをはじめ、障害をもっていることをちゃんと出していける世の中になってきていますが、逆に小さい障害をもった人たちが隠れてしまっている。でも小さい障害をもった人も辛い。そこを舞台化できることは良かったと思いました。
──そうした本から、何を一番大切に舞台化したいと?
わかぎ どんな舞台でも一番大切なのは人が描けているかだと思います。それはジャンルに関わらず、そこに肉体があって生きていることが伝わるかどうかなんですけれど、そういう意味で丁寧に作らないといけないし、特にこの作品は笑えるところをたくさん作らないと、西川さんの思いは伝わらないなと。ですからベースはコメディにしてあげないと、というのは私の中で読んでいて決めたことです。
三上 かっちゃん明るいですよね。
わかぎ 明るいし、可愛いよね。
三上 森田先生も本当に突き抜けていて。
わかぎ 実際の森田先生はこんなに二枚目じゃないけど(笑)。
三上 驚いたのは、僕のツイッターに森田先生のお孫さんがコメントしてくださったんです。
わかぎ えっ?ホントに?
三上 森田先生は自分のおじいちゃんです。本当に真っ直ぐな大好きなおじいちゃんです。舞台、絶対観に行きますって。
わかぎ それはスゴイね。
三上 鳥肌ものでした。

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人生変えるようなわかぎさんとの出会い

──その森田先生を演じられるにあたっては?
三上 僕も性質として熱いところがあって、「できないことはない」と思っていて、ちょっと森田先生と重なる部分があるので、そうした共通点を精査してやっていけたらなと思っています。実際の森田先生がどういう方だったのか、お話を伺いたいなとも思っていて。
わかぎ お孫さんにね。
三上 そうなんです。そこから突き詰めていきたいです。でも一方で、読んでいて思ったのは、森田先生も最後に「自分もこんな風にかっちゃんが変わるとは思わなかった」って正直に言うんですね。どうなるかわからないけれども、素直に純粋にできると信じて、周りになんと言われようと思ったことを貫いた、かっちゃんを信じた、というところがあるのかなと思いました。そこを僕も貫いていけたらなと。わかぎさんが脚本・演出してくださるのも嬉しいです。
わかぎ 一緒の仕事はすごく久しぶりで、9年前かな?
三上 はい。わかぎさんが脚本を書いてくださった舞台『夢のひと』です。僕にとっても人生変えるような出会いで、ちゃんとした舞台は初めてだったんです。
わかぎ 升毅さんとか渡辺いっけいさんとか出ていて、神田沙也加さんがまだ小さかったね。
三上 そうです。皆で北海道を回りました。
──その時の印象から、今の三上さんをご覧になっていかがですか?
わかぎ 私、NHKの『趣味の園芸』も観てたから。
三上 本当ですか?
わかぎ そう。「あ、三上だ!」って(笑)。でも覚えていてくれるとは思わなかったから、打ち合わせの時にも言わなかったんだけど。
三上 もちろん覚えてますよ!何をおっしゃるんですか!あんなにお世話になったんですから!
わかぎ いや、あの時は脚本だけで演出はしてなかったから。
三上 アドヴァイスを色々くださって。
わかぎ ちょっとだけ。いけないよね、演出家がちゃんといるのに(笑)。
三上 でも本当に助かりました!難しい役で全然わからなかったのが、的確なアドヴァイスで、そこから一気に変わって。
わかぎ すごくシリアスな役だったからね。
──そんな三上さんの魅力や、今回期待されているところは?
わかぎ こんなに真面目な子っているんだなというのが第一印象で、出ているテレビとか見て、そのまんま大人になったなと(笑)。だから森田先生が三上君って聞いた時、なんの問題もない、そのままいけると思いました。

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役者の肉体を使って、笑えて温かい物語に

──原作を読んで、印象的なシーンなど話していただければ。
三上 僕はキャッチボールのシーンが好きでした。
わかぎ 私は、「こんな先生いたらいいな」と思ったのが逆上がりを教えるシーン。
三上 あぁ、そこも泣きました。
わかぎ 私は運動は何でも出来たので、人に教えるのがすごく苦手だったんだけど、こうやって教えたら、逆上がりできない子ができるようになるんだ!なるほどなぁと。きっと子供は嬉しいだろうなと。
三上 こうやるんだよ!ではなくて、なぜそうなるのかというところを、ちゃんと言ってくださるんですよね。
わかぎ 舞台では残念ながらカットしたんですけど、とても印象的なシーンでした。あと、「身体で覚えろ」って、殴ろうとするシーンがあるでしょう? かっちゃんは反射的に防御しようとする。その防御の姿勢をとったかっちゃんに、「それが身体で覚えるということだよ」と。だから漢字を書いたり算数をしたりするのも「身体が覚えればいいんだよ」と。子供が納得するんですね。それもすごく印象的でした。あと小説の中では、先生と出会ってからは家族の描写が少なくなっていくんです。そのくらい先生にシンパシーを抱いて、人生の中心が家族ではなくて森田先生と学校の生活になっていく。でもそのままだとお母さんが出てこなくなって可哀想なので、「お母さんのお話をもう少し膨らませてもいいでしょうか?」と西川さんにお願いして、「どうぞ」と言って頂けたので、舞台ではちゃんと描いています。
三上 それは素晴らしいですね。

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わかぎ
 うちの従姉妹は5人兄弟で、それだけ多いと時期によって放っておかれる子供がいるんですね。かっちゃんもそうだったんだろうなと。お兄ちゃんがいて、まだ下の子供は小さくて、次男のかっちゃんが少々できなくても気にされない、そういう子供って昔はいたよなぁと。
三上 兄弟姉妹が多い時代ですからね。
わかぎ 森田先生自身とお母さんのシーンに、そういう台詞をちょっと入れてみたんです。
──家族の物語としても幅を広げて?
わかぎ そうですね。アメリカの小説に『Itと呼ばれた子』というのがあって、兄弟の中で、お母さんが1人の子だけを名前でなく、「It(それ)」と呼び出して、虐めていくんです。その少年が後年、そのことはどういうことだったのかを小説に書いて、アメリカでベストセラーになったのですが、その子も他に兄弟がいて、お母さんがその子だけできないから、なんとなく疎外していたら止まらなくなっていく。そういう歪みにいる子供っているよなというのがあったので、森田先生自身がそういう子供だったのではないか?と、これはあくまでも私の想像ですけれども、それを書き加えてみたんです。
──では、舞台ならではの場面があるのですね。
わかぎ そうですね。エッセンスは生かしつつ、作っています。あとはアンサンブルの人たちが本当に大変だよね(笑)。
三上 そうですね!
わかぎ 俳優が8人しかいなくて1人は子役で、三上君は森田先生1役ですが、あとの人たちは全員2役以上やります。最も大変なのは、PTAの会長と生徒を演じる高木稟さんで、同時に出ているシーンがあるという。
三上 同じシーンに? 
わかぎ 生徒でお腹が痛いことにして教室を出ていって、PTAの会長をやって、また生徒で帰ってきて、「お前いなかったじゃないかよ!」「シー!」みたいな(笑)。
三上 面白い!(笑)
わかぎ そういう役者の肉体を使って笑えるところは笑えて、でも物語としては温かくて感動できて、泣かせるものにできればと。博品館はコンパクトな劇場なので、それを生かしながら、遊びを狙って作りたいと思います。

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小さい棘が刺さっていない人なんていない

──三上さんから、わかぎさん作・演出の作品に出演することへの期待は?
三上 ついて行けば間違いないので、安心しています。そして、何よりも『向日葵のかっちゃん』という作品を舞台化されることが嬉しいし、その作品で、また出会えたことはありがたいです。舞台は生もので、その場でしか感じられないことがあって、この作品を小説で読んだ方も、舞台でしか観られないエピソードをわかぎさんが書き下ろしてくださっているので、楽しみに観て頂ければ。そして、もしかして切ない物語かな?と思われている方には、明るい物語なんだということを知って頂きたいです。たぶん誰でもが、自分のどこかに置き換えられる話だと思うから。
わかぎ 小さい棘が刺さってない人なんていないでしょう?
三上 いないですよね。
わかぎ でも「小さい棘って痛いんだよ」とちゃんと言いたいの。この「小さい棘」という表現はトルコに行った時に知ったんだけど、トルコの人は「心に刺さった小さい棘は早いうちに抜け」って言うんだって。心に小さい棘が刺さったままにしておくと、やがて心臓に達して死んでしまう。友達の小さな暴言とかが心に刺さったら、その時に「痛いじゃないか」と伝えて解決してしまわないといけないんだってトルコの人に教えてもらったの。
三上 すごい言葉ですね。
わかぎ 素晴らしいでしょう? とても印象的で、どこかでタイトルに使おうと心に留めているんだけど。
三上 まさにこの作品と同じですよね。
──では改めて、大切なメッセージのこもったこの作品への意気込みをお願いします。
三上 何事にも全力で教えて取り組む、森田先生の生き様そのままに、僕自身が舞台に取り組んで、少しでも観てくださっている方たちの、今、わかぎさんがおっしゃった「小さい棘」がなくなって、向日葵の花が咲いてくれるように、精一杯やらせて頂きます。
わかぎ 人生の中で見過ごされがちなわだかまりや、小さな棘について、役者の肉体を通して、楽しく観て頂いているうちに、心に種が植わっていて、後から花が咲いたらいいなと思っています。夏休みでもありますし、三上君を中心に素敵な仲間たちと、気がついたら良い話だった、というようなお芝居を創りますので、楽しみにしていてください。

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わかぎゑふ・三上真史
 
わかぎゑふ○大阪府出身。劇団「リリパットアーミーII」の座長。大阪弁の人情劇を上演するユニット「ラックシステム」を立ち上げるなど、小劇場から商業演劇まで活躍中。古典芸能の造詣も深く、歌舞伎『たのきゅう』、茂山狂言会『わちゃわちゃ』『近江のおかげ』などの作、演出を手掛けている。エッセイも多数。NHK語学番組『リトルチャロ』シリーズの原作者でもある。

みかみまさし○新潟県出身。06年『轟轟戦隊ボウケンジャー』の最上蒼太/ボウケンブルー役で話題を集める。映画『スウィングガールズ』などに出演。11年からNHK Eテレ『趣味の園芸』のメインナビケーターを務め、「園芸王子」として多くの支持を獲得し、16年からはtvk『猫のひたいほどワイド』で水曜MCを担当している。
  
〈公演情報〉
2017_08_23

『向日葵のかっちゃん』
原作◇西川司
脚本・演出◇わかぎゑふ
出演◇三上真史 星野真里  酒井敏也 西ノ園達大 高木稟 梅田悠 二瓶拓也 阿由葉朱凌/戸塚世那(かっちゃん Wキャスト)
●8/23〜27◎博品館劇場
〈料金〉6,800円(全席指定・税込)
前売り開始 :6月17日 午前10:00〜
〈お問い合わせ〉る・ひまわり 03-6277-6622(平日11時〜19時)
〈公演HP〉http://le-himawari.co.jp/releases/view/00681



【取材・文/橘涼香 撮影/山崎伸康】 






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