稽古場見学、記者発表、インタビューなどから、近々公開される作品のおもしろさを探ります。

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レビュー速報

安西慎太郎がシャトナーワールドの奇跡の愛を体現!『遠い夏のゴッホ』公開ゲネプロ&囲み取材

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作・演出家の西田シャトナーのプロジェクト「SHATNER of WONDER」の第6弾『遠い夏のゴッホ』が、7月14日より天王洲銀河劇場にて上演中だ(23日まで。29日〜30日まで森ノ宮ピロティホール)。

今作は、2013年に西田シャトナーが書きおろした虫の世界を題材にとったファンタジックな傑作で、「演劇に再演は存在しない。すべては”上演の続き”だ」と考えるシャトナーの信念に基づき、ストーリーの骨格はそのままに、ほとんど新しい演出になって、より作品テーマに迫る舞台となっている。
 時間も3時間から2時間に凝縮、ミュージカルだった前回よりパワーマイム的な表現が強くなり、シンプルだが多様に変化する美術(たにがきいくこ)、季節と場所を美しく伝える照明(加藤学)、白とアースカラーをメインに作られた衣装(サイトウマサミ)など新スタッフが担当。キャストも、主人公ゴッホ役には、今もっとも期待される若手俳優のひとり安西慎太郎、ヒロインのベアトリーチェには、やはり注目の若手女優・山下聖菜を迎え、共演陣も幅広く舞台で活躍中の顔ぶればかりという豪華なメンバーによる上演になった。その初日前日に、公開ゲネプロと囲みインタビューが行われた。

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【あらすじ】
誰も知らない小さな森。土の中で暮らすユウダチゼミの幼虫ゴッホは、幸せの絶頂にいた。幼馴染のベアトリーチェと、1年後の夏には地上へ出てセミになり、本物の恋人同士になろうと約束したからだ。ところが、ゴッホは自分が生まれた年を勘違いしていることに気がついていなかった。来年ではなく、今年の夏、彼は地上に出て羽化しなければならないのだ。…絶望の中、ただひとり地上に出てセミになってしまうゴッホ。一度セミになってしまえば、彼がベアトリーチェに再会する方法は、来年の夏まで生き延びる以外にない。果たして彼は、冬を越えて、遠い夏にたどり着くことができるのか?

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セミとは、広辞苑にはこんなふうに書かれている。
「カメムシ目セミ科の昆虫の総称。頭部は低い三角形で、両側に丸い複眼があり、その間に三個の赤い単眼がある。触角は細く短い。腹面の長い吻で樹液を吸う。翅は膜質透明で、飛ぶ時には前後翅が鉤によって連なる。雄は腹面に発音器を持ち、鳴く。成虫は樹皮に産卵、孵化した幼虫は、地中に入って植物の根から養分を吸収し、数年かかって成虫になる」。
 
数年かかって成虫になったセミは、たった一夏のわずか数週間を生き、夏の終わりとともに死ぬ。字面で拾えばそれだけのセミの一生が、西田シャトナーの哲学的で宇宙規模の思考にかかると、生き物全体の「いのち」の意味を考える深い世界へと広がっていく。

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舞台の中央にハシゴが一つ。それに組み合わされるように何本かの棒が建てられ、いくつかの丸太のようなボックスが置かれ、回り舞台になっている。その自在な美術は、ある森の1本の大木になったり、地中のセミや蟻塚、あるいは蜘蛛の巣になったりする。舞台前面には赤いスポットライトがいくつかあり、中央の真っ赤なライトが明滅することで生命の躍動感と鼓動をダイレクトに伝えてくれる。想像力に満ちた西田作品に欠かせない美術や照明との力強いタッグで、人間の目には触れることがない密やかな森の生命の営みがリアルに伝わってくる。

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舞台は、18人による群唱から始まる。春夏秋冬、昼と夜、そんな自然界の流れを表現し、この宇宙の摂理を感じさせる壮大なオープニング。そして、羽化前の白い薄衣を着たユウダチゼミの幼虫、ゴッホ(安西慎太郎)とベアトリーチェ(山下聖菜)が登場、約束を交わす。来年、地上に出たら恋人になろうと。彼らは地上が楽園だと思い、羽化したあとの生に夢を抱く。彼らの周りにはそんな仲間たちがたくさんいる。今年、地上に出るスタスキー(宮下雄也)やアムンゼン(山本匠馬)、来年羽化するスチュアート(伊勢大貴)とともに彼らを見送るつもりのゴッホは、自分の体が羽化し始めていることに驚く。彼は自分の生まれた年を間違えていたのだ。離ればなれになるベアトリーチェへの伝言を、地中に棲む友達のカレハミミズのホセ(木ノ本嶺浩)に託して、ゴッホは夏の地上へと出ていく。

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これは愛の物語であり、ささやかでいて勇敢な小さな生物の闘争の記録でもある。この世界は生き物それぞれの捕食で成り立っていることで、様々な困難に立ち向かわなければならない。その中で、それぞれの生き物が生を貫徹しようとする。その生命の躍動をあますところなく感じることができる舞台だ。生命はなぜ生きて、なぜ死ぬのか。花が芽吹き、陽が昇り、雨が降り、雪が降り、月が照らすことにどんな意味があるのか、そんな問いかけを常に感じ、自分の胸にそっと手を当てて、心の奥底の自分の生命を新たに発見したような気持ちを抱かずにはいないだろう。

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安西慎太郎は、繊細でありながら力強いゴッホだ。羽化したての時は大人になりきれない、どこかイノセントな弱さを感じさせる。だが、次の年の夏まで生き抜くと決めた時から強さを獲得する。敵と戦い、困難を乗り越え、宇宙の摂理に反逆し、くじけそうになり、羽はもげ、ボロボロになりながらも生きようとする…。少年が大人になり、老年になっていく、その残酷な時の流れを、自然な変化の中で演じてみせる。何よりも、ベアトリーチェに恋い焦がれるゴッホの切ないまでの想いが、観るものの胸を打つ。

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山下聖菜のベアトリーチェは、ゴッホに命がけで愛されるに相応しい可憐さだ。セミの幼虫語を話すときの愛らしさ、蜜を夢中で飲み続けている無邪気さ。それでいて、離れていてもゴッホの愛を信じきる彼女の信念と純粋さが、表情や仕草に滲み出る。ほっそりした身体つきが幼虫のいたいけな感じと重なり、このファンタジックな物語のヒロインとしてみごとな存在感を見せる。

ゴッホとベアトリーチェの愛を繋ぐミミズのホセを演じるのは木ノ本嶺浩、細胞の記憶を次世代に受け継ぐというミミズの特性を持ち、いつ生まれていつ死ぬのかわからないことを気に病んだりしているのだが、ひょうひょうとした独特の存在感が面白い。
 
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ゴッホと同じセミの仲間で、幼馴染みのスチュアートは伊勢大貴。従兄弟のスタスキーを慕っていて、1年早く羽化してしまったゴッホを心配する優しいキャラだ。スタスキーの宮下雄也は、先輩格として仲間を牽引していくのだが、メスゼミから好意を受けられなかったり、ちょっとお調子者だったりと、明るい持ち味で笑いを誘う。アムンゼンは山本匠馬、ゴッホとともに羽化したのだが、アリたちとの戦闘で、胸をやられ鳴くことができない。鳴けないセミの不条理と、それでも生き続けることの大切さを伝える。

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セミたちを狙うクビカリアリの一族は、兵隊アリのバンクォー、働きアリのゼノン、女王アリのエレオノーラ女王が登場。バンクォーの小澤亮太は、兵隊アリなのになぜか働きアリと行動する変わり者だが、軍人らしい威厳を感じさせる。ゼノンの陳内将は、働きアリなのに働かずにいる哲学的なニート。彼の頭の中には常に問いだけが存在していて答えは見つからない。生とは?死とは?必死に問い続けるゼノンの透明な眼差しが印象的。
エレオノーラ女王は三上俊、巣穴を抜け出して外をほっつき歩くおてんばでチャーミングな女王を中性的な美しさで演じている。

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虫たちが集まる「ナツリンゴの酒場」には常連たちがいる。
アルミタテハチョウのヘンリーは丸目聖人、羽を擬態しているため、自分のアイデンティティを喪失するという、現代の若者にも通じるような悩みを表現する。プラチナカナブンのイワンは星元裕月、色の近いヘンリーと仲が良く、種族が違うことなど気にかけない屈託のなさが魅力だ。

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ツノカブトムシのアンドレイは土屋シオン、酒好きだが酔うと酒癖の悪い若者を個性的に演じている。ダンガンバチのジンパチは米原幸佑、何よりも仁義を重んじるのだが、性別は女性という特異なキャラをシャープに演じてみせる。

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シマシマグモのラングレンを演じるのは萩野崇、亡くなった妻が持っていた卵を大事に守り、孵化させようとする。酒場の近くに巣を貼り、くだをまきながらも、酒場の守り神にもなる姿がカッコいい。

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ゴイシクワガタのイルクーツクは兼崎健太郎、何年も冬ごもりできる伝説的存在でもあり、頼れる兄貴分。革ジャン姿がクールだ。

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サーベルカマキリのセルバンテスは平田裕一郎、攻撃的な性格だが、カマキリのオスはメスに食べられるという運命を知らない無邪気もある。成長速度が尋常ではなく、衣装の変化とともに内面の変化も演じてみせる。

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虫たちにとって大きな脅威となるイコクウロコトカゲのアオアシは永田彬、自分がどこからやってきたのか、なぜ食物を食べているのかもわからない、いわば自失に近い捕食者を幼児的に演じて、どこか現代の病巣さえ感じさせる怖さを醸しだす。

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森の主であるネムリガエルのブックハウスは石坂勇、森の長として、最大の捕食者として生きている。かつて二足歩行の種族に飼われ、森に捨てられたという過去を持つが、それさえもまるで神の啓示のように受け入れる、どこか運命論者的な達観した存在の大きさがある。
 
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出演者たちは基本的には決まった役所があるものの、西田シャトナーの演出手法であるスイッチプレイで、アリの群衆や、セミの幼虫たち、トカゲの大きさを集団で表現する。映像に頼らず肉体だけの表現で光り輝くのがシャトナーワールドなのだ。パワーマイムももちろんフルに駆使、セミたちが飛ぶシーンをウレタン素材のようなハシゴを使って表現すれば、胸のドラムを鳴らす様はチョッキで表現してみせる。回り舞台も役者たち自身で動かしながらシーンを変えて行き、息つく暇もない舞台を作り上げる。スピーディなセリフ回しの中で、ボケやツッコミなど遊びも炸裂させながら、イノセントであり獰猛であり、時に優しく儚い生命というものの本質をつまびらかにしていく。

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虫たちはどんな運命をも受け入れる。すべてが平等であることを知っているから。その宇宙の摂理、その揺るがなさ。それを知りつつ、約束と愛のために奇跡を起こそうとするゴッホの生への執着、あるいは、死への跳躍。そこにカタルシスを味わうとともに、生命というもののダイナミズムを感じさせてくれる淡い恋の物語さえ、巨大な世界の中では1つのサイクルでしかなく、そしてそれが「生命の宇宙」なのだと教えてくれる。壮大なロマンと深遠な哲学が詰まったシャトナーならではの感動的な世界がそこにある。
 
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【囲みインタビュー】
 
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公開ゲネプロの前に囲みインタビューがに行われ、西田シャトナー、安西慎太郎、山下聖菜、小澤亮太、木ノ本嶺浩、山本匠馬、陳内将、米原幸佑、平田裕一郎、兼崎健太郎、萩野崇、石坂勇が登壇した。

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西田シャトナー(作・演出)
お芝居を作るときに、自分の能力と想像を超えた作品に取り組むことができたら幸せだと思っています。昆虫は我々人間に比べると生まれた時から、大人になるまでにどんどん姿が変わっていきます。生き物を題材にした芝居を作っていけば、自分たちの人生も何が変化して行くのかについて楽しく深く考えることができるのではないか。変化していく中で、変わっていくことと変わらないことのコントラストを見せられたらと思ったんです。嬉しいことに、稽古を重ねていくうちに、僕のついていけるスピードじゃないスピードに変化して作品が出来上がりました。変化することと変化しないことがバラバラに存在するのではなく、変化するからこそ、変わらないものが見つかる。生まれて死んでいくからこそ、生きてよかったなと思えることがあるという思いに至りました。そんな思いを観客の皆さんと共有できて、生きてよかったなと一緒に感じてもらえたらと思っています。

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安西慎太郎(ゴッホ役)
シャトナーさんが変化とおっしゃっていましたが、場当たりをすると、照明も変化して、音楽も変化して、役者の気持ちも変化して、舞台上で起こっている変化が、お客様の心を変えることができると思いました。役作りで一番大切にしようと思っていたのは、虫の視点で描いていることを大切にしようと思っていました。例えば、セミの飛び方は、シャトナーさんやみんなと一緒に話しながら全力で作っていきました。お客様に届けられる稽古をして来ましたし、それを届けられるスタッフとメンバーが揃っておりますので楽しみにしてください。

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山下聖菜(ベアトリーチェ役)
ゴッホの幼馴染で蜜を吸うことと寝ることが好き。ゴッホが1年早く羽化してしまって、1年後に会える日を楽しみに強く生きているまっすぐな愛を観ていただきたいなと思います。

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小澤亮太(バンクォー役)
赤ちゃんの頃から見た虫を演じることがシャトナーさんの舞台でよかったです。虫として演じていると頭の中はぐちゃぐちゃになったりもしましたけど、本当に勉強になったし、この舞台を見せられるのは楽しみで、お客様にも楽しんでもらえたらいいですね。

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木ノ本嶺浩(ホセ役)
シャトナーさんの作品は感覚的な作品で、頭で理解するよりも感覚で感じる演劇という気がします。ミミズは、タートルネックで普通の人のように見えるのですが、シャトナーさんからそれが一番特別じゃないかとおっしゃっていただいた時に、違った世界が広がったような気がしました。お客様もいろんな世界を見ることができると思います。シャトナーさんの言葉たくみなセリフ回しを楽しんでいただけたらと思います。

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山本匠馬(アムンゼン役)
アムンゼンは唯一鳴くことをしない生き物ですが、一夏で鳴くことのできないセミがどのように生を駆け抜けていくのかを観ていただきたいです。がむしゃらに駆け抜けたいと思います。

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陳内将(ゼノン役)
昆虫は人間とは全然違う考えかたをするかもしれませんが、僕らにできる昆虫の感情を追求していきたいです。シャトナーさんからは、ゼノンは、作家であるシャトナーさんの化身であるとおっしゃられたとき、納得したんです。僕が不思議に思っていることをみんなが代弁してくれる。それを感じられるのはシャトナー作品の醍醐味だと思います。明日から、人間界の見方が変わる、昆虫への興味が持っていただけたら嬉しいです。

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米原幸佑(ジンパチ役)
ジンパチは、礼儀や仲間を重んじるマフィアみたいなかっこいい蜂の役。今回演じることになって、蜂が愛おしくなりました。最後まで駆け抜けたいと思います。

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平田裕一郎(セルバンテス役)
みんなの中で一番姿が変わります。最初は半ズボンで、ズボンが次第に伸びて行きますので楽しんでください。

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兼崎健太郎(イルクーツク役)
シャトナーさんは独特の世界観のお芝居を作られるので、稽古中はいつも悩みながら取り組むんです。でも、今回はシャトナーさんの大好きな昆虫を物語にするということで楽しみにしていました。抽象的なシーンも、お客さんにわかりやすく表現して伝えていくのがシャトナーさんの作品だと思っています。虫の世界観を理解してもらって、一緒に生きていけたらいいなと思っています。

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萩野崇(ラングレン役)
シャトナーさんのオリジナル作品に参加できるのが幸せです。シャトナーさんと会話をしたときに、登場人物みんないい人だよねという話をしていました。人との繋がりとや他者との繋がりが素敵な作品だと思っていますので、来ていただくお客様に、少しでも優しさを感じていただければと思います。

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石坂勇(ブックハウス役)
生きるというテーマは人も虫も変わらないという気持ちになりました。長く生きるもの、あっという間に去って行くものを目の前にして、昆虫の見方が変わりました。これから関わり方が変わるような気がします。この舞台を精一杯生きたいと思います。

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〈公演情報〉

05 のコピー


キティエンターテイメント×東映 Presents
SHATNER of WONDER #6
『遠い夏のゴッホ』
作・演出◇西田シャトナー
出演◇安西慎太郎 
山下聖菜/小澤亮太 木ノ本嶺浩 山本匠馬/陳内将
伊勢大貴 宮下雄也 三上俊 永田彬 土屋シオン 丸目聖人
 星元裕月
米原幸佑  平田裕一郎 兼崎健太郎
萩野崇 石坂勇
●7/14〜23◎天王洲 銀河劇場
●7/29〜30◎森ノ宮ピロティホール
〈お問い合わせ〉東京音協 03-5774-3030(平日11:00〜17:00)




【取材・文・撮影:竹下力】





ミュージカル「しゃばけ」弐  〜空のビードロ・畳紙〜






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内場勝則・相楽樹・松村沙友理(乃木坂46)・千菅春香が生演奏で魅せる!『FILL-IN〜娘のバンドに親が出る〜』公開ゲネプロ&囲み取材レポート

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演出家、劇作家、俳優の後藤ひろひとが、東京では7年ぶりの新作『FILL-IN〜娘のバンドに親が出る〜』を、7月13日から紀伊國屋ホールにて上演中だ(23日まで)。
主演は吉本新喜劇のスーパー座長・内場勝則、さらに新喜劇といったら欠かせない怪優・池乃めだか、主人公の幸吉の亡くなった娘のバンドメンバーを、いま最もホットな女優・相楽樹、乃木坂46から演技派・松村沙友理、さらに舞台初挑戦となる千菅春香らフレッシュな若手とベテランの手練れがスクラムを組む。
7月13日、初日を前に、本公演の公開ゲネプロと囲み取材が行われた。
 
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【あらすじ】
孤独な男、真下幸吉(内場勝則)は「音楽に人生を賭けたい」と言い出した娘の花音を勘当した。それを理由に妻の文音(柿丸美智恵)から別居を言い渡された。ある日、幸吉は娘の事故死を知らされた。そこで幸吉は娘が一体どんな人生を送ったのかを知ろうと考えた。そんな彼が出会ったのは娘が所属していたガールズバンド「スキッドマークス」だった。リーダーでギターの葉月(相楽樹)、ベースのくりこ(松村沙友理)、キーボードのレイ(千菅春香)らはメジャーデビューを目前に解散を余儀なくされ路頭に迷っていた。その心の傷を金で癒やそうとした幸吉に葉月は激怒して言い放った。「本当に娘の事が知りたいならお前がかわりにドラムを叩け!」。かくして幸吉はドラムに挑むのだが…。
 
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モヒカンにちょび髭、へんてこりんな喪服姿の後藤ひろひとが唐突に舞台に現れ、ピンスポットにあたりながら「私が書いた7年ぶりの作品は…」といったようなことを語り始める。劇中劇のような趣もあるけれど、落語でいう「まくら」に近く、まずはお葬式のシーンから書き始めたこと、そこに登場する中年男性のことが語られ、物語の導入を丁寧に説明する。東京では7年ぶりというブランクを笑い飛ばしながら、紀伊國屋ホールという伝統的な場所で新作を上演できることを楽しんでいる様子に見える。

そこに、黒の腕章をつけてはいるものの薄茶色の背広という、葬式の場に似つかわしくない、今風の親父といった感じの真下幸吉(内場勝則)がIQOS(電子タバコ)を吸いながら登場する。続いて奥さんである文音(柿丸美智恵)がやってきて、亡くなったのが2人の娘で21歳の花音であること、娘の葬式なのに背広でやってくる仕事人間の幸吉に辟易して、文音が別居したことなどが見えてくる。つまり幸吉は家庭を省みなかった父親だったのだ。 
 
そこから再び、後藤が話を引き継ぎ、死んだ花音はバンドをやっていたこと、そして幸吉に勘当同然で放り出され、自分で生活費を稼ぐために幾つものバイトを掛け持ちして、その挙句、トラックで運送の仕事をしている間に事故を起こして死んでしまったことなどが語られる。
幸吉は、娘が死んだのに自分が泣けないことを文音に訥々と語りながら、自分の感情が空っぽではないかと思い始める。4年間会わずに離れていたせいだとか、いろいろな言い訳を考えるのだが、どれもしっくりこない。そこで後藤が案内役となって、娘の空白の4年間を辿ろうと促し、幸吉は自分の心の整理をつけるために娘の足跡を辿り始める。

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まずは、働いていたという山田鉄工所で花音の友達の葉月(相楽樹)と出会うのだが、葉月は花音の実情を知っているから、幸吉を邪険に扱い追い返してしまう。葉月は直情径行で、嫌いなことは嫌い、好きなものは好きという性格らしい。続いて辿り着くのが、くりこ(松村沙友理)がいるカラオケスナック「うたciao」。ローカルな出身のくりこは、ほんわかした性格だが責任感が強く、幸吉と文音に、とある音楽スタジオを教えてくれる。そこへの道中で、ある公園の主であるカラヤン(池乃めだか)に出会い、何故か1000円をたかられるくだりなど、ちょっと不条理劇の要素が突っ込まれていて、後藤作品らしい面白さがある。
 
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翌朝、幸吉が音楽スタジオに行くと、そこではレイ(千菅春香)がキーボードから、どこかオリエンタルなムードを醸し出している。レイは先端風の自由奔放な女の子だ。やがてギターの葉月とベースのくりこがやってきて顔を揃えたことで、3人は花音とガールズバンドを組んでいたことを、幸吉は理解する。そんな幸吉に、もう少しでプロの道にいけるところまで来ていたのにと葉月が詰め寄る。しかし、金で解決しようとする幸吉の態度に腹を立て、娘の代わりにドラムを叩いてみろと言い放つ。
 
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それを真に受けた幸吉は、元部下の薮内(汐崎アイル)がプロのミュージシャンになっていることを聞き、ドラムの指導を頼むのだが、薮内は音楽をやっているという理由だけで、幸吉に会社を辞めさせられていた。その結果、病弱な母を救えなかったと責める藪内に、花音の影を投影させ、幸吉は自分の非を認め始める。それを感じた薮内はドラムを教えることを決心、幸吉は仕事をそっちのけでドラムにのめり込むようになる。だが、スタジオに出向いてドラムの腕を披露しようとする幸吉に、葉月は「冗談」と冷たくあしらう。そんなとき、彼女たちのバンド「スキッドマークス」(タイヤの跡)が、スタジオの店長(後藤ひろひと)から「ビート・ファーム」という音楽コンテストに出てみないかと誘われる。だが出場するにはドラマーが必要なのだ……。

ストーリーはテンポよく軽快で、新喜劇にもフリ、オチ、というパターンがあるが、それを踏襲しているかのように、盛り上がりがあれば、ズッコケ、ずらし、間の外しと絶妙のリズムで進んでいく。おじさんにIQOSという今時の小道具もわかりやすいし、カラオケスナックや名詞1つ1つ(バンド名は花音の事故を想像させる)に伏線があり、コメディだからこそ大事な、緻密な計算の行き届いたストーリーとなっている。  

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幸吉・文音・葉月・くりこ・レイ・カラヤン・薮内以外の役者たちは、鉄工所の社長夫婦、幸吉の会社の同僚や社長、音楽コンテストに出演するミュージシャンなど何役も演じているのだが、とにかくキャラクターが濃く面白い。例えば、カツラをかぶった多田野曜平と菊池健一が結成した音楽デュオ「阪急オアシス」は、イギリスのオアシスという有名バンドをリスペクトしているのだが、どうみてもデビューできそうにもないダメさを漂わせつつ、多田野がアコースティックギターでいくつかのマイナーコードをいとも簡単に爪弾いたりするから侮れない。菊池もスナックのオーナー役など八面六臂の活躍ぶり。たくませいこは鉄工所の社長夫人役や音楽コンテストに出演する変わったパフォーマーなど、それぞれ芸達者で、見ていて楽しい。そんなちょっとおバカで、どうしようもない脇役たちが織りなすシーンは瞬間沸騰芸のような可笑しさで、それは、後藤のストーリーテラーとしての力があったうえでの面白さでもあるのだ。

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幸吉役の内場勝則は、場数が違う凄さがある。どこにでもいる「おっさん」で、どうしようもないぐらいに情けなく、堅物で、感情表現が下手な男だが、その、ある種の不器用さがダンディーにさえ見えてくる。なかでも池乃との掛け合いは、幾多の経験で培ってきたテンポと見事な間で笑いをさらう。

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カラヤンの池乃めだかは謎の人物で、幸吉とのアドリブ合戦が面白いのだが、どうやら元ドラマーと思しきリズム感も持っているなど、つかみどころのないキャラで観客を笑わせ続ける。
 
汐崎アイルの演じる薮内は、会社では常務という立場にいる幸吉のメンターを伝える存在だ。ぶっきらぼうでいて常にアドバイスを送り、まるで息子が父親を見るような眼差しで、幸吉の変化を見守る人情家だ。

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レイの千菅春香は、初舞台だと感じさせない舞台度胸で、ぶっ飛んだキャラクターをブレずに演じきっている。
松村沙友理は、はんなりとした雰囲気が可愛く、花音のお葬式に行く勇気がなかった自分を責めているくりこの、1本芯の通ったキャラクターをしっかり演じて印象を残す。
相楽樹の葉月は、花音を誰よりも気にかけていたのに、彼女を救うことができなかった罪悪感と孤独を常に抱えて苦しんでいて、だが一人では生きられないと悟る。困難を乗り越えて幸吉と和解するシーンは涙なしには見られない。
 
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文音の柿丸美智恵は、幸吉を側で支えながら、少しずつ娘のことを理解して行く夫の姿に喜ぶ妻の心を、誠実に、シリアスに演じていた。

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そしてこの公演の見どころと言えば、やはり生演奏のシーン。戸田恵子や八代亜紀にも楽曲を提供している話題のシンガー中村中の曲は、オーセンティックなロックンロール。感情の機微がはっきりしていて、今時のガールズバンドらしい、大人になることへの違和と受容を映し込んでいて、10代の決意表明を感じさせる曲になっている。

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そんな曲を演奏する役者たちが見事だ。相楽樹は初心者では最初に挫折するだろう難しいコードもさらりと弾いてのけ、低音のシャウトも日本の伝説のバンド「シーナ&ザ・ロケッツ」ばりに伸びやかだ。松村沙友理のベースの拍の取り方も曲のボトムを安定させているし、千菅春香はハモンド系のジャジーなオルガンをさらりとこなしている。
 
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何より、ドラムの内場が一番の初心者なのにバンドの誰よりもタフで、まさにバンドをやり始めたばかりの人間ならではのフレッシュさを醸し出す。バスドラ、タム、フロアタム、シンバル、ハイアットを順に叩いて行くルーティーンから、次第に自分でリズムをとってスピードを変えていく演奏へ成長する様は、古のロックンローラーそのもので、生演奏のドラムのバスドラの音が、紀伊國屋ホールに響き渡る感動に、思わず鳥肌が立った。

作・演出の後藤ひろひとは、網の目のように張り巡らせた伏線を次々に回収しながら、大円団へと連れて行ってくれる。演奏シーンの演出は非常にシンプルだが、だからこそ生演奏のダイナミズムが十分に伝わってくる。劇中で、後藤がカラヤンや薮内に託した「FILL IN」という言葉は、例えばドラムでは「オカズ」と呼ばれ、決まったパターンを演奏するだけでなく、合間合間に短い小節でインプロ(即興)を織りまぜるという意味だ。それは、主食さえあれば生きていけるという合理主義者だった幸吉、あるいは彼が生きてきたそういう社会に対してのアンチテーゼを表現している。
 
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現代の多くの「おっさん」世代、80年代の未曾有の好景気を味わいながら、その崩壊も見てきた人たち。また、金といった数値や記号でしか価値を判断できない世代。言ってみれば「消費」よりも「生産」に美徳を置く人たちに、娘を「消費」=「失う」ということの意味を突きつけ、失った人間らしい感情を取り戻させる。この舞台はいわば「おっさん」世代へ向けた応援歌かもしれない。いや、アンコールで出演者全員が楽器を持って歌った時の高揚感には、世代や立場を軽々と超える力があり、音楽というものが与えてくれる喜びを、改めて感じさせてくれる舞台だ。

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後藤ひろひと、池乃めだか、相楽樹、内場勝則、松村沙友理(乃木坂46)、千菅春香

【囲みインタビュー】

この『FILL-IN〜娘のバンドに親が出る〜』の公開ゲネプロの前に囲みインタビューが行われ、内場勝則、相楽樹、松村沙友理(乃木坂46)、千菅春香、池乃めだか、後藤ひろひとが登壇した。

後藤ひろひと(作・演出・出演)
まだ本番が始まらないのに、先週ぐらいから本番が終わったら寂しいねと半泣きになっています(笑)。みなさんの楽器の演奏は私が思っていたよりも点数が高くてびっくりしました。これからお客さんの前で演奏するとさらに想像もつかないところに行くと思いますね。録音してほしいぐらいです。早くお客さんに見せたい気持ちでいっぱいです。私は芸術家ではなくエンタテイナーなので、現代の人たちの心に通じるものを伝えたいと思っています。

池乃めだか(カラヤン役)
吉本新喜劇でやってない人と、一緒の空気を吸って、本番を迎えて、千秋楽を迎え、女の子は泣いて、男の子は涙を流しながら別れて、再会を約束して次に向かうことを、何回も迎えて来たので、もう少しで別れてしまうのが悲しいんや(笑)。正直、何を言うていいのか…逃げたいです。僕のシーンだけでも目つぶってくださいね。
 
相楽樹(葉月
バンドの練習も含めると2ヶ月ぐらい稽古をしてきたので、ようやく劇場に入ることができて感慨深いです。ギターは触ったことはありますが、弾き語りをしたことがないし、バンドで合わせることもやったことがないので一から練習して、歌とギターの二人の先生についていただいて、ボイトレもしました。舞台で演奏するのは初めてなので、いつもとは違う緊張感があるのでドキドキしています。ただ、お客さんが入ったら違う景色が広がる素敵な作品なので、早くみなさんに観ていただきたいな。後藤さんの稽古は楽しくて、みんなの名前が覚えられないときに、あだ名を呼びながらバレーボールをしました。とても楽しくて、みんなの性格が出てくるんです。

内場勝則(真下幸吉
ドラムスティックは触ったことがないし、楽器らしいものも触ったことがないので、演奏するだけで精一杯です。去年の11月ぐらいから触り出して、本格的に練習し始めたのは3月ぐらいから。週2日間は先生に教わり、2日間は自主トレをこなす。稽古は厳しいところもありましたが、みんなあだ名の呼びあいで仲良くなって、距離が近づいて、松村くんなんか、ようわからへんけど後ろからいきなり押されたり(笑)。飲みに行って、朝までいて楽しかったし、これから離れてどうなるんだろう? 忘れていた学生時代を思い出すような感じがします。そんな良いお芝居に出会えて、舞台に携わった全員が同じ方向を向いてくれたので、プロの集団たちがいいものを作ろうという気持ちを前面に押し出した、笑いと涙と感動をお届けしますので楽しみにしてください。

松村沙友理(乃木坂46/くりこ
内場さんがめだかさんのアドリブを返しているのが臨機応変でさすがだな。ベースは初挑戦でしたが、千菅さんと相楽さんはスタジオに入って2時間後には、1曲通してみようという段階だったんです。私はまだAメロも弾けない状態でしたが、バンドとしては、いい化学反応を感じました。この舞台は、いろんな芸事をされている方が集まった舞台だと思っているし、私たちも初挑戦がたくさん詰まった舞台なので、一緒に楽しめたらいいと思います。

千菅春香(レイ
私は初めての舞台で、舞台上で演奏するのも初めてでしたが、後藤さんをはじめ思い出したら思わず笑ってしまう楽しい稽古でした。人見知りの人が多くて、初めはかなり黙っていて、ご飯にも誘えない空気があったのが、昔のことのように思えるほどです。紀伊國屋ホールに入って、本当にすごい方々とご一緒させていただいているので、幕が上がったら、ますます大きなエネルギーを作り出せると思っています。本番では、もっともっと大きな楽しい気持ちに変えたらいいなと思っています。最高の時間になるような気がしているので、是非みなさん楽しみにしてください。

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〈公演情報〉
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『FILL-IN〜娘のバンドに親が出る〜』
作・演出◇後藤ひろひと
バンド楽曲提供◇中村中
音楽監督◇楠瀬拓哉
出演◇内場勝則 相楽樹 松村沙友理(乃木坂46) 千菅春香 汐崎アイル 柿丸美智恵 多田野曜平 菊池健一(ギンナナ) たくませいこ 後藤ひろひと 池乃めだか
●7/13〜23◎紀伊國屋ホール
〈料金〉7,800円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(平日10時〜18時)




【取材・文・撮影:竹下力】




ミュージカル「しゃばけ」弐  〜空のビードロ・畳紙〜






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永遠に色あせぬ「愛」を信じる力 ミュージカル『RENT』上演中!

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1996年の初演以来、世界中で愛され続けるミュージカル『RENT』が、2015年公演以来の、約2年ぶりに日比谷のシアタークリエで上演中だ(8月6日まで。のち、愛知県芸術劇場大ホール、大阪・森ノ宮ピロティホール、福岡市民会館でも上演)。

『RENT』はプッチーニのオペラ『ラ・ボエーム』をベースに、物語の舞台を20世紀末のニューヨーク、イーストヴィレッジに置き換え、当時の若者の世相に鋭く切り込み、貧困、エイズ、ドラッグ、同性愛といった問題と直面しながら尚、愛や友情を信じ輝き続けようとする登場人物たちの姿を描いたブロードウェイミュージカル。1996年、NYの小さな劇場で誕生したこの作品は、わずか2ヶ月後にブロードウェイに進出し、トニー賞4部門、ピューリッツァー賞、オービー賞など数々の受賞歴を誇り、12年4ヶ月のロングラン、世界15ヶ国での上演をはじめ、2006年には映画化もされ、新しいミュージカルの歴史を刻んできた。作品はプレビュー公演の前日に35歳の若さで急死した作者、ジョナサン・ラーソンの遺志を継ぎ、今尚、世界中で上演され、愛され続けている。シアタークリエでは2008年から4回の上演を重ね、今回が5回目の上演。主演のマーク役村井良大をはじめ、ロジャー役のWキャスト堂珍嘉邦、ユナクら、2015年バージョンから引き続いて出演する多くのメンバーに、新キャスト6名を加えた、2017年版の『RENT』ファミリーが一丸となり、更に進化した舞台を繰り広げている。

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【STORY】

20世紀末。NY、イーストヴィレッジ。映像作家のマーク(村井良大)は友人で元ロックバンドのボーカリスト・ロジャー(堂珍嘉邦、ユナク・Wキャスト)と古いロフトで暮らしている。彼らには夢はあるが、金はなく、滞納していた家賃(レント)がかさみ、クリスマスイヴにもかかわらず電気も暖房も止められてしまう。恋人をHIVで亡くして以来、引きこもりを続けているロジャー自身もHIVに感染しており、せめて死ぬ前に1曲後世に残る曲を書きたいともがいている。ある日彼は階下に住むSMクラブのダンサー、ミミ(青野紗穂、ジェニファー・Wキャスト)と出会うが、彼女もまたHIVポジティブだった。一方のマークはパフォーマンスアーティストのモーリーン(上木彩矢、紗羅マリー・Wキャスト)に振られたばかり。彼女の新しい恋人は女性弁護士のジョアンヌ(宮本美季)だ。彼らの仲間のコリンズ(光永泰一朗)は暴漢に襲われたところをストリートドラマーのエンジェル(平間壮一、丘山晴己Wキャスト)に助けられ、二人は惹かれあう。季節は巡り、彼らの関係も少しずつ変わってゆく。出会い、衝突、葛藤、別れ、そして二度目のクリスマスイヴが訪れた時…

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舞台に接して改めて感じるのは、誕生して20有余年を経て尚、この作品が全く色あせない魅力を持っていることだ。もちろん、この時間の中で、作中の登場人物たちが直面している、HIVやLGBTへの偏見といったものは、一歩一歩ではあれ、確実に社会の理解を得られる方向に進んでいて、むしろそこに時代の変化を感じられる喜びに近い感情が湧く面もある。この点だけを取れば、ひとつ前の時代の物語と感じても不思議ではない。だが、そうした変化の中でも、作品が輝きを失わないのは、夢を求める心と、何よりも愛を信じ、その尊さを訴えてくる『RENT』の根本的なテーマが、どんな時代にも深く人の心を打つからに他ならない。と言うのも実のところ、人間は生きていく上で、常に夢や愛だけを見つめてはいられない。この作品の中では、どちらかと言えば敵役に近い立ち位置で登場するベニー(NALAW)の存在は、日々俗世を生きる者にとっては、ある意味最も近いところにいる人物だし、才能を買われて「仕事」の為に本意ではない映像を撮ることに忸怩たる思いを抱くマークにどれほど共感したとしても、折角得た仕事を投げ捨てるマークの勇気に倣うことは極めて難しい。

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けれどもだからこそ、この作品に登場する若者たちが、悩み苦しみながら生き続け、夢を信じ、愛を求める姿が何者にも代えがたく煌めいて映り、終幕の「奇跡」に心奪われずにはいられない。毎日を生きることに必死で、つい忘れてしまい勝ちの、でも決して人としてなくしてはいけないものを『RENT』は思い出させてくれる。7月の声を聞き『RENT』が開幕した時、今年も半分が過ぎ去ってしまった、と一種呆然とていた思いを「525.600分=1年」の残り半分「262.800分」をちゃんと愛を信じて、自分の正直に真摯に生きなければとの想いに素直に変換してくれた『RENT』の力は計り知れない。「Seasons Of Love 」「 Rent」「 La Vie Boheme」をはじめとした名曲の数々が、怒涛のように届けてくれるパワーも圧倒的だ。

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特に、今回のシアタークリエでの2017年版『RENT』は、マーク役の村井良大をはじめ、多くの役柄が前回2015年版に引き続いて出演していて、上演の度に新たなキャストで演じられるケースがほとんどだった『RENT』の深い魅力にも気づかせてくれる貴重な機会になっている。
やはり、続投キャストたちがこの2年間で蓄えてきたものが、同じ『RENT』という作品に返ってきた時、確実な進化を遂げていることが手に取るように分かるのだ。その象徴とも言えるのが村井良大のマークで、彼自身が演じた2015年版を含めて、これほどマークがある意味の傍観者でも、狂言回しでもなく、作品の骨子を担う主人公としての熱量を持っていた『RENT』は、ちょっと記憶にない。

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主要な登場人物の中で唯一HIVポジティブでなく、常にカメラのレンズを通して他者と関わっているマークは、この群像劇の中では主人公でありながらむしろドラマが少ない。役者が表現をする創作の世界の中では負の要素を多く持っている、波乱万丈な人生をたどる登場人物の方が、よりドラマティックに訴えかけてきやすいのは言うまでもなく、そうした意味でマークはかなり難しい主人公だ。勢いドラマの中心となるのはロジャーとミミのカップルで、マークはストーリーテラーという感覚が生まれることも決して珍しくはない。
だが、2017年版の村井マークは、確実にそのマークの抱える困難を跳ね除け、舞台の中でロジャーやミミと同じように、夢に向かって生き、もがき苦しみ、己を信じて自身の道を切り開こうとする、熱量の高い、強い存在感を放つマークだった。これによって、作品全体の熱量も更に上がって感じられ、2015年版とも、これまでのどの上演とも違う『RENT』を体感できたことは、非常に貴重なものだった。

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同じことが、堂珍嘉邦、ユナク、ジェニファー、平間壮一、上木彩矢、宮本美季、等をはじめとした続投キャストにも言えて、歌手であるとか、ダンサーであるとか、役者である前に世に知らしめていた彼らの輝かしい出自を超えて、この作品の登場人物としての彼らの表現が、更に深く、濃く深まっていることが、群像劇の熱と質を高めた。そこに青野紗穂、光永泰一朗、丘山晴己、紗羅マリー、NALAWら新キャストたちの化学反応があり、2017年版『RENT』の、今ここにしかない、ここだけの輝きが迫力を持って迫ってくる。

おそらくキャストの組み合わせによって、舞台は更なる新しい顔を見せてくれていることだろうし、様々な役柄で登場する面々の個性も、歌唱も際立っていて、暑い夏を迎えた2017年に、決して見落とせない、更に何度でも観たくなる進化した『RENT』が生まれ出たことを喜びたい舞台となっている。

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〈公演情報〉
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ミュージカル『RENT』
脚本・作詞・音楽◇ジョナサン・ラーソン
演出◇マイケル・グライフ
日本版リステージ◇アンディ・セニョールJr.
出演◇村井良大、堂珍嘉邦、ユナク(超新星)、青野紗穂、ジェニファー、光永泰一朗、平間壮一、丘山晴己、上木彩矢、紗羅マリー、宮本美季、NALAW (CODE-V)、新井俊一、千葉直生、小林由佳、MARU、奈良木浚赫、岡本悠紀、長尾哲平(Swing)
●7/2〜8/6◎日比谷 シアタークリエ
〈料金〉S席11,500円、A席9,000、エンジェルシート(当日抽選席)5,000円
〈問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-32001-7777(9時半〜17時半)
●8/10 愛知芸術劇場大ホール
〈問い合わせ〉キョードー東海 052-972-7466
●8/17〜22◎大阪 森ノ宮ピロティホール
〈問い合わせ〉サンライズプロモーション大阪 0570-200-888
●8/26〜27 福岡市民会館
〈問い合わせ〉ピクニック 050-3539-8330




【取材・文・撮影/橘涼香】





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無限に広がる「閉ざされた空間」の魅惑!  OSK日本歌劇団 神戸三宮シアターエートー こけら落とし公演『HIDEAWAY』開幕!

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創立95周年を迎えたOSK日本歌劇団が、100年への道をつないで行くべき期待の若手メンバーを擁し、鬼才荻田浩一を作・演出に迎えて創り上げた新作、ソング・サイクルショータイム『HIDEAWAY』が、新たに開場した小劇場、神戸三宮シアターエートーで開幕した(17日まで)。

『HIDEAWAY』は、OSK日本歌劇団の精鋭メンバー8名が、客席数100という濃密な空間の小劇場シアターエートーで「閉ざされた空間」をテーマに繰り広げられるノンストップ90分のショー作品。新劇場のこけら落とし公演に相応しく、「隠れ家」を意味する『HIDEAWAY』というタイトルそのものが、このまさに都会の隠れ家のような雰囲気を持つ、劇場空間そのものに絶妙にマッチしていて、開幕前、客席に座った刹那から、まるで作品世界に入り込んだような気持ちにさせてくれる。

だが、そこは「荻田ワールド」と称される、幻惑的で摩訶不思議な世界観を操る、荻田浩一のこと。基本的には、壁に映し出される決して過剰ではなく、実に効果的でポイントを押さえた映像と、四つの四角い木箱を様々に組み合わせていくだけの転換の中で、実に多種多様な「閉ざされた空間」が、荻田作品特有の、1つ1つが単独の場面のようでいながら、前の場面から居残る人物、音楽などの力によって、絶妙に重なり合い、影響し合いながら、ショー形式を保って紡がれていく。

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特に、冒頭のホテルから駅へ、駅から列車へ、更に海の上の船へと流れていく転換があまりにも流麗で、場面が移りゆくことがまるで魔法のように感じられた。しかも、台詞と言える台詞は極めて少ないのに、各場面で歌われる歌詞の深さとドラマチックさが、ショーでありながら、オムニバスの芝居を観ているような錯覚を覚えるほど。これによって、描かれている場面、登場人物の置かれた立場と心情が的確に伝わってくるのは、驚くばかりだ。

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しかも例えば船の情景などは、心に重く残る悲劇性を宿しているが、一転してこの小劇場がいっぱいいっぱいに感じられるほどの躍動したダンスや、コミカルなシーンに爆笑もさせてもらえる。とにかく「閉ざされた空間」の解釈が多彩で「心が閉ざされている」ことも「思いに囚われている」ことも「強烈なナルシシズム」も、すべてが「閉ざされた空間」なのだな…という、荻田のイマジネーションが無限に広がるから、客席にいてただひたすらに発見の連続。特に「閉ざされた空間」と聞いて、おそらく誰もが一番に思い描くだろう「牢獄」の、あまりに意外な展開には、「やられた!」という思いに至らされたし、女優たちの「私が一番!」という強烈な自己顕示の張り合いは、抱腹絶倒。それがあるからこそ、これぞ荻田浩一!という終幕の2場面、「庭園の夫人と薔薇の精」、「画廊の紳士と踊る女」という幻惑と魔性の世界に帰結する、ショー全体のメリハリが見事だった。やはり荻田のショーは掛け値なしに、魅惑的で面白い。

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そんな作品の面白さを十二分に表現し、更に増幅させたのが、華月奏をはじめとした、OSK日本歌劇団選りすぐりの若手メンバーたちの充実だ。
今年栄えある創立95年を迎えたOSK日本歌劇団は、その記念となるレビュー公演『春のおどり』を、6月に松竹座で華々しく上演していて、(8月31日〜9月3日には『夏のおどり』として東京・新橋演舞場でも上演)、この『HIDEWAY』公演に出演するメンバーは、その記念公演への出演がスケジュール上叶わないことになる。創立からここまでの道のりが決して平坦とは言えなかったOSK日本歌劇団が、この節目の年を迎えるにあたってはらってきた、並大抵ではなかった努力と忍耐を思う時、やはり今この時、在籍している劇団員ならば、晴れやかな記念公演の舞台に立ちたいという思いは、おそらく誰もが持っていたに違いない。それでも尚、新しい劇場で、新しいショーを創ることを劇団から託され、選抜された8名が、どれほどOSK日本歌劇団の未来に必要な人材であるかを、その力量と輝かしい可能性を、彼女たちはこの舞台を通して見事に示してくれている。
 
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今回の初主演を任された華月奏は、まず定評ある豊かな歌唱力で魅了する。この人の歌声には、凜とした涼やかさと透明感があり、くっきりと明瞭な口跡で1つもくぐもることなく、歌詞を客席に届けてくれる力がある。言葉の選び方の多彩さと、深い意味合いで、詩人としても一流の魅力を持つ荻田の歌詞を、ストレスなく聞きとることができるのは、観客としても実に嬉しいことだし、ショー全体の質を高める効果ともなった。美しき二枚目に相応しい「船」や「画廊」の場面などでの影のある男役ぶりが魅力的なのはもちろんだが、一転して明るく弾けるダンスナンバーや「列車」のシーン、更にこれは是非観てのお楽しみという、「牢獄」や「楽屋」の意外性など、華月奏という男役が、これまで見せてきてくれていた美点の上に、新たな幾つもの顔が加わった堂々の主演ぶりだった。この公演で彼女が示したセンターに立てる力量と、同時に彼女が得たはずの多くのものが、OSK日本歌劇団の未来にとって貴重な財産となることだろう。この人の今後がより一層楽しみになった。

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そんな華月と、ほぼ対等に近いのでは?と思うほど、多くのソロナンバーと場面を得た翼和希は、やはり伸びやかな歌声が心地よい。華月よりは明るさと勢いが前に出る歌唱なのも良い対比になっていたし、今回何より驚いたのは、彼女の最大の魅力だった少年の輝きに似た溌剌さだけでなく、もう1つ骨太な男らしさが観て取れたことで、やはり多彩な場面を任されて、ハイスピードで成長した新たな翼和希を観ることができる。逸材なのはもちろんだが、更に今が伸び盛りでもあるのだろう。シャンソンの代表的な楽曲も堂々と力強く歌いきり、薔薇の精では、城月れいの夫人を相手に彼女をリードし、夢幻の世界へと誘う妖艶な役どころを、妖しく、美しいこの世ならぬ者として見事に演じていて舌を巻いた。今後どこまで伸びていってくれるか、末頼もしいホープである。

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その「庭園」では翼と「船」では華月と絡んで、全く色の異なる幻惑の世界の女性を演じ分けた城月れいは、自立した女役の存在が1つの大きなアピールポイントであるOSK日本歌劇団の中にあっても、更に大人の雰囲気を醸し出せる貴重な女役。特にこの人の個性には、どこか秘めた悲しみや、狂気を感じさせる片鱗があって、まさに独壇場と言えたこの2つの場面だけでなく、コケティッシュな意地の張り合い場面や、シャープなダンスの魅力も発揮。作品の多彩さを支えた貴重な存在となっていた。ソプラノの歌声も美しく、この人がヒロインを務める大人の恋愛模様の作品を是非観てみたいという夢が広がった。

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とにかく踊れる女役で、その踊りを観るだけでも入場料金の価値があると思わせてくれる麗羅リコも、今回はその踊りだけでなく、歌に芝居に大活躍。OSK日本歌劇団員全員にも当てはまることなのだが、やはり身体能力が高いということは、表現力が高いということでもあって、様々なシーンに対応して、自在に変化する麗羅の力量はたいしたもの。「画廊」のシーンでは、実際に映像としては表れない(この演出も実に秀逸)「絵画」が、この人の指の先に立ち現れるようで、華月とのやりとりにも大きな見応えがあった。この公演をきっかけに、更に多様な形での活躍が期待できそうだ。

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全員が場面を運び、ショーの流れをひとときも留めない演出の中にあっても、特に場面転換の肝を握る役割を多く担った栞さなは、様々に着こなした制服がどれもよく似合い、託された役目を十二分に果たしている。誠実さが前に出る持ち味も、全体の中で良い効果になっていた。白のワンピースでの登場や優雅なシャポー、また「庭園」のメイドなど、清心な若々しさが際立った穂香めぐみの愛らしさも、全体の良いアクセントで、それでいて城月、麗羅と対等に渡り合う場面も果敢にこなして、まだまだ多くの魅力を秘めているのではないか。男役として恵まれたプロポーションを持つ壱弥ゆうは、弾けるダンスのみならず、随所に豊かな芝居心を感じさせて目を引く。一方、雅晴日は、ワンフレーズのソロ歌唱で客席に大きく手を広げた瞬間の輝きが印象的だった。男役としての身のこなしがよりこなれてくれば、一気に加速がかかりそうだ。

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と、まとめてみると明白なように、8名の出演者全員に大きな働き場があり、新たな魅力の開花があり、更に豊かな伸びしろが感じられたのが嬉しい。人の出し入れをはじめとしたステージングにも、神がかり的な巧みさを持つ荻田演出のすべてを、客席の最後列からでも見渡せるシアターエートーは、小劇場空間の良さを如何なく発揮。17日の千秋楽までには更に多くの輝きが舞台にあふれるに違いない。是非この作品の東京での上演も期待したいし、OSK日本歌劇団と荻田浩一のタッグも、今後も継続して企画して欲しいという期待も高まった。何よりも、100周年に向けて歩み出したOSK日本歌劇団に、こんなにも頼もしい若手スターたちが揃っていることを、改めて再確認できたのを喜びたい舞台となっている。

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〈公演情報〉
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OSK日本歌劇団 神戸三宮シアター・エートー こけら落とし公演
『HIDEAWAY ハイダウェイ』
作・演出◇荻田浩一
出演◇華月奏、翼和希、城月れい、麗羅リコ、栞さな、穂香めぐみ、壱弥ゆう、雅晴日
●7/13〜17◎神戸三宮シアター・エートー
〈料金〉前売/SS席7,000円  S席6,000円  補助席5,000円 (当日/500円加算)
「U_25 S席」5,000円(25歳以下・要身分証明書) 
「はじめて割」1組2名・S席2名で6,000円(OSKを初めて観劇する方向けペアチケット・要氏名、連絡先登録)各回5組10名限定
「学割補助席」4,000円(要身分証明書) 
「学生3人割」1組3名・補助席3名で6,000円(土日限定・要身分証明書)各回2組6名限定
※「U_25 S席 」以下の企画券はOSK日本歌劇団電話受付のみの販売 
〈お問い合わせ〉OSK日本歌劇団 06-6251-3091(10時〜17時)





【取材・文/橘涼香 写真提供/OSK日本歌劇団】




ミュージカル「しゃばけ」弐  〜空のビードロ・畳紙〜





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ノンバーバル劇場「オルタナティブシアター」テープカットセレモニー&こけら落とし公演『アラタ〜ALATA〜』ゲネプロレポート   

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日本の舞台芸術の中心地である千代田区有楽町、そこに位置する「有楽町マリオン」に、新しいエンターテインメントを海外に発信する目的の劇場「オルタナティブシアター」が、7月7日にオープン。そのこけら落とし公演として上演される『アラタ〜ALATA〜』の初日が開幕した。

脚本はスーパ歌舞伎からミュージカル、オリジナル戯曲まで幅広く手がける横内謙介。演出はつか作品をはじめ、商業演劇で気を吐く岡村俊一。ダンスクリエイターには、女優&コレオグラファーとして活躍するElina。サムライアクション・ディレクターには、殺陣に抜群の才能を発揮する俳優・早乙女友貴。そして、オーディションで抜擢された若干18歳の吉田美佳子。音楽は、素性を一切明かさない謎の集団で、リリースしたCDはすべてオリコンインディーズチャート1位に輝くMili。さらに舞台美術は、小劇団からプロデュース公演まで500作以上を手がけ、世界でも活躍する加藤ちか。イリュージョン協力としてラスベガスの公演でも話題をさらったAi and YuKi。映像では劇団鹿殺し、地球ゴージャスなど様々な舞台で実力を発揮するムーチョ村松。まさに錚々たるキャスト・スタッフが名を連ねている。

★ロビー170604_a_0003
★客席170604_a_0295 (1)
ロビーと客席
 
公演はすべてロングランを予定しており(現在は2ヶ月の予定)、すべてのキャストが回替わりする可能性のある公演となっている。そのため千穐楽は設けず、海外の観光客から日本人まで、どんな客層も何度も足を運べるように、そして、ブロードウェイの日本版として、平日から休日までのナイトライフを楽しむことのできる新たな観光スポットを目指している。

この『アラタ〜ALATA〜』の初日を控えた7月6日に、「オルタナティブシアター」のテープカットセレモニーと公開ゲネプロが行われた。

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田沼和俊、岡村俊一、石川雅己、三浦哲裕、横内謙介
 
【テープカットセレモニー】
江戸太神楽の丸一仙翁社中によって、劇場の繁栄を祈る和太鼓と横笛の「お多福来い来い」が演奏されたあと、株式会社スタジオアルタの代表取締役社長の田沼和俊が挨拶。その後、千代田区長の石川雅己が祝辞を述べたのち、『アラタ〜ALATA〜』で脚本を担当した横内謙介、株式会社ルミネの常務取締役の有楽町店長の三浦哲裕、石川雅己、構成・演出の岡村俊一、田沼和俊によってテープカットが行われ、獅子舞が舞い祝祭ムードを彩った。セレモニーのあとは、丸一仙翁社中の傘回しやバチのジャグリング、劇場パフォーマーを務める「CRAZY TOKYO」の曲芸や、人とロボットの音楽ユニット「mirai capsule」による、ヒューマノイドタブレットのPepperのパフォーマンスが披露され招待客の目を楽しませた。

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【挨拶と祝辞】
 
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田沼和俊(スタジオアルタ代表取締役社長)
今日は暑い中、ご来場いただきありがとうございます。スタジオアルタは『笑っていいとも!』の新宿アルタ館から、千代田区有楽町2丁目のマリオンビルに移して、「オルタナティブシアター」として開業いたします。「オルタナティブシアター」はアルタの語源であります、「既存のものにとらわれない」エンターテインメントを提供していきます。訪日観光客をターゲットにしておりますが、日本の皆様にも、楽しめるものを提供できると思います。日本人は自分のことを自慢することが得意ではありませんし、コミュニケーション下手なところがありますけれども、開業に向けて準備してきたことを振り返りますと、苦労をしながらも、たくさんの方々に支えられ、ご支援があって、ここまできたと自負できます。千代田区には、歌舞伎座から始まり、劇団四季、帝国劇場、宝塚劇場もあります。日本のエンターテインメントを担ってきた諸先輩がたのパフォーマンスを学びながら、新しい価値をどのように想像していくのか考えながら本日を迎えることをできました。我々は世界に向けて、キーワード「さぁ、次は世界を笑顔に!」を胸に、新しいエンターテインメントを提供していきたいと思っております。こちらのビルは築30年ぐらい経っておりますが、メンテナンスも行き届いております。設備を維持されてきた方々は大変な苦労をなさったと頭の下がる思いですし、この映画館を劇場にリフレッシュするために色々な努力をしてきました。ハードに限らず、ソフト面につきましては、国境を越えて、言葉の壁を越えて、エンターテインメントを提供していきます。これから公開ゲネプロがございますが、セリフを極力減らした、若い方から、お年寄りまで楽しめ、そして言葉の壁を越えた娯楽作品でございます。最後までゆっくりと御覧いただきまして、感想をいただければ幸甚です。これからもご支援のほど、何卒よろしくお願いいたします。
 
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石川雅己(千代田区長)
千代田区は、田沼社長からお話があったように、日本のブロードウェイといっても過言ではありません。現代社会は、既存の仕組みにこだわらない新しいコンセプトのものを求めている傾向にあります。そこに古い枠にとらわれない新しい劇場を作ろうということで、最新の設備や映像装置を駆使して、迫力満点の舞台を披露いただくとお聞きし、地元の区長として喜びに絶えません。3年後はオリンピックとパラリンピックが開催されます。内外のお客様、特に外国からのお客様がお見えになると思います。この劇場に、おそらく多くの外国人の方が訪れ、舞台を楽しんでお帰りいただける。オリンピックはスポーツの祭典だけではありません。文化や芸術、教育との融合がオリンピックの基本的な精神になっております。その意味で、新しいコンセプトの劇場が開設されることは、オリンピックの精神にもつながると期待しております。今日の日を迎えるに当たり、心からお祝い申し上げます。

【ゲネプロレポート】

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2020年、人口一千万を越える巨大都市トーキョーに一人のサムライが現れた。その名は「アラタ」。妖術使いの怨霊・玉野尾に襲われた千代姫を守る戦いで追い詰められ、祈祷師の白百の呪文によって、戦国時代から現代にタイムスリップしてきたのだ。アラタは夜の銀座で、現代を生きる女「こころ」に救われる。そこから、現代東京の常識を全く知らない「アラタ」と、古くさいことを嫌う「こころ」の東京珍道中が始まる。そして、古代から追いかけてきた玉野尾が2人の行く手を阻む。はたして「アラタ」は自分の時代に戻れるのか…?「こころ」の運命は…?

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開演のブザーがなり緊張感が高まると、「Alternative Theatre」と書かれた幕の中央にスポットライトが当たる。舞台が始まるのかと思いきや、モップを持った清掃員の格好をしたSATOCOによるコミカルなマイムが始まる。普通の劇場であれば、アナウンスによる「携帯の禁止」「撮影禁止」「食べ物の禁止」「非常誘導灯の消灯」といった劇場あるあるが、日本語や英語やハングルといった多言語が幕に映されながら説明される。この時点で、この舞台は普段観劇する体験とは異なる楽しみを与えてくれることを予感させる。
 
SATOCOのマイムの後に幕が開くと、そこに広がるのは細部まで目の行き届いた美しい舞台装置だ。ダンサーや役者達に所狭しと動けるように用意された広くて黒い床。上手と下手には3枚の切れ込みの入ったギザギザの幅の異なるパネルが奥へと連なり、役者達がパネル同士の間を出たり入ったりする。一番奥のパネルは開閉式になっており、ドアのような役割を果たす。それが閉まると、舞台全体がスクリーンの役割を果たし、ムーチョ村松らによる映像が流れ場所の説明やシーンに様々な感情を与えてくれる。
中央には2段の台座。台座と台座の間にはLEDの照明が仕掛けられていて、それが明滅し、天井のライトとまじりあうとクールな印象や、ノスタルジックな雰囲気に彩る。一番上の台座は昇降式で役者が宙に浮く仕掛け。奥には開閉式のドアがあり、映像によって浅草寺の境内の門やトイレのドアなどに変わる。シンプルでありつつ精巧な加藤ちかの装置とムーチョ村松らによる映像の掛け合いが絶妙だ。周りを見れば、天井には2700灯のフルカラーLEDが劇場を覆い、劇場全体を様々な色に染め上げる。フライングシステムは2基用意されており、観客席も劇場の一つだと感じさせてくれる素晴らしい劇場だ。
 
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そんなシンプルで精巧な舞台の中央に、こころ(Elina)がやってきて、毎晩恐ろしい夢を見てしまうオブセッションをソロのダンスで華麗に踊り、そして寝汗をかいて目覚めるといつものようにやってくる退屈な日常を、ダンサー達と表現していく。行きも帰りもぎゅうぎゅう詰めの満員電車。無駄ばかりで意味のない仕事。ひっきりなしにかかってくるムカつく携帯電話。そんな現代日本の陰の部分をダンスでリズミカルに表現していく。

オープニングのシーンは、公開稽古(http://kangekiyoho.blog.jp/archives/52030137.html)でも書いたように、完成された照明、装置、音楽、それらが絡み合うことで、次元の異なる臨場感を与えてくれる。
Elinaのダンスも彼女が同サイトで「まだ改善の余地がある」と語った通り、稽古の数倍のキレを見せる。とにかくダンサー達のキレとそれに勝るとも劣らないコンビネーションが圧巻だ。Miliのアンニュイな音楽も完成された劇場で流れると、こころの心模様をリアルに表現しているように聴こえ、日本人の感じるフラストレーションを外国人にもわかりやすく伝えてくれる。
 
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その後、戦国時代へとシーンが移動し、アラタが登場し殺陣が始まる。千代姫(吉田美佳子)を守るための戦いだが、アラタの早乙女友貴の殺陣が稽古で見た以上に抜群のスピードと迫力だ。瞬きさえも許さないほどのすばやい刀さばきで、手首のスナップを効かせたしなやかな殺陣の美しさは圧巻。その刀をくるくる回し鞘に納める流麗な動きはかっこいいの一言で、外国の観光客に男の子がいたら武士に憧れてしまうのではないだろうか。
 
だがアラタは多勢に無勢で、敵に斬られて倒れてしまう。そこに千代姫がスポットライトとともに現れるのだが、吉田美佳子の凛とした佇まいが美しい。彼女は「鼓」を打つのだが、鼓を打つたびに苦しみだす。その煩悶の表情が実にリアルで痛みが客席に伝わってくる。だが、そのときアラタが復活する。千代姫が「鼓」を叩くことによって己の命と引き換えに、他人の傷を癒すことができるとわかる。
 
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やがて後方のPAシステムから不気味な笑い声がしたかと思うと、妖艶な衣装を着た玉野尾(寿美)がフライングで観客席の上を飛びながらやってくる。この劇場ならではの立体的な演出だ。千代姫たちは玉野尾たちに破れ、アラタは小さな箱に閉じ込められてしまうのだが、その場面はAi and YuKiのイリュージョンでファンタジックに魅せる。千代姫は玉野尾に囚われるが、アラタの入った小さな箱は白百(SATOCO)が奪い返し、呪文によって現代に飛ばす。SATOCOは開演前のマイムも印象的だったが、白百の切迫感やコミカルな表情は、パントマイマーでしか表現できないリアリティーがある。
 
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シーンは現代に戻り、こころの前に「鼓」とともにアラタが現れ2人は出会う。こころはアラタに興味を持ち行動をともにする。そこからの2人の珍道中は、初めて日本にやってきた外国人の行動と重なって面白い。浅草寺を興味深げに散策したり、歌舞伎の斬り合いを本物と勘違いする。トイレのウォシュレットに驚いてトイレを破壊してしまったり、カルチャーショックの微笑ましいシーンの連続が、このプロダクションの「さぁ、次は世界を笑顔に!」というテーマを体現しているようだ。だがアラタは警察に絡まれ、機動隊にまで襲われる羽目になって…。

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横内謙介のストーリーテラーとしての卓抜した才能は、現代と過去をテンポ良く交差させ、時には過去と現在を同居させながら幻想的に物語を進めていく。歌舞伎、切腹、花札といったジャポネスクの象徴と、現代日本ならではの先端的文明を織り交ぜながら、その意味を考えさせ、エンターテインメントとして問いかける手腕はさすが。セリフはほとんど書かれていない作品だが、物語に込められた作家の魂は、観るものを確実に感動させる。
 
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岡村俊一の演出はきめ細かく、かつスペクタキュラーで、横内の意図を十二分に表現する。芝居、ダンス、殺陣の3つの要素を、スピーディーに無数に掛け合わせながら、映像、照明、音楽と巧みに組み合わせ、役者やダンサーたち1人1人をフィーチャーする。70分という制約を逆手にとって、「どのシーンも見逃せない」「どのシーンも見逃させない」という、観客と演者が一体となった空間を成立させてしまう。

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最新テクノロジーを駆使する斬新さと、それに抗うような役者たちの生の肉体から立ち上る熱が相俟って、観るものに圧倒的なカタルシスをもたらしてくれるこの舞台。「ノンバーバル」と銘打たれているように、テクノロジーと演技の融合が新たな言語を生み出したような感覚さえして、それを共有するために必要なのは、国境を超えた友愛の感情だと教えてくれる。そしてこの「ノンバーバル」なエンターテインメントが、ここから世界に発信されていく、その歴史的な瞬間に立ち会えた幸せに感動する。
劇中でアラタとこころが交わす何回かの友情「ゆびきり」、それは過去を大切に受け取ることで現代が輝き、やがて未来への大きな架け橋になることを訴えかけてくる。改めて「ノンバーバル」という言葉の意味を考えさせ、真摯なメッセージを感じさせてくれる舞台でもあるのだ。
 
【囲みインタビュー】
 
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岡村俊一、吉田美佳子、早乙女友貴、Elina、横内謙介
 
ゲネプロの後、岡村俊一、Elina、早乙女友貴、吉田美佳子、横内謙介が登壇。囲みインタビューが行われた。

岡村俊一(構成・演出)
ゲネプロを観ていただいた外国の方にも、日本のエンターテインメントとして、心に届いたような気がします。この劇場は最新鋭の機材を使っています。映像も、照明も、音楽も、ぴったり揃って動くシステムを使って演者達が表現する70分間は圧巻です。日本でもこれほどの舞台はないと思います。

Elina(ダンスクリエイター)
私はゼロから携わらせていただいたので、それぞれの役割分担を考えつつ、1人を見てもストーリーがわかるようにしたいと思っていました。それが何回も観ていただけるポイントだと思います。激しい舞台で、終わった後、楽屋で痙攣を起こしてしまいました。「ゆびきり」がポイントになっていますが、汗と疲れで私と早乙女さんの指が震えたりふやけているんです(笑)。だからといって、力を抜いてクオリティーを下げるのではなく、いい意味での逃げ道を探しながら、どんどんクオリティーをあげるようにしたいと思います。

早乙女友貴(サムライアクション・ディレクター)
素直な感想は運動会をやっている感じです(笑)。ひたすら走って、汗を流しながら頑張らなくちゃいけない体力勝負の舞台ですね。現代と戦国時代で殺陣の種類を変えていますが、現代では僕も今までやったことがなかった中国アクションをやらせていただいて勉強になりました。いろんな場面で殺陣を変えていくところを見ていただければと思います。ノンバーバルな作品の経験で新たなジャンルが広がりました。機会があったら海外で言葉がなくても殺陣で表現してショーができたら嬉しいです。Elinaさんと同じように終わったあとは楽屋で倒れていました(笑)。酸欠状態になっていました。体力勝負なので、食べること、それから舞台に慣れることですね。まだ、演技や殺陣で力むところがあるので、もっとこの作品に慣れて、ペース配分をしながら、いい作品にしていけたらと思います。この作品はノンバーバルですから、外国の方や日本人でもお子さんからお年寄りの方まで楽しんでもらえると思うので、僕らの熱いエネルギーを感じに劇場に遊びにきてください。

吉田美佳子(千代姫役)
セリフの少ない稽古は役者として勉強になりましたし、Elinaさんと早乙女さんと一緒にお芝居ができることが嬉しかったです。

横内謙介(作)
外国の人にも日本語を覚えてもらいたいと思っていたので、台本にはセリフがありましたが、それがどんどん消えて、どこにいったんだろうと思って観ていましたら、ダンスや立ち回りの中に僕の言葉があって、みなさん丁寧に演じてくださった。言葉が消えたのではなくて、形を変えて舞台上にあるんだなと感動しました。最新技術が投入されていますが、最後に胸を打つのは人間の力だと思って楽屋に行ったら、早乙女くんとElinaちゃんは立てなくなっていました(笑)。ここまでエネルギーを出し尽くして最新技術と戦っている人間がいるんだと思うと、岡村さんもおっしゃっていましたが、人間の力を見せるパフォーマンスになっていて、お客様も感動してくれると思っています。大変だけど頑張ってくださいね。

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 〈公演情報〉
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「オルタナティブシアター」こけら落とし公演
『アラタ〜ALATA〜』
脚本◇横内謙介
演出◇岡村俊一
音楽◇Mili
ダンスクリエイター◇Elina
サムライアクション・ディレクター◇早乙女友貴
出演◇村井亮 MANNA Riko Koyama 林祐衣 笹原英作 宮迫誠 Rina Shinohara Yuito Elina 吉田美佳子 Sakurako Ozawa 岡本ゆうか 青木源太 真由 SATOCO 早乙女友貴 寿美  美月 三上真司 Yume Hirono 青山萌 SHIOR! Kana MOMOCA 久保田創 K@ori 鈴木百花 塚田知紀 KOKi 根本なつき 椎名康裕 高橋邦春 中野里香 塚越靖誠(※ファーストネームのアルファベット順)
●7/7〜ロングラン公演◎オルタナティブシアター
〈料金〉8,000円(全席指定・税込)
〈公演に関する問い合わせ〉東京音協 03-5774-3030(平日 11:00〜17:00)
〈劇場に関する問い合わせ〉オルタナティブシアター開業準備室 03-3350-4151(平日 11:00〜17:00)
 


【取材・文・撮影/竹下力】





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