出口結美子・月船さらら
今年1月に月船さららと出口結美子が結成した女性ユニットmétro、その第2回目の公演『妹と油揚』が、12月3日に初日を迎える。
今回の作品は、作・演出の天願大介が、PFFアワード'90で審査員特別賞を受賞したカルトムービーの傑作をベースに、登場人物やエピソードをふくらませて戯曲化したもの。同映画に主演し最優秀男優賞を獲得した鴇巣直樹をはじめ寺十吾、外波山文明、若松武史という濃い男優たちを客演に迎えて、ホラーとコメディがほどよくミックスされた刺激的な舞台になりそうだ。
その作品作りも進んでいる稽古場で、métroの2人、月船さららと出口結美子に話を聞いた。
【コメディな妖怪もの?】
ーーこれを2回目作品に取り上げた動機から聞かせてください
出口 第1回作品は乱歩の『陰獣』という原作のあるものだったんですが、今回はオリジナルをやりたいなと思ったんです。そこで前に見た天願監督の映画『妹と油揚』が候補に挙がってきて。でも映画は35分で女性も1人しか登場しないので、今回の舞台用にだいぶふくらませて書き直していただきました。
月船 乱歩を最初にやったので次は純文学系がくるかなと、周りにもお客様にも思われていたみたいなんですが、そこを最初に裏切りたかったというか、方向が狭くなっていくのはいやだったので。映画で主役をされた鴇巣さんも出てくださることだし、この映画しかないなと。
ーー鴇巣さんは妖怪イヅナということですけど、ホラ−なんですか?
月船 ホラーなんだかコメディなんだかわからない作品です(笑)。
出口 私なんてオバカな探偵助手ですから(笑)。映画にはなくて新たに作ってもらった役なんです。映画もそうなんですが、あまりまともな人は出てこなくて(笑)、私は若松武史さん演じる探偵先生の助手で、先生に「変態が好き」と言われるちょっと知能が低い助手なんです(笑)。
月船 私は寺十さんのお兄ちゃんと近親相姦という女性で、というと『陰獣』をイメージされるかたも多いと思うんですが、今回は全然セクシーなところは出てこなくて(笑)、チラシとか見て期待して来られたかたには申し訳けないんですが(笑)、でも内容は絶対に裏切らない面白さですから(笑)。イヅナに取り憑かれてる女性なんですが、取り憑かれてからは価値観がいろいろな変化が出てきます。
ーー天願さんならではの価値観の転倒みたいな感じなんですね。
月船 登場人物でもまともなのはお兄さんだけで、若松さんの探偵は妖怪をこよなく愛してるし、外波山さんは妖怪研究家ですし、世間的な価値観を逸脱してる人たちばかりです。後半にみんなでお鍋をつつきながら話をするところがあるんですが、そこで出てくる会話がすごく面白くて、私もしゃべってて既成の価値観をぐちゃぐちゃにされる感覚があるんです。
出口 監督の映画でもそういうところが私も好きで、そこが今回はすごくわかりやすく出てきてると思います。
月船 たった10分の映画も監督は作られてるんですが、7分くらいまで何が言いたいのか分からなくても、最後の3分でふっと温かくていい気持ちにさせられる、そういう感覚がこの『妹と油揚』にもあります。
【苦しいけど手応えが】
ーーユニットもいよいよ2回目ですね。第1回目との違いとか、新たに感じることは?
月船 続けることならではの面白さと難しさをすごく感じてるところです。
出口 2回目は周りもお客様もやっぱりシビアになってくるし、それはすごく感じます。
月船 いい意味で1回目はご祝儀的につきあってくださったスタッフさんたちやお客さんもいたと思うのですが、今回は本当の信頼関係が生まれてきてるなと感じるので、赤字でも3回目をやりたいねって話してるんです。
出口 本当に何も知らないままで体当たりで始めましたから、よく1回目はできたなと思います(笑)。でも、今回は2回目だから少しは余裕があるかなと思っていたら、とんでもなくて(笑)。
ーー2人ともプロデューサーという役割ですけど、分担とかあるんですか?
月船 とくに分けずに、お互いに1人でもできるように全部がわかるようにしてます。
ーーすごく仲のいい2人ですけど、うまくやっていくコツみたいなものは?
出口 とくにないよね? なんか考えてることがすごくわかるんです。
月船 そうそう。ユニットの仕事をしなかったら絶対に見ないだろうなというような顔も見せ合ってるけど、喧嘩しないし。
出口 あまり言い合いもしないよね。
月船 うん。2人だからいいというか、たぶんもっと人数が多かったらうまくいってないかもしれない。
出口 そう、いろんな価値観が出てきちゃうからね。
ーー赤字でも続けたいというのはなぜ?
月船 すごくたいへんだし苦しいことも多いんですけど、めちゃくちゃ生きてるっていう、幸せだなと思える瞬間がいっぱいあって、人との関係も今まで以上に強くなってます。宝塚時代にも、たくさんのお客様にチケットを買っていただいて感謝していたつもりなんですが、今は本当に1枚のチケットを買ってくださるかたがありがたいし感謝する気持ちです。この芝居ができる、そのことへの感謝とか幸せはお金に代えられないって思います。
出口 役者だけでいたらこんな苦労も味合わなかったと思うけど、こんな人間関係も築けなかった。すごく有り難いなと思います。すごい財産を得てるし、本当に生きてるって手応えがあります。
【自由度の高いユニット】
ーーこの作品を経て、これからmétroの芝居はどうなっていきそうですか?
月船 やりたい方向は見えてるんですけど、でもそれに縛られず自由度の高いユニットにしたいなと。métroってこういう分野だよねというふうにはならないようにと思ってます。
出口 私も前からずっとコメディがやりたいと思ってて、今回コメディができるのが嬉しいんですけど、また違うものを求めていきたいし、いつも自由でいたいなと思います。できればmétroとしては1年に1回は足跡を残していきたいと思っているし、お互いのスケジュールもあるので1人でもできるような形も考えられれば。
月船 それもいいよね、métroスピンオフみたいな。métroっぽいよねという色は必要ですけど、métroはこうでしょみたいに色を決められたくはないんです。たとえば海外の戯曲とかも含めて考えていきたいし、大人の女性が描かれているものを考えていきたい。
出口 ゲストのかたたちも、毎回がらっと違う顔ぶれに出ていただきたいし。女性ばかりの公演もいいと思う。
月船 夢はいろいろあるんですが、まずはこの作品を成功させたいです(笑)。
出口 そう(笑)。『陰獣』とはまったく違った2人が見られるし、びっくりしていただけると思います(笑)。
月船 ゲストのかたたちが本当にすごくて、この顔ぶれが揃う公演ってあまりないと思いますから。
出口 みなさんおちゃめなんですよ(笑)。
月船 男の人の可愛らしさがうまく出てるし、その濃くて面白い人たちのなかに私たち2人が入るとどうなるのか、それを観ていただきたいです。
métro公演
『舞台版 妹と油揚 MY SISTER and IZUNA』
●12/3〜13◎SPACE雑遊
演出・台本◇天願大介
出演◇寺十吾、外波山文明、若松武史、鴇巣直樹、
月船さらら(métro)、出口結美子(métro)
〈料金〉当日・前売 4800 (税込/全席自由)
〈問合せ〉080-6624-0101(métro制作)
http://www.metro.2008.jp/ (パソコン)