撮影◇安川啓太
13名の裸足の男優が演じる「キリストの受難劇」。現代アメリカを代表する作家の１人、テレンス・マクナリーが1998年に発表したこの『コーパス・クリスティ』は、NYの演劇界にセンセーションを巻き起こした。
この戯曲の中では、キリストがゲイの若者として登場し、ユダと愛し合い、そして裏切られる。背景になるのは現代のテキサス、悪魔が俳優のジェイムズ・ディーンとなって姿を現したりと、風刺と毒、笑いに満ちた物語の向こうに見えてくるものは？
この話題作でキリスト役を演じることになった渡部豪太へのインタビューを、本誌10月号（９月10日店頭発売）に先がけて、別バージョンの写真とともに紹介する。
ただ芝居をするだけではない使命感
――キリストとユダの話をモチーフに、ホモセクシャルの話、愛や裏切りなどが描かれていますが、台本を読んだときの印象はいかがでしたか。
最初はずっと、この本の世界がすごく遠くにあるような感じがして、これは普通の本ではないなと。勉強して読まないといけない、自分にはこの本を読める武器がまだ足りないなということを感じました。そのままの僕で演じたとしても、きっと、持ってないものがたくさんあると痛感させられるだろうなと思いました。
ーーその持ってないものを埋めるためにはどんなことをしようと？
本に出てくるジョークとかメタファーは演出家の青井（陽治）さんが、歴史上のエピソードも含めて解説してくれるので、あとは聖書を読んだり教会に通ったりしています。だんだんキリストの言葉や物語に触れる時間が長くなってくると、仏教と同じように興味が出てきていろいろなことを考えるんです。イエス・キリストも33歳の１人の青年で、聖書でも今回の本の中でも成熟した完全なる人間としては出てこないんです。それでも弟子がついてくる、信じる人がついてくる。そういうカリスマ性を持っていた。だからそういう彼のことや彼が伝えようとしたことを、『コーパス・クリスティ』という作品を通して、僕の体を使ってお客様に伝えようと。ただ芝居をするだけじゃなくて、どこか使命感みたいなもの、それを今回は感じています。
芝居のトンネルをつなぐ最後のピース
――舞台の演技、とくに今回は円形劇場ですが、それについてはどんなふうに感じていますか？
やっぱりどきどきしますよね。興奮するという意味で（笑）。今回はお客様に向かって話をするところもあるし、そこに人がいて観てくれるというのは、得もいえぬ快感があります（笑）。しかも今回の僕の役は舞台上でいろいろな場所に行けるんです。お客様の立場にも立てるし、真ん中、円形の芯のところにも行けるし、芯から少し外れた斜めの部分で劇を見ていることもできる。自分の居場所が多いと芝居の可能性もたくさん広がりそうです。
――渡部さんはそういう俯瞰的で自由な目線と、教会や聖書にまで取り組む求心的な部分と、両面持っているのがすごいですね。
いや、正直言って、僕はこの作品で何を伝えるべきか、この作品をやることによって何が伝わるのか、まだ掴めてないと思っていて。今、こうやって作品について外から分析していくことと、稽古場で役に入り込んで中から見ること、その外側と内側の作業で、トンネルがまだつながってないんです。そのトンネルをつなぐ最後のピースを残りの稽古で見つけたいし、絶対見つかるはずだと思っています。
撮影◇安川啓太
わたべごうた○86年生まれ、茨城県出身。幼少時から芸能活動を始め、ドラマ『プロポーズ大作戦』『猿ロック』『ヤスコとケンジ』『四十九日のレシピ』で注目を浴びる。NHK大河ドラマ『平清盛』にレギュラー出演中。舞台は『ピンクスパイダー』『余命１ヶ月の花嫁』『最高はひとつじゃない』など。
『コーパス・クリスティ 聖骸』
作◇テレンス・マクナリー
訳・演出◇青井陽治
出演◇渡部豪太 窪塚俊介／今奈良孝行 北川能功 鷲尾昇 永山たかし 米原幸佑／松田洋治 他
●9/6〜17◎青山円形劇場
＜お問い合わせ＞
ネルケプランニング 03-3715-5624（平日11:00〜18:00）
http://www.nelke.co.jp/stage/Corpus_Christi/
