観劇予報 : 青年座公演『鑪－たたら』　山路和弘インタビュー

劇団創立60周年の記念公演が昨年から続いている青年座で、その第６弾でトリを飾る『鑪－たたら』が青年座劇場で、３月20日から上演される。（29日まで）

オリジナル作品の上演が活動の根幹となっている青年座ならではの新作書き下ろしで、脚本は劇団サスペンデッズの主宰で劇団外でも活躍する作･演出家で俳優の早船聡が、演出は青年座の座付きで気鋭の若手、須藤黄英が担当する。

あらすじを簡単に紹介しておこう。

舞台となるのは、かつて鋳物の町として栄えたが、今は都会のベッドタウンとなっているＫ市。今西康平は親から継いだ鋳物工場を早々に手放し、今は不動産ブローカーとして暮らしている。康平と一緒に鋳物の修行をしていた水沼鉄三は、別のところで職人を続け現代の名工として活躍していたものの、息子の死をきっかけにＫ市に帰ってくる。同じ頃、離婚した妻と暮らしていた康平の息子も父を頼ってくるが、彼は職を転々とした後、どこにも就職出来なくなり、ひきこもりになっていた。一方、斉藤賢治が経営する小さな鋳物工場は、倒産の危機に瀕し、康平に売却の相談をしていた──。

タイトルになっている「鑪 (たたら)」とは、木炭を燃料として砂鉄を製錬する日本古来の製鉄方法で、鋳物の町であったＫ市を映し出す言葉となっている。

物語の中心人物となる今西康平を演じるのは、ストレートプレイからミュージカルまで幅広く活躍する山路和弘。奇しくも劇団と同年齢という彼に、この作品と青年座60周年への思いを話してもらった。

工場の油の臭いや社会のキナ臭さがフッと臭うような

──山路さんが演じるのは今西康平役ですね。

ちゃらい男です（笑）。もとは鋳物の仕事をしていたわけですが、それをやめて、時代に流されたのか、自分から流れようと決心したのか、別の道に行ったわけです。そのせいで以前一緒にやっていた鉄三との間に、ちょっとした諍いがあるんです。原因は男同士の裏切りとかそういう問題なんですが。

──その男同士の闘いが主軸になるわけですか？

いや、闘いというよりもっと日常的な話が描かれています。いい意味でゆるいというか、わりとさらっとした感じの内容になっていますね。

──康平の家族の話も出てくるそうですが。

息子と娘がいて、息子は別れて暮らしていたんですが、突然戻ってきて、関わりができてしまうわけです。その息子との関係も今の時代によくあるような話かなと。

──鋳物の町を背景に、家庭も含めて現代社会の問題が、日常的な光景のなかに見えてくるような感じでしょうか？

直接的には描かれてないんですが、どこかでそういうものが臭ってくるんじゃないかと思っています。工場の油の臭いとか、今の社会のキナ臭さとか、それがフッと臭ってきたらいいなと。具体的には見せないけれど、ひとりひとりの背後にいろいろなものが見えてきたらいいんじゃないかな。

──この作品を書いた早船聡さんはまだ40代、演出家の須藤黄英さんも30代で、まさに新進気鋭の作家と演出家ですね。

そういう現代の若者たちのさらっとした感覚と、ちょっと濃い我々のような役者たちが（笑）、一緒にやるところが面白いと思うんです。どんなものが出てくるか予想できないところもあるし、うまくミックスされた面白さが出ればいいなと思っています。

10本に１本、楽しいと思う瞬間があれば

──今回、鉄三役を演じる山本龍二さんとは同世代ですね？

山本のほうが２期後輩ですが、同い年です。あいつのほうが先輩みたいな顔をしているでしょ（笑）。えらそうなんです。

──若手時代から仲がよかったそうですね。

一緒にやんちゃしてました（笑）。血気盛んな時代でいろいろやりました。でもだいたいは山本が丸く収めてくれてました（笑）。

──山本さんはちょっと強面に見えますが、内側に優しさを感じます。

そんなこと本人に言ったらダメですからね。調子に乗るから（笑）。

──山路さんはインテリでクールなタイプに見えます。

ところが頭はよくないし（笑）、ちょっとイラチで喜怒哀楽が激しいんです（笑）。

──意外と熱いんですね。喜怒哀楽が激しいというのは俳優に向いているのでは？

いや、最近つくづく俺は役者に向かないなと、仕事選びに失敗したなと思ってて（笑）。この10年ぐらいすごくそう思うようになってますね。よく「生まれながらの役者」みたいな人っているじゃないですか。言われたらスコンとその役の人間になっちゃうみたいな。そういう人を見るとものすごく羨ましい。僕なんか人前で喋ること自体恥ずかしくてしょうがない。なんでこんな仕事選んだんだろうと思いますね。

──10年前まではそう思わずに？

それまでは何も考えてなかったから（笑）。なんか根拠のない自信があった（笑）。それが50歳すぎたあたりから「あ、俺はたいしたことないんだ」と気づいて、そこからですね。

──逆にその頃から真価を発揮していますね。演劇賞を受賞したり。

いやいや、流されているだけなんです（笑）。この作品に出てくる斉藤賢治という男がそういう人間で、斉藤の台詞を聞いていると「俺だな」とか、思い知らされます（笑）。

──それでも俳優を続けているその面白さというのは？

やっぱり楽しい瞬間があるんですよね。たとえばいろいろな仕事で10本くらい携わって、その中で１本、スコンと入っていけるものがあると幸せを感じますから。そのときは時間が止まるというか、違う時間の中で生きているというか。そこまで入り込めると、「ああ、楽しいな」と。それが１本あれば、またしばらく続けていけるわけです。

舞台では対等、いつもそのスタンスで

──山路さんもそうですが、青年座の俳優さんはいろいろな表現に対応できる柔軟さとリアリティを持っているなと。

青年座には「これが劇団の色だ」というのが、あんまりないんですよ。先輩たちに「役の人格を作れ、芝居を作れ」と育てられた部分と、「それじゃつまんない、生（なま）じゃないといけないんだ」という考え方と、その両方がずっと伝わってきている。そのおかげで、自分で勝手にいろいろ模索しているやつが多い気がしますね。まあ、そのぶん融通がきかなくて頑固なやつも多いんですが（笑）。それは自分で模索してきたからで。わりとスタイルもバラバラなんですが、でもそれが、その役者のリアリティを出しているということなんでしょうね。

──幅広い年代の俳優さんたちがいるのも特徴で、この作品も若い俳優さんたちが出演しますね。

初めて共演する人もいます。こちらもですが、あちらもたぶん相当刺激を受けるんじゃないかな。若い俳優たちはいい意味で喧嘩腰で来てほしい（笑）。すごく楽しみです。

──そういう対等な感覚が青年座の方たちにはありますね。

僕なんか、劇団だけでなくどこの公演に行ってもそういうスタンスですから。舞台ではみんな対等ですからね。えらそうになんてできない。子役の子と話すときも、友だちみたいに「こうやったほうがカッコいいだろ」とか、そうするとその通りやるんです。そのかわり袖にいてもすぐ寄って来ちゃってたいへんなんですけどね（笑）。

劇団と同じ年に生まれて同じ時代を生きてきた

──この『鑪ーたたら』は、青年座60周年ラインナップのトリになりますが。

去年から記念公演をずっとやっているなかで、新作オリジナルを劇団演出家でやるのはこれだけなんです。ヤバイですよ。ちょっとコケられないなと（笑）。

──やはり意気込みが違いますか？

意気込みねぇ（笑）。というより、板の上でも稽古場でも、自分自身のいつもの状態とあまり違わないスタンスでいようと思っているんです。そこができないと今までやってきた意味がない。山路和弘として60年生きてきて、役者としても40年近く芝居してきて、その自分のままでいたいというか、ニュートラルでいたいし、ちゃんと責任とれる自分でいたいんです。僕も60歳で劇団も60年で、自分で言うのもあれですが、劇団の「申し子」みたいなものだなと。

──まさに青年座と歴史をともにしているわけですね。

それはさっき話が出た山本龍二もそうだし、高畑淳子も同じ年に生まれているんです。僕らは劇団と同じ時間を生きて、同じ時代を見てきたわけで、やはりそこには特別な思いがあって。だからこそ60周年の公演でも普通でいたいなと思うんです。この作品を上演する青年座劇場も小さくて、すぐそばにお客さんがいますからね。へんに構えても仕方ない（笑）。実はあそこに立つのも20年ぶりくらいなんです。山本と２人で「Ｙ２企画」というのを立ち上げて、よく自主公演をしていた場所で。やればやるほど赤字になって途中でやめましたけどね（笑）。でも、これをきっかけに、また「Ｙ２企画」を復活させようかという話もあって。

──60歳からの新しい展望ですね。

年寄りの反乱（笑）。いや、その前にまずこの『鑪ーたたら』を成功させないと（笑）。面白い舞台になると思いますから、楽しみにしていてください。

やまじかずひろ○1954年、三重県出身。青年座研究所第1期卒。俳優、声優、ナレーターとして映像や舞台で幅広く活躍している。青年座での主な出演作品は『美しきものの伝説』（02年）『深川安楽亭』（04年）『MOTHER』（08年）。劇団外での近年の舞台は『アンナ・カレーニナ』（06、10，11，13年）『ピアフ』（11年）『ハムレット』『灰色のカナリア』『Woo!!man』（12年）『三文オペラ』（14年）など。第36回菊田一夫演劇賞の個人賞を受賞。現在放送中のNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』で安国寺恵瓊を演じている。

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